うめ屋


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by netzeth
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君と手を繋ごう

※子供ネタ注意




「この世の理が等価交換で表せるのなら、新しく生まれて来る世代が幸福を享受できるように。その代価として我々は屍を背負い血の河を渡るのです」

 ロイ・マスタングは愛する女性が言った言葉を忘れたことはない。元々自己犠牲的な所がある女性だったが、彼女のこの言葉は己がした非道をひどく悔いていた。悔いていたからこそ、真実彼女は願ったのだろう。次の世代には笑って幸せに生きて貰いたいと。

 だから。

 ロイは彼女の願いを叶えようと思った。力を尽くして祖国を真に平和な国にしようと思った。そして、同時に一つだけ彼女の言葉を裏切ろうと誓った。おそらく、この言葉を言い放ったあの時、彼女は自分の幸せなど念頭に無かったに違いない。軍に一生身を捧げ、国民に奉仕することにより過去の非道の贖罪をするつもりだったのだろう。
 
 それが唯一絶対正しい道と信じて。
 
 だが、そんな考えは間違っているのだ。あのエルリック兄弟が等価交換の法則を、十借りたら十一にして返すとして否定してみせたように。
 ほんの少し見方を変えれば世界は変わる。

 そうして、思いこみが激しくちょっぴり頑固な彼女にロイは示して見せることにした。ほんの少し、前だけでなく回りを見渡せば、また違う道が人生には拓けていることを。





 仕上げの香辛料を入れレードルでぐるぐるかき混ぜれば、スープから良い香りが立ち上った。そのまま火加減を調整し、ぐつぐつと煮立てていると背後から視線を感じる。その正体にとっくに気づいていたリザはくるりと振り返った。
「ふふ、お腹が空いたでしょう? お夕飯にしましょうか」
 するとキッチンの入り口付近でかたまっていた小さな影たちが、トタトタトタトタッとリザに近寄ってくる。
「お腹ついたー!」
「でも我慢だよ!」
「なの!」
「きゅーんっ」
 子犬を胸に抱えた双子の息子と娘を優しく見つめてから、リザは訊ねた。
「あら、どうして?」
「パパと一緒にたべるんだもん」
「パパといっしょ!」
「あらあら」
 まだ仕事から帰らぬ夫の名前が出た途端、リザは相好を崩す。
(あの人が聞いたら感激して、また泣いてしまいそうね)
 確か夫は今夜早く帰ると言っていたけれど。何と言っても責任ある立場にある彼は、予定通りに行かないことが多い。
 以前も子供たちはパパの帰りを待ってる! と言って眠らないで頑張っていたことがあった。だが結局、深夜に帰ってきた夫は眠ってしまった子供たちの寝顔を見ることになったのだ。
(あの人はそれで十分だったようだけれど)
 子供たちのいじらしさに夫が泣き出したことを思い出して、リザはふふふと笑ってしまう。きっと今夜も子供たちに迎えられ一緒にご飯を食べたいと言われれば、彼はとても喜ぶだろう。 
「おなかついたね……」
「ぱぱがかえるまで我慢だよ」 
 けれど、きゅるきゅるきゅるとお腹を鳴らし、ヨダレを垂らしている二人を見ているとついつい可哀想になってしまう。
「無理をしなくていいのよ?」
「大丈夫だよ!」
「だいじょうぶだもん!」
 声をかければ元気の良いお返事がかえってきた。だが二人ともいい匂いがするスープ鍋を、じーっとじーっと見つめていて。とても大丈夫なようには見えなかった。それでも、パパが帰るまでと一生懸命頑張る姿はとても健気で、なるほど、夫が涙してしまうのも分かる気がするとリザは思う。 
「そう、じゃあもう少し待ってみましょうね」
「うん!!」
 鍋の火を止めて、子供たちを伴ってリビングに戻る。
 そわそわそわそわ。
 パパを待つと決めたものの、そこはまだ幼い子供。パパが待ちきれなくて息子と娘はずっとそわそわそわそわしている。子犬を万歳の姿勢で抱き上げて、
「ぱぱまだかなあ?」
 なんて話しかける始末。
 子供につられて犬たちも何があるの? と一緒にそわそわしている。
(これは何としてもあの人に早く帰って来て貰わないと、ね) 
 プライベートで仕事の邪魔をするのは言語道断だが、夫に発破をかけるくらいは許されるだろう。
 リザは電話を引っ張ってくると、リビングのテーブルにおいた。
「まま、おでんわ?」
「ええ、そうよ。ママがパパがすぐに帰ってくるように、お電話をしてあげる。……これは魔法のお電話なのよ」
「まほう!」
「しゅごーい!」
 歓声が上がる。
 魔法という子供心をくすぐる響きに、瞳をキラキラ輝かせて寄って来る子供たち。リザは素早くダイヤルを回し、夫の執務室へと電話を繋いだ。


