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太った?

「君……少し太ったか?」
夕食を終えて各々のプライベートタイムを過ごしていた時の事だった。私の隣で最近古本屋で仕入れたという錬金術書に目を落としていた彼が唐突に言ったのは。膝の上に乗せた雑誌をめくる手を止めて、私は顔を上げた。そして、彼――ロイ・マスタング大佐の顔をまじまじと見つめた。
本に夢中になっていたはずの彼は、いつの間にか私をじっと観察していたようだ。まるで上から下まで舐めるように眺められていて、私は居心地が悪くなるのと同時に、少々呆れた。
……それは妙齢の女性にかける言葉としてはいかがなものだろう。
彼は時々こんな風にひどく無神経な時がある。女性にマメで、モテる男を気取っていて、それを羨ましがる部下に女性の扱いとは? という偉そうなご高説を垂れているくせにだ。今日は機嫌が悪いから二日目かと聞かれたりや、肌が荒れてるから化粧ノリが良くないなとか怒ると早くシワになるぞとか。彼のデリカシーの無い発言は数え上げればキリがない。
常々この人は本当に女性に相手にされているのだろうか? と不思議になる事がある。それでも、度々デートだと出かけていく(実際は本人曰く情報収集らしいが)のだからそれなりにモテているのかもしれない。
……それとも、彼の無神経さはもしかして私限定で発揮されているのだろうか? だとしたら遺憾ながらも嬉しいと思ってしまう自分に困る。彼が己を偽らずに率直に自分を出せるその相手が、私だと言うならば、やはり面映ゆいものがあるのだ。恋人としても嬉しい。
しかし、体重という女にとってナイーブな問題に言及するならば話は別である。私だって軍人である。体の健康管理には人一倍気を使っている。食事には常に気を配っているし、きちんとトレーニングも積んでいる。それを、太ったよばわりされるのは納得がいかない、憤慨ものだ。
けれども。
私はその感情のままに「太っていない!」とむきになって彼に反論するのは避けた。体重を気にするような女だと思われたくはなかったのだ。そんなのまるで、そこら辺の普通の女性みたいだ。……そう、私は虚勢を張ったのである。
「……私がもしも太っていたとして、何か問題が?」
極力冷静を装って彼に問う。私の体重は変わっていないのだから太ってはいない。それは事実だ。だが、他ならぬ彼に、太ったなどと疑いをかけられた事自体が私にはショックだった。
見た目が変わったのだろうか? 体の線? たるみ? それとも抱き寄せた時の重さで判断を?
しかし、そんな動揺を悟られぬ様、私は無表情を貫いた。女としての葛藤を彼に知られるのは恥ずかしくて耐えられない。
「いや、そういう訳じゃない。いや、むしろ……」
言葉を切った彼は、私の頬に手を添えた。彼の無骨な指が優しくそこを撫でていく。主人に撫でられた犬のように、私はその心地よさに目を細めてしまいそうになって、慌てて取り繕った。
「太っていたならば、問題はないんだ」
「え?」
先ほどの彼の言葉を、恋人に太った事を咎められた――と理解していた私は一瞬意味を計りかね、ぽかんと口を開けてしまった。きっと、無表情が崩れて間抜けな顔をしていたと思う。そんな私に優しい笑みを向けて彼が言う。
「……太ったなら、それで良いんだ。君、最近痩せた様だったから心配でな。……無理をさせている私の責任だ」
心配そうな瞳で私を見つめてくる。そんな目で見るなんて卑怯だ。自分の誤解があまりにも滑稽で恥ずかしくなってしまう。
だから、一瞬でも無神経だなどと思った事に罪悪感を覚えて、私も虚勢を張るのを止めにした。
「あの…大佐。申し訳ありません……私、てっきり」
「うん?」
「……重い女がお嫌いなのかと」
そういう意味かと思いまして。
心の内を告白した私に彼は目を丸くして、そしてぷっと吹き出した。くくくっと笑みを噛み殺して笑う。いつの間にか目には涙まで浮かんでいて。あまりにも彼が笑い過ぎるので私は恥ずかしくて仕方がない。だが、彼の言葉を誤解したのは自分なので甘んじて受ける事にした。
「……笑い過ぎです」
「ああ、すまん」
とうとう我慢が出来なくなって苦情を申し立てれば、彼はふと真剣な顔になった。頬に当てられていた手が滑り落ちて背中に回ってから、腰に置かれる。そして、彼が立ち上がる気配がした刹那。
「安心したまえ……よっと」
「た、大佐!?」
私の身体は宙に浮いていた。慣れない浮遊感に手足をバタつかせていると、「こら、大人しくしたまえ」と窘められる。まるでお姫様のように私は彼に軽々と抱き上げられてしまったのだ。
「何を……」
「……だから。安心したまえ。私が抱き上げる事が出来るまでは許容範囲内だ」
それは私の体重を指して言われた言葉に間違いない。そして、彼は私を軽々と持ち上げていた。
「力には自信がある。これでも鍛えているからな」
見上げた視線の先に朗らかに笑う彼の顔がある。魅入られた様に私は目を離せなかった。
「……安心して太ってくれたまえ」
どんな君でも抱き上げるから。
そう言い切る彼の言葉の力強さに、私はくらりと眩暈がした。まるで酩酊しているような気分だ。顔と体中が熱くなってどうしようもなくて、私は彼の胸に額を擦り付けた。犬が主人に愛情を示すように、すりすりと擦り付ける。それでも、まだ足りない気がした。
――だって、これは体重だけの話ではない。そんな気がした。
そう、まるで自分――リザ・ホークアイという存在の重さまでも負うと言ってくれる頼もしい男に、私は不覚にも惚れ直したのだ。
「なんだ?……今夜は素直だな」
彼の嬉しそうな言葉に私は心の中で反論していた。
……だって、仕方がないじゃないですか。貴方のせいです。
言葉の代わりに私は無防備な彼の首に手を回すと、素早く唇を押しつけて。そして。その口づけは寝室へ着いてベッド上に降ろされて、シーツの海に私が沈んでも、ずっと続けられたのだった。




END
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by netzeth | 2013-07-31 01:01 | Comments(2)
Commented at 2013-08-01 23:30 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by うめこ(管理人) at 2013-08-03 01:03 x
>牡丹 様

はじめまして!こんばんは♪コメントありがとうございます(*^_^*)
SSお読み下さり嬉しいです☆大佐にきゅんきゅんして頂ければ本望でございます!
上司さんが中将殿と大佐殿だなんて素敵な職場ですね(//∇//) 羨ましいですv ぜひぜひ閣下に鋼を読んで頂いて下さい!

それではよろしければまた覗いてやって下さいね~。