うめ屋


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by netzeth
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いい女

「なんだ、ハボック。その頬は。まさか……」
「……お察しの通りっす、大佐。またフラれたんス」
「またか。お前これで今年に入って何度目だ? 季節毎に女にフられているな。衣替えか」
「……何とでも言って下さい。俺のガラスのハートは今、ハートブレイクでグッシャグシャのバリバリンなんです。もう何言われたって、こたえませんよ」
「痛みを伴わない教訓には意義がない。人は何かの犠牲なしに何も得る事など出来ない。お前のハートはガラスじゃなくて鋼鉄製だと思うぞ? 冬にフられて春にフられて夏にフられて秋にまたフられてるんだからな。痛みまくって正にフルメタルハートだ」
「そんなんで鋼の心を手に入れても嬉しくありませんよ! それよりも! もう俺の繊細なハートが傷つかずにすむ女にフられない方法を教えて下さいよ!! もう大佐しか頼れる人が居ないんス!!」
「わっ、こら、服を引っ張るな! 伸びるだろうがっ。教える、教えてやるから、離せ!」
「……本当ッスか?」
「……本当だ。それから、涙目で私を見下ろすな、気色悪い」
「イエッサー。で、どうすれば彼女と長く続くと思います?」
「ふむ。そもそもだ。お前は女にフられてもすぐに恋人が出来るのだから、モテない訳じゃあない。見た目と最初の掴みは問題ないんだ」
「そうッスねー確かに、いつも最初はいい感じなんだよなあ……」
「しかし、その後が続かない。それはだな、お前の女の選び方が悪いんだ」
「俺の女の選び方が……どういう事ッスか?」
「つまりだな、相手は最初お前の見てくれや上辺の性格だけに惹かれて交際をOKする。それは本当にお前の表面的な部分でしかない。付き合いが深くなるにつれて、相手はお前のもっと深い内面を知る事になるだろう。それは良い面だけではない、悪い面を見えてくるという事だ。おそらく、その段階でお前はいつもフられる。それはその女がお前の良い面だけは受けいれるが、悪い面は許容出来ないと考える相手だからだ。ならば、最初からお前の良い面も悪い面も愛してくれる女と付き合えば良い――そういう事だ」

「なるほど!……って、そんな事がほいほい簡単に出来たら最初から苦労してないッスよーって、いてっ、何で殴るんですか……」
「お前がバカだからだ。つまり、女にすぐに告白して、更にOK貰ったからと言って相手の事も見極めずにほいほい簡単に付き合うなという事を言っておるんだ。バカもん」
「ああ、確かに! まずそもそも付き合わなければフられないですもんねー!……でも、やっぱそんな自分の悪いとこも愛してくれる女を探すなんて難しくないッスかあ?」
「……難しいだろうな。それに、何もこれは女に限った条件じゃあない。私達男の側だって、相手の悪い面を受け入れて愛さねばならん。……愛せる女と付き合いたいものだ」

「うわあ……俺の方も彼女の悪い所を愛さなきゃダメなのかあ……ギャンブル狂いの女とか酒癖の悪い女とかが相手だったらどうしよう……なんだか更にハードルが上がった気がするッスね。……そういや、なんか偉そうに言ってますけど、そう言う大佐はどうなんです?」
「……私か?」
「そうッス。大佐も恋人の悪いとこを愛せているんスか?」
「そうだな……そもそも、彼女にはあまり悪い面など無いからな……」
「へえ……完璧な彼女さんなんスねえ……それにしても、大佐が恋人の話するの珍しいッスね。じゃあ、ついでにとことん聞いちゃいますけど、何かあるでしょう? 悪いとこ。それは最悪って奴が一つくらいは」
「そうだな……ああ…あるには、ある」
「それ! それですよ、何ですか!?」
「ああ……それは……」
「何の話をしているんですか?」
「あ、ホークアイ中尉。いえ、大佐の恋人さんの悪い面って奴を聞いてるんす。それを含めて相手を愛せるかっていう話で……」
「!!……そう。で、それは何なんですか、大佐。私もぜひ、拝聴したいです」
「そうだな……せっかくだから、聞いて貰おうかな」

