うめ屋


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セントラルにて~後編~

「お帰りなさいませ、大佐」
面倒な挨拶周りを終えてようやく戻ってきた上司を、リザは表情を変えずに出迎えた。本来ならば労いの言葉の一つや二つかける場面だが、今の二人の関係ではそれも不要であろう。事実、彼はリザの言葉にも反応を見せなかった。
無言で二人中央司令部を出る。正門を抜け周囲に張り巡らされた堀にかかる大橋を渡る。その道をそのまま行けばセントラルシティの目抜き通りにと通じているはずだ。立ち止まることはせずに歩き続ける。しばらくすると、一歩半の距離を空けて斜め後ろを歩くリザを振り返らずに、コートのポケットに手を突っ込んだままロイが口を開いた。
「……中尉」
「はい」
「……この後の予定だが」
どこか言いよどむ様な彼を制してリザは言った。
「はい。私はこの後約束がありますので失礼させて頂きます。夜にはホテルに戻りますので、ご心配なく」
「約束……?」
ロイの声に不審が滲んだ。それも当然だろう。リザの先約は彼自身のはずだったのだから。ロイがリザに何を言おうとしたのかは定かではないが、リザはもうロイとの約束は無かったものと諦めていた。故に。
「ええ。この後、食事の約束をした方がおりまして」
代わりの約束を取り付けたのだ。リザの返答に思わずと言った様にロイが立ち止まった。急に止まった彼の背中にぶつかりそうになったのを、なんとかこらえて。
「なんですか。急に立ち止まらなっ……」
「……男か」
「はい?」
「その相手はまさか男じゃあないだろうな?」
力強い腕に両肩を捕まれた。彼の顔を見上げれば、その黒い瞳には強い焦りと恐ろしいまでの独占欲に満ちた光が浮かんでいた。リザはそれをあえて無視する。
「……いいえ。女性ですよ」
ロイは途端に安堵の表情を見せるが、すぐに疑問をその顔に浮かべた。
「では、友人か?……君にセントラルの友人がいるとは初耳だが」
「友人……ではありませんね」
そう言っては相手の方に失礼かもしれません。そんな風に続けたリザに、ロイはますます訳の分からないと言った顔をする。
「友人ではない?」
「はい。……あえて言いますなら、同じ道を志す同士……直接的に表現すれば上官ですね」
「女性で……君の上官? おい……まさか…」
「ええ。私をお誘い下さったのは、オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将閣下です」
「なんだと!?」
目を剥いたロイに、リザは淡々と告げる。
「先ほど、ロビーで声をかけられまして」
「なっ、なんで彼女がセントラルにいる!?」
「私達と同じく出張だそうですよ」
「そうか……。いや、そこはどうでもいい。……アームストロング少将と食事だと!?」
「はい。折り良くこの後の予定が、あ・い・て、いたのもので」
当てつける様に言ってやると、ロイは鼻白んだようだった。しかし、すぐにリザを睨みつけてくる。
「待て、許さんぞっ。あんな人攫いと食事なんてっ! 彼女に目を付けられて引き抜かれそうになった人材がどれだけいるか……」
「仕事が終わったのならば、プライベートです。大佐の指図を受ける謂われはありません」
慌てた声で詰め寄ってくるロイを躱すと、リザはあっさりと身を翻した。彼女との食事ともなれば絶対にドレスコードのある高級な店だろう。こちらもそれなりの準備をしなければならない。
「それでは支度がありますので、私はここで失礼させて頂きます」
「ま、待て! 中尉!!」
呼び止めてくるロイを振り返ることはせずに、リザはさっさと歩き出す。少しだけロイがこの後の予定をどうする気だったのかは気にはなったのだけれど。今は、かの麗人との食事へと頭を切り替えていた。


