うめ屋


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by netzeth
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2014クリスマスSS

「ついに俺はやった! あの大佐に勝ったんだ!!」
昼食を終えた私が休憩室の横を通り過ぎた時、そんな声が聞こえてきた。
声の主など顔を見なくても分かる、毎日聞き慣れたものだ。何となくその言葉の内容が気になって、私は人だかりを覗いてみる。思った通り男性軍人の集団に囲まれるようにして、背の高い金髪の同僚が居た。
「確かにシシリーは最初、大佐に惹かれていた。だが……俺の熱心なアプローチにより、彼女は俺を! 最後にはこのジャン・ハボックを選んだんだ!」
彼は誇らしげな顔で周囲にそう喧伝していた。その手には今人気のお芝居のチケットが二枚握られている。
「見よ! クリスマスイブは二人で芝居を見に行ってそのまま高級レストランでの食事だ! これは歴史的な大勝利である!!」
そこでおおーっ! と彼を囲んでいる男達からどよめきの声が上がった。彼らは皆、感嘆と驚愕、そして羨望の色をその瞳に宿している。
「なぁーにがっ、歴史的な大勝利、よ。たった一度デートを優先して貰ったからって浮かれちゃって、まあ……」
すぐ後ろから聞こえた声に、私は振り向く。いつの間にか親友のレベッカが呆れ返った顔をして立っていた。彼女はハボック少尉に視線を向けている。
「意中の女性とのクリスマスデートの約束を取り付けたんですもの、浮かれても仕方ないと思うわ」
一応、同僚として少尉を庇う発言をしてみればレベッカは私の顔をちらりと見てから軽く肩を竦めた。
「まあね。別にそれを喜ぶのはいいんじゃないの。微笑ましくて。でも、御仁に勝った! って言いふらすのはどうかと思うわよ。だいたい話を聞くに女が勝手に大佐のことをいいと思ってただけで、別に御仁が何かしていたって話じゃないようだしね」
確かにどんな女性にでもへらへらと愛想が良いあの人が、一人の女性に執心するとは思えない。レベッカの指摘は間違いではないとは思うが。
「でも、ハボック少尉は大佐なんかよりもよほど素敵な男性ですもの。お相手の女性が彼を選ぶのは当然なんじゃないかしら?」
それでもハボック少尉を庇う私の発言にレベッカは片眉を上げ、
「へえ? どの辺りが?」
と挑戦的に尋ねてくる。私は自信を持って少尉の良い所を上げ連ねた。
「優しいし、友達は多いし、ハンサムだし、気の良い性格をしているし、何より女性対して誠実だわ。……大佐よりも魅力的よ」
これは私の本心だった。確かにマスタング大佐は女性にモテるが、彼は特定の恋人は作ろうとはせず不特定多数の女性と毎日日替わりでデートをするような人なのである。だったら、一途に一人の女性を想うハボック少尉の方が絶対にいいに決まっている。
しかし。
「……あんた、それ本気で言ってんの?」
レベッカは心底呆れたという視線を今度は私へと向けてきた。彼女はきっと大佐の方が少尉より男性として魅力的だと言いたいのだろう。だが、レベッカは大佐のことを私ほど知らない。だから、大佐の外面に騙されているのだ。それに、彼女は男は金よ! と言い切る女性だ。その点からしてもハボック少尉よりも大佐が良く見えてしまうのだろう。
「もちろん本気よ?」
力強く頷けば、ふーん……と、レベッカが目を細めた。そして、また尋ねてくる。
「最後に聞くけど、それ女性としての一般論? それとも、あんたの個人的な意見?」
「……個人的な意見だけど?」
「そ、ま、いいわ。じゃあ、女としてレベッカさんが一つ、いいこと教えてあげる」
同い年だという言うのに、レベッカは私に対してまるで年上のお姉さんのように偉ぶることがある。そう、こういう男女関係の話に関しての時だ。今回もまたそれだったようで。
「男の魅力は理屈じゃないのよ」
と、意味の分からないことをのたまう。何もかも分かっているのよ、という彼女の態度は少しだけ気分が悪かった。



