うめ屋


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by netzeth
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嘘から出る真

「大将とホークアイ少佐の結婚式っていつなんですか?」
無邪気な笑顔で少年に問われ、ロイは思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。しかし、ここで吹き出してはデスク上の書類が台無しだ――と必死にその衝動を堪えたため、茶はロイの気管内を逆流して…結果的に彼を激しく咳込ませる事となる。
「ぐほっ、げほっ、ぐっ、ごほごほっ……!」
紅茶に咽せるその様子は大将という階級に大変似つかわしくない威厳の無さで。そんなロイを相変わらずニコニコと笑いながら、少年――アルフォンス・エルリックが眺めていた。
「……ごほっごほっ…、ぐ、アルフォンス…君は突然何を言い出すのかね?」
咳込み過ぎて涙が滲むその黒い瞳で(これも大概大将という階級の人間に似つかわしくない姿だ)、ロイは少年を睨みつけた。
本日東の隣国シンから帰国したという彼は、その足で東方司令部のロイを訪ねて来てくれた。その目的はアメストリスとシンとの橋渡しである。シンの皇族と深い付き合いをしている彼は、ロイの依頼で非公式の使節のような役割を担っており、こうしてロイにシンで得た情報などを報告しに来てくれるのだ。シンとは交易のために今正に友好関係を築こうと努力している最中である。彼が持たらしてくれる情報はロイにとって、政治的判断を下すためにとても貴重なものとなっていた。
そうして、仕事の話が一心地ついたその時である。彼がその問題発言をしたのは。
「え? 何って…、だから大将とホークアイ少佐の結婚式ですよ。いつなんですか?」
ロイの視線を受けたアルフォンスはきょとんとした顔でその問題発言を更に重ねた。それは既に決まっている当たり前の予定を確認しているだけ、といった平然とした口振りである。
「いや、いつとかそういう以前に。……私と少佐は結婚どころか付き合ってもいないんだが」
ようやく咳が治まって、ロイは何とか己の精神状態を立て直すと極力冷静にそうアルフォンスに指摘した。
しかし。
「またまた~! 隠さなくても良いじゃないですか。水くさいなあ…」
少年はロイの言葉を朗らかに笑い飛ばす様子である。
「そんな訳ないじゃないですか。だって、マスタング大将は僕の心の師匠ですからね。何せ昔からプレイボーイって言われて、毎日女性と遊んでいたじゃないですか。僕たちが訪ねていくとよくデートで居なかったりして。僕、体を取り戻したら大将みたいに沢山の女の子達とデートして楽しく遊ぶのが夢だったんですから。……そんな大将が、今更ホークアイ少佐と何にもありませんとかありえないじゃないですか!」
はははははー! もうからかわないで下さいよー! と笑うアルフォンスを目の当たりにして、ロイは頭の痛くなる思いだった。大佐時代の自分の所行故の自業自得だとは言え、純真な少年に自分はどうもよくない教育をしてしまったようだ。
「あのな……アルフォンス。確かに私は女性に対してはそれなりに経験豊富な様に見えるがな…あれは世を忍ぶ仮の姿でな。私は君が思うような女好きで軽い男ではないんだぞ?」
「え……」
ロイの告白を聞いて、アルフォンスは目をまん丸くして驚いている。鎧の時には分からなかったが、彼も兄に似て感情豊かにころころ表情が変わる。
「それは……だって…本当に?」
「ああ。敵を欺くにはまずは味方からと言うだろう? 女性とのデートは情報収集の隠れ蓑だったのだよ。事実皆だまされてくれたしな。あの頃の私は女遊びをしていると思っていて貰った方が好都合だった」
階級が上がった今となっては、必然的にその情報収集デートの頻度は減ってしまったが。
「理解してくれたかね?」
「はい」
兄と比べると格段に素直な弟はこくんと頷いてくれた。その反応にロイも安堵する。若者に変な誤解を受けたままでは年長者として居心地が悪いというものだ。
「つまり大将はプレイボーイでも何でもない見かけ倒しの伊達男で、未だに好きな女性に対して手も出せていない純情といえば聞こえがいいけどその歳じゃあ既に腰抜けとしか表現しようのない男…と言う訳ですね?」
「君、私の話ちゃんと聞いてたか!?」
そうだった……彼は一見兄に比べると素直で良い子だが、しかし実際は兄よりもある意味黒い性格をしていたんだった……。
浴びせられた毒舌でその事実をロイは思い出した。そう、アルフォンスは笑顔でこき下ろすタイプなのだ。
「聞いてましたよ。だって実際そうでしょう? この期に及んでまだホークアイ少佐と付き合ってもいないなんて……僕、大将にはがっかりです。いつかウハウハハーレムを建設するための理想的な先輩だって憧れてたのに……」
はあっ……といかにも残念そうに深いため息を吐かれては、ロイだって男の意地にかけて反論せねばなるまい。
「なっ、君、ちょっとモテモテだからって調子に乗るなよ!?」
聞けば、彼はアエルゴやミロスといったかつて縁のあった土地の女の子達から手紙を貰っているという。そして、体を取り戻してからは故郷の町でモテにモテまくっているらしい。ロイの勘が告げている。彼も自分とはタイプは違うが女たらしであると。
「嫌だなあ…僕、別にモテてませんよ。兄さんに聞いたんですか? そりゃあ、女の子から手紙やプレゼントを沢山貰ったりしますけど……ただの友達です。本命はメイですから」
そう、彼は無自覚なタイプである。ニコニコと自分がモテている事を否定する(実際には何一つ否定していないが)アルフォンスを見てロイは確信した。
「大将と違って僕は本命を大事にしていますよ?」
「私だって大事にしている」
憮然と言い返せば、アルフォンスが仕方がないなあという顔をした。
「僕の歳なら良いですけど……大将の年齢じゃあもう大事にするだけじゃあダメですよ。もっと攻めていかないと」
――一回り以上も歳の離れた少年に上から目線でアドバイスを受ける。
屈辱としか言いようがないが、しかし、全て彼の言う通りなのでロイは沈黙するしかない。すると、ああっ、とそこでアルフォンスが何かを思い出したように手をぽんと打った。
「そうだ。そういえば、僕、シンのみんなに言っちゃったんですけど」
「何をだ?」
「マスタング大将とホークアイ少佐は婚約中で少佐は既に妊娠していて、お腹が目立つ前に式を挙げる予定だって」
「取り消せ! 今すぐシンに戻って取り消して来い!! というかみんなって誰と誰と誰だ!?」
「え~と、メイとリンとランファンと向こうで良くしてくれたヤオ家とチャン家の一族みんなに」
くらりっ、とロイは目眩がした。よりもにもよってシンの皇帝、皇女その一族にまでそんな嘘情報が出回ってしまっているとは。
「なんて事をしてくれたんだ……」
「だって、メイが大将と少佐はいつ結婚するんですカ? お二人の子供ならとても可愛い子なんでしょうネ! とか言うものだから……つい……その、すみません」
あっけらかんとしていたアルフォンスだったが、ロイがあまりにも呆然としているのを見て、さすがに反省したらしい。殊勝な態度で謝ってくる。
「もう、いい……今更どうしようもない。手遅れだろう……」
「だと思います。だって、シンの人達ってみんな基本的にお祭り好きだし。メイやリンまで絶対にお二人の結婚式に来たいってはりきってましたから」
「あああ……」
相手はこれから友好を結び交流していこうとしている国の人々である。この先会う機会は何度もあるに違いない。そして。
「多分ずっとこの事を言われ続けるんだろうな……」
結婚式はあげません、結婚しません、と言えば彼らも納得するだろうが。それでも、きっと会う度にこの話を振られるに違いない。じゃあ、いつ結婚するのか? と。
「悩む必要なんかないじゃないですか」
未来を思って一人憂鬱になっていたロイに、アルフォンスが言う。元凶が何を言う、と思ったが彼は更に言葉を重ねてくる。
「嘘から出た真です。本当にしてしまえば良いんですよ」
ニコニコとしたとっても良い笑顔でアルフォンスは事も無げにそう言い切った。
「ね? すぐにホークアイ少佐にプロポーズして来て下さいよ!」
「な、何を言い出すんだ君は! いいか、物事には順序と言うものがあるんだぞ!?」
「いいじゃないですか、順序なんて適宜ぶっとばせば。世の中には臨機応変って言葉もあるんですよ?」
それに、とアルフォンスは言葉を継いで。
「順序をぶっとばしても、ホークアイ少佐ならきっと大将のポロポーズを受けてくれますよ!」
「どこから来るんだその自信は!」
他人事だと思って軽く言うな、と言い放つロイにアルフォンスは微笑みを深くする。
「だって、大将は知らないんです……」
少佐があんな風に泣く相手がただの上司な訳ないじゃないですか。
と、小さくアルフォンスが呟くが残念ながらロイの耳には入っていなかった。
「何だって?」
「ううん、何でもないです。あ、そうだっ、いっそプロポーズもぶっとばして子供を作ってしまったらどうですか?」
「んなっ……! アルフォンスっ、君は少し鋼のの奥手さと純情さを見習うべきだぞ!?」
「嫌だなあ、僕とっても純情ですよ?」
ふふふふと笑う彼の笑みはどこまでも黒い。兄に対しては余裕を持った態度で接する事が出来るロイであるが、この弟に対してはそうもいかないようである。
「嘘をつけ! 純情な少年は子供を作れなどとは言わん!!」
「本当ですって。子供の作り方だって僕、知りませんよ? 聞いて良いですか? 上手な作り方を教えて下さい」  
「絶対知っているだろう、それ!!」

