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by netzeth
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貧乏リザちゃん物語(クリスマス編)前編

緑と赤。そして白に金色。
クリスマスカラーに装飾されたショップのウィンドウディスプレイを眺めながら、ロイは足早にイーストシティの市街を歩いていた。どこからか遠く流れてくるのはクリスマスソングだ。この時期は毎年シティが浮き足立っている。既に冬の日は落ちたが、夜というにはまだ早い時刻のクリスマス・イブ。すれ違う沢山の人々も、皆笑顔を浮かべていた。
ケーキ屋の前を通りがかれば、店の前でケーキが売られており、肉屋の前を通りがかれば、ローストされたターキーが店頭で売られている。声高に営業をする店員の格好は皆揃って白いファーが付いた赤い服に赤い帽子……サンタである。
クリスマスだなあ…なんて呑気な感想が頭をよぎるのは街が平和な証だ。ふと前を見ると、小さな子供を連れた親子連れが歩いていた。幼い男の子がサンタの店員を指さして何事か嬉しそうに母親に訴えている。
「ママ! サンタさん! サンタさんだよ!」
「ほんとね。サンタさんね」
「サンタさんとお話したい!」
「あらあら、ダメよ。あのサンタさんは今とっても忙しいの。……あなたのサンタさんは今夜お家に来てくれるから、ね?」
「うん! プレゼント持って来るんだよね!」
「そうよ。いい子にはプレゼントをくれるのよ。さ、いい子にして帰りましょうね」
「うん!」
何とも微笑ましいやりとりにロイは思わず笑みを浮かべた。
「サンタ、か……」
白いファーの付いた赤い服に赤い帽子。そしてお髭のおじいさん。
そんな姿を脳裏に浮かべていると、不意にサンタに纏わるとある記憶が蘇って来る。
しかし、それでもロイは歩くスピードは緩めなかった。本日の予定は一端自宅に戻って支度をしてから、彼女の家に訪問。余裕はないのだ。
そうは言っても溢れ出る思い出の映像は次々にロイの心に浮かんできて。しばし彼を過去へと誘うのだった。


  

