うめ屋


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by netzeth
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真夏の果実

ねっとりと粘つくような蒸す空気が部屋の中に沈殿している。窓を開けようとも外は無風で、籠もった熱は出て行く事はない。今夜もさぞかし暑いのだろうと辟易した気分で、ロイはほとんど氷の溶けたアイスティーを口にした。グラスにはたっぷりと水滴が付着しており、ロイが持ち上げた事でそれはガラス面を滑ってコースターの上へと流れ落ちた。せっかく彼女が淹れてくれた美味しい茶も、この暑さで氷が溶けて薄まってしまっている。もちろん気の利く彼女の事だからそれを見越して濃い目に茶葉を抽出しているだろうけども。それでも、この想定外の暑さでは氷の融解速度に追いつけなかったようだ。こんな生ぬるい液体では、今夜の暑さを紛らわす事などとても出来ない。
ふうっとロイはため息を付いて汗を拭う。無理も無いだろう。只今イーストシティは連続熱帯夜記録を更新中であり、予報では今後しばらくは更新し続けるらしいのだから。
そしてその事実はロイにとっては不都合な事この上ない。せっかく恋人と過ごす夜も、この暑さではぴったりとくっ付くさえ難しいのだ。実際、先ほど肩を抱こうと彼女との距離を詰めたら、
「暑いので近寄らないで下さい」
と素気なく言われてしまった。もちろんロイは憤慨し抗議した。恋人同士が夜を共にするのにくっ付かずに何をすると言うのだ。せっかく日頃司令部では我慢している、リザちゃんとイチャイチャしたい! という衝動は何処に持って行けばいい。
しかし、それでも。恋人は冷たかった。
「ただでさえ暑いのにくっ付いたら二倍暑いじゃないですか」
と断固ロイが近寄るのを拒否していた。その言葉を耳にした瞬間、ロイは心底真冬が恋しくなった。冬の寒い夜、
「大佐は暖かいです。二人で居れば二倍暖かいですね」
とロイに抱き寄せられて嬉しそうに微笑んでいた恋人と同一人物とは思えない。
おそらくこの後の恋人同士の濃密な夜のスキンシップもこのままではナシになってしまう危険性がある。こういう時こそ冷房だと思うのだが、残念ながら彼女の部屋には存在しない。倹約家の彼女は窓を開ければ充分だと、やたら電気代のかかるそれを最初から置く気がなかったのだ。
よって今現在ロイも暑さに喘いでいる訳である。
Tシャツの裾から風を送り込みつつ、やっぱり今夜は冷房のある自分の部屋で逢瀬を楽しめば良かった……と、後悔していたロイに声がかけられたのはその時であった。
「だらしない顔をなさっていますよ。もう一度シャワーを浴びますか?」
振り返ればバスルームを出たばかりのリザが、髪をタオルで拭いながらやってくる所だった。
彼女は鬱陶しそうにようやく肩まで伸びた金の髪を拭いている。
「こういう時、やっぱり短い方が良いと思います」
こういう湿気がある日はなかなか髪が乾かなくて。そんな風に珍しくボヤくリザだったが、しかしロイはその彼女の言葉を聞いてはいなかった。彼の視線はリザの格好に釘付けだったからだ。
ぴったりとした黒のタンクトップに、揃いのボクサータイプパンツ。辛うじてビキニラインは隠れているが、どう見ても彼女の格好は下着姿である。ほっそりとしたウエストと魅惑的なラインを描くヒップ、そしてほとんど晒されている白い太ももが眩しい。
「……ちうい、誘っているのかね?」
「は?」
ごくんと生唾を飲み込んで、一応尋ねてみるがリザの反応は鈍かった。
きょとんとした目をして小首を傾げているので、ロイはもう一度問いかける。
「誘ってるんだよな?」
「誘ってません」
ようやくロイの言葉の意味を飲み込んだらしい彼女は怒ったように反論してくる。そして心底呆れたような視線をロイにくれた。
「そんな事する訳ないでしょう。……只でさえ暑いのに」
まるでロイの方が常識知らずだと言わんばかりのその彼女の態度は、大いに遺憾であった。
これからイチャコラしようとしている恋人がそんな格好で目の前に現れて、男に反応するなと言うのは酷である。