「ああ……早く帰りたい……」
「そう思うなら手をもっと早く動かして下さい」
「うるさい。……私の可愛い元秘書官の激励ならばやる気も出るが、野郎の声なんか聞いたって、頑張れるか」
「何言ってんスか、自分がはらませたんじゃないですか。無計画に。こっちはいい迷惑です」
「……燃やすぞ」
「あ~あ、出た出た。代わり映えしない閣下の脅し文句」
「くっ……面の皮だけ無駄に厚くなりおって……」
「当たり前ですよ。どんだけ長い付き合いだと思ってるんスか」
 呆れ顔で傍らに立つのは、愛しい元秘書官により後事を託された護衛兼お目付け役。私に意見するとはずいぶんと出世したものだな、ハボック……などと呟きながら、ロイはのろのろとペンを動かす。大総統になったからと言っていきなり書類仕事が得意になる訳でもなく、相変わらずのやる気のなさである。
「早く帰してくれ。私には愛する家族がいるんだ。世界で一番美しく優しく有能な妻と世界で一番可愛い子供たちがな。あ、写真見るか?」
「見なくたって知ってますよ。毎朝送り迎えの時に会ってるじゃないッスか。それに、お二人のデートの時、子供たちのお守りしてんの俺なんスよ? チビたちのことなんて、閣下よりも詳しいッスよ。知ってます? 今、お嬢がはまってんのはプリティプリンセス略してプリプリっていう変身ものの絵本なんですよ」
「……お前、うちの娘に手を……」
「今の会話をどう理解したらそうなるんすか。もうこの人、ヒューズ准将が乗り移ってるとしか思えねぇ……」
 お手上げとばかりにハボックは天を仰ぐ。天国の親友もまさかロイがこんな親ばかに変身を遂げるとは夢にも思っていなかったに違いない。
 と、その時。大総統執務室の電話が鳴り響いた。堂々とサボれる! と電話を取ろうとしたロイの手をはたき落とし、ハボックが受話器を取る。
「はい、大総統執務室……はい、はい……閣下、お電話ですよ」
「みろ、だから最初から私が取った方がよかっ」
「奥様からです」
 ハボックにグチグチと文句を言い掛けたロイだが、相手が愛する妻と知った瞬間光の早さで受話器を奪取した。
「もしもし!?」
 勢い込んで話しかければ、返って来たのは妻の声ではなく。代わりにきゃあっという可愛らしい笑い声であった。
「もしもし、パパぁ?」
 と、これは息子の声。そして、横から娘の声がそれに重なる。
「パパ、はやくかえってきてくだちゃい」
「パパとごはんいっしょにたべるんだ!」
 おまけにきゅーん、だのく~んだの愛犬の声も聞こえた。
「ということですので、閣下。お早くお願いいたしますね?」
 と、最後に妻の声がそう締めくくって電話は一方的に切れた。おそらく、執務中のロイにそれ以上時間をとらせたくなかったのだろう。
 しかし。
 彼女の狙いは彼女が思う以上の効果をもたらした。
 電話が終わった瞬間、ロイは別人になったかのように書類を裁き始めたのだ。その速度はハボック曰く、アメストリス軍に書類処理のスピードを競う競技があったら、永遠に伝説になれたくらいだそうである。 


「ただいま! 今帰ったぞ!」
 電話をしてからジャスト30分。中央司令部の執務室から自宅まで。きっとハボックに無理を言って車を飛ばさせたのだろう。
 出迎えたリザは夫が息を切らせているのに、苦笑を浮かべた。
 思ったよりもあの「魔法のお電話」の効果は抜群だったようだ。
 子供たちは本当に魔法のようにすぐに帰ってきたパパに、嬉しそうに抱きつく。 
「パパ、おかえりなさい!」
「おかえりなしゃーい!!」
「わんわん!」
「ただいま」
 腰を屈めたロイ頬に、娘と息子がお帰りなさいのチューをする。同時に飼い犬が飛びつく。大歓迎を受けてくすぐったそうにロイは笑う。
「さ、夕食の準備が整っていますよ。子供たちもお腹を空かせています」
 暖かいうちにどうぞ。子供たちと犬と戯れるロイをリザは促して、自らはキッチンへと戻ろうとした。
 ところが。
 ロイは動かず、ただじーっとリザを意味ありげに見つめる。パパのまねをして子供たちもじーっとリザを見つめてきた。
「……な、なんです?」
「何か、忘れているんじゃあないか? リザ」
 言いながら、ロイはちょんちょんと己の頬を指で指し示した。そこは子供たちにキスをされた場所。 
「ママ、忘れてりゅー!」   
 子供たちにまで言われてしまってはリザは観念するしかない。
 まったく、未だに妻にお帰りなさいのちゅーをせがむなんて。いつまでも新婚気分なんだから。
 少しだけ呆れながらもリザは、ロイに近づいて彼の頬に唇を寄せる。
 ところが。
 悪戯な夫はちょっと顔の角度を変えて、その唇で妻の唇を迎えたのだ。思わぬところで熱いキスをするはめになってしまい、リザは頬を染めた。
「ちょ、子供たちの前で!」
「いいじゃないか、仲良しってことさ」
 夫を睨みつけて叱るが、彼は悪びれない態度だ。
「パパとママ、ちゅー!」
「なかよし!」
「そうだ、みんな仲良しだ」
 夫が娘と息子と笑いあっているのを見れば、リザはそれ以上何も言えなくなってしまう。
「もうっ……仕方ありませんね」
 だから、リザも愛する者達を見つめて優しく微笑むのであった。

 
 


END
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ロイアイには幸せになってほしい。
なんか幸せなロイアイを書きたくて。







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by netzeth | 2015-09-10 22:58 | Comments(0)