うめ屋


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とりあえず

とりあえず、増田組野郎共の話を書く。三つ目、ファルマン。一応これ、前のとうっすら話が繋がっているような。
よろしければ↓どうぞ。





趣味はと聞かれたので百科事典を暗記すること――と正直に答えた所、地味だと女性に笑われた。そんな自他共に認める地味男な私であるが、仕事はこう見えて軍人であり、東方司令部において一番派手な男の部下をしていたりする。ついでに東方司令部で一番麗しく強くそれ故名を馳せる女性の部下でもある。つまり、派手な男と有名な女。その上司部下コンビに近しい位置に居るのだ。
「なあ、お前あのマスタング大佐とホークアイ中尉のとこの直属なんだろ? あの二人ってどうなんだ?」
そうなると必然的にじみーに生きている私も注目を浴び、以上の様な質問を至る所で投げかけられるようになる。それに対する私の答えはいつも同じだ。もうお二方の部下となり働いて長いが、それ以外に答えようがない。これは偽り無き真実である。


二人は恋人同士か? 答えは否。
二人は恋人同士ではなくとも男女の深い仲か? 答えは否。


私の答えを聞くと、ほとんどの人間はなーんだ、つまらない。と一言感想を述べて、この件に対する興味を無くす。真面目に見える性格が幸いしてか、皆、私が嘘を吐いているとは思わないようなのだ。ファルマンが言うならそうなんだろうな、と皆妙な納得をして去っていく。
確かにこの件に関して私は嘘は吐いていない。偽り無き真実のみを話している。だが、真実しか話さないことと、真実を包み隠さず全て話すことは当然違う。私は聞かれたことに対して嘘は吐いていないが、聞かれないことまで親切にペラペラ話してやってはいない――というだけのこと。いくら私でも話して良い知識とそうでないものは区別をつけるのだ。



あれは、そう。何かの事件後、私の持つ法律関係の知識の助けを借りたいと中尉に要請されて二人で残業をしていた時のことだった。
私は地味に見えるが別に無口という訳ではなく、むしろ自分の知識を人に分け与えたいという欲求を常に抱えている。それ故、何かに付けて知識を垂れ流してしまう悪癖がある。だが、このように事件の報告書を作成する時などはそれは逆に重宝されるのだ。
「ありがとう、ファルマン准尉。准尉のおかげで完璧な報告書を提出出来そうよ」
「いえ、ホークアイ中尉。お役に立てたならば幸いです」
輝く金色の髪と鳶色の瞳をした美しい女性が、私を見上げて僅かに微笑む。普段滅多に見ることの叶わない、ホークアイ中尉の稀少な笑みである。眼福に預かりながら自慢の記憶力でその顔を脳裏に刻みつけた。幾ら我らがボスの想い人だろうと、これくらいの役得くらい許されるだろう。
二人きりで残業した挙げ句微笑まれたなどと知られようものならば燃やされそうだな、と私は密かに苦笑しながらボス――マスタング大佐の顔を思い浮かべた。
彼がホークアイ中尉をずっと憎からず想っていることは、私達チームマスタングの間では自明のことだ。知らないのは純真なフュリー曹長くらいだろう。何しろちょっとホークアイ中尉と親しく話したり、彼女を飲み会に誘ったりするとすぐ不機嫌になるのだから非常に分かりやすい。だが、その分かり易さは我々チームマスタング限定で発揮されるものであり、外部の人間に対しては完璧に上司と部下を演じ分けているのだから、大佐もなかなか人心掌握に長けている。つまり、我々は常に信頼していると大佐に言われているようなものなのだ。彼はこれを無意識でやっているのだから始末に終えない。ブレダ少尉などはよく人たらしめ……とボヤいていたりする。
しかし。
この分かり易い大佐の好意も、肝心の中尉には伝わっていないようで。
「何かお礼をしないといけないわね。この後は時間空いているかしら? 食事をご馳走するわ」
平気で独身フリーの男にこういう事を言うのだから、ホークアイ中尉も罪作りな女性である。まあ、百パーセント部下としてしか見られていないのも自明なので私もいちいち動揺しないが。
「いいえ、中尉。お礼何てとんでもない。私は当然の仕事をしたまでです。それに、この後は少々野暮用がありまして……」
当然ながら私はやんわりと断りを入れる。これ以上を望んでしまえば、確実に炭焼きコースだからだ。私には上司の想い人とデートをする勇気はない。
それに。
百パーセントフられると分かっている恋をする気も起きないのだ。
「そう。それは残念だわ」
あっさりと引き下がった中尉の表情は、相変わらず淡々としており容易にその感情は読めない。先ほどのように微笑みを見せるのは例外中の例外なのだ。だが、私には分かる。この目で見た全ての言葉を、映像を、事象を。全て脳裏に記憶する私には、分かっている。
ホークアイ中尉はマスタング大佐を憎からず想っている、大佐と同じように。お二人の過去は知らないが、これまでの二人のやりとり、行動、その全てが物語っている。二人には何かあったと。
その何かは私には分からないし、詮索するような無粋な真似をする気もない。だが、彼らの恋の行方に興味を持っていることは否定出来ない。
私はそこで、ほんの少し前に後輩が恋を例えていた話を思い出していた。

険しい崖の上に凛と咲く美しき一輪の花。それを欲するか否か? 

