うめ屋


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by netzeth
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ウィンナ・ワルツ

貴婦人のお喋りというのはどうしてこうも長いのか。
ペラペラと心底どうでも良い社交界のゴシップをたれ流すその口に、リザは視線を向けた。
赤く塗られたその唇。毒々しいその色とむせかえるような香水の香りに悪かった気分がさらに下降する。吐き気すら覚えそうで。更に無駄に煌びやかな明かりを振りまくシャンデリアが釣り下がる天井と、派手に着飾る人々の群れに目がチカチカして仕方がない。
とうとう視界が霞んで来てしまった自分に気合いを入れて、それでもリザは顔面に笑顔を張り付かせ続けていた。
元々体調は芳しくなかったのだ。
最近ずっと続いていた残業により体力は限界を迎えていた。全てはこのパーティーに出席するために組まれたロイのハードスケジュールに付き合っていたため。加えてロイのパートナー役として出席するはずであった女性が急遽都合が悪くなった。突然の事に代役が見つからず白羽の矢が立ったのが、自分である。
間に合わせでドレスと靴を用意したため、そのどちらもリザの体に合っていなかった。胸のキツい服に、高いヒールが足に負担をかける靴。疲れた体にそれらは鞭を打つ。
それでも、このパーティーへの参加がロイにとって重要だと思えばこそ、リザは不平不満の一つもこぼさずロイに付き従ってパーティー会場にやってきたのだ。
「お嬢さん。よろしければ私と一曲踊っていただけませんか?」
女性軍人が珍しいと貴婦人達に囲まれていたリザの元へ、そんな誘い文句をかけてきた男が一人。リザは相手の男を観察した。顔は知らない。だが、その身なりと歳から推測してどこかの名家の二世といったところか。
本人に力はなさそうだが、親と繋がりを持ちたいならば相手をするのは悪くない。そう判断してリザは差し出された手を取ろうとした。慣れぬヒールに痛む足は限界を訴えていて、気分は最悪だったけれども。ロイのパートナーとして出席している以上、今の自分には彼の外交を補佐する義務がある。
しかし。
そう自分に言い聞かせた所で、体の方は気持ちについていけなかったようだ。
「あ……」
一歩踏み出したリザの体はその場でふらりとよろけた。膝に力が入らず、そして視界がぐるぐると回っていた。
――倒れる。
床に叩きつけられるのならば受け身をとらなくては。そんな風に冷静に考える部分がありながら、体は自由には動かない。
しかし、その予想に反し彼女を受け止めたのは固い床ではなく、力強い腕の感触だった。
ぼんやりとしたリザの視界に見慣れたブルーが映る。それは、この煌びやか故に重く息苦しいパーティーの中にあって、どこか清新に感じられた。
「……私の副官が失礼を」
聞き慣れた低い声と、見慣れない髪型。
うっすらと目を開けると、間近に上官の顔があった。
長めの前髪を今夜はオールバックに上げて、額にわずかに落ちる髪が男の色気を感じさせる。それに輪をかけて国軍の軍服の正装が彼の男振りを盛り立てていた。いつも童顔と言われて気にしているのが嘘のように、歳相応の落ち着いた雰囲気を醸し出したその姿は、憎らしいほどに様になっている。
「大丈夫かね?」
「ええ、はいっ。ちょっと足がもつれてしまっただけで……」
「そうか。ならば、結構」
己の具合の悪さは隠して、リザは大丈夫だと笑みを浮かべた。ハプニングに驚いていた周囲の人々も、彼女の様子を見てホッとした様子である。
「では、一曲付き合って貰おうかな。せっかく君を連れて来たのに一曲も踊らないのは寂しいからな」
そう言うとロイがリザの手を取り、彼女を立ち上がらせた。会話を聞いていた貴婦人達から歓声の声が上がる。
「まあ! マスタング大佐が踊られますの? 綺麗な副官さんですもの、さぞかし絵になりますわね」
「あら、マスタング大佐が踊られるなんて珍しいですわね、私、楽しみですわ!」
口々に囃子立てる彼女たちににっこりと笑みを浮かべると、ロイはさっさとリザの手を引いてダンスフロアーへと歩み去っていく。当初リザをダンスに誘おうとしていた男が口を挟む隙もなかった。
「あ…あの、大佐……」
「一曲だ。辛いだろうが一曲だけ我慢しろ」
遠慮がちに声をかけたリザに、男はぶっきらぼうにそう返してきた。
「え……?」
「……一曲踊って、十分にパーティーを楽しんでいると皆に印象づければ、早く帰ってもとやかく言われまい」
太い腕がリザの細腰に回って、彼女をホールドした。無意識にリザはそれに体重を預ける。姿勢を維持するために力を抜いた事で、全身を支配していた気だるさが少し、軽減された。
曲が始まる。優雅に流れるワルツに沿って、ロイが動き出した。それに合わせてリザも足を運ぶ。その間もずっとロイはリザの体を支え続け、踊るリザの体になるべく負担をかけないようにと気遣ってくれている。
優美に踊る二人の麗人に、周囲から感嘆のため息をが漏れた。
普段ダンスを踊らない彼が、わざわざリザをダンスフロアーに誘った理由。それは、彼女の体調を気遣って早くパーティーを引き上げるためのパフォーマンスだと言うことか。
彼のリードによって力の入らぬ脚が自然に動く。ロイを見上げれば、彼もリザを見ていた。吐き出される吐息が熱く、近かった。見つめ合った視線が一瞬絡んで、すぐにリザは視線を逸らした。この状況下で彼の瞳を見つめ続ける強心臓、をリザは持ち合わせていない。
顔を赤らめて、視線を逸らしリザはステップを踏み続ける。それをロイが変わらず優しく支えた。踏み出した脚とドレスの裾が彼の正装の長い裾と絡んで音を立てる。心地よいと感じてしまう瞬間だ。体調から考えれば、早く終わって欲しいと思うワルツも、何故かずっと踊り続けていたいと願ってしまって、リザはそんな自分に罪悪感を覚えた。
彼が優しいのは自分の体調に配慮してくれているからで、それ以上の意図なんかないのに。そんな彼の気遣いを勘違いをして浮かれる自分が浅ましい。先ほどまであれほどに悪心を感じていたはずであるのに、もう今はそんな気分さえ都合良く忘れてしまっている自分がいる。ロイの存在が、彼の優しさがリザを強欲にしているのだ。ただ今は、この瞬間が少しでも長く続けば良い…ロイの腕の中でリザはそう願ってしまっていた。


