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うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth

主語の無い話

「大佐。申し訳ありませんが、今夜も泊まりに行ってもいいですか?」
リザから発せられた際どい台詞に、その場に居た部下四名は吹き出しそうになった。彼らは顔を見合わせて唖然とするが、上司達はかまわず会話を続けている。
「ああ、いいとも」
「それではいつもの時間に参りますので、よろしくお願いしますね」
「分かった。待っているよ、あ、そうだ、ご飯は持参しなくていいぞ。実は私の方で用意してある」
「本当ですか? 助かります」
「ああ。だが、タオルは持って来てくれると助かる。一緒に風呂に入りたいからな。久しぶりに体中すみからすみまで洗ってやるぞ? 腹の辺りを洗うとずいぶんと気持ちよさそうにしていたからな……」
楽しみだ。と満面の笑みを浮かべるロイにリザも嬉しそうに微笑んでいる。
「あのお二人ってそういう関係でしたっけ……?」
「や、大佐がヘタレのせいでくっつきそうでくっつかない、ティーンエイジャー並の微妙でめんどくさい関係だったはずだが……」
「それにしても、我々の居る前であのような大胆な会話をするとは……」
「最近あの二人、仕事仕事でずいぶんと疲れてるみたいだからな……、疲れすぎてとうとう頭の中がお花畑になっちまったんじゃ?」
ひそひそと野郎共四人で好き勝手な想像している間も、ロイとリザの会話は続いている。
「ところで、お布団は持って行った方が良いでしょうか?」
「ああ。そうだな、その方が落ち着くだろう。いや、待て、一緒に寝るのだから必要ないか……うん、やっぱり、必要ないぞ」
「もう……あんまり甘やかさないで下さい。私が困ります」
「ははは、いいじゃないか。久しぶりなんだからおもいっきり可愛がりたいんだよ。ベッドの中では特に可愛らしいからな……仰向けにしてぐりぐりしてやる時の、手足をばたつかせた少し嫌がる姿もまた可愛いんだ」
「苛めちゃ嫌ですよ?」
「苛めじゃないさ。大好きだという愛情を注いでいるだけだよ」
「もう、そんな事言って……ちゃんと寝かせて貰わないと次の日が困るんですから」
「まあまあ、私の部屋に来てぐっすり眠れるはずないだろう? 興奮の一夜になるに決まってるんだ。きっと今夜の運動も激しいぞ?」
どんどんとピンク色になっていく、上司達の会話に部下四人は反応に困る。油断すると、リザのいけない姿まで頭の中で妄想してしまいそうになってしまう。
「おい、そろそろ誰か止めて来いよ。いい加減俺、泣きたくなってきた……こちとら、彼女と別れたばっかで、寂しい夜を過ごしてるっていうのによお……」
「本当に泣かないで下さいよ、ハボック少尉。泣きたいのは私だって同じです」
「こら、フォルマンまで貰い泣きすんなよ。大の男が二人して鬱陶しい。よし、フュリー行って来い」
「え、ええ!? ぼ、僕がですかあ?」
「そうだ。俺らが行ったら、邪魔するなと燃やされる可能性は大だが、お前ならば、間一髪、眼鏡を燃やされるくらいで許して貰えるかもしれん」
「ううっ…僕の本体は眼鏡って認識なんですかぁ……」
「いいか、このミッションを遂行出来たらお前をただのメガネから、勇気あるメガネに昇格させてやろう、頑張れ」
「まずメガネから離れて欲しいんですけど……」
ぶつぶつ文句を言いながらもフュリーはロイとリザに近づいていって、託された使命を果たすようだった。
「あのぉ~~」
「何だ? フュリー」
「どうしたの? 曹長」
「お泊まりなら、僕が明日のシフト交代しましょうか? きっと大佐もお疲れでしょうし……」
――何故その提案から入ったフュリー!!
際どい会話を止めさせるはずが、これでは火に油である。
