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ペーパーSS集3 2013スパコミ~2013スパーク

2013 スパコミ ◆謝罪◆


「マスタング大佐! 誠にすみませんでした!!」
中央司令部の正門を出たところで知らない男にいきなり謝られて、ロイは目を瞬いた。腰を見事に九十度に折って頭を下げている男。かなり無理な体勢であるにも関わらず綺麗にその姿勢をキープしているのは、かなり鍛えられた体をしているのだろう。
「……頭を上げたまえ」
顔が見えなくては話にならない、とロイは男に声をかけた。
「は!」
勢いよく上半身を上げた男は幾分ホッとした顔をしていた。やはり、体勢に無理があったのだろうか。ロイはその男の顔をよく観察してみる。金髪に人の良さそうな碧い瞳。軍服の階級章は軍曹……やはり見覚えが無い。
「あー…すまないが。私は君に謝られるような事をされた覚えはないのだが」
そして自分はもう大佐ではなく准将だ。そう、先ほど正式に辞令が降りて、ロイはグラマンに代わり東方司令部の最高司令官として着任する事に決まったのだ。もちろん、ドクターマルコーと交わした約束通りにイシュヴァール政策に尽力するためである。
「は! し、失礼しましたマスタング准将! 重ねてのご無礼平に、平にお許し下さい!!」
大声でまたも頭を下げた男。そのまま土下座をしてしまいそうな勢いである。彼に悪気は無いようなのだが、出入り口でこんな会話をしていては目立って仕方がない。さっきから中央兵の「マスタング准将が純朴そうな下士官を何やら必死に謝らせている…あの人意外に怖い人なんだな…」という視線がちくちくと突き刺さってくるのだ。
「と、とにかく頭を上げたまえ。何回も言うが私は君に謝られる覚えは無い。……それに…君は一体誰だ?」
「は! 失礼しました!!」
頭を上げた男はその場でびしっと綺麗な敬礼を決めて、
「自分は中央司令部所属デニー・ブロッシュ軍曹であります!!」
そう名乗った。男――ブロッシュの顔をまじまじと見て。ロイはその名前を脳内に思い浮かべる。何処かで聞いた事がある。そう、確か……、
「君はアームストロング少佐の部下の……」
「はい。マリア・ロス少尉の同僚でした」
デニー・ブロッシュ。確かブレダの報告書に名前があった。彼は約束の日、ラジオ局でロイ達東方司令部組の力になってくれたという。
「そうか…君がブロッシュ軍曹か」
頷く真っ直ぐな碧い瞳を見つめる。どこか元部下の男に似た人懐っこい目をしている。それに彼のように体も鍛えられているのだろう。親しみを感じてロイは笑みを浮かべた。
「その節はうちの部下達が世話になった」
「いえ…自分は何もしては……とにかく、すみません……」
礼を述べたロイに首を振ったブロッシュは三度謝罪を口にした。ものすごく恐縮した顔をしている。
「……ところで、どうして君はさっきから私に謝り倒しているんだね?」
正直報告には聞いていても、ブロッシュと顔を合わせたのはこれが初めてである。ロイには本当に謝られる理由が思い当たらない。
「それは……自分。マスタングたい…いえ、准将に対して、大変申し訳ない事をしてしまったからであります……」
「申し訳ない事?」
「はい。……自分ずっとマスタング准将がロス少尉を焼死させたと思っていて……」
ああ、とブロッシュの言葉を聞いてロイは納得した。
彼はロイがロスを助けてシンへと逃がしていた事を知らなかったのだ。何しろロスはその事実を親にさえ告げていなかったのだから。故に彼はずっとロイを恨んでいたのかもしれない。おそらく、そのロイに対する誤解を謝っているのだろう。
「そのことに関しては謝る必要はない。無実の同僚が理不尽に殺されたと聞いては当然の感情だ」
「ですが!」
謝罪には及ばないとロイは首を振ったが、ブロッシュは食い下がって来た。その瞳はとても真剣な色を宿している。
「自分…とにかくマスタングは極悪な奴だって、家族から親戚からご近所の奥様から手当たり次第に言いふらしてしまって……幼い弟や妹達はマスタング退治ごっこをして毎日遊んでましたし、彼らが言うことを聞かないと一番上の妹はマスタングが来るよ!ってチビ達を脅すようになってしまって……」
