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by netzeth
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反抗期な彼女~書下ろしサンプル~

「彼女が反抗期なんだ……」
 受話器を上げた瞬間聞こえた親友のしょんぼりとした第一声に、あれ、こいつ俺の知ってる奴だよな? とヒューズは耳を疑った。親友――ロイ・マスタングには反抗期に悩むような年頃の子供は居ないはずだが。
「はあ? お前いつ子供作ったの? ちなみにうちのエリシアちゃんには反抗期なんて無いもんね。毎日パパだーいしゅきって俺を出迎えてくれてさあ……もう可愛いの何の。ぐふふふふ……」
「ふん、どうせ数年後には、パパくさ~い。パパ近寄らないで。パパのパンツと一緒にお洗濯しちゃいや! って言い出すに決まっている」
「止めろー! マイスウィートエンジェル・エリシアちゃんはそんなこと言わない!!」
 ロイの呪いの言葉にヒューズは身をくねらせて電話口で悶えた。口撃はボディブローのようにじわじわと地味に精神を汚染する。流石に長い付き合いだけあって、ヒューズの胸を抉る言葉を心得ているロイである。だがそれはヒューズだって同様な訳で。長い付き合いなのはお互い様なのだ。
「ふふん、そんな減らず口叩いてっとお前の話聞いてやらねーぞ? 反抗期とどう繋がるのかいまいち分からねーが、どーせリザちゃんのことなんだろう?」
「そうだ…そうだった……はあぁぁぁぁ……」
 ロイのアキレス腱――リザの名を出した瞬間、ロイは再びダウナーな雰囲気を醸し出した。落ち込むとジメジメ湿度が増すのは、さすが、雨の日は無能の焔の錬金術師である。これが思春期の悩める若者ならばまだ微笑ましいが、三十路手前の成人男子となると正直鬱陶しくて仕方がない。
「おいっ、こら、ロイ!」
 普通の人間ならば、ここまで落ち込んでいる相手にかける言葉には迷うものだが。ヒューズは自分に正直に人にも正直にとりあえずずうずうしく行っとけ! が信条の男だったので、遠慮なく親友に思ったことをぶっちゃけた。
「なんだあ? とうとうリザちゃんに見限られたのか? ま、無理もねえなー。仕事は遅い、不真面目、女にダラシないの三拍子揃っててむしろ今まで健気に尽くしてくれた方がおかし」
「違う」
 ブスッとしたロイの声に遮られて、ヒューズはニヤリと笑う。負けず嫌いのこの男、挑発してやればいいだろうと思ったが、狙い通り反論する元気くらいは復活したようだ。
「彼女は昔から変わらない。私を立派に補佐してくれる優秀な副官だよ。……仕事はしっかり完璧にこなしてくれる。仕事は、ね」
「ん?……仕事、は?」
 ロイの物言いに引っかかりを覚えて、ヒューズは指摘する。
「つまりお前さんが悩んでるリザちゃんのことって、仕事関係じゃなくてプライベートのことなの?」
「そうだ。……だから、最初に言ったろう。彼女が反抗期だと」
「いや言ったけどよぉ……まさか、その反抗期の彼女ってリザちゃんのことなのか?」
「そうだ」
 受話器の向こうからあっさりと同意の返答があって、ヒューズはう~むと唸った。
 ロイの副官であるリザ・ホークアイ中尉は、東方司令部でも有名な才色兼備の才媛だ。仕事は完璧射撃の腕は一流。どこをとってもミス・パーフェクトと言える女性。おまけに絶対零度の鷹の目と呼ばれ、そのクールビューティーっぷりから司令部の人間から一目置かれている存在なのだ。
 そんな女性を形容して、「反抗期」というのはずいぶんとずれのある表現である。普通反抗期とは幼児やローティーンくらいの若者が、親や近親者に対して取る我が儘で利かん坊な態度のことだろう。
「いや、そうだって……。リザちゃんはお前の部下だろうが。言うことを聞かないなんてことないだろう?」
 上下関係の厳しい軍で反抗的な態度などとろうものならば、上官反逆罪で処罰されかねない。あの生真面目で規律正しいリザに限って、あり得ないだろうとヒューズは思う。