残った部下全員で突っ込んだが、心の中での事なので当然話している三人には伝わらない。消し炭が第一希望としか思えぬ彼の言葉であったが、意外にもロイは怒る事なく、彼の申し出を好意的に受け取った。
「おお、気が利くなっ……と、言いたい所だが。私をなめるなよ、フュリー。一晩くらい寝ないで動きまくっても大丈夫な体力くらいあるぞ」
「そうよ、フュリー曹長。大佐はまだまだお元気だから、貴方が気をつかわなくてもいいのよ?」
「え、あ……そうですか。……で、でも…大佐が大丈夫でも、大佐がお元気だということは…中尉の方が、あの、腰とかお疲れになるんじゃ……?」
――だから、何故裸で銃撃戦を横切るような真似を…!!
もはや紐なしバンジージャンプが趣味だと笑顔でのたまうようなマゾ行為である。ロイ…どころか、リザにさえも蜂の巣にされそうだ。
「……え? 私? 私は別に疲れる事はないけれど……そうね、心配で気疲れはするかもしれないわね」
「え……え?」
「慣れさせるためとはいえ、やっぱり他人様の家に出すにはまだ子供ですもの。大佐にご迷惑をかけるんじゃないかって……」
「だから、気にするなと言っているだろう、中尉。私も犬は好きだからな、むしろあいつが来る夜を楽しみにしているんだぞ?」
「そう言って頂けると……」
「え…ええ?」
フュリーは混乱しているようだったが、その会話を聞いていた残る部下野郎達は、ようやく自分達の誤解に気づいていた。
「犬の事かよっ!」
「ま、まぎらわしい……」
「どおりでおかしいと思ったぜ……」
蓋を開けてみれば何とも脱力する真実に、ハボック、ファルマン、ブレダ達三人は再び顔を見合わせて苦笑する。
(そうだよな……あの大佐と中尉が司令部でんな話する訳ないよな……)
うんうん、とようやく事が腑に落ちて、三人で頷く。それで、めでたしめでたし……で終われば良かったのだが。
「ええ? 今のお話、大佐と中尉の事じゃ無かったんですか? 僕らてっきり、中尉が大佐の部屋にお泊まりにいくと……」
――何故、それを今言う!! 
メガネが余計な一言を言ったせいで、事態はややこしい方向に転がった。
「そ、そんな訳ないだろう! 私と中尉はただの上司と部下だ!」
「そ、そんな訳ないでしょう! 私と大佐はただの上司と部下よ!」
綺麗に男女の声が唱和し、男の方が白い手袋をはめて、女の方が腰のガンホルダーから銃を抜き出す。それから、遠巻きにしていた部下三名を振り返る。
「……で、一体どんな想像をしていたのかね、君達」
「……で、一体どんな想像をしていたの、あなた達」
そして、またも男女の声が綺麗にハーモニーを奏でた。それは部下達にとっては阿鼻叫喚への序曲である。
「「怒らないから、言ってみなさい」」
「嘘だ!!」
「フュリー! お前は、メガネ無し野郎に格下げだ! メガネキャラという属性を無くしてただの一般人に成り下がるがいい!!」
「ああっ、どうか、どうかっ……おたすけ……」 
その後は絶叫すらあげる事が叶わず、部下ーズは、炎と銃弾の恐怖に晒される。その難を何故か一人だけ逃れたフュリーは部屋の隅っこに避難しつつ、
「それ、格下げなんですかぁ……」
せっかく決死の覚悟でミッションを遂行したのに、言われ無き非難を受けてしばらくへこんでいたが。とある事実を思い出して、彼は首をひねる事になる。
(でも、中尉、僕が前にハヤテ号を預かりたいって言ったら……まだ子供だからって断られたんだよなあ……、大事な自分の家族を安心して任せられるって……もうとっくに、恋人以上の関係なんじゃないのかなあ?)
部下一同に制裁を加える上司達を眺めつつ、やっぱり彼らはめんどくさいのかもしれないと思うフュリーだった。



END
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ドタバタコメディ?かな。
by netzeth | 2014-03-29 00:33