 ***




「マスタングさん! サンタさんってご存知ですか?」
12月に入ってからというもの、実家の店が繁忙期に入った。叔母にはきっぱり子供の手は要らないと言われていたのだが、息子の自分が放っておく事など出来る訳もなくロイは毎夜店の手伝いをしていた。といっても、空いたグラスを下げたり料理を運んだりとたいした事は出来ていないが。それでも叔母には十分だったらしい。口では余計なお節介だとは言いつつも、ロイが手伝ってくれたのが嬉しかったのだろう。彼女はいつもより多めにお小遣いを弾んでくれた。
そんな訳ですっかりホークアイ家にはご無沙汰だったロイだが、この日だけはと何とか都合をつけてやってきたクリスマスイブ。久しぶりに会ったリザに開口一番にそう尋ねられて、ロイは目を瞬いた。
「サンタ? サンタクロースの事かい?」
「はい! そのサンタさんです!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべるリザは、勢い込んで頷く。薄茶色の瞳がキラキラと輝いて見えた。
「やっぱりマスタングさんも知っているんですね。……私、今までサンタさんの事聞いた事なくて…そしたら、お友達に笑われちゃいました。サンタさんなら毎年クリスマスイブの夜にプレゼントを持って来るのよって。でも、去年までうちには来てなくて、それで、お父さんに聞いてみたんですけど……」
「……師匠に?」
「はい」
……何となくイヤな予感がした。
「お父さんにうちにはサンタさんは来ないの? って聞いてみたんです。そしたら、「リザもとうとう奴の存在を知ったか……仕方あるまい。いつか訪れる日だ。いいか、リザ……」」
「……もしかして、うちにはサンタは来ないとかって言われたの?」
不安に駆られて、ロイは思わず口を挟んでしまった。ホークアイ師匠の青白い顔を思い浮かべる。……あの人、子供の夢なんて簡単に壊しそうだ。……ちなみに一番最初に壊されたのは、ロイの「超一流錬金術師であるホークアイ先生はきっとお金持ちで素晴らしい人格者な立派な偉い先生に違いない」という幻想である。
「え? 違いますよ?」
しかし、ホークアイ師匠もそこまで空気が読めない人間ではなかったようだ。幼い少女の夢が壊されなくて良かった……と、ロイはホッとした。しかしそれもつかの間の事。
「お父さんは、「リザ、サンタは今年は来るはずだ。今まではうちは貧乏だから忘れられていたんだ。今年こそ人々の言い伝え通りにプレゼントを持ってうちに来てくれるだろう。きっとお前が一番欲しい物を持ってくる。楽しみにしていなさい」って!……私、すっごく楽しみで!!」
「……そうか、良かったな。リザ」
ホークアイ師匠がハードルをガン上げしたのに、ロイは一抹の不安を覚えた。
(……師匠…そんな事言っちゃって良いんだろうか。リザが何を欲しがっているのか分かるのかなあ…いや、そもそも。リザが欲しい物が何か分かったところで、それ、買えるのか…?)
水道光熱費さえ滞納する事のあるこのホークアイ家に、クリスマスプレゼントなどと言う余剰の予算があるととてもは思えない。
と、ロイがかなり失礼な事を考えている間にも、リザは胸の前で両手を組みうっとりとした顔をして語り続ける。
「やっぱりサンタさんですから、私の一番欲しいものが分かるんですね。私、本当にすっっっっごく楽しみで! 見てください! これ、今日の為に作ったんです。ちゃんと用意しないとと思いまして。中にビニール袋を入れて縫いつけて加工してみました。やっぱり必要ですよね!」
「ビニール加工?」
もぞもぞとリザが懐から取り出したるは、巨大な靴下だった。それだけでこの少女がどれだけサンタに期待しているか分かろうものだ。彼女はいつになくはしゃいだ様子でロイに靴下の説明をしてくれる。……何故、靴下にビニール加工が必要なんだ? と疑問が消せなくて、ロイはおそるおそる聞いてみた。……これは今夜のためにも聞いておいた方が良い気がした。
「ねえ、リザ。リザの一番欲しいものって何なんだい? 参考までに聞かせてくれると…師匠が…、いや、俺がありがたいかなー…って」
「はい! 私が一番欲しいものは…ずばり、お肉です!!」
すっぱりきっぱりとリザは大変良い笑顔でのたまった。
「一年に一度しか来ない、しかもうちに初めていらっしゃるサンタさんですから、きっとすっっっっっごいお肉をプレゼントしてくれると思うんです。だから、今日はたいしたディナーは出来ないけど、明日のクリスマスは肉・大パーティーですよ、マスタングさん!!」
ロイは後にも先にもこんなに輝いたリザの顔は見た事がなかった。ついでに涎もたれている。
「さ、今夜に備えてご飯は早めにしましょうね、マスタングさん! 早く寝ないと…!」
わくわくどきどきそわそわしながら、リザが軽やかな足取りでキッチンへと向かっていく。
「にーくにくにくにく♪ 肉が来る~♪ 肉が来る~♪」
しかも、謎の鼻歌を歌って。
ロイはいろいろとやばい予感がひしひしとしていた。彼女の期待に応えるプレゼントがサンタからもし貰えなかったたらどうするんだろうという危機感に。
「あ、そうだっ、俺のプレゼント……」
そこでロイは、懐に忍ばせて来たリザへのクリスマスプレゼント(もちろん肉ではない)を渡しそびれた事に気がついた。紙袋に入ったそれを、ロイは取り出して眺める。可愛いリボンでせっかくラッピングしてもらったけれど。
「……肉、にすれば良かったかな…?」
「肉…か」
「うわぁぁぁぁあ!?」
突然に耳元に出現した怪異に仰け反って飛び退くと、そこにはホークアイ師匠が佇んでいた。
「い、いつから居たんですか、師匠! 気配消して立たないで下さいって前にあれほど言ったじゃないですかっ、師匠は居るだけでリアルホラーなんですから!」
「お前……どんどん態度がデカくなるな……まあいい。それよりも、ロイ、聞いたか。肉、だそうだ」
「……ええ、肉だそうですね」
そこに居るだけで威圧感のあるホークアイに見下ろされながらも、何とかロイはそれに負けじ言い返す。
