うめ屋


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by netzeth
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悪口

司令部の廊下でばったりあった同期の友人は、リザの顔を見るなり彼女の腕を引っ張った。
「いいところで会ったわ、リザ! もう~聞いてよぉ~」
こういう時の友人が何を言い出すのか簡単に予測がついたので、特に急ぐ用事も無かったリザは大人しく彼女の話に付き合ってやることにする。
「なあに、レベッカ。また愚痴?」
苦笑しながら水を向けてやれば、レベッカは盛大に顔をしかめながら大きく頷いた。
「そうよぉ~もう、何でうちの隊にはロクな男が居ないのかしら? せっかく軍に入ったら権力も金も気骨もあるイケメンに出会えると思ったのに! 居るのは地位なし金なしデリカシーなしあるのは筋肉だけの脳筋野郎ばっかりよ!」
興奮するレベッカをまあまあとなだめながら、彼女が所属する狙撃部隊のメンバー達の顔を思い浮かべ、それは言い過ぎよとリザはたしなめてみる。確かに軍に所属する男性は粗野な者が多いが、根は気は良い者ばかりだ。
「ぜっぜん言い過ぎじゃないわよ! この前あたし誕生日だったじゃない? だから隊の皆がプレゼントをくれたのよね。野郎達皆で旅行に行ったとかでそのお土産も兼ねて」
「……それは喜ぶ所じゃないの?」
同僚に誕生日の贈り物としてお土産を買って来てくれる――その行為のどこが気に入らないと言うのか。憤慨しているらしい親友の様子に首を捻りながら、リザは指摘した。すると、レベッカはきっとリザを睨みつけて訴えてくる。
「どこが! あいつら、何をプレゼントして来たと思う? 皆で狩りに行ってしとめたとかでこーんなでっかいヘラジカの頭の剥製を持ってきたのよ! ごっつい角付きのね! 「雄々しいカタリナ少尉にぴったりだと思って」ですって!! こんなかよわいうら若い乙女に鹿の頭プレゼントするなんて何考えてんのさ!」
「……いいじゃない、鹿。私も熊だったら欲しかったわ。付ける機会の無いアクセサリーを貰うよりよっぽどマシよ」
慰め半分、本気半分に言えば、レベッカは何かを諦めた表情になる。
「あんたに愚痴ったあたしが間違ってたわ……価値観の相違は例え親友でも埋めようのないものなのね……あ~あ、でもあんたは良いわよねー。素敵なアクセサリーをプレゼントしてくれるイケメンの上司がいて!」
別に上司からアクセサリーを貰ったとはリザは一言も言ってはいないのだが、レベッカはそう決めつけて言葉を続ける。実際正解だったので、リザは黙って親友の話を拝聴した。
「マスタング大佐がうちの隊に居てくれたら良かったのに。二十代で大佐で将来有望、女性への気遣いも完璧。この前だって人気店のチーズケーキを事務方の女の子に差し入れしてたしね~それに国家錬金術師だからお金だってばっちり持ってるし! 何より汗くさいムサい男どもと違ってかっこいいイケメンだし!」
「……待ってレベッカ。あの人は貴女が言うほど素晴らしい男性じゃないわ」 
とうとうとロイがいかにイイ男かを語るレベッカに、むず痒い感覚を覚えてリザは口を挟んでいた。正直レベッカはロイ・マスタングと言う男を過大評価し過ぎている。副官という近しい立場で彼を見続けて来たリザには幾つも反駁材料があった。
「へえ、どこが?」
「イイ歳してピーマンが食べられないし、それなのに逃げるのは嫌だとか言ってピーマンが入っているメニューを頼んで結局嫌がるハボック少尉の皿に無理矢理移してたわ。重要書類を引き出しに隠すなんて日常茶飯事だし、あまつさえ紙飛行機にして飛ばして紛失したり、それを叱ったら今度は折り鶴を折った挙げ句紙飛行機じゃないからセーフだと屁理屈をこねたり! 知ってる? 折り鶴ってこれよ! 東の島国じゃあポピュラーな鳥らしいわ!」
ロイの数々の悪行を並べたてるうちに、リザは自然と興奮してきて鼻息が荒くなる。懐から折り鶴の実物を出してレベッカに押しつければ気圧された彼女はへ、へえ……と微妙な感想を漏らした。
「それだけじゃないわ! この前はデートに行くのにどうしても仕事が終わらなくて、でも終わるまで絶対に行かせませんからって見張ってたら私が席を外した隙に錬金術でダミーを錬成して逃げたのよ! しかもそれじゃあ私の目は誤魔化せないからってわざわざ自分の服を脱いでそのダミーに着せてたのよ!? 上だけじゃなくて下もよ!? 分かる!? 彼は部下を欺くためだけにパンツ一丁で執務室を逃亡したのよ! 仮にも司令部の司令官という責任ある立場の人がパンツ一丁で!!」
