うめ屋


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可愛いひと

まん丸の満月に見下ろされながら、私達は夜道を歩いていた。
いつもは彼の背中を見ながら斜め後ろを歩く私も、今だけは並んで隣を歩く。正直私としては不満なのだけれども、仕方がない。こうしないとすぐに彼は機嫌を損ねてしまうのだ。
軍務についている時は有能な指揮官の皮を被っている彼もなんて事はない。一皮剥けば子供っぽい所が目立つわがままな一人の男性である。
人前で脚の出るスカートを履くなとか軍務でも男と2人っきりになるなとか、果ては愛犬と一緒にお風呂に入るなとか。彼の私に対する要求は呆れてしまう様な内容ばかりだ。
思春期の娘を持つ父親でもあるまいし、成人女性に対してこれでは過干渉と言わざるを得ない。しかしこういう仕方のない部分も可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みというやつだろうか。
私は隣を歩く彼をこっそりと盗み見た。
手を繋ごうとしたのを街中ですよ、と拒否したのを根にもっているのかどことなくムッツリした口元が可笑しい。夜の闇に溶け込んでしまいそうな髪を揺らし、まっすぐに前を見つめて歩いている様に見えるが、実は彼が少し緊張をしているのを私は知っている。
彼――大佐は本日朝から真面目に仕事に取り組んでいた。〆切が近い書類が無いにも関わらずだ。いつもならばギリギリまでサボってやらないくせに。
加えて彼は首尾良く書類を片付けると、私に隠れて執務室の電話からレストランの予約をしていた。(お見通しです)
その時点で今夜は女性とデートなのだな、と予想が付く。もちろん恋人としてはそこで少し面白くない気分になる。だがしかし、その後大佐がフュリー曹長に勝手にハヤテ号を貸し出す算段つけているのを目撃して。私の嫉妬心は綺麗に払拭された。大佐の目論見を理解したからだ。
どうやら私は今夜久しぶりのデートに誘われるようだと。
そうして、私の予想通り、大佐は私を食事に誘って来た。
断る理由を思いつけなかった私は了承し、私は久しぶりに豪華なディナーに舌鼓を打ったのだ。
「あ~中尉?」
そして緊張した面もちで大佐が口を開いた。
彼の言いたい事は分かっている。
この後の予定をどうするのか。それを確認したいのだろう。
恋人同士の男女が夜一緒に食事をして、その後は、はいサヨナラとなるとは私も思ってはいない。
デートを楽しむならフルコースで。つまりはそういう事だ。知ってはいたけれど、
「はい」
私はただそれだけ返事を返した。この後の展開は少なくとも女性から先に口に出す話題ではない。
「あー…この後、時間はあるだろうか?良かったら、部屋でお茶でも…どうだ?」
恋人となってもう何度も夜を共にしたというのに、未だに彼の誘いはどこか不器用で遠まわしだ。
こういう姿を目にすると本当に外で女性をたらし込めているのか、と疑問が湧く。世間で噂されるプレイボーイとは思えない。
彼は緊張感漂う表情で固唾をのみ私を見つめている。まさかこの期に及んで、彼は私に断られると思っているのだろうか。笑ってはいけないと思うのに、吹き出しそうになってしまうのを必死に堪える。
――お願いです。そんな風に可愛らしい顔で私を見つめないで。
「い、嫌…か?」
いつまで経っても私が沈黙しているので、彼は恐る恐るそう口にした。違うと答えるのは簡単だったけれど、悪戯心が擽られた私は、
「ええ、嫌です」
と思わず言ってしまった。
「そうか……」
大佐はすごく複雑な顔をした。残念そうな何かを耐えるような、そんな顔。ああ、今彼はとてもとても葛藤している。その証拠にとっても困っている顔をしているもの。多分、己の自制心と語り合っているのね。
男の人の生理には詳しくないけれど、その辺りは我慢しようと思えば出来るものなのかしら。
「分かった。君の意志を尊重する。……ちなみに今後の参考までに聞こう。…なんで嫌なんだ?」
彼にとってやはりこれは苦渋の決断だったらしい。しゅんとした下がり気味の眉毛が愛おしい。しかし頑張って無念そうな表情を隠して、平静を装って彼は尋ねてきた。
そんな風に取り繕ったってバレバレです。
その可愛らしい様子に、私は思わずニッコリと笑った。
「そうですね。先ずは大佐のお誘い文句に積極性が感じられない所でしょうか。男ならもっと強引に出ても良いと思いますよ。女性はそういうのを期待していたりするものです。嫌よ嫌よも好きのうちと申しますでしょう? 女の言葉を額面通りにとってはいけません。深読み裏読み推奨です。それに一度断られたからってすぐに引き下がる態度は感心しません。そこは追いすがって下さい。女はそれを待っているんですよ。それから付け加えますと今、私は今夜のディナーがとっても美味しかったと思っています。大佐が私の好きな魚料理にしてくれたおかげですね、こういう気遣いはポイント高いですよ。ついでに言えば料理に合わせた白ワインで私は気持ち良くほろ酔いです。いい気分です。こんな素敵な月夜に独寝は寂しいと思っているくらいです。ね? こんな女には攻めて行かないと駄目なんですよ」
私がつらつら上げ連ねた理由を黙って聞いていた彼。その眉間にはどんどん深いシワが寄っていく。真剣な顔で黙考することしばし。
「……なあ、つまりそれって別に君は嫌じゃないって事にならないか?」
「ええ、そうですね。嫌ではありませんよ。……大佐がおもしろ可愛かったもので、つい」
ちょっとからかってみました。と私は告白した。大佐は最初唖然とした風に目を白黒させていたけれど、すぐに怖い顔になる。それは男の欲を露わにしたギラギラした顔。可愛らしい顔とのギャップに私はくらりと来た。
「今夜の火力はちょっとスゴいぞ。……覚悟するんだな」
ああ、でもやっぱり。どんなに悪い顔をしても彼は私の可愛い人だ。
素直に私の忠告聞いて、強引に手を引いてくる辺りなんか特に。
「ええ、期待しています」
それでも口ではどんな事を言っていたって、結局の所彼は私に優しい。
……酷く、なんて出来ないくせに。
そうして募る愛おしさに、私は握られた手をぎゅっと握り返したのだった。





END
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需要がよく分からない可愛い?大佐。
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by netzeth | 2013-11-12 22:57 | Comments(0)