うめ屋


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by netzeth
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不器用男のerosion

最初のきっかけはほんの些細な事だ。
急に降り出した雨に追われてちょうど近くだった私の部屋に避難した。貴方も私もびしょぬれだったので代わる代わるシャワーを浴びて冷えた身体を暖めた。その間に雨は止み、貴方が錬金術で乾かした軍服を着て私たちは司令部に戻った。
後日、「君んちのバスルームに」という言葉と共に貴方からシャンプーセットを贈られた。石鹸しか置いていない我が家のバスルームを見てきっと貴方は呆れたのだろう。雨宿りの礼と言われれば断る事も出来ず、私はそれを受け取った。高級ブランドのロゴ入りのそれを床にそのまま不作法に置くのが忍びなく、私はそのシャンプーセットを置くためのシャンプーラックを買った。
それから貴方は何か理由を付けては時より、私の部屋を訪れる様になった。ある時は、酔っぱらって花を買いすぎたから貰ってくれと大量に花を置いていった。花瓶が無い我が家において、当然花々は行き場がなく無造作にバケツに入れられるはめになる。仕方がないので私は花瓶を購入した。ある時は美味いコーヒー豆が手にはいったと貴方はニコニコしながらやってきた。しかし、私の部屋にはコーヒーを楽しむための備えはなく、結局私が淹れた紅茶を二人で飲んだ。後日、私は密かにコーヒーミルとサイフォンを買い求めた。またある時はいかにも高そうなヌーヴォーワインを貴方は私の部屋に持ち込んだ。しかし、私の部屋にはワイングラスの用意は無く、ワインオープナーでさえ置いていなかった。貴方はそれを予想していたとばかりに、ワイングラス二つとワインオープナーを準備していた。そして来年のヌーヴォーのために要るだろうと、それをそのまま置いて帰った。私はそれを保管する食器棚を新調した。
我が家に家族が増えた時、貴方の訪問はここぞとばかりに多くなった。貴方はハヤテが喜びそうなおもちゃをたくさん買ってきてはあの子と遊んで帰る。最初は警戒していた風のハヤテも、すっかり貴方に飼い慣らされてしまった。私はハヤテのためのおもちゃ箱を購入した。
なければ困るからと買った貴方の分のスリッパ。ボタンや袖のホツレを縫ってくれと度々言われるので、新しくしたソーイングセット。味にパンチが欲しいからと言われて用意した貴方好みの香辛料。気づけば貴方由来の品々が私の部屋に増えていく。ハヤテが粗相をしてしまったソファー。小さいもので十分だったはずなのに、気がつけば三人掛けの大きなものへと買い換えていた。貴方が寝転がっても足がはみ出さないように。そう、いつの間にか私の部屋は貴方のくつろぎやすいスペースへと変貌している。
何故我が家に貴方を快適にするための品々が置かれているのか、その不条理に私は首を捻る日々。
そんな生活は私がセントラルに異動になっても続く。相変わらず貴方は忙しい仕事の合間を縫っては私の部屋へとやってくる。さすがにその頻度は東方に居たときよりも減ったけれど、重傷を負って入院し、そして無理矢理退院した時でさえ、貴方は私の部屋にやって来た。病み上がりのはずなのに私が用意した病人食をぺろりと平らげたのには呆れるしかない。自分の部屋に帰った方が絶対に身体が休まるはずなのに、貴方は変わらず私の部屋にやってくる。そして、私が買ったあの大きなソファーで眠る。私は貴方のためにバスタオルと歯ブラシとひげ剃りをマーケットで買った。
こうやって今日も私の部屋に貴方の物が増えていく。過去から今までどんどんどんどん増えていく。



「やあ、少佐」
「……閣下。本日も何かお持ちになったのですか? いい加減、うちにはもう貴方の物はお腹いっぱいです」
「ああ。持ってきた。今までいろんな物を君の部屋に持ち込んだが、これが最後だ」
「……さい…ご?」
「そうだ。ああ、ほら、そんな顔をするな。もう来ないと言っている訳じゃないから。ただ、もうそろそろいいかなと思ってな。うん。今日、君に渡して君の手の中に置いていくのは、これだ」
「……閣下の……手?」
「うん。私の手。私、自身。もうずいぶんと私は君を浸食したつもりだ。だから、いい加減、私自身を貰ってくれよ。リザ」

貴方が私に貴方自身を残していく、というのなら私は今度は貴方のために何を用意したら良いのだろう。
……答えは一つだった。これ以外に何を貴方に差し出せよう。

「……では。私は私自身を貴方に」
「うん」

私が貴方の差し出した手を取ると、貴方は嬉しそうに笑ったのだった。




END
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by netzeth | 2014-08-06 23:06 | Comments(0)