「そ、そうか……」
「それだけじゃありません。うちの猫はマスタングと聞くと逃げ出しますし、近所の野良犬には名前を聞くと吠えるように躾ましたし、お隣のロバートさんちのオウムにはマスタング禿げろとか女にフられろとか無一文になれとかいろいろ呪いの言葉を教え込んで…またそのオウムが喋った事は全部本当になるってご近所でも評判で……」
「……………」
……肝の小さい男だ。やっている事は本当にご近所の嫌がらせレベルである。が、禿げろに地味にダメージを食らったロイであった。
「マスタング准将はロス少尉を助けてくれたのに…俺…ものすごく恩知らずな事を……本当にすいませんでした!!」
心底申し訳ないと思っているらしい真剣なその碧い瞳。ロイはどう反応すべきかしばし迷った。馬鹿正直にそんな小さな嫌がらせを謝りに来るのはこの男が誠実だからなのか、それとも単なる考えなしの馬鹿だからなのか。どことなく元部下の金髪に似ているこの男。後者かもしれない…という懸念が振り払えない。
「それで…こんな俺ですが……俺、少しでも罪滅ぼしというか……マスタング准将のお役に立ちたいんです!」
きっぱりと言うとブロッシュはロイの手を握ってずいと顔を寄せてくる。男に握られても嬉しくもなんとも無かったが。その迫力にロイは抵抗を思わず忘れていた。
「俺を東方司令部で使って下さい! 准将のために働きます!!」
意外なブロッシュの申し出に驚きつつも、(そしてさりげなく握られた手を振り払いつつ)ロイは破顔した。ちょっと馬鹿そうだがずいぶんと誠実な男のようだ。ロスの事を思ってロイを恨んでいた件からして、仲間思いなのだろう。そして、見たところ腕も立つ。使える手駒が増えるのは喜ばしい事だ。自分を理解して支えてくれる人間を一人でも多く……亡き親友の言葉が胸に蘇る。
「いいだろう、ブロッシュ軍曹。覚悟があるのならばついてこい」
「は! ありがとうございます!」
ロイの返答に喜色を浮かべたブロッシュが敬礼しかけた時の事だ。
「准将?」
正門の真ん中で堂々と話し込んでいる男二人に声がかかった。涼やかなアルトの声。
「こんな場所で何をしてらっしゃるんです? 今日は早くお帰りになって東部に経つ準備をなさるのでは……」
先ほど司令部で別れたばかりのリザが、不思議そうに首を傾げて立っていた。
「ああ、中尉。紹介しよう。彼は――」
「あ、あの!! お名前は!? 彼氏は居るんですか!?」
ロイの言葉を遮ってブロッシュがリザの手を握る。止める間も無い素早い動きであった。
「あ、もしかしてマスタング准将の副官のホークアイ中尉ですか!? 噂通りの美人ですね!! やー自分参っちゃうなあ~こーんな美人と一緒に毎日お仕事が出来るなんて。感激だなあ……どうですか、お近づきの印にお食事でも……」
「断る!!」
完全に目がハートマークになっているブロッシュの手をリザから跳ね除けてロイは怒鳴った。リザが何で准将が返事をするんですか、と不満そうな声を上げたがそれは無視した。
「へ? 准将?」
「それから君を部下にする件、それも断る!!」
「え、何でですか!? さっきはあんなにかっこよくついて来いって言って……」
「何でもいい! とにかく、あの話は無かった事にして貰おう!! 行くぞ、中尉」
「ちょ…准将待って下さい! 俺、真剣なんです!!」
「うるさい! とにかくダメだ!!」
訳が分からないという顔をしているリザの手を引いてロイは歩き出した。背中に追い縋るブロッシュの声は聞き流す。
「准将~~!」
こんな危険な独身の若い男をリザの近くに置くのは許さない。ロイは抗議の声を上げるリザの手を、まるで自分の物だと言わんばかりにぎゅっと握りしめた。
新たなライバルの出現に恐々とするその姿は、ブロッシュに負けず劣らずの肝の小ささであったという――。




2013 夏コミ ◆男の敵◆


