うめ屋


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by netzeth
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執愛


女性達からの愛の貢ぎ物をデスクの上一杯に積み上げて、憎らしい笑みを男は浮かべていた。
セントバレンタインデー。女性が好きな男性にチョコレートを贈るという風習が広まったのはつい最近の事だ。
これほどまでに男がモテるという事を誇示出来るイベントは他に無いだろう。
にやつく笑みを絶やさぬ男――ロイにリザは冷ややかな視線を向ける。

「そろそろこの荷物を下ろして頂けませんか、仕事が出来ません」
「荷物とはひどい言いぐさだ。これは私を思うお嬢さん方の愛の結晶だというのに」
「それではそのお嬢さん方を可哀そうと言う他ありませんね。
その大事な大事な愛の結晶を贈った相手が、自分以外の愛の結晶を他にこんなに持っているんですから、贈った甲斐も何もあったものじゃありません」
「はははは、耳が痛いね」

リザの皮肉もロイには通じない。彼は涼しい顔で勝ち誇った様にチョコの前に君臨している。

「モテる男は辛いというところさ。ところで、中尉。君からのチョコレートはないのかね?」
ところで、の用法の是非をぜひ問いたい所だ。前後の脈絡がまったくない。
「何がところで、ですか。有るわけ無いでしょう」
冗談ではない。リザにだって女としての矜持がある。その他大勢のチョコレートに加わるだけだと分かり切っている物を、わざわざこの男にくれてやるのはバカバカしい。
……自分のチョコだけが唯一特別、というならばともかく。

「それだけあれば十分でしょう。これ以上食べたら、病気になりますよ」
上官を病気にする訳にはいきませんので。と冷たく返答すれば、ロイの眉が跳ね上がった。
「ほう? では、このチョコレートが無くなればいいのか?」
「ええ。そのチョコレートを口にしないと言うならば差し上げましょう」
挑発的に言うロイにリザも負けん気が刺激されてしまい、売り言葉に買い言葉でついそんな事を言ってしまった。
しまったと思ったが、もう遅い。ロイは我が意を得たりという顔をして、告げてくる。

「分かった。では、このチョコレートを私は食べない。……これでいいか?」
「さあ、口では何とでも言えますから」
出来るだけツンとした口調でリザは言う。こう言えばロイも諦めるだろうと思ったのだ。
しかし。
「大佐!? 何をっ」
リザの目の前でおもむろに発火布を取り出すと、ロイはそれを右手にはめてしまう。そして、あろうことか机の上のチョコに向かってその炎を繰り出そうとしたのだ。
「お止め下さいっ。なんて事をっ」
「何、証拠を見せようと思ってね、今からこのチョコレートを灰にしよう。私は本気だ。それならば、信じてもらえるかね。私が君のチョコしか欲していないということが」
彼の目は限りなく本気だった。危険な色をしたその瞳が、リザをじっと捕らえている。
彼の操る炎と同じくらい、いやそれ以上に彼の気持ちもまた熱いという事が嫌でも伝わってきて、リザの胸は詰まった。

「……分かりました。差し上げます、差し上げますから……。ですから、チョコレートを燃やすのはお止め下さい。
こんな所で危険ですし……何より、もったいないです」
負けを認めるのは悔しかったが、仕方がない。こんな脅しにリザが屈するのは彼だけだ。
「分かった。良いだろう。このチョコレートはハボック達にでもやろう」
「結局食べないのですか?」
疑問が先に立って確認すると、ロイはまたニヤリと笑う。
「ああ。私にとって、君の愛の結晶だけが唯一特別、だからね。その他大勢に加える気は最初からないよ」
本当に、嫌な男だ。
心の内を読んだかのようなロイの言に、リザはただ憮然とするのだった。


俺の女


今日この日。こんな危険な日に中尉を一人で歩かせるべきでは無かった。と、私はその光景を目にしてひどく後悔していた。
「ホークアイ中尉、これ…受け取って下さい!」
「僕の気持ちです…!」
「俺、中尉の事以前から…気になっていて……」
東方司令部の廊下は今やちょっとした、チョコレートの投げ売りバーゲン会場みたいな雰囲気になっている。
それというのも、チョコを手にした男どもがホークアイ中尉に群がっているからだ。
どこの誰の陰謀かは知らないが、少し前からアメストリスでは2月14日のバレンタインデーには男が意中の女性にチョコレートとプレゼントを買って告白する日と位置づけられている。
つまり、その結果が目の前の惨状である訳だ。