「ほらっ、大佐、もったいぶらずに早く教えて下さいよー」
「…………大佐、おっしゃって下さい」
「分かった、分かった。今言う。……彼女の最大の悪い所はね、私の様な最悪な男に全てを捧げて心の底から命をかけて愛してしまっている事だ。もちろん、私は彼女の悪い面も全てひっくるめて愛しているよ」
「………なんかすげーノロケられたような気がするし、そうでもないような気もするし……中尉はどう思います? って、中尉どうしたんッスか!? 何か顔が真っ赤で、ふるふる震えて泣きそうな顔をして……あっ、ちょっ」
「バカバカっ、貴方なんて、大バカですっ!」
「っちょ、中尉落ち着いて下さい! 突然大佐をぽかぽか叩いて、どうしたんスか!」
「私は貴方だからっ、貴方だから……そんな風に自分を卑下するような事は言わないでっ……!」
「落ち着いて、中尉! 大佐は落ち着いて中尉に叩かれてないで何とか言って下さいよ!!」
「……ハボック」
「なんッスか!?」
「付き合うならば、こういう女にしろよ」

そう言ってロイはハボックの眼前で、泣き怒るリザを優しく優しく抱きしめたのだった。



幼馴染(Ver.リザ)


「なあ、ホークアイ中尉には幼なじみって居た?」

唐突な鋼の錬金術師エドワード・エルリックからの質問に、リザは驚いた。
彼はリザと向かい合うように応接用のソファーに腰掛けて、ドキドキした表情で彼女の反応を伺っている。
その顔を眺めながら、さてこの少年の意図は何だろうかとリザは思いを巡らせた。

彼女の上司が軍議で留守をしている時、タイミング悪くエドワードは司令部を訪れた。
呼びつけておいて大佐いねーのかよ! と毒づく彼を宥めて、リザは自らが淹れた茶でもてなしている最中だ。
私がお相手で申し訳ないけど許してね、と一緒のティータイムを申し出れば、少年は顔を赤くして中尉が淹れてくれるお茶は美味しいから嬉しいと、応の返答をよこしてくれた。
ロイ以外には年相応に彼は素直になるのだ。その様子は大変可愛らしくて微笑ましい。

「そうね……幼なじみと言っていいのか分からないけれど、似たような人なら居たわね」
脳裏にとある男の姿を思い浮かべながら、リザはエドワードの疑問に答えてやる。すると彼は大きな金色の瞳を輝かせた。
「ほんと!? それ、どんな奴!? 女? それとも……男?」
少年は興奮気味に身を乗り出した。最後に若干言いよどんだ彼の態度に、リザは彼の望む答えを察した。
「……男性よ」
苦笑しながら教えてやれば、エドワードはやった! という顔をした。
「じゃ、じゃあさ、ホークアイ中尉は……その幼なじみのこと、どう思ってた?」
やはりそう来るか、思いながらとリザはエドワードが知りたい内容を推理しながら言葉を続ける。
「それは、異性として意識していたか……という事?」
「……うん。ひ、平たく言えば、そーいう事」
顔を赤らめて、少年は少しだけ言いにくそうに告げてくる。
「幼なじみって、俺にとってはもう家族みたいなもんでさ。それが、もしも……もしも、だよ? そ、そーいう相手を意識するとしたら、それって、どーいう時なのかなって思って……」

おそらく、エドワードの脳裏を占めているのはリザの恋愛話に対する興味ではなくもっと別の人物の事……そう、彼の幼なじみの事であろう。リザも一度だけ会った事がある可愛らしい少女。
思春期まっただ中に居る少年は、幼なじみへの恋心に戸惑っているのかもしれない。だからリザにこんな不躾とも言える質問をしてきたのだろうか。
リザはくすりと笑った。

「そうね……私にとって彼はお兄さんみたいな人だったわ。年上の人だったから」
あなた達と違ってね。とは言わないでおく。そんな事を指摘したらこの純情少年はあっと言う間に逃げ出してしまいそうだ。
「最初は私も家族だと思っていたわ。彼も私を妹のように可愛がってくれたから。……でもね、だから違うって私は気づいたの」
「だから……?」
「ええ。彼を兄の様に慕って、彼も本当の妹に対するみたいに私に優しくしてくれたけれど、ある時私にはそれがとても不満に思えたの。彼に妹の様に扱われるのが、彼に妹だと思われるのがとても嫌だって気づいたのよ」
その優しさは全て妹を慈しむ兄の愛情なのだと思うと、どうしてか当時のリザは悲しく、切ない気分になった。
「それが、全ての始まりね」
あの時から今まで。ずっとリザを支配し縛り付けているこの感情。それはおそらく、少女の小さな胸を締め付けていたあの想いから始まっている。