ストッキングは男にとって不倶戴天の敵である。異論は認めない。この私がそう決めたのだ。その視認性の良さは網タイツに負け、手触りは生足に及ばない。中途半端な存在、ストッキング。ああ、何故このような存在を神は世に遣わし、そして世の女性達はこれを珍重し、愛用しているのだろうか。いや、その理由も私は既に知っている。女性達がこれを身につけるのは優れたサポート力故だということを。そう、脚線美に自信の無い者がその助けを借りているのだ。ならば。引き締まっていながらも、もっちりと柔らかい魅力的な脚を持つ彼女には不要であるはずなのだ。
なのに、彼女は脚の出るスカートを履く時は必ずストッキングを着用している。もちろん、必要ないのではと指摘したこともあるが、女性としての嗜みですと返答されれば黙るしかない。女性にもいろいろあるのだろう。男の私が口を出して良いことではないのだ。紳士である私は無粋な追求は避けた。
だが、しかし。
だから故にこそ、私は苦労しているのだ。
あの生地の薄さと柔らかさを極限にまで高めた代物は同時に脆さを併せ持つ。ほんのちょっと爪が長かったり、指がササクレていただけで引っかかり脆くも裂けてしまうのだ。あれを傷つけずに彼女の柔肌を拝むのは、まさに至難の業。過去に見かねた彼女が四苦八苦する私に、「自分で脱ぎましょうか?」などと申し出てきたりもしたが、冗談ではない。もちろん私は断固として断った。女性の服を脱がすのもまた男の楽しみなのだ。女性自身に脱いで貰うなどとそれこそ情緒が無いというものだ。(……まあ、セクシーに身をクネらせながら…とかならそれはそれでそそるが)
いかに彼女の身からストッキングを無事に抜き取るか。それが、このロイ・マスタングに課せられた命題である。しかし、それは一筋縄ではいかない業であった。(ちなみにここで言うストッキングというのはパンティストッキング、いわゆるパンストのことである。ガーターストッキングはあれで良い。そのまま出来るからな。許す)
以前、私が止むを得ず伝線させてしまったストッキング達はもれなく彼女の家のシンクのゴミ入れへと変貌していた。(キッチンで目撃していたたまれない気持ちになった)ストッキングをそんなキッチンアイディアグッズに再利用させてしまったことを、私は深く悔いた。私の手際が悪いせいで彼女にこんなちょっと便利なアイディアグッズを作らせているのだ。このまま私が失敗し続ければ、そのうち彼女はストッキング製の埃取りやらバスマットやらを作り始めてしまいそうである。
……それはなんとしてでも阻止せねばなるまい。男のプライドにかけて。
――そうして、今夜も私の目の前にストッキングが立ち塞がるのである。
爪は切った。手の手入れも万全だ。クリームを塗って指先までしなやかである。これはなにも、ストッキングを相手にするだけではない。これから彼女を可愛がるのにもちょうど良いだろう。
キスを繰り返しながら、私はそろそろと片手を彼女の脚に伸ばす。乱れたスカートの裾から覗く脚はストッキングの手触り。 
……現れたな、ストッキングめ。
「ん……」
彼女に悟られぬように強く唇を奪いつつ、私は素早くそれを脱がそうと試みる。これまでの失敗を踏まえて力を入れぬ様に腰の辺りから手を差し入れて、下へ下へとずらしていく。しかし、やはり片手ではうまくいかない。彼女のまあるい尻の辺りに引っかかって、止まってしまう。なりふり構っていられなくなった私は、キスを中断して彼女の下半身へと体を動かした。
スカートの中に手を入れてストッキングを両手で慎重に摘み持った。伸縮性のある生地だが、男の力で持つとすぐに破れるのだ、こいつは。
緊張に息を呑み、額に汗を浮かべて私はそろそろとストッキングを降ろしていく。だが、思ったよりも焦っているのか作業はなかなかうまく進まない。腰の部分さえ抜いてしまえば楽になると思うのだが、そこが一番の難関で強く掴むとそれこそ破けてしまいそうになる。
う~ん、う~んと唸り苦戦する私を見かねたのだろう。またも、彼女が助け船を出してくる。
「あの……大佐。自分で脱ぎましょうか?」
ああ、またもこんな時に女性に気を使わせてしまった。しかも、彼女は私よりも年下で経験も浅いというのに。情けなさと半分意地になって、私は首を振った。
「ダメだ。女性の服を脱がすのも男の仕事だ」