「……中尉に影響を及ぼさないようにあいつら一人残らず燃やすための構築式は……」
「司令部の廊下を火の海にするのは止めて下さいよ……」
笑みを浮かべつつぶつぶつと危険な言葉を呟いていた私に、傍らに立っていた煙草を咥えた部下――ハボックが辟易した様子で忠告してくる。
「別に良いだろうが。燃やすのは私だが直すのも私なんだ」
「そういう問題じゃありませんって」
煙草の煙と共に軽くため息を吐いたハボックが、呆れた視線を私にくれる。
「実力行使なんてまどるっこしい事してないで、男らしく堂々と行って奪ってくれば良いでしょうに」
「……う、奪うのか」
指摘されて、私は躊躇した。ハボックの言いたい事は分かる。嫉妬して制裁を加えるくらいなら、はっきりと中尉は自分のものだと宣言すればいいという事だ。
だが、それが簡単に出来れば最初からこんなにもやきもきはしない。私にだって立場とか男としての見栄とか恥じらいとかいろいろあるのだ。

「ホークアイ中尉、好きです!」
しかし、目の前で中尉が手を握られて告白をされたのを見て、私は衝撃を受ける。これは、無駄な葛藤などしている場合ではない。
意を決して私は彼女へと近づいた。
理性は本当に、言うのか? 言ってしまっていいのか? と私に囁きかけて来たが、かまうものか。
そして、私は男共の一団をかき分けてその中心――すなわちホークアイ中尉の隣へと立った。
「……大佐?」
「おい、マスタング大佐だぞ……」
中尉が私に訝しげに見、周囲の男達からの視線が突き刺さる。
それを受けて、私は深呼吸した。
今日こそ、今こそ、言ってやる。こいつらに教えてやる!!
私の女だ、手を出すな、と。
柄にも無く緊張しながら、私は声を張り上げるべく息を吸い込んで。
そして、一息に、言い切った。
「私は女だ! 手を出すな!!」

…………1文字言い間違えた。


言い終えた瞬間、空気が凍り付き、すぐにざわっとどよめきが起こった。
隣に立つホークアイ中尉が冷静な表情で言う。
「そうだったんですか。全然気づきませんでした」
「俺もだよ……」
「知らなかったぜ……大佐が?」
「先天的か? それとも後天的?」
「工事済みって事か……?」
「だ、誰が手を出すかよ……、っていうか俺ら大佐に狙われてる?」
「やべーよ、い、行こうぜ……」
ざわざわざわざわしながら私から逃げていく野郎共と、私、射撃場に行く途中だったんです。とさっさと離れていってしまうホークアイ中尉。
後に残された私はがっくりと肩を落として、落ち込む。
「大佐……元気出して下さい…俺には大佐の言わんとした事がなんとなく分かりましたから……」
ぽんっとハボックがそんな私の肩を叩いてきて、なんだか余計に泣きたくなった。


煮詰まり愛


「リザの方が可愛い!」
「いーや、グレイシアだ!」
そんな二人の言い争いを、ハボックは小一時間聞いている。
出張で東に来たから、と愛妻のアップルパイを土産にヒューズが司令部を訪れたまでは、まだ平和だった。
アップルパイに舌づつみを打ちつつ、(ハボックもご相伴にあずかった)和やかに話していたはずのロイとヒューズが突然喧嘩を始めたのは何がきっかけだったのだろうか。
まあ、きっかけは知らないがその内容がとても下らないという事はさっきからの二人の言葉を聞けばよく分かる。

「リザのパジャマは牛さん柄なんだぞ!?」
「何おう! グレイシアはネグリジェ派だ!」
もはや、何を競っているのかもよく分からない。分からないが、どちらも自分の可愛い恋人&奥方を自慢したくて仕方がないという事だけは分かる。 
「いいか。よっく聞け。グレイシアはな、世界一可愛い女なんだぞ。昨日のバレンタイデーだってな、特大の手作りチョコケーキを作ってくれたんだぞ!? 
生クリームで、マースラブ(はあと)って描いてくれてたんだぞ!? かっわいいだろ!?」
「何だと!? それがどうした! リザなんてな、リザなんてなあ……! 昨日のバレンタインデーは喧嘩したからチョコレートをくれなかったんだぞ!?」
「何だ、ロイ。それ、本当か?」

さっきまで喧嘩していたというのに、世話焼きの性格が顔を出したのかヒューズが心配そうな口調になる。
思わず、ハボックもそれに聞き入った。
「……本当だ」
「おいおいおい、せっかくのバレンタインデーだぜ? そんな大事な日の前に喧嘩する奴があるかよぉ……もしも、グレイシアからチョコレート貰えなかったから、俺、泣いちゃうね」
「うるさい。いいか、最後まで話をよく聞け。で、昨日のバレンタイデーにはリザはチョコをくれなかったんだ。
それで、今でもまだ喧嘩中で口だって仕事以外の事はろくに聞いてない。だがな、それでもリザは仕事中の私の昼食にビーフシチューを持って来てくれたんだ……」