こうして。どこまでも上手な少年にロイは振り回されるのであった。




アルフォンスが廊下に出ると、ちょうど金の髪の女性が目の前に立っていた。彼女はアルフォンスが今し方出てきた部屋の主に用があるのだろう。
「もう…あまりからかわないでちょうだい」
アルフォンスの顔を見た彼女――リザは開口一番にそう言った。
「すみません。面白くてつい」
リザがロイと自分との会話を聞いていたのだと悟ってアルフォンスはペロリと舌を出した。少年らしい彼の仕草にリザも苦笑を浮かべている。
「あの人、ああ見えて素直なんだから。貴方の言葉を全部信じてしまうのよ?」
「ええ、そうみたいですね」
リザはアルフォンスがロイをからかったという事を見抜いているようだ。困った顔をしているが、ロイの事を語る時の彼女のその顔はとても優しい。そんな顔をされると、アルフォンスはリザをもからかいたくなってしまって。
「あ、でもリン達に言いふらしたのは本当ですよ?」
「え!?」
告げた言葉に、ロイとそっくりな反応で呆然と目を丸くしたリザ。
それに笑ってじゃっ! と軽く手を上げるとアルフォンスはその場を後にする。
この後、ロイの執務室内で何が起こるのか。それを見られないのは非常に残念だが。……まあ、結果を知るだけで満足する事にしよう。
そんな事を考えつつ、歩み去る。
――いつか嘘が真になる事をアルフォンスは確信していた。




END
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ためになるアドバイス?でエドをからかうロイを書きましたが、それのロイとアル版って感じです。
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by netzeth | 2013-11-06 02:10 | Comments(0)