これも行為の重要な流れの一つなのだ。これくらいスマートにこなせなければ、プレイボーイの名が泣くぞ、ロイ・マスタング。
すると、私の言葉をどうとったのか知らないが彼女は一瞬沈黙した後に、
「……あの、それでしたら……」
と恥ずかしそうに頬を染めて言葉を切り出した。
「破ってしまって構いません…よ? その……男らしくビリビリと」
破っていいから、早く続きをして。
そう強請られているようで私は驚くと共に、興奮する己を感じる。一瞬でストッキングを脱がすミッションは頭から吹っ飛んでしまった。
はしたない事を言っているという自覚があったのだろう、羞恥に顔をクランベリーみたいに赤くして、彼女は続けて言った。
「……シンクのゴミ入れの……その…予備がもうないので」
ビリビリにしてしまってはゴミ入れにも出来まいに。それでも、そんなとってつけた様な言い訳を付け足すのは、彼女なりの恥じらいなのだろう。基本的に受け身な彼女が見せた積極的とも言える誘い文句に、乗らない手はない。
「……そんなものにするくらいならいっそ私にくれ」
「……変態」
毒づく彼女の口元はしかし、甘く笑っている。上半身を起こしてそんな可愛い睦言を吐く唇を私は再び塞いだ。
そして。
私は彼女の望み通りにストッキングをびりりと破くと、彼女の柔肌を堪能し、さらに夜の奥へとその手を進めたのだった。




2013 スパーク ◆遺書◆


「何ですか、これは」
非常に剣呑な声を背中で聞いて、ロイは振り返った。視線の先では最愛の女性がヒドく不穏な表情をして仁王立ちしている。彼女に叱られる事などロイにとっては日常茶飯事だが、今回は今までの比では無い程の怒りを彼女――リザから感じ取って戦慄いた。
――何だ。自分は何かしただろうか。
慌てて心当たりを幾つか思い浮かべる。
今日この日、ロイは東方司令部への赴任のため引っ越しの準備を自宅でしていた。もちろん東への帰還は准将として最高司令官に着任し、イシュヴァール政策の陣頭指揮を取るためである。そんな彼を心配して手伝いに来てくれたのが、彼女であった。正直整理整頓作業が苦手なロイにとってはとても有り難かった。
そうしてついつい本を読みふけったりして脱線しがちなロイの尻を叩きつつ、リザはテキパキと荷物の梱包作業を行ってくれていた……はずだ。
それが今、どうしてこんなに怒り心頭で現れたのか。
――もしや、何かまずいものでも見られたのだろうか。リザの寝顔を隠し撮りした写真とか、いかがわしい店の女の子の連絡先とか。
そんな事を考えながら改めて彼女に視線を向けると、リザは何やら紙のような物を持ってロイに突きつけている事に気づいた。
――それが、今回の事態の元凶か。
「……ふざけるのもいい加減にして下さい。こんなの、私に対する侮辱です。冒涜です。例え貴方でも許せません!」
紙を持つリザの手がふるふると震えている。見れば彼女の鳶色の瞳はうっすらと涙の膜が盛り上がり、今にもあふれ出しそうだった。
これにはロイは非常に参った。これほどまでにリザを怒らせるなど尋常の事ではない。
「待ってくれ、中尉。私には何がなんだか……」
「トボケないで下さい! これは確かに貴方が書いたものです!!」
そして、ここでようやくロイはリザが手にしている紙片の正体に思い至ったのだ。
それは。
「ここに、貴方の筆跡で書いてあります。……遺書、と」
真っ白でシンプルな封筒にはそう記してある。
その文字を確認し、ロイはどうしてリザがこれほどまでに感情は露わにし取り乱していたのか理解した。
「……どうして、どうして……この遺書は私宛になっているのですか」
悲しみと怒りがない交ぜになったような顔をリザはしていた。ロイは言葉を発しようとしたが、彼女が言葉を紡ぐ方が早かった。
「貴方がこの世から去る時は、私はとっくにこの世に存在していないでしょう。これは…この遺書は何の意味もないものです」
リザはロイがこのような遺書を書いた事が怒っているのだ。そして、何よりも。よりにもよってその受取人をリザにしたことが一番許せないようだった。ロイを命に代えても護ると誓っているリザにとって、それは彼女の存在理由を揺るがす重大な裏切り行為に映ったのだろう。
「貴方は私を……」
