うめ屋


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by netzeth
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護るひと

デスクの上には綺麗にラッピングされた箱が置いてある。それほど大きくもない、ちょうど片手に乗るほどのサイズだ。
それをロイは先ほどから胡乱な目つきで眺めていた。中身はこれを置いていった親友曰く、
「セントラルで今、すげー流行ってるものなんだよ!」
……らしい。いかにも胡散臭いニコニコ笑顔であの男が置いていったものが、今までろくなものであった試しはない。惚れ薬だの毛生え薬だの。過去の奴の罪状は上げ連ねれば切りがないのだ。
「このまま捨てるのが一番良い気がするな……」
ヒューズには悪いが、もう変な期待を持って引っかかるのは沢山だ。
ロイは思い切ってデスク横のくず箱にそれを放り込むと、残っている仕事を片づけることにした。
その時である。
「失礼いたします」
いつ聞いても耳に心地良いトーンの声がして、執務室の扉が開く。入ってきたのは当然、己の副官――リザだった。
「進捗はいかがでしょうか?」
「ああ。左に置いてあるものは処理済みだ。見てくれ」
「了解いたしました」
いつもの様にロイの仕事の進み具合を確認来たらしい。相変わらず厳しい優秀な副官だな、と内心苦笑しているとリザが近づいて来て処理済みの書類を持って行く。
すると、
「あら……?」
不思議そうな声と同時に、くず箱に白い手がすっと伸びる。それは今し方処分したばかりのものを掴み上げた。
「これは……綺麗にラッピングしてありますが、捨ててしまって良いものなのですか?」
首を傾げつつ、リザがヒューズ進呈の箱を眺め回している。
確かに事情を知らぬ者からすれば、包装も解いていないプレゼントらしきものがゴミになっていたらば訝しむだろう。
「ああ、良いんだ。ヒューズが土産にと置いていったものだが、どうせ下らんものだろう」
「ですが中身も見ずに捨ててしまって、本当によろしいのですか?」
リザはどうしてもこの怪しいプレゼントが気にかかるらしい。その顔を見ると、ロイは笑いがこみ上げる。彼女は、いかにももったいないという表情をしていたからだ。少々貧乏性の気があるリザには、簡単に物を捨てる行為に抵抗があるらしい。
「なら、君にあげるよ。開けてみるといい。何でも、セントラルで今流行っているものだそうだ」
「よろしいのですか? せっかくヒューズ中佐が下さったのに……」
「ああ、要らないから捨てたんだ。だから、拾った君の物にしてしまってかまわんよ」
しばらく思い悩んでいた様だが、本当に必要無いというロイの言葉を信じたのだろう。捨てるのならばいっそ自分が貰おう、というリサイクル精神が疼いたのか。
「それでは、お言葉に甘えまして」
リザは手に持った箱のリボンをほどき、包装を丁寧に解いた。それから、中を確認しようと箱の蓋を持ち上げる。
その瞬間、何かが飛び出した。
「きゃあああああ!!!」
今まで聞いた事も無いような悲鳴が部屋内に響き渡る。それも、防音が施してあるロイの司令官執務室でなければ、きっと東方司令部中に聞こえたかもしれない大音量の、だ。
ロイはその悲鳴そのものというよりも、それを発した人物がリザであった事に仰天した。あの、どんな時でも沈着冷静なリザが、ロイとシャワー室で遭遇してお互い生まれたままの姿を見せ合ってしまっても、大佐、腹筋が少しダレてます、筋トレおさぼりになったでしょう? の一言で済ませたリザが。
「いやっ、たすけっ、いやっ……大佐っ!!」
涙目でロイの首に抱きついてきて、ふるふると震えているのだ。
「ちょっ、どうした、落ち着け、ちゅーい!」
何があったのか状況を確かめたいのだが、とにかくものすごい力でリザがぐいぐいと上から縋りついて来るもので、身動きが取れない。おまけに頭と頬にボリューム感のあるリザの胸が押しつけられてきて、ロイとしても軽い混乱状態だ。
「ほら、一体どうしたんだ……?」
