うめ屋


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by netzeth
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妖精のプレゼント

はっくしょん!
という自らの大きなくしゃみに自分で驚いて、ロイは目を覚ました。机に突っ伏していた頭を上げて跳ね起きる。その拍子に背中にかかっていたブランケットが床に滑り落ちた。
どうやら自分はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
覚醒しきっていない頭で、ロイはぼんやりと周囲を見渡した。
真っ暗な部屋にオレンジ色のランプの光が揺れている。机の隅に慎ましく置かれたそれは、机上の紐解かれた書物や書きかけの錬成陣などを照らし出していた。
新しく思いついた構築式を頭の中で転がしている途中で睡魔に襲われたらしい。気づけば手はペンを握ったままだった。
眠るのならばキチンと明かりを消して、ベッドに行かなければいけないな、とロイは苦笑する。何より、ランプの油が勿体無い。このホークアイ家ではほんの少しの光熱費の無駄もバカにならない出費なのだ。
さて、眠気に任せてもう休むべきか。それとも、せっかく画期的な構築式を思いついたのだから、とことん練り上げるべきか。
悩むことしばし。突然夜の静寂にくう~という腹の虫が音が響いて、ロイ・マスタング少年の方針は決まった。
(……とにかく、腹ごしらえをしよう)
時計を見ればもう、深夜。夕食をとってからだいぶ時間が過ぎている。頭脳労働にはハイカロリーが必須なのだ。
立ち上がるとロイは椅子の背もたれにかけていた上着に手を伸ばす。真冬ほどの寒さではないが、シャツ一枚ではもう心許ない季節だ。風邪を引いてはそれこそ、この家の小さな主婦にまたベッドで寝ないで床で寝たんでしょう!? と叱られてしまう。
しかし。
(……あれ?)
羽織ろうとした上着は椅子にはかかっていなかった。床に落ちてしまったかとそれを探すが、どこにも見あたらない。代わりに先ほど落としてしまったブランケットを見つけて拾い上げる。
(おかしいな……)
椅子に置いたと思ったのは勘違いで、本当は別の場所に忘れてきたのか。少なくとも、ロイが借りているこの部屋内には無いようだ。
「……バスルームか、居間辺りかな?」
自分のものを何気なく適当な場所に置いてしまって、ないないと後で探す羽目になるのはロイの悪い癖だ。だらしないとこの家の主婦……リザにもよく叱られている。
「まあ、いいか。キッチンに行くついでに探して来よう」
特に気にする事なく、ロイは上着の代わりに手に持ったブランケットを肩にかけて、深夜のホークアイ邸の廊下に出たのだった。



「……て、事があったんだけどさ。結局バスルームにも居間にも上着は無かったんだよ。で、しょうがないから部屋に戻ったんだけど。そしたら、朝起きたら、椅子にかかってたんだ。変だよな。絶対夜見た時は無かったのにさ」
「そりゃあ、あんたがただ寝ぼけていただけじゃあないのかい?」
夜の商売が始まる時刻の少し前。まだ準備中の看板がかかる義母の店でくつろぎながら、ロイは義母――クリスに世間話ついでにホークアイ邸であった出来事を話していた。
週の半分をホークアイ家で、後の半分を実家で過ごすロイはこうして錬金術の修行中の出来後を逐一義母に報告している。リザの事、師匠の事、内容は様々だがそのほとんどは他愛もない話ばかりだ。しかし保護者であるクリスにとってはそんな他愛も無い話でも息子との会話は楽しいらしく、上機嫌に煙草を吸っている。
「そうかなあ……でも、何度も見たんだよ? でも、確かに夜には無かったんだ」
「やだ、ロイ君。それって、きっと妖精の仕業よ」
首を捻るロイに、口を挟んできたのはクリスの店の女性従業員――いわゆるホステスのお姉さんである。胸元が開いた刺激的な格好の彼女は、カウンターのロイの隣に座るとずずいっと彼に顔を近づけてきた。まだ、純情なロイ少年は香るいい匂いに、どぎまぎしながら言葉を返す。
「妖精って?」
「あたしの田舎ではね、物が無くなるのは妖精が隠しちゃうからって言われてるのよ。経験無い? 絶対にここに置いておいたって物がいつの間にか無くなってるって事」
あるある~~! とロイの周囲に居たお姉さん達が同意している。
「そういうのを妖精の仕業って言うの。彼らは人間を困らせるために悪戯するのよ。でも、妖精は気まぐれだから、またすぐにその無くなったものは見つかるの」
「妖精かあ……」
正直錬金術師の卵であるロイにとっては、眉唾物の話であった。よりにもよって妖精とは非科学的にもほどがある。しかし、物がよく無くなったり見つかったりする現象を、妖精の仕業とする迷信のようなものだと思えば、比較的納得出来る気もする。
「もしも本当に居るなら、会ってみたいなあ」
「そりゃあいい。もしも美人な妖精だったらうちの店で雇ってやるから連れて来な」
おどけた調子でクリスが軽口を叩く。それにロイは笑って、会えたらねと答えた。