信頼してくれてはいないのですか? 貴方を護る存在として。
まるで迷子の子供のような不安な瞳でリザはロイを見つめてくる。彼女の想いが伝わって来て、ロイは慌てて口を開いた。
「待ってくれ、中尉。まずは落ち着いて私の話を聞いてくれないか」
これ以上彼女に誤解されたままでは、たまらなかった。
「それは確かに私が書いたものだ。何故書こうと思ったのかも、何時書いたものかも、もう思い出せないくらいに今まで存在を忘れていた」
それは本当だ。もしかしたら、酔った勢いとかそんなどうしようもない理由で書いたのかもしれない。
「おそらく、私なりに何かのケジメを付けて置こうと思ったのだろうな」
軍人で居る限り、常に死は隣人である。決して縁遠い話ではない。いつ、何があるか分からない。いつか路傍でゴミのように死ぬかもしれない。
「受取人に君を指名しているのは、それしか思いつかなかったからだ。別に君を侮辱しようという意図があった訳じゃあない。君の護衛の腕を疑っている訳でもない。……別に死ぬのは任務中だけとは限らないだろう。人間一寸先でさえ、分からないものだ。もしかしたら自宅の階段で滑って頭を打って…なんて事だってあり得る」
「でもだからといって私に宛ててなんて……」
ロイの言葉にもリザはいまだ悲しげな表情をしたままだ。リザは納得出来てはいない。彼女にはどうしてもロイの遺書を読ませられる、なんて事態は想像し難いのだろう。
「うん。だから。その遺書を読んでみたまえ。……その様子じゃあ、君、中身は見ていないだろう」
ロイに言われてリザが困惑した顔をする。彼女はおそらく、片づけの最中にロイの遺書を発見したはずだ。そして、「遺書」という文字と「リザ・ホークアイ」へという宛名を目にし、激昂してロイの元にやってきたのだろう。中身を読んでいないのは当然である。
「……私は貴方の遺書なんて読みたくはありません」
固い声で拒絶するリザだったが、
「……いいから。読んでみなさい」
諭すようにロイに言われては、彼女は逆らえなかったのだろう。渋々封を開けて中身を改め始める。そしてリザその顔は更に困惑を深めていった。
「准将…これは……」
「どうだい?」
「どうも何も……白紙です」
封筒から取り出されたそれには何の文字も記されてはいなかった。ただ、白紙の紙が一枚入っていただけだ。
「准将。……これはどういう事なのですか?」
ロイは白紙の遺書をリザに見せて何を伝えようとしていたのか。彼女の困惑に答えを与えてやるべくロイは再び口を開いた。
「うん。や、おめおめと死んでおいて君に何を言えるだろうか、と思って白紙……という訳じゃない。いろいろ、私なりに考えたんだ。私の事なんて忘れて幸せになってくれ…とか、まあ、お決まりの文句とか本当にいろいろね。でも、そこで私が死んだ後の世界で君が幸せになったとしたら…と考えてしまった。私以外の男に君が抱かれて、愛されて。そんな想像をしてしまったらな、我慢ならなくなったんだよ。私以外の男の傍らに君が居るなんて光景到底受け入れられるはずもない。そんな事になるんだったら、絶対に死んでたまるか、私が生きて君を幸せにしてやるんだって思ってね。……そうしたら遺書を書く気も失せてしまった。だから、白紙なんだ」
そのまま処分しようと仕舞い込んでいて、そして忘れていた遺書。今、この瞬間ロイとリザの目の前に出てきたのも、何かの運命なのだろうか。
小さい男ですまんな。とロイは付け足した。
愛する者の幸せも願えない、独占欲の強い男で。
ふるふるとリザが首を振る。
いつの間にか彼女の瞳からは透明な滴がこぼれ落ちていた。それは次々に溢れて、彼女の白い頬を滑っていく。
「……いつかおじいさんになって、沢山の子供達と孫に囲まれて、そろそろ老い先短いな……と思ったら…遺書、書いてもいいですよ。私も一緒に考えてさしあげます」
「そうするよ」
そしてロイは小さく笑うと、ぎゅっとリザを抱きしめたのだった。




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by netzeth | 2014-01-14 23:54 | Comments(0)