うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth
プロフィールを見る
画像一覧

お互いが大好きなロイアイの話


「裏は取れたか?」
「はい。こちらがターゲットからマークス社へと流れた情報のリストです。マークス社はこの情報により違法な入札を過去数回行っていますね」
「そうか、ではあとはターゲットを追いつめるだけか。出来ればマークス社の役員と接触している現場を押さえたいが」
「彼らが普段使用している会員制のクラブで次の接触が持たれる、と情報を得ております」
「よし、そこを押さえるぞ。ターゲットは軍の高官だ。軍内部に内通者がいないとも限らん。派遣する実行部隊の人選は君に任せる。絶対に信頼の置ける者を配置しろよ」
「イエッサー。心得ております、大佐」
「……流石我が優秀な副官殿だ。期待している」
 凛々しく返答をする女に、唇の端をつり上げて男は笑う。
「はっ!」
「ところで、だ。中尉。今回の作戦名(コード名)は君に任せよう。何かぴったりくるネーミングを頼む」
 その瞬間、周囲で彼らの会話を聞いていたマスタング組と呼ばれる野郎達は、「正気か!?」と耳を疑った。何を隠そうマスタング大佐の副官リザ・ホークアイ中尉のネーミングセンスは、予想の斜め上……が更に捻れてスクリューボンバーしているからだ。
「……では…「例の怪しい将軍を逮捕しちゃうぞ☆」作戦でどうでしょうか。☆がポイントです」
「そうか、分かった。君らしい簡潔かつ分かりやすいネーミングだな、感服したよ。だが、そのままでは長い上に機密性に少々問題がある。ここは略して、シューティングスター作戦でどうだろうか?」
 ちっとも略してねえ!! と周囲の野郎達は内心つっこんだが残念なことに声に出してつっこめる勇者は居なかった。
「なるほど、星――ターゲットを落とす……という意味にかけているのですね。流石です、大佐。☆の部分を採用して頂きありがとうございます」
 ☆しか被ってないロイの代案にリザは満足したようだった。
「それでは、私は早速強襲部隊の編成にかかります」
「うむ。よろしく頼む」
 綺麗な敬礼を決めて、リザは回れ右をするとロイの執務室を出て行った。後に残されたのはロイと、マスタング組野郎共。彼らは背筋のピンと伸びた美しい背中が扉の向こうに消えた瞬間、「来るぞ!」と身構えた。
 案の定。
「…………っっっっっかっわいい! なんて、可愛いんだ、ちゅーい!!」
 己のデスクの上で、上官がフルフルと身悶えていた。片手で顔を覆い、もう片方の手でデスクをだんだんと叩いて、彼は感動に打ち震えている。
「あの素晴らしいネーミングセンス! 作戦そのまんまを作戦名にしてしまうなんて、可愛すぎるだろ!? なあっ、なあっ!?」
 同意を求められて、部下達は一様に困った顔をする。正直あの珍妙なネーミングセンスを可愛いと解釈する上司の頭も半分スクリューボンバーだ。
「……大佐にかかれば、中尉の後れ毛や眉毛も可愛いんでしょうよ」
「甘いな、ハボック! ちゅーいの使った石鹸やストローも可愛いぞ!」
「うわぁ……」
 バカ正直なフュリーがどん引きしている。流石に真面目な彼も、こう毎回毎回の上司の部下バカ……ロイのリザバカに付き合っていると、上官への敬意というものを忘れるらしい。
「ああっ、なんてっ、なんっっっっって、可愛いんだ! ちゅーい! 私の天使だ!!! ラブ! 好きだ!! 」
「じゃー、さっさと告白して付き合っちゃえばいいじゃないですか」
 もっともなブレダのツッコミに、何をバカなことを! とロイが叫ぶ。
「そ、そ、そ、そ、そんなこと言える訳なかろーが!!」
「動揺しすぎですぜ。……今のラブってやつそのまま直接言えばいいだけでしょう」
「そうそう、俺らもいい加減、大佐が中尉のいないとこで中尉ラブ! って狂ってるの見るの鬱陶しく……いえ、焦れったく思っているんで」
「同感ですな」
 部下達の指摘に、ロイは顔を真っ赤にして口をぱくぱくと開け閉めさて。それから声を絞り出すように言った。
「そ、そんな……ちゅーいに、私が…告白!? まさか! いいか? ちゅーいの普段のあのクールな態度! おまえ等も見ているだろう!? あの、クールなちゅーいに、私が告白した所で結果は見えている……当たって砕けにいくようなものだぞ! ちゅーいは私のことなんか何とも思っていないんだ……」
「そんなことありませんよ! ホークアイ中尉は大佐のこと、大好きですよ!!」
「……フュリー。お前は本当にいい奴だな。私のことを気遣ってそんなことを言ってくれるのだろう? でもいい。彼女のことは私が一番よく分かっているんだ……」
「大佐、私も曹長に同意です」
「……ファルマン…お前まで……私は本当にいい部下を持った……」
 と、半分涙ぐみ始めたロイに、ブレダと顔を見合わせてため息をついていたハボックが言う。
「あー……それなんッスけどね? 大佐、実は……」
「失礼いたします、大佐」
 と、その瞬間。退室したはずのリザが再び司令官執務室に戻って来たので、それまでの話題を一同はぴたりと止めた。
「ただ今、ハクロ将軍がニューオプティンより到着したとのことです。グラマン閣下への御用向きで、閣下の執務室に事務官がご案内したのですが、グラマン閣下が急な腹痛でトイレに籠もってしまわれたそうで……閣下曰く、マスタング大佐を呼んで代わりに対応して貰いなさい、と」
 困ったように眉を寄せて言うリザ。彼女はもちろん、この場に居る一同はグラマンの仮病に気づいている。生真面目でお堅いハクロ将軍が嫌いなグラマンはさっさと逃げたのだと。
「やれやれ……グラマン閣下もタヌキなお方だ。面倒事をすぐに私に押しつけて下さる」
「……大丈夫ですか? 大佐。例の合同捜査の件かと思われますが……」
 ニューオプティン支部と東方司令部との間で持ち上がっているちょっとした問題。下手に合同捜査にしたせいで双方の方向性の違いから、なかなか解決をみなかった事件を、強引に東方司令部側で主導権を握り独断専行して、解決した件だ。東方司令部に全ての手柄を持って行かれた、とハクロ将軍はたいそうご立腹なのである。
「彼の何の捻りも無いイヤミなど、私にはそよ風みたいなものだ。まったく応えんよ。そもそも、我々軍人のメンツなど、事件を解決し市民の安全を守ることに比べれば、塵あくたに等しい。……その辺りを指摘してやれば品行方正真面目な将軍は分かって下さるさ」
「ですが……」
 またロイが要らぬ苦労をしょいこむことになるとリザの顔は晴れない。ロイはそんな彼女に心配するな、と笑みを向けた。
「……私を誰だと思っている? 中尉。私はどんな戦場でも負けるつもりはないよ。せいぜいハクロ将軍のイヤミをかわしながら、ニューオプティン側の有益な情報を引き出してみせるさ。では、行ってくるよ」
 言うやいなや、ロイは颯爽と執務室を出て行く。行ってらっしゃいませ、と声をかけるリザには背中がごしにひらひらと手をふって。

