うめ屋


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by netzeth
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部下の親友

「で、結局。リザのことどー思ってんです?」
 強かに酔っていると思われる女性に詰め寄られて、私は返事に窮した。豊かな黒髪の健康的な美人と一緒に飲むのはイヤな気分では無かったが、彼女――カタリナ少尉は私にとってくせ者過ぎる。
 元はと言えば、仕事帰りにフラリと立ち寄った高級バーにて彼女と出くわしたのがきっかけだった。あまり女一人で飲むような場所でもない。てっきり誰か男性との待ち合わせかと思って、声をかけるのは遠慮したのだが。目ざとく私を見つけ出した彼女の方から声をかけてきたのだ。


「偶然ですね、大佐。良かったらご一緒してくれません? それとも女連れですか?」
「いや、そう言う訳ではないよ。少し気張らしに一人で飲もうと思ってね。そういう君こそ、待ち合わせじゃないのかい?」
「いーえ! 私はちょっと釣りをしてただけで。でも、ぜーんぜん獲物がかからなくて、退屈してたんです。大佐が来てくれて、ちょうど良かったですよー」
「釣り?」
「ええ。このバー。金持ちのいい男がうじゃうじゃ居るって噂で聞いて」
「なるほど……」
「ま、私に釣られたと思って相手して下さい」


 カタリナ少尉の押しの強さに負けて。私はそのままなし崩しに彼女と飲むことになったのだ。こういう気っ風の強い女性に私は弱い。何せ、育ての母親が似たような性格だったのだ。豪快にカクテル杯を空けていく飲みっぷりもどこか養母を思い起こさせる。やがて、次々酒を飲み干した彼女はひどく酔ってしまったらしい。いつの間にか顔を赤くし、目を据わらせていた。
 ……そして、先ほどの台詞である。