「何だ、リザちゃん、いい子だな」
「そうだろ? そうだろ? もちろん、それだけじゃないぞ!? 何と、リザが持ってきてくれたビーフシチュー、それがな……」
「愛情たっぷりの手作りだったとかか?」
「いや、愛情たっぷりの……チョコレート味だったんだ!!」
「そ、それ、は……か、かわいいなリザちゃん……」
「だろう!? 喧嘩したからチョコを渡せない。でも私のために用意したチョコだから渡したい。でも、やっぱり素直に渡すのはムカつく。そんな葛藤の末に導き出した結論がビーフシチューに混ぜる! だぞ!? これぞツンデレの真骨頂!」
「負けたわ…リザちゃん……」

――その時歴史は動いた。

あの妻バカヒューズが降参した瞬間をハボックは目撃した。そして、納得する。
(あーそれで、昼間胸やけしたような顔してたんだな、中佐)
チョコビーフシチューのような煮詰まった濃い恋をしている上官達。ヒューズでは無いが、ハボックも完敗、お手上げ、降参な気分だった。


犯人の自白


「どうしたの? リザ。何だか元気ない顔してるけど。お腹でも空いてるの?」
「違うわよ、レベッカ。人を食いしん坊みたいに言うのは止めて頂戴。お昼ご飯ならさっきパスタ大盛りとグラタン、ラザニア、ピザの三点セットとデザートのプリンを平らげたからお腹いっぱいよ」
「紛れもないただの食いしん坊じゃないのよ……」
「何か言った?」

「別に。それより、じゃあ何だってそんな顔しているのよ」
「実はね、元気が無いのは私じゃなくて、大佐なの」
「マスタング大佐が?」
「ええ。今朝から覇気が無いというか……何と、溜まっていた書類を全て片づけておしまいになったのよ!」
「……それのどこか元気がないのよ」
「分からない? 元気が有り余っているいつもの大佐なら、何時から本気を出して仕事をやれば書類の〆切時間にぴったり間に合うのか、そんなギリギリチキンレースのような計算に朝から無駄なエネルギーを費やして、その挙げ句に算出した限界時間がリミットブレイクするまでサボるのよ。つまり、そんな計算も出来ずうっかり真面目に仕事をしてしまうほどに、大佐は落ち込んでいるの! ああ、本当に何があったのかしら……? 昨日はあんなに落ち着かない様子でそわそわわくわくした顔をしていたのに……」

「相変わらず底が浅いんだか、浅くないのか、深いんだか深くないんだかよく分からない人物像してるわね、御仁も。……ん? 昨日?」
「ええ、昨日はそんな事無かったのに、今日は朝から元気が無くて……」
「昨日っていうと……バレンタインデーではありませんか、リザさん」
「え? ……あ、そういえばそうね。今、あなたに言われるまで、綺麗さっぱり全然まったくこれっぽっちも。念頭に無かったわ」
「……ねえ、あんたさあ……昨日、大佐に何か言われなかった?」
「え? 何かって?」
「例えばさ、何か欲しいなあ…みたいな事よ」

「さあ? 言われたかしら……? ああ、そういえば、何か甘い物が欲しいなあ……って、物欲しげな顔でおっしゃってたから、「ブレダ少尉が机の引き出しの中にお菓子を隠し持ってますから分けて貰えばよろしいのでは?」って言っておいたけど」
「あたし今、清々しいまでの犯人の自白を聞いている気分よ……」
「犯人? 何の事? それより、大佐の事よ。本当にどうしちゃったのかしら、大佐……。あ、もしかしてっ、昨日はバレンタインだったのに、意中の人にフラれてしまったとか!?……ううん、そんな事ないわね。だって、大佐はサラサラした黒髪が綺麗で、同じ色の瞳も涼しげで、近くにいると何だかいい匂いもするし、笑顔が可愛くて、立ち振る舞いも素敵ですもの……、女性にフラれる訳がないわよね……?」
「……うん。今からでも遅くないから、あんたもう、板チョコでも何でもいいからチョコレート買ってきて今すぐそれ、大佐に渡して来なさい! それで大佐全快するから! 今夜の火力はちょっとすごいぞになるから!」  



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by netzeth | 2014-04-18 01:32 | Comments(0)