「ふ~~ん……そっかあ……」
リザの告白にエドワードは感慨深げに呟くと、何やら考えを巡らせている。
たぶん、己の身に置き換えているのだろう。
「……参考になったかしら?」
からかうように片目を瞑って微笑めば、内心を見透かされたと悟った彼は顔を沸騰させる。
そして赤く熟れた完熟トマトみたいな表情そのままに、エドワードは言った。
「……わ、分かんないや」
「そう」
幼なじみへの想いを自覚するには、まだまだ彼の方は修行が必要らしい。
曖昧な顔で誤魔化すように笑ったエドワードは、そこでふと何かに気づいたように言葉を重ねた。

「なあ、それってホークアイ中尉の初恋だったんだろ?」
「……そう言う事になるのかしらね」
「叶ったの?」
不意を突かれた思いで、リザは目を見開いた。年甲斐もなく動揺に胸が鼓動を刻む。何と答えようか迷い思わず困った表情をすると、エドワードが慌てた様子で言い募った。
「ご、ごめん! 聞いちゃいけない事……だったよな…」
リザが独身で軍に勤めている事実を考えれば答えに自ずとたどり着く。賢い少年はそれを悟り、無用にリザの古傷を抉ってしまったと勝手に反省するようだった。
「ほんと、ごめん、変な事ばっか訊いちゃってさ」
「いいのよ。気にしないで」

笑って流せばエドワードはホッとした顔をしている。だが、安堵したのは実はリザの方だった。
何でも若者の悩みに答えてあげる優しいお姉さんを気取っていても、さすがにこればかりは恥ずかしくて言えない。自分の初恋はまだ結論は出ていない……ずっと続いている現在進行形などとは。
「にしても、んとに大佐おせーなあ……」
「そうね……」
相づちを打ちながらも、赤くなってしまった耳をエドワードから隠すようにリザはティーカップを持つ。そして、熱い茶を流し込んでは今も胸を疼かせる初恋の甘く切ない痛みを忘れようとするのだった。


 

幼馴染 Ver.ロイ

「なあ、大佐には幼なじみっていたか?」
「何だって?」

近況報告も兼ねて顔を見せろと司令部に呼びつけた少年が渋い顔で提出した報告書。それに目を通していたロイは、彼の唐突な質問に思わず顔を上げた。
すると、応接用のソファーに腰掛けた少年――エドワードと目が合う。
「だ~か~ら~幼なじみだよ、いたのか?」
「ふむ……」
重ねて問いかけてくるエドワードの顔を眺めつつ、ロイは顎に手を当てた。
口を開けば憎まれ口を叩く少年から話題を振ってくるのは珍しいことだ。
さて、彼の狙いはどこにあるのだろうか、一体ロイからどんな答えを引きだそうというのか。互いに言葉の裏を読み合い、時には腹のさぐり合いもする仲だ。
この質問がただの興味本位のストレートなものだとはロイは考えてはいなかった。

「……ウィンリィ嬢…だったか? 君の幼なじみは」
「なっ、ななななっ、なんでっ! どうしてっ、そこでウィンリィが出てくんだよ!!」
途端に顔面を赤く染め上げ慌てふためくエドワードの様子を見て、これはビンゴだった様だとロイは笑みを漏らす。
ロイに幼なじみの有無を尋ねたのはおそらく、彼の体験談を聞きたかったからに違いない。
どうやら思春期の少年は、幼なじみへの恋心に悩んでいるらしい。
「いや? 私の幼なじみの話を聞きたいのならば、君だって君の幼なじみの話をしないとフェアじゃないだろう?」
からかい混じりに言ってやれば、エドワードはぶすくれ顔をする。
「……あんたってほんと、意地が悪いよな」
「自覚しているよ」
「純真な少年をからかって楽しいかよっ」
純真というかなり怪しい自己申告に、ロイは思わず吹き出しそうになる。
普段は大人相手に対等以上に渡り合い、生意気な口をきき、そして、口先だけではない実力を兼ね備えたこの天才少年にはまったく似合わない単語だ。だが、まあことが恋愛事となるとやはり人生経験がものを言うのだろう。