ロイが『二回目』に遭遇したのは、クリス達とそんな会話をしてから間もなくの事である。
その日もロイは夜更かしをして、錬金術の勉強に励んでいた。師匠に出された難しい課題に取り組んでいるうちにまたロイは眠ってしまったらしい。肌寒さに目を覚ますと、時刻は既に0時をとっくに回っていた。
「まただ……」
その時はロイはすぐに気づいた。また、椅子にかけておいたはずの上着が無くなっている。念のため、部屋中をくまなく探してみるがやっぱり上着は影も形も見あたらなかった。
「やっぱり、妖精か?」
ホークアイ邸のどこかに置きっぱなしにしてしまった記憶はないか。慎重に考えながら、ロイは視線を落とした。床にはこの前と同様に背中にかかっていたらしいブランケットが落ちている。それを見て、ロイはそうだ、と思いつく事があった。
「……あの夜も、今夜も。俺、ブランケットをかけたっけ?」
自ら背にかけた覚えのない、それ。答えは明らかな気がした。
「……やっぱり、リザだよな?」
ロイが勉強しながら眠ってしまうと、ときどきリザがやって来てこうしてブランケットをかけてくれる事がある。あまりにも当たり前になってしまった日常の行為にすっかり失念していたのだが。冷静に考えれば、ロイの上着を持って行ったのも彼女なのではないのか?
(そうだよな……でも、何で俺の上着なんて持って行くんだ?)
しかも、朝にはキチンと戻している。
(洗濯とか……?)
この家の家事を取り仕切っているリザなので、当然お洗濯も彼女の仕事である。彼女は恥じらう様子もなく、平気でロイのパンツまで彼からはぎ取って洗ってしまうのだ。
だが。
洗濯ならば何も深夜に黙って持って行くなんて事しなくても、堂々とロイに渡すように言えばいいのだ。下着さえ強制的に脱がして持って行くのだから、そんなこと朝飯前だろう。
やはり、リザの行動の意味が分からない。
(まあ、いいや。本人に聞こう)
特に深く考える事無く、ロイは部屋を出た。もしも犯人がリザならばまだ起きているのだろうし、上着も彼女の手元にあるに違いないのだ。



真っ暗な廊下を足音をさせぬように歩いて、ロイは一階のリザの部屋の前まで来た。なんとなく深夜に女の子の部屋を訪問するのはイケナイ事をしている気分になって息を殺してしまう。起きているのか、少しだけ開いたままの扉からは光が漏れていた。ノックをしようと手を振り上げて。ロイはその手を止めた。扉の隙間から覗き見えたその光景が彼の手を止めていたのだ。
リザはロイの推理通り、彼の上着を持っていた。彼女はそれを一生懸命に何かと重ね合わせているようだった。その何か……それは、毛糸を編んだ物のように見えた。その紺色の毛糸に編み棒が二本固定されている。リザはそれとロイの上着の大きさを比べるように重ねてから、二本の棒を握って一心に動かしていた。しばらくして、動きを止めてまた、ロイの上着とそれを合わせている。
鈍いロイでも、リザが何をしているのかすぐに分かった。
そういえば、最近寒くなって来て着る服が無いとかリザに愚痴った気がする。それを聞いていた彼女はああして、ロイにセーターを編んでくれているのだ。
少女のいじらしい想いに、ロイは胸が熱くなった。きっとロイに内緒で上着を借りるような真似をしたのも、自分を驚かせようと思っての事に違いない。それとも、単に直接ロイのサイズを聞くのが照れくさかったのか。下着は平気で洗えるくせに、リザは時々妙な部分を恥ずかしがったりする。
(とんだ、妖精だったな)
ロイは無言で踵を返した。
リザが自分に秘密にしておきたいと思っているならば、知らないふりをしてやるのが男の甲斐性というものだろう。
近々、女の子の手編みのセーターという男のロマンあふれるプレゼントを貰えるのを楽しみにしつつ。ロイは夜の闇の中を楽しげに歩き去ったのだった。