「だってその格好……」
じっくり舐めるように上から下までリザの姿を堪能しつつ。ロイは指摘した。
「少し大胆過ぎるだろう。下着じゃないか」
「そうですか? 下着…という程の格好ではありませんよ。確かに多少薄着かもしれませんが。この姿でヨガとか柔軟体操とか女性はしますし。……何より暑いんです。これくらい薄着をしたくもなります」
暑いという主張には同意だが、リザがその下着同然の格好をそれほど問題視していないのは問題である。故にこそ、そんな挑発的な姿で男の前に現れたのだろう。普段の禁欲的な彼女からはおよそ想像出来ない行為だ。よほど今夜の暑さはリザの正常な判断力を下す能力にダメージを与えたらしい。これは早急に手を打たなければなるまい、とロイは決意した。
「ふ~ん……」
「な、何ですか」
唐突に立ち上がってにじりよるロイにリザが警戒心を示して後ずさった。
もちろん逃がすつりもりは無く追いかける。壁際まで追い詰めると、逃げ道を塞ぐようにドンと手を壁に置いた。
「……何ですか」
「熱いの好き?」
「嫌いです」
間髪入れずの答えにロイは唇の端を吊り上げた。
「嘘だね」
言うや否や反論の声を呼吸ごと奪ってやる。彼女の唇は柔らかでいてひどく熱かった。
急に仕掛けられたキスに驚き、逃げようとリザの手がロイの胸を叩く。しばらく己にのしかかるロイの身体を押し返そうと頑張っていたが、口づけが深まるに連れて徐々にそれは力を失っていき、最後には逆に彼のシャツを縋る様に握っていた。
「んふ……」
鼻から抜ける彼女の吐息が色づいていく。それに調子に乗って、ロイは剥き出しの白い腹を両手撫でた。シャワーを浴びたばかりだが、少しベタつく汗の感触がする。途端にリザが今までで一番激しい抵抗をみせた。
「と…突然…な、何をなさる…のですか……」
激しいキスの名残の銀糸を引き、唇が離れる。整わぬ荒い息づかいで肩を上下させ、リザは赤く潤んだ瞳ですぐにロイを睨みつけてきた。
「君がそんな格好をしているからムラムラしてね。欲情してしまった」
「むらっ…!?」
ロイが正直に心中を申し立てれば、リザは明け透け過ぎるその言葉に絶句する。それにニヤリと口元を歪めながらロイは言ってやった。
「これで分かったろう?……男の前でそんな格好で居る危険性が」
「……よーく分かりました!」
分からないのなら分からせるまでだと実力公使して、ようやく学習して貰えたのは良い事だが。
「貴方は危険だという事が!」
リザはロイの想定とは少々違う方向に受け止めたようだった。
「分かって貰えて嬉しいよ」
それはまあいいか、と流してロイはリザを見下ろした。彼女は激しいキスの余韻に頬を紅潮させている。とろけた表情は無意識に続きをねだる顔をしていた。
「やっぱり君、熱いの好きだろ?」
「……嫌いです」
「嘘だね」
熱いのが本当に嫌いならば、これからもっと熱くなるであろう行為を願う筈がない。
ロイは一度リザを抱き締めてから、その身体を抱き上げた。汗ばんだ互いの肌がペタリと吸い尽く様にくっつく。ペタペタしたその感触に暑さは増したが、ロイは熱いのは嫌いではない。それが惚れた女の温度ならば尚更に。
「……一緒に熱くなろうじゃないか中尉?」
「……その台詞おやじ臭いですよ」
憎まれ口を叩いて来たが、リザはもう抗う気は無いようで、大人しくロイにくっついている。
「やっぱり熱いのは嫌いか?」
「…………貴方の温度なら嫌いではありません……きっと貴方と居れば二倍熱いんでしょうけど」
「そうか」
不服そうな顔は相変わらずだったが、ようやく聞けた彼女の甘い言葉に満足げに微笑むと。
「なら、二人で熱くなろうか」
ロイはリザの唇を再び己のそれで塞いだのだった。




END
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暑いのは嫌いだけど熱いのは好きっていう話。
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by netzeth | 2014-07-21 03:01 | Comments(0)