「もちろん、用意してあるんですよね? 師匠がリザに言ったんですから」
サンタうんぬんを。と指摘すると、ホークアイはしばし沈黙し、
「……ロイ。今の時期はイノシシと鹿が狙い目だそうだ。熊でも良いが、今は冬眠中だからな」
……せめて、肉屋に行ってこいと言って欲しかった。
買うという選択肢を排除して、ハント一色なホークアイの提案にロイは肩をがっくりと落とした。
「また俺に捕って来いって言うんでしょう? 無理ですから。そもそも、昼間ならともかくもう日が暮れてるんです。夜に森に入るなんて自殺行為ですよ。はい、有り金出して下さい。俺、街までひとっ走り行って肉を買ってきますから。今日はイブですから、鳥なら腐るほど売ってますよきっと」
ホークアイは素直に懐から財布を出すと、ロイの手に乗せた。あまりに軽いその重さに慄きながら、ロイはそれを振ってみる。中からはちゃりんちゃりんという非常に頼りない音がした。
「……師匠」
「ああ」
「今時21センズじゃあ、一番安い胸肉だって買えませんから」
「ああ。だが、それしか持ち合わせがない」
だああああ! と頭を抱えたくなる衝動をロイはホークアイの手前何とか堪えた。
「いい大人が21センズはないでしょう!」
「……いいか。ロイ。錬金術師はその名の通り、金を作り出す力がある……しかしながら、それは禁忌の業であり、そもそも…金を作り出す事でアメストリス経済の混乱を招くと今から300年ほど前に、時の大総統が定めた法により……」
「はいはい。分かりましたから。金欠認めるだけなのに無駄な重厚感出さないで下さいよ」
どう理屈をこねようとも金が無い。という事実だけは変えようがないのだ。
「お前…本当にかわいげがなくなったな……」
「それよりも。どうするんですか。明日の朝起きて靴下にプレゼントが入って無かったらリザ、悲しみますよ? どうして今日の今日までプレゼントを用意して無いんですかっ」
絶対にあの少女は、自分がいい子じゃないからプレゼントを貰えなかったんですよねっと笑って言うのだろう。悲しい顔なんか見せずに。それは泣かれるよりも心が痛む。
「……リザの欲しいものが分からなかった。お前に尋ねさせようと思っていたんだが、お前はずっと我が家に来なかった」
それで後手後手に回って、クリスマスイブ当日までサンタのプレゼントも用意していないという有り様らしい。ロイは頭が痛くなる思いがした。
「……とにかく。何か考えましょう」
ロイの言葉に重々しくホークアイは頷いた。
「……私が靴下を履いて(人)肉というのはどうだ?」
「父親の威厳を完膚無きまでに失いたいというなら止めませんよ。まず、娘の部屋に深夜に忍び込んで朝までいる時点でアウトですからね。それ」
「……その辺りに住んでる猫の親子で手を打つ」
「……猫まで毒牙にかけるつもりなんですか。はまぐりさんとあさりさんとしじみさんの事なら、ダメです。リザはあの猫の親子を可愛がっています。そんな事したら一生恨まれますよ。まあ、直接猫を靴下に入れるならそれはそれで可愛いかもしれませんが……って、それ、あ~可愛い~で終わりますよね。ただの猫靴下ですよね。だったら、あの、野良犬にしたらどうですか。ほら、タニシさん」
「あれは、ダメだ。可哀想だ」
「……犬はダメなんだ…師匠ってとことん犬派だったんですね……」
そうして次々とロイはホークアイが挙げる意見を却下する。すると、だんだん彼も苛立ってきたのか無表情の中にも憮然とした雰囲気を漂わせ始めた。
「……ロイ。さっきから私の提案を蹴ってばかりいるが…お前はどうなんだ? ん? その手に何を持っている…?」
ホークアイはぎょろっと視線を、ロイが持っている可愛らしいラッピングがされた紙袋に送る。それを誇らしげに掲げて見せてロイは胸をえっへんと張った。
「師匠。俺はクリスマスに女の子の家に手ぶらで来るほど気が利かない男じゃありませんよ?」
12月の労働の対価により得たお小遣い。そのほとんどをはたいて、ロイはリザにクリスマスプレゼントを買ったのだ。
「何だそれは。錬金術用語大事典か?」
「……そんな訳ないでしょう。錬金術用語大事典ってあの、鈍器並のうっかり殺人事件が起こせそうな分厚いやつでしょう? 俺、師匠の部屋の本棚からあれが頭に落ちてきた時、死んだ両親とお花畑で再会しそうになりましたよ。って、そうじゃなくてっ。そんな物女の子にプレゼントして喜ばれる訳ないじゃないですか」
「そうか? 私が昔妻に贈った時あれは会う度に身に付けてきたぞ」
……辞書をどうやって身に付けていたのかは興味深い所ではある。
「それはもう逆にものすごくそのプレゼントが不満だったんじゃないんですか……奥さん。師匠ってよく結婚出来ましたよね……」
話していても疲れるだけで解決策は一向に見えてこなかった。どうするんですかプレゼント…とため息を吐くロイだったが、しかし、ホークアイは問題ないと自信たっぷりな様子だった。
「問題ない? 所持金が21センズで? 俺だってプレゼントを買ってしまったからもうお金は貸せませんよ」
「ああ。だから問題ない。おかげでプレゼントはここにある」
そう言ったホークアイはロイの手にする紙袋に目をやる。
「中身は知らんが、女の子が喜びそうな物なのだろう。ならば、肉でなくてすまんがそれをサンタのプレゼントとして靴下に入れてやればいい」
「え!」
「サンタが来ないよりはましだろう」
確かにそうだが、それではせっかくロイが買ったプレゼントはサンタのプレゼントという事になってしまう。自分が贈ったとリザに知っては貰えない。それは少しだけ寂しいとロイは思い、一瞬迷ったが。
「……そうですね」
プレゼントがリザの手に渡る事には代わりが無いのだ。と自分を納得させて、ロイはホークアイに応の返答をしたのだった。





続く
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by netzeth | 2013-12-14 02:37 | Comments(0)