「なんて、可愛い可愛い妖精にプレゼントを貰った事が過去にあってだな?」
「……何がおっしゃりたいんですか」
愛しい恋人の部屋のソファーに座り、上機嫌に美しい思い出話を披露してみれば、返ってきたのは恋人のしかめっ面だった。その顔は全力で不本意ですと語っている。
「何だね? その顔は」
「……別に。ただ、知っていらしたのならばおっしゃって下されば良かったのに、と貴方の意地の悪さに辟易しているだけです。……サプライズプレゼントに成功したと喜んでいた過去の私がバカみたいじゃないですか」
「意地が悪いとは心外だな。夢の無い事を言うな。私は少女の可愛らしい純真無垢な想いを壊さないようにわざと、知らないふりをしたんだぞ?」
「……ですから。それが悔しいんです」
騙されていたのが、よほど腹に据えかねたらしい。ロイの隣でリザはツンとそっぽを向いてしまった。
「なんだ、もう時効だろう。許せ。それよりも私はまた妖精のプレゼントを貰いたいなあ……なんて思っているのだが」
ロイの話の肝はそこだった。結局、あの思い出のセーターはロイの成長と共にサイズが小さくなって着られなくなってしまったのだ。もちろん今でも大事に仕舞ってはあるが、それでもやはり今現在の恋人に新しい手編みのセーターを強請ってもばちは当たらないと思うのだ。
「貴方のお給料ならば、私が編むよりももっと高級で良いものが買えるでしょう?」
「分かってないな、君は。君の手編みだから良いんだろう」
既製品となんて比べられるか。
はっりききっぱり言ってやれば、まだ渋面を浮かべては居たものの悪い気はしないようでリザの態度がだいぶ軟化する。
「……昔と違って時間がありませんから、セーターなんて大作ずいぶんと時間がかかりますよ。下手したら、冬が終わってしまうかもしれません」
「そうしたら、次の冬に着ればいいだろう。それでも間に合わなかったら、次の次に。それでもダメならば、次の次の次だ」
いくらだって待つ。ロイの宣言にとうとうリザの顔は緩んだ。恋人から来年も再来年もその先も一緒に居ようと遠回しに言われては、女はこんな表情になるしかない。
「……仕方ありませんね。本当に時間がかかりますからね?」
「いいよ。ご褒美が待っていると思えば、待つのも楽しみだ」
見事に約束を取り付けて、ロイは楽しげに笑った。
「また、上着を貸そうか?」
「要りません。……貴方のサイズくらいもう把握していますよ。何年一緒に居ると思っているんですか」
「そうか? でも、私だって日々変化しているのだから、もう一度ちゃんと測っておいた方がよくないか? ほら、こうやって直接体で」
「……え、っちょ、大佐!」
調子に乗ってロイは大胆にソファーの上にリザを押し倒す。体を密着させて、ぎゅっと彼女を抱きしめた。
「……こうすれば、私のサイズも実感しやすいだろう?」
「……バカですか」
甘い囁きを耳元に落とせば、ロイの可愛い妖精はやはり照れ隠しの憎まれ口を叩いたのだった。




END
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by netzeth | 2014-05-16 00:55 | Comments(2)
Commented by ともべぇ at 2014-05-16 22:46 x
リザたんはそのままでも充分かわいい妖精さんですが
ほんとにかわいい妖精さんですねぇ(^^)

ふたりの仲の良さは
セーターいらない熱さですな(^m^)
ふぅ〜 あつい あつい(笑)
Commented by うめこ(管理人) at 2014-05-17 01:18 x
>ともべぇ 様
ご感想ありがとうございます(*^_^*)とっても嬉しいです♪
リザたんの可愛さは妖精級ですよね!! そして仔リザたんが本当に妖精だったお話ですが(笑)お楽しみ頂けて良かったです☆
基本、二人はラブラブという事で(笑)はい、冬でも暖房いらずな熱さですね(//∇//) 
コメントありがとうございました♪