「だからっ、彼女は仕事はちゃんとしている。反抗なんてされていない。……問題はプライベートだ、お前には話したことがあるだろう。彼女と私の関係を」
 話題が繰り返されたことでロイの声が少し苛立つ。気の短い奴だなあと内心笑いながら、ヒューズはかつてロイが語っていたリザと彼との過去話を思い出した。
「んー確か、お前の錬金術師の師匠の娘さんなんだっけ、リザちゃん。で、お前とは幼馴染みみたいな関係だと」
「そうだ」
 実を言うともう少しディープな関係がロイとリザの間にはあるのだが、彼女の背中に関しての話はロイは誰にも話していないため、それはヒューズの知る所ではなかった。
「イシュヴァール内乱が終わって、彼女は私の副官となって……最初はまあ、多少ギクシャクした所はあったのだが、やがてまた昔みたいな親しい関係を私達は取り戻した。プライベートでもよく一緒に食事に行ったりな……」
 ロイが言うには、リザとの関係は仕事でもプライベートでもまったく良好であり、今まで何の問題もなかったのだという。共に夢見るこの国の幸せな未来のために、ロイを補佐するリザとその彼女を大切にして来たロイ。正に理想的な上司部下というやつだ。
「だがな……ここ最近、中尉の様子がおかしいと言うか……あからさまに避けられているようなんだ」
「お前の気のせいじゃねーの?」
 ほんの少し前、東方司令部を訪れた際に会ったリザの様子をヒューズは思い出す。相変わらず仕事に対しての姿勢は厳しかったが、ロイとの関係は何の問題も無いように見えた。
「……表面的には普通だ。あくまでも仕事の上ではな。だがな、ここ最近食事に誘っても必ず断られる。この前などほんの少し素行を注意したら、ものすごく嫌な顔をされたんだぞ?」
「素行不良が服を着て歩いているよーなお前が素行注意?? そりゃあリザちゃんもカチンと来たんじゃねーか。お前には言われたくないってな。で、具体的にはどんな注意をしたんだ?」
「露出過剰な服装とか、強い匂いの香水とか、ネイルをしていたのを少し……」
 でもそれ全部プライベートの話だよな? 軍部でのことじゃないよな? とヒューズは念を押して確認する。
「ああ、そうだ」
「だったら尚更お前が口出しする問題じゃねーじゃねえか」
「そんなことはない。私は彼女の親……いや、兄代わりだぞ? 胸元が開いていたり、深いスリットの入ったスカートを履いていたりしたら心配だろう!」
「おまっ、それただの口うるさい親父じゃねーか。それだよっ、原因は。もう成人済みの女の子にそりゃあ無いだろう」
 確信を持ってヒューズが言えば、苦悩した声でそうだろうか、とロイは呟いた。
「……彼女にはずっと実の妹のように接してきた。一緒に部屋で食事を取るのも最近では日課だったんだぞ?……家族のようにとても仲良くしてたんだ。そりゃあ、口うるさく言ったこともあったかもしれないが……それで、そんなに私が嫌になってしまったんだろうか?」
「お前、リザちゃんの家にまで行ってるの?」
「彼女の手料理は私の大好物なんだ。一人で食べるのは味気ないからって中尉が呼んでくれたのがきっかけで……それから、よく一緒に食べていた」
「それで……妹?」
「何だ?」
「……いや」
 訝しげなロイの声を受話器越しに聞きながら、ヒューズはいやいやと自分の思いつきを否定した。
いくらなんでも、それは。
「とにかく。しばらく様子を見たらどうだ? お前の気のせいかもしれないだろ」
「そうだな……そう願うよ」
 明るい声で提案したヒューズにロイが答える。そして、お前に話したら少し気が楽になった。そう言ってロイは通話を切った。
「妹、ねえ……」
 まさかね、と呟きながらヒューズも受話器を置いた。


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by netzeth | 2015-03-01 17:57