うめ屋


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by netzeth
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幸せな夢

新たな最高司令官を迎え新体制をスタートさせた東方司令部は、未だ慌ただしさの中にあった。
これから東の地において大規模な政策が始まる以上、それも仕方の無い事なのだろう。
しかしそんな忙しい最中にあっても、軍部の人間達は新たなる国づくりへ向けて、皆一様に明るい顔をしていた。
晴れて軍に復帰を果たしたマリア・ロス少尉は、その東方司令部へと籍を置く事になった。
軍人になってからずっと中央司令部勤務であった彼女の目には、東の地は何もかも新鮮に映る。新たな仲間達との出会いと新たなる仕事もまた、刺激と発見に満ちていた。
これは、そんな日々を送りながらも早く東方司令部に馴染みたいとロスが考えていたその矢先の話である。

その日、彼女は忙しい彼の副官に代わり、彼――ロイ・マスタング准将の視察に護衛として同行していた。そして、無事に任務を終えてロスは自らが普段詰めている仕事部屋へと戻って来ていた。
そこにはマスタング組と呼ばれるロイ直属の部下達の姿はほとんど見えず、ただ一人、彼の一番の部下である女性だけが席に座っていた。
しかし、彼女はロスが部屋に入ってきても何の反応も見せる事は無かった。それもそのはずだ。彼女――リザ・ホークアイは、己の机に突っ伏して寝入っていたのだから。
これは珍しい光景を見たとロスは驚く。あの生真面目で勤勉な彼女が、仕事中に居眠りをするとは。しかも、ロスが部屋に入り彼女の席に近づいても覚醒しないほどに深い眠りについている。
それでも職務怠慢だとリザを咎める気は、ロスにはさらさら起きなかった。
彼女の仕事熱心さは一緒に過ごしたこの短い期間でも十分ロスに伝わって来ていたし、何より、彼女が毎晩遅くまで司令部に詰めている事をロスは知っていた。
いつも冷静沈着で弱音を表に出さない彼女ではあるが、さすがに疲れが溜まっていたのだろう。
周囲に誰も居なくなって油断していたのかもしれない。
少しでもリザが休めるならば……と彼女を起こさないように気をつけながら、ロスは静かに己の席へと向かう。そして、微かな寝息が漏れるリザの傍らをちょうど通り過ぎた時の事だった。
「……たい、さ……」
彼女の口から声がこぼれ落ちた。
一瞬起こしてしまったかと焦ったロスだが、リザは相変わらず腕を枕にして眠ったまま。
ほっとするのと同時に、ロスはリザの寝言と思われる言葉に興味を引かれてしまう。
さて、大佐とは誰の事なのか。
一人だけすぐに思い浮かぶ男が居るのだが、生憎彼は現在大佐ではない。
だが、彼女が寝ぼけてまで呼ばう男の名など、ロスにはその一人だけしか思い当たらない。
しかし、リザは今までかの人の階級を呼び間違えた事など無いのだ。とすると、大佐というのは彼では無くて。別に存在する人物なのだろうか。もしかして、自分はスキャンダラスな瞬間に立ち会ったのかも、とロスが思考を巡らせていた時。再びリザの口から言葉が漏れた。
「ん…たい、さ……たいさ…」
それはとても穏やかで、優しさと愛おしさに満ちあふれた声音だった。
感情を滅多に見せないクールな女…これがロスの持つリザのイメージだ。
しかし、まるで子供の様にあどけない寝顔で一途にただ一人を呼ぶ彼女は、普通の、年相応の女性に見えた。
そしてロスは思う。
こんな風に彼女が呼ぶ存在が、彼でないはずはないのだろうと。
二人とはまだ短い時間しか過ごしていないが、それでもロスは二人の間に存在する強い絆に気づいていた。
そして、ロスも女だ。女の勘はそこに男女の愛情が存在していることも鋭敏に感じ取っていたのだ。
(羨ましいことね)
軍人として生きながら、理想を追いながら、誰よりも愛する人のそばにいる。それは一般的な女の幸せとは違う形かもしれないが、それでも、彼女が羨ましいとロスは思った。
ロスは静かに眠るリザの顔を見つめる。今、彼女は一体どんな夢を見ているのだろうか。それは、彼女にとって幸せな夢なのか。
「愚問ね…」
ぽつりと呟いて、ロスは踵を返した。
たとえどんな夢を見ていようとも。彼がそばに居るのならば、きっとそれはリザにとって一番の幸せに違いないのだから。
ロスは静かに今し方入って来たばかりの出入り口に向かう。結局この部屋で仕事をすることは諦めて、ロスは去ることにしたのだ。これ以上、彼女の寝言というノロケを聞いていたらば、嫉妬してしまいそうだった。
そして、ロスは部屋を後にする。リザが何故寝言に漏らすほど、大佐という、彼の過去の階級に思い入れがあるのか、そんな理由をとりとめもなく考えながら。