オリヴィエに指定されていた店はリザの予想に違わず、セントラルでも一流のレストランだった。さすがは名家アームストロング家の息女である。この服で良かっただろうか……とリザは己の姿を見下ろした。急遽適当なブティックで購入したシックな黒のドレス。靴もその場にあったものを見繕ったのだが、店の格に劣るようなものではないかと心配になる。出てきた店員に案内されて入った店内はさらに豪華で。リザはその思いを深めながら、案内されるままにテーブルへと向かった。
「ああ、ホークアイ。来たか」
そこには、厳格な軍服姿から一転して美しいドレスを身に纏ったオリヴィエが既に座っていた。リザとは比べものにならない高級そうなドレスはそういう物に疎い彼女にも、質の良いものだと見てとれた。決して華美ではないが、そのシンプルさが逆にオリヴィエの迫力美人さを際だたせている。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
「いや。私も考えが足りなかった。仕度に手間がかかったのだろう。お前は出張で来ているんだ、服の持ち合わせなど無かっただろうに。私の手持ちの物を貸せば良かったな。そのドレスは自分で買ったのだろう? 領収証を出せ。私が出そう」
「い、いえっ。とんでもありません!」
オリヴィエの申し出にリザは強く首を振った。ドレスは今後も使えるものだから無駄な買い物では決してないし、そもそもこんな迫力美人に服を買って貰うなんて心臓に悪い。あまりに激しく首を振るリザを面白そうに見やっていたオリヴィエは、しばらくして納得したのか、
「そうか。では、ここの夕食代金は私に持たせて貰おうか。好きなだけ食べろ」
そう折れてくれたので、リザはホッとした。
食事代くらいなら上官に奢られたって悪いことはないだろう。しかしやはり心臓に悪いので、こんな高級レストランの食事代がいくらになるのかは想像しないことにする。
「まあ、とにかく座れ。ここは酒も一流のものを置いている」
そう言ってアペリティフに口をつけるオリヴィエの姿は、どうみても上流階級の貴婦人で、荒くれ者どもを統括する軍の司令官には見えない。薦められるまま腰を下ろしてグラスを持つが、どうにも緊張が先に立ってしまう。貧乏育ちのリザには、こういうレストランはどうにも落ち着かないのだ。
「どうした?」
「いえ、すいません。少し、緊張している様です」
リザの様子に気づいたオリヴィエが声をかけてくれるのに、曖昧な笑みを向けて誤魔化す。北の女傑はそんなリザに気を悪くした様子もなく、豪快に笑った。
「お前らしくないな。聞いたぞ? テログループ全員を一人で追いつめて捕らえたと」
それに比べればこんな店など大したことなかろう、とオリヴィエは愉快そうに唇に笑みを浮かべる。
「さすが東方の鷹の目。たいした武勇伝だ、と感心していた」
「そっ、そんな……」
あの事件の事がオリヴィエの耳にまで届いていた事に驚きつつも、事実とは異なる話にリザは焦った。
「私が捕らえたのは首謀者の男だけですし、それも最初から私一人で捕らえた訳ではありません」
「ああ、分かっている。噂には尾ひれが付き物だからな。だが、お前が勇敢にテロリストに立ち向かったという事実は変わるまい」
「立ち向かっただなんて……軍人として当然の事を行ったまでです。それに、その際に負傷もしております。もっと精進しなければと自分を戒めていた次第です」
「……ホークアイは謙虚だな」
そう言ってオリヴィエは、リザの手の包帯にちらりと視線を走らせた。
「傷はもう平気なのか?」
「はい。おおげさに包帯など巻いておりますが、たいしたことはありません。これくらいの負傷で臆していては軍人 などやってはいられませんから」
オリヴィエの気遣いに、リザは名誉の負傷だと言うように、笑って手の傷を掲げて見せた。オリヴィエは一瞬だけ複雑な顔をすると、目を眇めてそうか、と一言呟く。
「オードブルでございます」
その時ちょうどよく料理が運ばれてきたので、その話は一端途切れてしまった。オリヴィエの表情の意味がリザの心に少しだけ引っかかっていたが、すぐに話題は料理に移ってしまったので、追求することは出来なかった。