やがてダンスが終わり、リザはロイにエスコートされてパーティー会場を出た。その途端体力を使い果たしてよろめいてしまった彼女を男の腕が支える。抵抗する力も残っておらず、リザはその胸に大人しく体を預けた。
「……あまり心配をかけるな」
男の低い声が耳元に流し込まれた。
それはリザの萎えた体に染み込んでいく。その一言に込められた彼の想いに心が震えた。
だからとうとうリザは我慢が出来なくなって、ロイに言ってしまう。
「……大佐」
「なんだ」
「……今日はかっこいいんですね」
「…………今日は、は、余計だ」
拗ねたように憮然と言うロイ。先ほどまでの余裕が嘘のようである。
リザは小さく笑みを浮かべると、そっと男の胸に寄り添って、その愛おしい匂いを胸に吸い込んだのだった。





END
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お読み頂きありがとうございました!
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by netzeth | 2013-06-12 00:10 | Comments(2)
Commented by まい at 2013-06-12 10:51 x
素敵!素敵!素敵!
着飾って優雅に踊る二人を想像すると溜息が零れます!
「今日は」の「は」も最高です!
Commented by うめこ(管理人) at 2013-06-12 22:34 x
>まい 様

コメントありがとうございます!
嬉しいお言葉にニヨニヨしてしまいますv嬉しいです(*^_^*)
ロイアイの二人がビシッと服を決めてダンスする絵って萌えますよねv 二人とも正装系の服がすごく似合うと思うのです。
きっとロイさんは「今日、も」と言って欲しかったのだと思われますww