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シンプルアンサー

いつもと違う光景を見ると、人は好奇心を刺激される生き物である。
その日私は、一心不乱に何かに目を通し難しい顔で悩んでいるホークアイ中尉を目撃した。それが仕事の書類だったのならば特に驚くべき事ではなかっただろう。中尉が私が作成した書類のチェックに余念が無いのは、彼女が私の副官である以上当たり前の話だ。
しかし。
ここは司令部ではなく、今は勤務時間ではない。場所は私の部屋のリビングで、完全なプライベートタイム。いわば、恋人との甘い逢瀬の最中なのだ。せっかく久しぶりに重なった二人の休日の最中に、一体何をしているのだろうかと気になって、私は彼女の手元を後ろからそっと覗き込んでみた。
中尉が見ていたのは、一枚の紙切れだった。書かれていた文字を目で追ってみる。タイトルは、「アメ国女性軍人協会の定期会報に載せるアンケートへの協力のお願い」。
……私は非常に嫌な予感しかしなかった。
アメ国女性軍人協会。それは我がアメストリス国軍内における女性軍人の地位向上を謳う、軍部内の女性有志により結成された非公認組織である。その活動内容は主に男性優位社会である軍部内において、女性軍人が遭遇するであろう問題――セクハラやパワハラなどだ――を解決するための窓口となり、運営費でカウンセラーやアドバイザーなどを雇って、弱い立場にある女性軍人を支援する事だ。その理念は素晴らしいと思うし、私は男だがその活動を応援したいとすら思っている。
が、しかし。それらは全て表向きの話だ。
アメ国女性軍人協会。その実体は、軍部抱かれたい男ランキングや、軍部サイテー男ランキング、軍部将来禿げそうな男ランキング、果てはコーヒーに雑巾の絞り汁を入れてやりたい男性上司ランキング……と、軍に所属する男性をありとあらゆる角度からランク付けしている恐ろしい組織である。
ちなみに、広報活動部長に当司令部のレベッカ・カタリナ少尉、名誉会長にオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将……といったいろんな意味でそうそうたる女傑が名を連ねている。
正直、ホークアイ中尉にはこのアメ国女性軍人協会――略してアメ女には関わって欲しくなかったのだが。彼女の親友がカタリナ少尉である以上、それは土台無理な話だったようだ。
中尉は後ろに居る私にも気づかないほどに、熱心にアメ女のアンケートとやらに書き込んでいる。


Q6 浮気をする男性をどう思いますか? また、された場合貴方はどのような行動をとりますか?  答え 何も思わない。放置。


……その潔いほどのシンプルな答えがちょっと、悲しい。せめてもう少し怒るくらいして欲しいのだが。


Q7 仕事をしない男性をどう思いますか?  答え 市中引き回しの上張り付け打ち首


「ちょっ! それは厳し過ぎないか!?」
物騒な字面に思わず声が出た。
「大佐。人のアンケートに勝手に登場しないでください」
ムッとした顔で中尉が振り返って睨みつけてくる。
だが、私としては納得いかない事この上ないので黙る気はない。
「せめて、もう少し優しくしてくれ!!」
悲鳴を上げて訴えれば、
「そう…ですか? そう、ですね。少し、厳しすぎましたね」
やっと彼女は考えを改めてくれたようで、私の目の前でアンケートの答えを訂正してくれた。
――Q6の方を、「放置」から「快く送り出す」に。
「違う!!」
そっちじゃない。
どうして恋人としての君は、いつも私を泣かせる方向なんだね!?……いや、副官としての君も十分私を泣かせる方向だが。
「もっと厳しくしてくれて、いいんだ!!」
せめて、浮気したら怒って銃を突きつけられるくらいに嫉妬されたいものなのだ、男というものは。それをにっこり笑ってもっとして下さって結構ですなどと言われるのは悲しすぎる。
「そうですか? では……」
そう言った彼女は、Q7の答えの後ろに、そっと獄門と付け加えた。
……だから、そっちじゃない。なんか、もう本当に泣きたくなってきた。
「だから、違う……違うぞ、中尉!」
「……もうっ、いい加減にして下さい。これは私のアンケート何ですから、大佐は口出し無用です」
私の嘆きなどこれっぽっちも理解してくれていない彼女は、少々お怒り気味にアンケート用紙を私の目から隠すように腕で覆ってしまった。
「そうはいくかっ」
そんな答えで満足出来る訳ないだろう!
「あ!」
勢いに任せて彼女に接近し、その腕の下からアンケート用紙を引き抜いた。この様子では他の設問もろくな答えを書いていないのだろう。残らずチェックして書き直させてやる。と鼻息荒く、アンケートに視線を走らせた。
「ちょ、返して下さい、大佐!」
慌てた様子で中尉がアンケート用紙を奪い返そうとするのを、ひらりとよける。抗議など聞く耳持ってやるものか。どれどれ……。