後輩はただ、綺麗だなと眺めていたいと言った。
私はきっと、花を手に入れることよりも、花そのものに興味を持つのだろう。その花の名を、生態を、見頃はいつか、いつ枯れるのか、誰に手折られ、どのように咲き誇るのか。それを知りたい。それが知識を欲するどうしようも無い己の性だ。
それを自覚し私は内心嘆息しながらも、気がつけばホークアイ中尉に提案していた。
「ではお礼代わりに……と申しますか。少々簡単なテストなどに付き合って頂けませんか?」
「テスト?」
「ええ。少し前に読みました書物にありました、簡単な心理テストなのですが。いろいろな方の答えを聞いた方が興味深いので」
「准尉らしいわね。……分かったわ」
ホークアイ中尉は私の言葉を特に疑問も持たず頷いてくれたので、私は満を持して崖の上の花の話をしてみる。


切り立った崖の上にある花。貴方にとって、とてもとても魅力的でどうしても欲しいと思う花。貴方ならどうしますか?


質問を聞いた瞬間、中尉のポーカーフェイスが僅かに崩れた。彼女は眉間に皺を寄せ少し難しい顔をしている。頭の良い女性だから、これが何を例えている話か、悟ったのかもしれない。私はじっと中尉を見つめて、彼女が何を考えているか想像の翼を広げてみる。当たり前だが私は中尉ではないので、その全ては分からない。ただ、迷っているのだろうということだけがうっすら伝わってくる。
「そう、ね……、私ならば何もしない、かしら」
やがて中尉はおもむろに口を開いた。
「おや、何もしないで諦めるので?」
「ええ、そうね。もしも何か行動を起こして、マイナスな事態になっては困るもの」
「それは、崖を登っている途中に落ちたり、それで怪我をしてしまったり、とそういう事ですか? ホークアイ中尉はずいぶんと弱気ですね。リスクを恐れていては欲しいものは得られないと思われますが」
私の挑発的な指摘にも、中尉は動じない。ただ、苦笑するように口元が歪んだ。
「確かに弱気ね。でも、じゃあもしも花を手に入れることが出来たとしても、それからどうするの? 手折った花はきっとすぐに枯れてしまうのよ。……そんなのは悲しいわ」
だったら、初めから手に入れようと思わなければいい。
淡々と語る中尉には相変わらず感情の色は見えない。彼女の言葉を聞き、私はなるほど、と思う。
男は目の前の花を手に入れることしか考えない。しかし女性である中尉は手に入れた後の心配をするのだ。
考えてみれば当然の話だ。一瞬の喜びよりも、その先の未来の成功を望む。それが彼女の結論なのだろう。
だが、私は他ならぬ彼女自身のために彼女の理論を崩す反論をした。
「手折った花がすぐに枯れてしまうというのならば、花瓶に砂糖水でも入れて生けてやればいいのです。甘くすればするほど、花は長持ちするでしょう」
「そんなのはその場しのぎに過ぎないわ。……花はいつか枯れてしまう」
ホークアイ中尉はどうしても、花を枯らすのが嫌だという。それが、彼女の気持ちを明確に表してしまっている事に気づいているのか。私は微笑んだ。
「……それは持ち主の努力次第ですよ。中尉。手折って枯れるというのならば、いっそ根っこごと引っこ抜いてくればいい。そして、より良い土にに埋めてやるのです。時間はかかりますが、いつか必ず根付いてまた綺麗な花を咲かせることでしょう。水やりを忘れずに。丁寧に丁寧に手入れをしてやれば良いのですよ。そういうマメな仕事は誰かさんと違って中尉は得意でしょう?」
片目を瞑って(普段から瞑っていると言われているような細い目だが)やると、中尉はまたも非常に珍しい顔を見せてくれた。すなわち、ほんのりと赤く染まる頬と耳を。
「……ファルマン准尉」
「はい」
「……ただの架空の花の話よ」
「そうでしたね」
お答え頂きありがとうございました。非常に参考になりました。と澄まし顔で礼を述べれば、中尉は少し不本意そうな顔をしていた。おそらく、自分の気持ちを吐露させられたことを不覚に思っているのだろう。
そして、その鋭い鷹の目の眼光を今だけは緩めて、中尉は私に言った。
「……准尉」
「はい」
「……もしも…もしもいつか私が花の育て方に迷ったら相談に乗って頂戴」
「喜んで」
こんな些細な事がきっかけでも、彼女に少しでも心境の変化があったというならば、それはめでたい話だ。私は彼と彼女の幸福に少しでも寄与出来たのだろうか。
私は思う。
未だに私は彼女と彼の全ての真実を知り得ることはなく、彼女がこの話で具体的に何をどう思いどう行動するのかも未知数だ。だが、確かに言える事がある。


二人は恋人同士か? 答えは否。
二人は恋人同士ではなくとも男女の深い仲か? 答えは否。

二人はお互いを大切に想っているか?
……私はこの答えにだけはどうしても否と答えることは出来ない。


彼らの忠義と愛情に境界線を引くことは出来ず、恋情と愛情の差はさらに微妙だ。
願わくば。
彼女が抱いた想いが、彼の欲するものであるように。お互いがお互いの幸福を分かちあえるそんな関係になれるように。
司令部一の地味な特技と趣味を持つこの私が願うのは、司令部一派手な男と司令部一美しく強く有名な女の幸せなのである。






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by netzeth | 2014-10-28 01:55 | 日記 | Comments(0)