「百歩譲って君が純真な少年だとして……やはり、そういった相手をからかうのは楽しいね。ああほら、私の話が聞きたいのならテーブルを蹴ろうとするのはやめたまえ」
憤怒の表情で蹴りを繰り出そうとしたエドワードを止めて、ようやくロイは話を本題へと戻してやる事にする。
「悪かった、悪かった。ちゃんと君の聞きたい話をしてやるから。……私に幼なじみがいたか……だろう? いたよ。君と同じ様に可愛い女の子がね」
一言余計なんだよくそ大佐とエドワードが毒づくのは、仏心で聞き流してやる事にする。
ここでいちいちつっかかっていては話が進まない。
「……じゃあさ、ずばり訊くけど、大佐はその女の子の事どう思ってた?」
エドワードも興味が苛立ちを上回ったのだろう。好奇心溢れる瞳で、ロイを見てきた。
ロイはそれを苦笑で受け止め、エドワードに答えてやる。
「……妹の様に思っていたよ。彼女は私よりも年が下だったからね」
「それだけ?」
拍子抜けしたという少年の正直過ぎる反応に、ロイの苦笑は深まる。
エドワードの中ではきっと、ロイには恋愛小説の世界も真っ青なラブロマンスがあったに違いないと思われていたのだろう。

「それだけだ。……と、言いたい所だがね、本当はそうじゃなかったよ」
だから、エドワードの期待に応えてロイは正直な気持ちを話してやる事にする。
「ずっと妹だと思っていた女の子がある時、とても綺麗になって私の目の前に現れたんだ。本当にびっくりするぐらいに美しくなってね。その時、私は衝撃を受けた。そしてすぐに思ったんだ。こんなに綺麗ならきっと世の男が放っておかないな、と。現に彼女は学校で何通もラブレターを貰っていたらしい。その話を聞いて私は更に衝撃を受けたんだ。最初は兄として妹の身を心配しているのだと思っていた。だが、違った」
「違った……?」
「ああ。その時、私は想像したんだよ。兄ならばいつか妹を別の男に渡さねばならぬ日が来る。祝福して送り出してやらねばならぬ日が来る。その姿を想像した。……後は…分かるだろう?」
「そんなの許せない、嫌だって思ったんだな……」
「その通り」
それがあの時から今までずっと、ロイの胸を焦がし続けている感情だ。それはおそらく、あの時の小さな嫉妬を起点にしている。

「さて、私の話は君の参考になったかね?……ぼやぼやしていると、あっという間にウィンリィ嬢は綺麗になって私と同じ思いをするはめになるぞ? 気をつけたまえ」
「……るっせーよ。あんたと一緒にすんな」
顔を赤くしつつ、エドワードはいつのも憎まれ口を叩いた。しかし、ロイの話を聞き少し思う所があったらしい。その口調はいつもよりは大人しめである。
「なあ、大佐。それで……その、その幼なじみとはどうなったんだ?……いや、悪りぃ……訊かない方が良かったな」
エドワードにしては珍しく遠慮がちに訊ねてきたかと思えば、謝罪を口にし勝手に自己完結している。
ロイが未だに独り身であることを思い出して、彼なりに気を遣ったのかもしれない。
「ホークアイ中尉といい……幼なじみとか初恋って難しいんだな……」
身につまされるのか、エドワードがしみじみとぼやいた。
らしくない鋼の錬金術師の様子に思わず笑ってしまいそうになるが、ロイはそれ以上に彼が口にした内容に引っかかっていた。

「……中尉がなんだって?」
「いや、ホークアイ中尉にも幼なじみの男が居たって聞いたからさ。で、中尉もあんたみたいにその相手が好きだったみたいなんだけど、妹にしか見られてなくて、結局初恋は叶わなかったって……」
「……中尉がそう言ったのか?……初恋は叶わなかったと」
「あ、いや、はっきりと言った訳じゃないけどさ。困った顔してたし、そこは察したと言うか……」
エドワードは言いづらそうに言葉を切った。
「そうか。……だがそれは間違いだぞ、鋼の」
「へ?」
一瞬ぽかんとした顔をしたエドワードに、ロイは教えてやる事にする。
「ホークアイ中尉の初恋は叶っている」
そして、おそらくはロイの恋も。
「……なんであんたがそんな事分かるんだよ。しかも自信満々に」
「さあ、なんでだろうな」
「おいっ、こら、誤魔化すなよ! こっち見ろ! 視線を逸らすな!」
どういう事かちゃんと俺に分かる様に言え! と迫る、鈍い少年の追求ををロイはのらりくらりとやり過ごす。そして、過去にとうとう贈る事が出来なかった愛の言葉を、今度こそ告げようと心密かに決意したのだった。



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by netzeth | 2014-10-31 00:54 | Comments(0)