Q1 貴方には恋人はいますか?  答え はい

Q2 その恋人を愛していますか?  答え はい

Q3 恋人のどういう部分が好きですか?  答え 全部 

Q4 また恋人のどういう部分が嫌いですか?  答え 無い

Q5 恋人と結婚したいと思いますか?  答え はい


――中尉の答えは、他の問いも清々しいほど全てシンプル一色だった。それ故に、彼女の隠しようもない本音がにじみ出てしまっていた。
あまりにも意外過ぎるそのアンケートの答えに、思わず私は中尉をじっと見つめてしまう。
「……何ですか」
私の視線を受けて、彼女は挑むように頬を少し膨らませて言い返してくる。
「いや……こんなに好きな恋人なのに、浮気は快く送り出しても本当にいいのかい?」
「……好きだからです」
だから、嫉妬深い女だと嫌われたくないんですよ。恋人の前ではみっともない姿を見せたくない、いい女でいたいんです。見栄を張りたいんです。
そう言って曖昧な顔で微笑んでいる彼女の頬を、私は抓ってやる。ぎゅっとぎゅっとむにってしてやる。
「ちょ、いたっ……もうっ何するんですかっ」
――君があまりにもバカだから、ちょっと気合いを入れてやったんだ。なんだ、その切ない自己犠牲愛は。やっぱり、中尉の愛情はいろんな意味で私を泣かせる方向過ぎる。
「君は間違っている。正しい答えを私が教えてやろう」
「……正しい答え?」
「そうだ」
そして、彼女からペンを奪うと、私はQ6を書き直した。


Q6 浮気をする男性をどう思いますか? また、された場合貴方はどのような行動をとりますか?  答え 激おこぷんぷん丸。市中引き回しの上張り付け打ち首獄門


「大佐……これは……」
驚いたように目を見張る中尉に、頷いて告げてやる。
「大好きな恋人が浮気したら女性はまず、怒ること。その後これくらいしてもよろしい。私が許可する」
「いいんですか? 後悔しません?」
「するもんか。……私は浮気なんて絶対しないからな」
「……もう」
バカですね、と呟きながらも中尉は嬉しそうな微笑みを見せると私の首に抱きついて顔を寄せてきた。私は、バカはどっちだ、と返しながらも彼女のキスを受け入れるべく目を閉じたのだった。




END
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by netzeth | 2014-04-22 00:20 | Comments(2)
Commented by まこと at 2014-04-28 14:09 x
リザちゃんは大佐が仕事しないと、市中ではないかもしれませんが、司令部内なら「引き回し」していると思います(笑)。しかもデスクに「張り付け」もありでしょう!ツンデレ気味なリザちゃんと振り回されて涙する大佐が微笑ましいです。
Commented by うめこ(管理人) at 2014-04-28 23:30 x
>まこと 様

司令部内引き回しの上デスクに張り付け!良いですね!(笑)確かに大佐は日常的にこの刑に処されている気がします(笑) 振り回されて泣かされても、おそらく大佐はリザちゃんの事大好きなんですよね! 2人を微笑ましいと言って頂けて嬉しいです~ヽ(○´∀`)ノ 
コメントありがとうございました!