女性同士であるといっても二人とも生粋の軍人であるので、話題は自然と軍事関係のものとなる。昨今の周辺国との関係や国内の治安、そして戦争における戦略から戦術に及ぶまで、およそ美しい妙齢の女性が高級レストランでするには似つかわしくない話をリザはオリヴィエと交えていく。
そして、コース料理が終わりに近づくにつれてその話は白熱していった。
「その場面における兵の運用法をお前はそう考えるのだな?」
「はい。懸念すべきは補給線です。これが伸びるほどに兵は疲弊し、勝利は遠のくでしょう」
リザの言葉にオリヴィエは感心したように耳を傾けている。実を言うとこの手の話はロイの受け売りが多いので、リザにとってはロイが評価されている様で自分が誉められるよりも嬉しい。
「ふむ。やはりな。お前には大局を見通す目が備わっているようだ。以前合同演習の際に、お前が指揮をした部隊は見事な働きをしていた」
「いいえ。私の力ではございません」
それは過大評価だとリザは否定する。事実、それもやはりロイからの指南によるところが大きいからだ。リザ自身指揮をするのはどうにも苦手な部類だった。やれと言われれば出来るが、どうしてもリザには優先すべきものが存在していたから。
「そんなことはない。……お前には人の補佐よりもそういったことの方が向いているのではないか?」
しかし、リザの否定をさらに否定して、オリヴィエは食い下がってきた。
「どうだ? 私の下に来ないか? 私ならばお前の力をもっと生かせるポジションを用意してやれるぞ?」
会う度にかけられる誘い文句。この時はいつもよりも熱を込めて言われた。しかし、リザが返す答えは決まっている。
「お言葉は嬉しいですが、お断りします」
「何故だ? 己の力を存分にふるいたくはないか? その力を使う機会がないのを無念に思わないのか。私ならばお前にその場所を提供してやれるぞ」
熱心なオリヴィエの口調にも、リザはゆっくりと首を振った。
「いいえ、閣下。私はそうは思いません。何故なら、私は自分の力を使いたいがために軍にいる訳ではないのですから」
「では、なんのために軍にいる。自分の力を試したいと思うのは人の性。なんら恥ずべきことではないと思うがな」
オリヴィエの青い瞳が不満げに頑ななリザを見据える。しかし、リザは怯まずに、まっすぐにその目を逸らさずに告げた。
「私は……ある方の作るこの国の未来を後ろから一緒に見ていたい。ただ、それだけなのです」
虚を突かれた様にオリヴィエは目を見開いた。しかし、すぐにニヤリと意地悪げにその魅惑的な唇を歪めて見せた。
「隣で……の間違いではないのか? ホークアイ」
からかうように言うオリヴィエに、リザは思わず顔を赤らめた。頑固にロイの元から離れないリザの女としての想いなど、彼女にはお見通しなのかもしれない。
「そんな……」
「それにしても、よくあれが今夜の食事に行くことを了承したな。肝の小さいあれならば絶対に許さないと思って、本当はあまり期待していなかったのだがな」
あれ、とロイを呼び捨てられても、オリヴィエならば腹が立たないのだから不思議なものだ。むしろ今のロイにはぴったりの呼び名かもしれない。
「……仕事以外の事まで干渉される覚えはありませんので」
固い口調で返せば、オリヴィエがその形の良い眉を片方跳ね上げた。
「ほう、喧嘩でもしたか。珍しいな」
図星を突かれて、またも顔を赤らめたリザは思わず俯いた。あまり上司との――そして兼恋人とのいざこざなど知られたい話ではない。しかし、オリヴィエはなおも追求してくる。
「喧嘩の理由はなんだ? 話してみろ。同じ女としてアドバイスしてやれるかもしれんんぞ?」
すべて分かっているぞといった顔でオリヴィエが言う。
ロイとの関係は公には出来ないものだが、この女傑ならばロイとリザの関係を知っていてもそれにつけ込むような事はすまい。事実、今も応援するように相談に乗ってくれようとしている。……ただ単にいけ好かないロイの痛い部分でも探りたいだけかもしれないが。
「いえ……その…本当にたいした事ではないんですが……」