「……大佐も人使いの荒い将軍の下にいると、大変ですね」
「まあ、本人も人使いが荒いんですから、似たもの同士ですな」
 はははっ、フュリーとファルマンが笑い合っている。そこに口を挟んだのは意外にもリザだった
「でも、大佐はグラマン閣下を悪く言ったことはないのよ」
「そういえば、そうッスね。むしろ、あの二人、しょっちゅうチェスとかして仲良さげですもんね」
「トップ二人が不仲じゃ、司令部も締まらないですし、いいことですがね」
「……大佐はね、将軍が仕事を押しつけても、それは自分の成長の糧になる――いい経験をさせて貰っているんだといつも言っているの。それだけ自分を買ってくれている、期待してくれているってことだから、ありがたいって言っているのよ」
「へぇ……マスタング大佐って、やっぱりすごいんですね!」
 感心したようにフュリーが言うと、光速で傍らのリザがそう! と力一杯頷いて。その普段の彼女らしくない所作に、ああこちらも始まった……と、男達はその時思った。
「そうなの! マスタング大佐は、すごい人なのよ!! 普段はあんな風に不真面目な上官風だけどね、影でものすっっっっっごく、努力しているのよ? 水鳥は優雅に泳いでいるように見えて、実は水面下では一生懸命その足で水を掻いていると言うわ。……大佐はまさにそういう人なのよ……」
 うっとり、という形容詞が似合いそうな表情で、リザはほうっと息を吐き出す。潤んだ瞳で男を語るその姿は、まさに、乙女。
「……彼にかかればハクロ将軍なんて、小物だわ。きっと手のひらの上で転がして、適当にあしらって、骨の髄までしゃぶって、ニューオプティンの情報を将軍がカッスカスになるまで絞りつくしてくるに違いないわ」
「そうッスね……」
 この部屋の中には誰もリザに逆らえる人物はいないので。代表してハボックが熱の籠もらぬ相づちを打った。乙女モードリザは普段の何倍もよくしゃべる。そして、彼女のそんな姿を知るのは彼ら以外誰もいないのだ。
「さっきの作戦名を付けた時も! 私の案をあんなにも鮮やかに素敵なネーミングにしてくれて……大佐はセンスまで一流なのね……」
 一応、リザの考えたものよりはマシになったよなと一同は思った。が、やっぱり口には出さずに皆黙っている。懸命な判断である。
「ああ、マスタング大佐が上官で本当に幸せよね……私たち……」
「……そこに俺らを巻きこまんで下さい」
「何か言った? ブレダ少尉」
「い、いいえ? 何にも? ああ、そうだ、中尉。俺、いつも中尉を拝見していて思うですがね。……その中尉が大佐を慕う気持ちをこんどちょろっと伝えてみるっていうのはどうですかね? 大佐、喜ぶと思いますよ」
「そうですよ! 中尉に直接言われたら、大佐すごく喜びますよ!」
「そうッスねー! はりきって仕事もはかどりそうですし」
「だ、だ、だ、だ、だめよ! そんなこと言える訳ないでしょう!?」
「どうしてです? 中尉が今おっしゃっていたことをそのまま大佐にお伝えすればいいだけですよ」
 ファルマンのもっともな指摘に、リザは顔を赤くして動揺している。
「そんなこと…出来ないわ。いい? 大佐のあの普段の毅然とした態度! 私のことなんか、これっぽっちも頭にないわ。当然よ、彼の心は常に己の野望で燃えているんですもの。……きっと私が告白なんかしたら、これだから女は、と呆れられてしまうでしょう」
「そんなことありませんよ! マスタング大佐はホークアイ中尉のこと、大好きですよ!!」
「そうッスよ! マジぼれですから!」
「正直鬱陶しいくらいにな」
「そろそろ解放されたい……と言うか、見ていられないと言うか……いつも荒ぶっておりますね」
「ありがとう、みんな。私を励ましてくれて。……でも、いいの。大佐のことは私が一番よく分かっているわ……」
 