しばらく理性と煩悩と三者会談を行った後、どうにか理性が主導権を握ったので我に返ると、ロイはよしよしとリザの背中をぽんぽんと叩いて椅子から立ち上がった。まるでコアラの赤ん坊のように引っ付いてくるリザを宥め賺しつつ、彼女が取り落とした例のプレゼントの箱を拾い上げてみる。
「何だこれは……?」
中には何だか分からないバネの様なものが入っている。そう指摘すると、リザは首を振って違います、あれ、です。と床の何かを指さしている。顔は背けたままぎゅっと目を瞑っているので、よほど目に入れたくないのだろう。
「あれ……?」
言われるままに床に目を向けると。そこには小さな緑色の物が落ちていた。目を凝らしてみると、生き物……そう、カエルの形をしている。
「カエル?」
「大佐、お願いですっ……! あれをどこかにやって下さい!!」
その単語を聞くのもイヤという風にいやいやと首を振ったリザは、あれ――カエルを酷く嫌っているようだった。ようやく状況が理解出来てロイは、ああ、と頷いた。
「君、カエルが苦手だったんだね……」
まさか、男の裸にも顔色一つ変えない無敵の副官にこんな弱点があるとは。
「確かサバイバル演習の時、こーんな太いヘビをナイフでしとめて捌いて無かったっけ君……」
「あの緑のおぞましい悪魔とヘビを一緒にしないで下さい!!」
似たようなものだろう。と思ったが、リザの中では明確に違いがあるようだ。現に彼女は、先ほどからロイに抱きついたまま離れようとしない。よほどカエルが怖いのか。
「分かったよ、中尉。ほら、そいつはどこかにやるから」
怖くないぞ。そう言いながらロイは床のカエルを掴む。すると、それが本物でなく偽物――おもちゃだと言う事が分かった。そこでようやくロイは納得した。
「なんだ。これはびっくり箱だったのか……」
ヒューズが持ち込んだプレゼントの箱。それちょっとしたサプライズ用のおもちゃだったのだ。悪戯好きのあの男がいかにも喜びそうな品物だ。
「中尉、安心しろ。これは本物じゃないぞ?」
「…………偽物でも、イヤ、です」
朗報だと報告したが、彼女は顔を伏せたまま首をふるふる振ってそんな可愛いことを言ってくる。彼女のカエル嫌いは相当なものらしい。
「分かった。窓から捨ててやるから、ほら、ぽーん、だ。なっ、もういないぞ? 大丈夫だぞ?」
窓からおもちゃを投げ捨ててから、まるで子供をあやしている気分で言い含める。すると、おそるおそると言った風にリザが顔を上げた。
「本当……ですか?」
「ああ、本当だ」
目元を真っ赤に染めたリザだったが、そこでようやく落ち着いたらしい。自分が今、何に抱きついているのかに気づいてきゃっとまた小さく悲鳴を上げる。
「し、失礼いたしました……! 大佐。とんだ失態をお見せしまして……」
急いでロイから離れて、どこまでも生真面目にリザは詫びてくる。
「いや、別にいいさ。人間、苦手なものの一つや二つくらいあるものだ」
「で、ですが……私、私は…大佐を護る立場にありますのに、こ、このような醜態を晒してしまって……護衛失格です」
ホツレた髪や乱れた襟元を正しながら火照った頬を誤魔化すように取り繕う彼女は、たいそう可愛かった。
だから。
ロイの心に悪戯心がわき起こって。
「そんな事はない。いつも護られてばかりでは格好悪いからね。たまには私が君を護ろうじゃないか。……あ、カエル!」
「きゃああああ!!」
不意打ちで足下を指させば、再びリザがロイに抱きついてくる。そして、役得とばかりに彼女の腰を抱き寄せしっかり護ると、ロイはその耳元に囁いたのだった。
「……こんな風にね?」




END
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増田、ラッキースケベ。仔リザの頃からカエル嫌いを知っていても、大人になってから知ってもどっちでも美味しいよ!カエル嫌いな中尉は可愛いと思います。カエル話また書きたい。





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by netzeth | 2014-09-09 23:51