その日の仕事はすっきりしない気分で進んだ。それと言うのも、全ては目の前に居る男のせいだ。
昼休みを終えた私は、いつものようにマスタング大佐の執務室で彼のお守りという仕事に励んでいた。だが、先ほどのことが気になってまるっきり集中出来ない。
大佐が誰とデートしようがフられようが、私には関係はない。ハボック少尉の方が魅力的だというのも本当だ。だが、レベッカの言いようはまるで私の言葉を否定していたようだった。
――男の魅力は理屈じゃない――あれはどういう意味だったのだろうか。
「中尉」
珍しく真面目に仕事をしていた大佐に声をかけられたのはその時だった。彼はペンを休め、いつの間にか私をじっと見つめていた。まるで仕事に身が入っていないのを咎められたように思えて、私は慌ててしまう。これではいつもと逆である。
「は、はい、大佐。何でしょうか」
私は大佐のデスクへと歩み寄り、彼の正面へと立った。書類の確認事項か、はたまたお茶が欲しいとの催促か。用件を予測しながら大佐の顔を伺うと、彼は私に強い視線を当てた。思わずその熱さに、私はたじろぐ。
何だろう。何かあるのだろうか。
「大佐?」
「中尉。今度のクリスマスイブ、私と食事に行きたまえ」
いきなりぶつけられた言葉に私は面食らった。それは誘いなどというなまやさしいものではない。ほとんど命令だ。プライベートの予定まで彼に強制されてはたまったものではない。
「……私にも予定というものがあります。いきなり言われても困ります」
本当はそんな予定など無かったけれど、彼への抵抗として私はそう偽った。彼とクリスマスイブを共にすることが嫌だという訳ではない。いや、むしろ嬉しいのかもしれない。だが、あまりにも強引過ぎる大佐のお誘いが気に入らなかったのだ。
「予定?」
あからさまに表情を硬化させた大佐は、声のトーンを半音上げた。相変わらず炎のように熱い瞳で私を見つめ、ゆっくりと彼は席を立つと近づいて来る。
「……誰か他にクリスマスイブを過ごすような相手が?」
「居てはいけませんか」
売り言葉に買い言葉。いまさら嘘ですとは言えず嘘を重ねれば、大佐の瞳が危険な色を帯びた。その視線に釘付けにされた私は何故か動けない。
「……いけないな。そいつを燃やしてしまわねばならなくなる」
物騒な台詞を吐き出した彼が、更に私に近づく。獰猛な獣に狙われた小動物のように、私はようやく金縛りから脱出すると一歩後ろへと退いた。
「ご冗談を」
「冗談ではないな」
すると、彼はまた一歩私へと近づいて来る。だから、私はまた一歩、一歩と後ろへと下がる。そうやって、とうとう私は壁際まで追いつめられてしまった。背中に壁が当たった瞬間、ドンっと彼が私と壁の間に手をついて、私を閉じこめた。
「……断りたまえ」
大佐の顔が私の耳に寄せられた。流し込まれた低い声はまるで恫喝だ。こんなの横暴だ、部下の権利の侵害だ。という反発が心を満たすが、同時に私は逆らえない自分を自覚していた。
これは、何。
私は戸惑いを覚える。
「で、ですが……」
気力を振り絞って、私はまだ居もしないクリスマスイブを過ごす相手へと義理立てをする。このまま彼の意のままになってしまうのは、女のプライドが許さない。
けれど。
「……君には私しか居ない。他の男なんて見るな」
言われた瞬間腰から力が抜けていく気がした。何とか膝を踏ん張ってへたりこむのは避けたけれど、代わりに心臓がバクバクとうるさくなる。
これは、何。
もう一度疑問を心で呟いて。しかし、私は理解していた。言葉でなく体で知ったのだ。
――男の魅力は理屈じゃないのよ。
あのレベッカの言葉の意味を。
ハボック少尉の方が男性として魅力的だと言ったのは、本心だ。今だってそう思う。けれど同時に、今の私は彼――マスタング大佐以外の男など要らない。そう思ってしまっている。
それ、本気で言っている訳?
レベッカの言葉がまた脳内でリフレインした。
きっと、彼女は私が彼の前ではこうなることを予見していたのだろう。好きな男の前では、相手のどんな欠点も関係ない。全ての理屈を覆して、心が、体が反応してしまう……あれはこういう意味だったのだ。
「返事は? 中尉」
あまりにも傲慢な態度で彼は私に迫る。近すぎる距離で、その吐息までも耳に感じて、私は小さく震えた。
「イエス、サー……」
この甘い恋いの脅迫に逆らえる訳はなく。私は早々に白旗を揚げると、ただそう呟くしかなかったのだった。



END
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あんまりクリスマス関係なくてすみません。ただ、大佐の壁ドンを書きたかったのです。




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by netzeth | 2014-12-20 17:10 | Comments(0)