あまりに親身になってオリヴィエが言ってくるので、とうとうリザは喧嘩の訳を話すことにする。もちろんロイの名前はぼかして伝えたが、おそらくオリヴィエにはバレバレだったろう。
そして、リザは先日のテロ事件のあらましと、その後のロイの態度や言葉などをオリヴィエに話して聞かせた。
「という訳で私もあの人の言葉には、少し納得のいかない部分がありまして……」
リザが話終えると、オリヴィエは難しい顔をして黙り込んでしまった。てっきり彼女のことだ、ロイの事を喜々として罵ってくるのだろうかと予想していたのだが。
肩すかしを食らったような気分で、リザは無言のオリヴィエを見つめた。その視線を受けて彼女は口を開いた。
「……私も奴と同じく人の上に立ち、兵を指揮する者だ。その苦悩は分からんでもない。許せること、許せないこと、呑まねばならぬこと……いろいろある」
「許せないこと……」
「……まあ、お前の場合は、あの男のする事ならば大抵受け入れて認めてしまうだろうが」
そこで言葉を一端切ると、オリヴィエは挑むようにリザに問いかけてきた。
「では、そんなお前が許せない事は何だ。いや、言わずとも予想はつく。奴が奴自身を損なう行為を行うことだ。違うか?」
いや、違わない。全てオリヴィエの言うとおりだ。
リザの許せないこと。それはロイが道を踏み外した行為をすること。それは彼自身の尊厳を損なう事を意味するからだ。そして、もっと単純に彼がその身を危険に晒すこと。彼の立場を、何よりも命を脅かす場面へと自ら赴こうとすること。それがリザがどうあがいても容認する訳にはいかぬこと。
「図星なようだな。お前が具体的にどのような事を思い浮かべているのかは知らんが……、おそらくそれはお前の奴に対する譲れない一線だ。では、その想像力をもう少し働かせろ。そして、考えろ。そうすればすぐに分かる。お前が譲れないと思うものと同じものを、奴も持っているということが」
オリヴィエの言葉に打たれて、ようやくリザは理解した。ロイがあのような言葉をリザに浴びせてきた訳を。彼はリザが己の身をかえりみなかったことが許せなかったのだ。負傷をかすり傷だと、たいしたことないと犯人の確保に比べれば小さなことだと、そう片づけていたことが。
「指揮官ならば、お前がどんな負傷を負おうが任務を全うすればよくやったと迎えねばならん。それが上に立つ者の務めだ。時には非情を持たねば通せぬこともある。部下に怪我をするから犯人を見逃せ――なんて命令など出来はしない」
オリヴィエの言葉には上に立つ者としての厳しさがあった。彼女にもロイと同じ種類の苦悩がついて回っているのだろうか。
「だが、指揮官とて人間だ。ましてや親しくしている者が相手では。そうもいくまい。心配くらいはする……立場上それは絶対に口には出せないことだが。奴にも葛藤があるのだろう。ならば……それを分かってやるのも部下――というものではないか?」
そこでようやくオリヴィエは表情を緩める。
「ああ、すまん。恋人の間違いだったか」
「……閣下っ」
楽しげに笑うその女王様の顔を恨めしげに見やって。しかし、リザはオリヴィエに感謝していた。まさか彼女のおかげでロイの思いを知る事が出来ようとは思わなかったが。それでも、彼の抱えているものを、そして、リザがしなければいけなかった事を教えて貰えた気が、リザはしていた。


「今夜は御馳走様でした」
「いや、たいしたことじゃない、気にするな。私も楽しかったからな」
店を出たところでリザが丁寧に頭を下げると、オリヴィエは気にするなといった風に首を振った。
「ところで……この後はどうする? 良かったら店を変えて飲まないか? お前とゆっくり話をする機会はこの先そうそう無さそうだしな」
お前がブリッグズにこない限りは……なんて続ける彼女にリザは苦笑する。相変わらず懲りない女性である。
だが、これだけ己を高く買って貰っているというのは悪い気はしない。それに、彼女は軍人としても女性としても尊敬出来る人である。もっと話をしたいと言う彼女の申し出は素直に嬉しかった。しかし、リザが了承の返事をしようとしたところで。