その時の騙された屈辱感と尊敬する上司像がガラガラと崩れた脱力感とを思い出して、リザはふるふると震える。
「あの人は貴女が言うようなかっこいい男なんかじゃ絶対ないわ!」
と、高らかに言い放ったリザをレベッカはしばらく唖然とした表情で見ていた。普段は無口で冷静なリザがここまで興奮を露わにしたのが珍しかったのだろう。しかし、次の瞬間彼女はニヤリと口元をゆがませる。リザはこの顔をよく知っていた。――それは他ならぬかの上司が悪戯を思いついた時と同じ顔だ。
「……そうね。リザの言うとおりだわね。あんたの話を聞いてたら、考えが変わったわ。マスタング大佐は全然かっこよく無いわね」
「そ、そうよ」
突然言動を翻した親友にリザは戸惑いを覚えるが、レベッカは意に介さずしゃべり続ける。
「ピーマンも食べられないような残念な大人だし、仕事を置いてデートに行くようなズボラで責任感の無い男だし、きっと女性関係もだらしないのよね。何人もの女と関係を持っては捨てて、多分隠し子の4~5人はいるサイテー男なのよね。子供の認知もしないし、養育費だって絶対に払ってないわね。金はあってもケチで、差し入れをくれるのだってきっと外面がイイだけのパフォーマンスよね。皆にイイ顔して出世するのだけが目的の結局自分の身が一番大事な自己中野郎なのよね。顔だってきっと錬金術か何かで誤魔化してて、素顔はさえない男なんだわ!」
「ちょ、ちょっと、レベッカ。……それはあんまりよ、言い過ぎだわ」
あまりにもロイをけちょんけちょんにけなされて、リザは思わず反論していた。最初はうんうんと頷いて聞いていたけれど、次第にもやもやして来てレベッカの言いようは幾ら何でも酷過ぎだ、と我慢がならなくなったのだ。
「確かにピーマンは食べられないけど残したり捨てたりしたことは一度もないし、仕事を放って置いてデートに行くのもどうしても外せない情報収集のためのデートの時だけだし、女性関係が派手に見えるのはあれこそパフォーマンスで根は誠実な人だし、隠し子だって絶対に居ないし、実は堅実な人でお金は使う所には使うけど節約する所はしているし、いつも陰険な上層部から私たち部下を防波堤になって庇ってくれているし、か、顔だって、改造なんてしてなくて、あの人は昔からかっこよくてそんなあの人が私はずっとす……」
「へえ?」
にんまりと笑ったレベッカが目に映る。親友のほくそ笑む顔を見て。リザはそこでようやく自分が彼女の策にはまったことに気づいた。先ほど言った悪口を全て、己自身で否定してしまったのだ。
――自分の本心は、ちっともロイを悪く思ってはいないと。
「レ、レベッカ、謀ったわね……!」
「さー何のことかしらぁ?」
にやにやしながらとぼける彼女に、リザは頬を赤らめた。本音を引き出されてしまって不本意やら恥ずかしいやらで感情は混迷を深める。そして、更にリザを混乱にたたき落とす事態が起った。
「……何を話しているのかね?」
絶妙のタイミングで通りがかった男に、リザは文字通り心臓が跳ね上がった。噂をすれば影。話題の中心に居た男――ロイ・マスタング大佐が廊下の隅っこで話し込んでいる女二人に興味深げな視線を向けて立っている。
「あ、マスタング大佐」
リザの背中に嫌な汗が滑り落ちた。この悪戯好きな親友が何を言うのか、予想が出来ない。余計なことを言いやしないかとひやひやしながらリザはレベッカを凝視した。
「嫌ですね。下っ端軍人が話し込むことなんて一つですよ、上官の悪口です。ね、リザ? わ・る・く・ちよね?」
「え、ええ、はい」
あっけらかんとした口調でレベッカがロイに告げ、リザは返事に窮し曖昧に返答した。
「そうか、それは怖いな」
言い辛い内容をずばりと言い切る女傑達に男は苦笑するようだった。ロイはどうかお手柔らかに頼む。と言い置いて去っていく。女性同士のおしゃべりにこれ以上を首をつっこむ気は無いようだった。
それをほっと胸をなで下ろしながらリザが見送っていると。
「じゃ、リザ。わ・る・く・ち大会再開しましょうか?」
人の悪い笑みを浮かべたレベッカが話を蒸し返して来て、リザは再び頬に熱が伝わるのを感じ、深くため息を吐いた。
「……貴女の愚痴、いくらでも聞くからそれはもう勘弁してちょうだい」
この手の話題で親友には一生かないそうにないとリザは思うのだった。



END
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by netzeth | 2015-01-12 15:03 | Comments(0)