「いや、どうって……優秀な部下だと信頼して……」
「あ、そーいうの要らないですー。どう見てもスリムでスタイルのいい女が『あたしデブだからぁミニスカ似合わなくて恥ずかしい~』って言うムカつく謙遜より要らないですー」
「……君がそう言う女性が嫌いだってことはよーく分かったよ」
 カタリナ少尉らしい言いぐさだと苦笑する。そのまま笑って先ほどの話題を流してしまおうとしたが。しかし。酔っぱらいは逃がしてはくれなかったようだ。
「酒の席です。お互い腹を割って話しましょうよー、大佐。ね? で、リザのことどう思ってんです?」
「またそこに戻るのか……」
「戻りますよー何度でも! 私話題の蟻地獄って恐れられている女ですから」
「何だねそれは」
「いいから! リザのこと好き? 大好き? 愛してる? さーどれ? 答えて下さい。さんはいっ、」
「答えられるかっ。そもそも選択肢が一択しかないぞ!」
「ちっ、引っかからないか……」
「今、舌打ちした? ちって言ったか?」
「言ってませんよー、まさか。尊敬する上官にそんな不敬なことする訳ないじゃないですかー。それよりもっ。リザのことどう思ってんのか答えられないのって、あの子の背中のあれ、とかんけーありますぅ?」
 酔っている割に流れるように淀みなくしゃべる彼女から、結構な爆弾発言が飛び出して私は目をむいた。
「君、知っているのか!?」
「ええまあ。あたしとリザは士官学校時代からの親友ですし。学校の寮は同室だったんですもん。そりゃあ、知ってますよー。あの子からは口止めされてましたけど。……あ、言っちゃった。ま、いっか。だって大佐相手ですもんね?」
 いろいろとリザに関する情報をポロポロ暴露してくれた彼女は、ぺろっと舌を出して私を悪戯っぽく見つめた。……何だ。彼女にこう言う顔をされると嫌な予感しかしないのだが。まるで、悪魔に弱みを握られたような気分になる。
「あたし、びっくりしましたよー。大佐の手袋見たとき。だって、リザのあれと同じ模様があったんですもん。これで、リザとの仲を勘ぐるなって方が無理だと思いません? せん?」
 もーいろいろ妄想がはかどっちゃって。と彼女は口を滑らせる。
「ちなみにその妄想って、どんなだ……?」
「えーと、ですね。大佐がヤンデレでリザを独占したいがばかりに己の所有印を刻んだ……とか。実はあれはリザとの行為を盛り上げるための媚薬的な働きをするイカガワシい錬成陣だとか。……主にアダルトな方向で」
 ……頭が痛い。
「全然違うぞ。カタリナ少尉。君は私を誤解している。……あれはそのようなものでは……」
 あれをそういう風に思われるのは非常に遺憾だったので、深刻な顔で抗議すると。カタリナ少尉はケラケラと笑った。この酔っぱらいめ!
「いやだ、分かってますって、大佐。冗談ですよ、冗談。私、あの子から事情ちょっと聞いてますから。あの時のあの子の顔見てたら、そんなものじゃないって分かりますよ。あ、ちゃかしちゃって、すみません……」
 私の顔を見て、流石に下品だったと彼女はしゅんと反省をするようだった。だが、でも、と言葉を続ける。
「分かっているから、尚更大佐を問いつめなくちゃと思う訳なんです。あたしは。あの子の背中のあれに対して、大佐にも責任はあると思うんです。それなのに! ただの、部下としての信頼……で、片づけていいの? いいやっ、よくない!」
 一人反語できっぱりと言い切ると、カタリナ少尉は私を睨みつけて来る。
「さー、ちゃっちゃと吐いて下さい。大佐。あの子のことどーおもってんです?」
 流石話題の蟻地獄。質問が三度最初に戻った。
しかし、今度は私も逃げられない。カタリナ少尉はホークイアイ中尉の事情を知り、親友として彼女なりに真剣に中尉を心配しているのだ。それを知らされたからこそ、私も真剣に答えるのが彼女の真心に対する誠意というものだろう。
「大切な女性だ」
「好きですか?」
「ああ、好きだよ」
「大好き?」
「ああ、大好きだ」
「愛してる?」
「……愛している」
「結婚してもいい? ううん、結婚したい?」
「したいな」
 正直に気持ちを答えると、カタリナ少尉はうん、と頷いた。良かった。納得してくれたのだろうか。やはり、男として誠意を持って答えたのが良かったか。
 しかし。
「そーいうの、要らないですからー。そーいうんじゃなくて。あたしはもっと生々しい話が聞きたいんですー」
 ……せっかく素直な気持ちを吐露したのに、要らない扱いされた。
「なっ、君が聞いたんだろうがっ、私の気持ちを!」
「だってー大佐がリザのこと好きなんて、そんなの聞かなくても態度見りゃモロバレですもんね。そうじゃなくて。チューしたいとかぎゅっとしたいとかそういう具体的なのですよ、聞きたいのは。もういい年の男なんですから、そういうムラムラと無縁じゃないでしょ? さ、白状しろー!」
「い、いやだから……」
「男のくせにカマトトぶってんじゃない! 白状しないと、執務室のデスクの二段目の引き出しが二重底になっててその中にエロ本隠してることリザに言っちゃうから!」
「な、何故それを!?」
「あたしの情報網なめないで下さい。で? リザのことどうしたいんですか? ちゃんと言いましょうね?」
 やっぱり彼女は悪魔だった。しかも弱みも既に握られていた。
「……チューしたいです、で、押し倒したいです……」
 ああ、私まで下世話な酔っぱらいと同レベルに落とされてしまった……。敗北感でいっぱいである。
「つまんない」
 言わせておいて、この台詞。
「君が言えって言ったんだろう!?」
「……だってぇ、大佐。リザと同じことしか言わないんですもん。つまんないーぶぅーぶぅー」
「へ!?」
 なにげにまた爆弾落としてくれたな、この酔っぱらい。それもう少し落とせ下さい。
「リザも、大佐のことどう思ってんのか、聞いたらぁ、大佐と同じこと言ってましたぁ……、あ、何だか、ねむ……」
「カ、カタリナ少尉っ、その話もう少し、もう少し詳しく……!って、あ、こらっ、いい所で寝るんじゃない!」
「ん……大佐も、あんまり負い目とか遠慮とか……しないで、ガンガン……リザに迫ったら……いいんですよ……あの子だって……まっ……」
 さっきまで元気溌剌酔っぱらいだった彼女は、急に糸が切れたように眠り込んでしまった。おかげで私はそれ以上彼女の発言を追求出来ずじまいだった。
 が、これで良かったのかもしれないと思う。これだけ泥酔していれば、今夜のことをきっと彼女は覚えていないだろう。
 ……何だか、とんでもないことをたくさんゲロってしまって気がするので。まあ、これで良しとしておこうか。



 翌朝。
「大佐。どうしました? 顔色が悪いようですが」
「ああ、ちょっと二日酔いでな」
「もう。あまりお酒が強くないのですからいつも飲み過ぎないようにとあれほど申し上げておりますのに……」
「苦情なら、カタリナ少尉に言ってくれたまえ」
「レベ……カタリナ少尉に?」
「ああ、彼女と昨日偶然会ってね。彼女が酔い潰れるまで無理矢理に付き合わされたんだ。まったく、彼女は酔っぱらうと絡み酒だな。あんなに酒癖が悪いとは知らなかったよ」
「……カタリナ少尉のせいにしようったって、そうはいきませんよ。そんな訳ないじゃないですか」
「……へ? どういう意味だ? 私は確かに彼女と飲んで……」
「え? だって、彼女。底なしのざるですよ? 一見酔っているみたいに顔が赤くなりますけど、まったくの素面です。……酔い潰れるなんて、そんな、まさか」
 がくんと私の顎が落ちるのを、中尉が不思議そうに見つめている。
 そして。
 全てを知り、陥れられたのだと悟った私は心の中で大絶叫した。
 
 ………まったく! 君の親友何とかしたまえ!! 質が悪過ぎる!!

 
この先、あの食えない女性に弱みを握られ続けられるのかと思うと、私の胃は今にも穴が空きそうだったのであった。



END
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by netzeth | 2015-04-03 00:17 | Comments(0)