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by netzeth
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ピロートーク

「子供が欲しいな」
今し方まで体を重ねていた恋人を腕の中に抱き込み耳元で囁けば。女は気だるげな視線をロイに向けてきた。ほんのりと赤みが残った頬が色っぽい。
「……何を突然」
声が掠れているのは激しい情交の証。そんな些細な事で男の矜持を満足させつつも、ロイはもう一度女――リザの耳に唇を寄せた。
「出来れば女の子が欲しいな」
答えになっていないロイの答えに、リザが眉を寄せる。何をバカなことを、と言いたげな表情だ。ピロートークの真っ最中だというのに、恋人のあまりの剣呑さにロイは苦笑した。
「真面目に私の話を聞いてくれよ」
「私はいつだって真面目ですが」
憮然とした恋人の反論を聞き、なるほど違いない。と思わずロイは納得した。
思い起こせばロイの脳裏には、規律正しい真面目な彼女の姿ばかりが焼き付いている。リザがふざけている瞬間の記憶を探す方が大変だ。
故に。
生真面目な彼女はどこまでも真面目にロイの発言を受け止めたようだった。
「今の私達に子供を持つ余裕があるとお思いですか?」
いつの間にか責めるようにリザがロイを睨んでいた。
彼女の言うことは理解出来る。
二人同時に休みを取るなどもっての他、その日のうちに家に帰れれば万々歳。良くて午前様、最悪司令部の仮眠室。こうやってゆったりと抱き合う時間を取る事さえ希な出来事。
青臭い理想へと続く未来への長い長い道程。そして少しでも早く実現をと、歩みを進めるのに精一杯な日々。
「断言いたします。私が居なければ大佐、貴方のデスクワークは一ヶ月……いえ、二週間で破綻します」
自惚れや慢心とは無縁な彼女が冷静に下した判断は、誰よりも正確だろう。
「……私が子供を孕んでいる暇がどこにあるんです。寝言は寝てからおっしゃって下さい」
こうして完膚無きまでに副官兼恋人に、ロイは論破される形になった。女は男よりも現実を見るというが。
「夢くらい見させてくれたっていいじゃないか」
ロイだって解っているつもりだ、自分たちの置かれた状況や立場というやつを。ただそれでも子供が欲しいと愛する女性に告げたのは、ピロートークに花を添える睦言のつもりだったというのに。肝心の恋人がこれでは取り付く島もない。
しかし、それでへこたれるほどロイは潔い男ではなかった。ここぞという時のしぶとさなら誰にも負けないと自負している。
「いいから、最後まで聞いてくれ。私だって起きたまま夢を語りたい時があるんだ」
言葉と同時にぎゅっと恋人を抱きしめてその抵抗の声を封じると、ロイはとうとうと語り始めた。
「金髪で茶色い瞳をした、君に良く似た女の子が欲しいんだ。きっととっても可愛い。それに私と君の子だから当然頭も良いだろう。もしかして、天才かもしれんぞ? 性格は君に似たら当然優しい子になるだろう。君は幼い頃はずっとショートヘアーだったな? 出来るだけ金がかからない様にとそうしていたんだろうが……私達の子は髪を伸ばしてやろう。その方がいろんな髪型が出来る。ポニーテールやエリシアみたいに二つしばりにしたら、最高に可愛いと思うぞ? 何しろ君に似ているんだからな。もちろん、服もたくさん買おう。レースがいっぱい付いたワンピースとか着せたいな。童話のお姫様みたいな格好をさせて写真を撮るんだ……小さい君みたいで可愛いんだろうな……」
「いい加減にして下さい!」
完全に頬を緩め、延々と空想の我が子を語るロイ。それをリザのうんざりしたような声が遮った。その激しさに、ピロートークとはいえ流石に調子に乗りすぎただろうかとロイは焦った。今の自分達の不安定な立場では見るのさえおこがましい幸せ過ぎる夢。現実主義者の彼女を呆れさせてしまったのだろうか。
しかし。
リザがお怒り気味に発したのは意外な言葉だった。
「……どうして私に似た女の子の話ばかりなのですかっ。私だって、貴方に似た男の子が欲しいです」
「え……」
「私は貴方に似た黒髪黒い瞳の可愛い男の子が良いんです。貴方の理想ばかり押しつけないで下さい!」
もう我慢出来ないとばかりにリザが言う。憤慨しているらしい彼女は、自分が何を言っているのか分かっていないらしい。ただ、ロイの胸の上でむくれたように唇を尖らせている。
「……ふっ、くくく、くっ、あは、はははは……っ」
不意に笑いがこみ上げて耐えきれず吹き出せば、ますます恋人は不機嫌な表情になった。何を笑っているのだ、という抗議の視線にロイは答えてやる。
「だって、君、何を言ってるか分かってるか?」
リザの顔が一瞬でまた朱に染まる。
ロイに指摘されて、リザはそこでようやく己の矛盾した物言いに気づいたようだ。現実主義者の彼女はつい先ほどロイに現実の厳しさを説いたというのに、同じ口でロイに己の希望を語ってしまった。ばつが悪そうに瞳を逸らした彼女は、赤くなった顔を隠すようにロイの胸へと顔を埋める。余りに可愛らしい恋人の態度に笑いをおさめると、ロイは三度その耳へと口元を寄せ囁いた。
「……じゃあ、男の子と女の子二人作ろうか」
いつかね。
それは恋人同士だけの極上に甘い甘い内緒話。
優しく紡がれるロイの言葉にしばし逡巡した後、リザはこっくりと小さく、しかししっかりと頷いてくれたのだった。



END
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by netzeth | 2014-12-04 00:11 | Comments(0)