 いや、あんたらが一番お互いのこと解ってないから。 
 
 と、マスタング組野郎共一同は心中で同時につっこんだが、この声は残念ながら、当事者達には届かない。
「それに。告白して、あの人との関係が変わってしまうのは嫌なの……だから、このままでいいわ。……じゃあ、私は部隊編成作業が途中だから、行くわね」
 結局リザもマスタング組野郎共の話を信じることなく、執務室を退室していった。後に残された四人は一様にため息をつく。
「……なあ、写真……じゃあきっと信じないだろうから、こう動く絵を残しておける、映画みたいな機械ってないのかよ、フュリー。それで、お互いにお互いを誉めまくるあの姿をお互いに見せるんだよ。そうしたら、あの頑固な二人も俺らの言ってること信じてくれて、俺らの心労も減るってもんじゃね?」
「ハボック少尉……。残念ながら僕の計算によると、そう言った便利な機械が普及するのにはもう後三十年以上はかかると思うんです」
「マジか。じゃあ俺ら、後三十年はあの惚気を聞かされ続けるってことか?」
「そのようですな」
 はあ……っともう一度諦観の深いため息をつく、ハボック、フュリー、ファルマンの三人。それはあまりにもあんまりな気がしたので。彼らを半眼で眺めながら、ブレダはつっこんだ。
「いやいやいやいやいや、もう少し早く、あの二人がなんとかなるように俺ら、努力しようぜ??」 
「「「どうやって?」」」
「そりゃぁ……う~ん……」
 返す刀で問いかけられて、言葉に詰まる。これはどんな難攻不落の砦を攻めるよりも難問だ……と、ブレダは悩むのだった。 
 


END
*******************


[PR]
by netzeth | 2015-06-24 00:18 | Comments(0)