「ちっ、迎えが来ているようだぞホークアイ。お前……店がどこだか奴に告げて来たのか」
前方を睨み付けて、オリヴィエが苦々しげに言う。その視線を辿るとその先に、一人の男が立っていた。言わずと知れたリザの唯一無二の上司である。やはり仏頂面でこちらを伺うように佇んでいるその姿に、リザの口元に自然と笑みが零れた。
「……はい。何か万が一の緊急事態があった時にと思いまして。……申し訳ありません」
「まったく。お前には頭が下がるな。本当にあんな男のどこがいいのやら……ん? まさかあっちの方がすごいのか?」
一瞬氷の女王の瞳に興味の色がたゆたった。それを見て取ったリザは慌てて叫ぶ。
「だ、ダメですっ、あげません!」
きょとんとした彼女にしてはなんとも珍しい顔をすると。オリヴィエは声を上げて笑う。
「……安心しろ。リボンをかけて贈られてもいらん」
そうして、笑いながらオリヴィエは片手を上げて去っていった。リザにそんなに大事ならばさっさと仲直りしろ、と言い残して。しばらく呆然とその後ろ姿を見送っていると、
「……何を話していたんだ」
いつの間にかロイがそばに近寄って来ていた。彼は最後に爆笑していた、珍しいオリヴィエの姿が気になっている様である。
「……別に。たいしたことではありませんよ」
それを極力感情を表に出さぬように受け流してから、リザはロイをじっと見つめた。彼は迎えに来たことを咎められたと思ったのか、
「……あんまり遅いから迎えに来ただけだ」
聞いてもいない言い訳を口にする。
その口調と態度で今の彼は自分に対して、上司ではなく一人の男として相対しているのだとリザは理解した。今ならば言える気がして、リザはロイの手を負傷したその手で握った。まだ、少し、痛い。でも、たぶん。ロイの心はもっと痛かったはずなのだ。
「大佐。心配をおかけして申し訳ありませんでした」
彼はリザが何時の何のことを言っているのかすぐに理解したようで、特に何も言わなかった。黙ってリザの言葉を待ってくれている。こういう時、ちゃんとリザの言葉を聞いてくれる彼のことが、リザは昔から大好きだった。
「もう、あんな無茶はしません。……自分のこと、大事にしますから。だから……」
ロイがリザの手をぎゅっと握り返してくる。
「……ごめんなさい」
握られたロイの手が震えた。その震えがリザに伝わってくる。
「バカ者、許さんぞ。君が負傷したと聞いて、私がどれだけ心配したと思っているんだ。生きた心地がしなかった……」
彼の罵りをリザは甘んじて受けた。
きっと、リザだってロイが同じ状況に陥ったのなら同じことを思う。ロイを詰ってしまいたくなる。その根本にある気持ちが愛情であるならば、なおさら。
「……せっかく君と一緒に食べようと思ってヒューズにセントラルの美味い店を聞いていたのに、一人で寂しく食べてきたぞっ」
ロイはなおもぶつぶつ言っているが、その声からは事件以降からずっと含まれていた苛立ちと怒りがすっかり抜けていた。リザはロイの気持ちをようやく理解できて、彼と気持ちが通じ合った気がしていた。
「ふふふ、すいません。私は大変美味しいディナーを頂きましたけど」
その言葉はロイにとって地雷だったようだ。
目元を引き攣らせた彼は、その瞬間リザの唇を奪った。濃厚で熱い口づけが彼女を襲う。こんな場所で……という抗議の言葉はその口の中に吸い込まれた。
そして。
「今夜は覚悟するんだな……」
思う存分唇を弄んでようやくリザを解放したロイは、彼女の耳元に熱い息と共に囁きかける。
女性相手でも嫉妬するんですね……という言葉を呑み込んで。まるで大事なものを持つように手を引くロイに連れられて、リザは夜のセントラルを歩いていったのだった。






END
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by netzeth | 2013-01-27 20:43 | Comments(0)