裏会議

「ん…ロイ……ダメ……」
ロイの副官リザ・ホークアイの口から漏れた言葉に、室内は瞬間凍り付いた。
今その場に居るのは、ロイとハボックとブレダ。そして、最近ロイの部下となった、マスタング組の新入り、マリア・ロス少尉だけだ。
彼ら四人が部屋に入って来た時、既にリザは己の机に突っ伏して寝入っていた。
普段の彼女の激務をよーく知っていた彼らは彼女を起こすようなまねはせず、むしろ忙しい彼女に休息の一時を…と、その居眠りを歓迎していた。
故にすぐに場所を変えるため部屋を出ていこうとしていた時に、それは起こった。
固まっていた彼らの中で、すぐに動いたのハボックだった。
「注目! 今から、マスタング組裏会議の緊急開催を希望する!!」
「こら、中尉が目を覚ますだろうがっ。……ていうか、何だ裏会議って」
「我らがボスマスタング准将の、常習的な悪質セクハラ問題を追求する会議ッス!」
「ま、待て。私はセクハラなど……」
「大佐は被告なので発言権はありません!」
「こらっ、何が会議だ。それじゃあ裁判だろうが!」
「え――被害者は言うまでもなくホークアイ中尉…加えて俺ッス」
「なっ、なんでお前も被害者なんだっ! そもそも中尉に対してだって私はセクハラなんて……」
「してるじゃないッスか! 今の中尉の発言が何よりの証拠ですっ! そして俺への被害は、いつもいつも上司達のイチャイチャラブコメを目の前で見せられ続けてきた精神的苦痛についてです」
「ま、待て! 弁明させろっ。いいか? まず、セクハラの成立する用件とは相手がどう思っているか…? だ。つまり、私が何をしようと中尉が嫌がっていないならばそこにセクハラは成立しない」
「……何かしていることは認めるんスね……。でも、中尉は今、はっきり言いましたよね? ダメですって。それって嫌がっているってことッスよね?」
「……そこだ。確かにダメ、とは言ったが、注目すべきはその前の言葉だ。いいか? 彼女ははっきりと言っているではないか。ロイ、と。……つまり。自ら相手のファーストネームを呼ぶ女が、嫌がっている訳なかろう! このダメ、は、嫌よ嫌よも好きのうち! 嫌がっている訳では無いのだ!! よってセクハラは成立しない! それにお前は自ら口にしたではないかっ、私たちのイチャイチャラブコメ…と。つまり第三者からみても、私たちはラブラブ! お互い同意あっての関係だと言うことだ!! 故に!! セクハラではありえない!!」
「くっ……くそおおお!!」
「はははははははは!!……出直して来たまえ! ハボック少尉!! よしっ、マスタング組裏会議終了!!」
「ううっ……くそお……今度こそ、今度こそは……!」
「…………なんか…大変そうね………」
勝利の高笑いを上げるロイと、涙ながらに悔しがるハボックを前に、ロスが唖然と言う。
「ダメだぜ。ロス少尉さんよ、ちゃんとあんたも会議に参加しなきゃ。あんたもマスタング組なんだからな」
「……私、この先ここでやっていけるかしら……?」
不安げに呟くロスの肩をブレダがポンと叩いた。それはまるで、ようこそ逃がさないぜ? と言われているようで。
ロスは深みにハマらないうちに、この濃い面々から逃げ出すべきなのか深刻に悩むのだった。



リザ・ホークアイ一生の不覚

……少し魔がさしたのだ。
そこは大きな窓を背にしているから、とてもとても日当たりが良かった。
特にその場所はぬくぬくの日溜まり空間の中心で、きっとそこに座ったら暖かくて幸せなのだろうな、と思った。
朝から暖房の調子が悪く極寒の地となっている東方司令部においての、唯一のオアシス。そんな風に見えてしまって。
誘惑に勝てなかった私は、少しだけ少しだけ……と自分に言い聞かせながらそこに至り……そして、いつの間にか睡魔に誘われてしまったのだ。

「……中尉?」
呼びかけはとても意外そうであり、不思議そうだった。
心密かに大好きなその低い声に呼びかけられて、私はゆっくりと瞼を持ち上げた。
ぼんやりとした視界に、黒い人影のようなものが見えてくる。
やがてそれは徐々に焦点を結び、そしてそれがはっきりと認識出来るようになった頃、私の意識も徐々に覚醒していった。
「あ、起きたか」
目の前には私を覗き込むように首を傾けている大佐。対する私は彼のマホガニーの机に頬を押しつけて、居眠り体勢。頭の中がはっきりとしてくるに連れて、私の体から血の気が引いていった。
ばっと体を素早く起こして。
なんてこと。
状況を整理しよう。
ロイ・マスタング大佐の副官リザ・ホークアイ中尉は、彼の執務室で、居眠りをしていた。……しかも、彼の席に座って。
これが、失態でなければ何だと言うのだ。
なにせ、私は普段から彼に口うるさく説教をしているのだ。
すぐに仕事をサボって中庭や資料室で惰眠を貪る彼に対して強く、厳しく。……その私が、よりにもよって上官の席で居眠り。これでは、その面目は丸つぶれである。
何とかしなくては……!
まだ少し寝ぼけた頭で私は必死に考えた。
彼に、何とか上手いこと言い訳をしなくては!
別に彼は私に対して怒っていたり、居眠りを咎めたりも何もしていなかったけれど。
私は勝手に独りで焦って混乱していた。そして、必死に考え続けた私は次の瞬間、名案を思いついたのである。……今、思えばどうしてそれを名案だと思ってしまったのか。
人間、テンパると正常な判断力が働かなくなるものなのね。
けれども、この時の私は混乱の渦中にあって。よって、その思い浮かんだ名案を深く考えずに口にしてしまったのである。
「あの! その…大佐っ……これはっ、ですね…!」
「ん?」
「……そのっ…あ、暖めておきました!」
「……は?」
「で、ですからっ。今日は冷えますのでっ、お席、暖めておきました!!」
そうきっぱりと言い切った私に、目をまん丸くした彼は次の瞬間大口を開けて笑いだした。
そして、彼は私がいい加減にして下さい! と銃を発砲するまで、ずっとずっと。腹を抱えて笑い転げたのである……。
…………リザ・ホークアイ一生の不覚。





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by netzeth | 2013-05-21 00:26 | Comments(0)