うめ屋


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by netzeth
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シンプル

コトを終えると男は女に興味をなくすと言うが、彼――ロイはいつまでも自分に構いたがる。彼が特殊なのか、はたまた世間の認識が間違っているのか。ロイしか知らないリザには分からないが、少なくとも優しく触れられるのは嫌いではなかった。
「髪……短くなってしまったな」
 髪を撫でていたロイの手が一瞬止まる。声には隠しきれない名残惜しさが滲んでいて。うっとりと男に身を任せていたリザは顔を上げた。
「短いのはお嫌いですか?」
「……いいや。短かろうが長かろうが君は素敵だよ。ただ……」
「ただ?」
「君は突然髪型を変えるから。その度に私は心穏やかじゃない」
 思わぬロイの告白に、リザは新鮮な驚きを味わう。たかだが髪型を変えるだけの女の行動に、彼が一喜一憂しているとは思ってもみなかった。女性相手に臆面もなく、似合うね、素敵だよ、と誉め言葉を贈るこの男が。
「そんな、髪くらいで大げさですよ」
「大げさなものか。髪は女の命と言うだろう。私の経験上女性が髪型を変える時は何かしら心境の変化があった時だ」
「…………」
 大真面目にそう指摘するロイに、リザは沈黙した。
 何故なら、ある意味それは正解だと思ったからだ。確かに、リザが髪を伸ばしたのも切ったのにも理由があった。
「……以前、君が髪を伸ばし始めた時、私は何故と尋ねたな?」
「はい」
「君はこう答えた。……リゼンブールで会った女の子を見て、伸ばすのもいいと思ったから、と」 
「その通りです」
 頷きながらリザは過去を思い起こす。
 リゼンブールで出会った少女――ウィンリィ・ロックベル。今は母となった彼女を見て、リザはロングもいいと思ったのだ。
 それは実にシンプルなきっかけであった。実際、親友にシンプルねと驚かれたのも覚えている。
「私は君らしいシンプルな理由だな、と笑った」
「ええ、そうでしたね」
 もちろん、それも記憶している。あの時、ロイは何故か安堵したかのような笑みを浮かべていた……。
「だがな、きっとそれだけじゃ無いのだろうとも思ったのだよ、私は」
「え?」
 思わず聞き返せば、ロイが言葉を続けた。ぴったりとくっついているので、彼の低い声が直接身体の内に響いて来る。とても心地が良い。
「その女の子……とはウィンリィ嬢のことだろう? あの子を見て、君が何を思ったのか想像は難くなかったよ」
 確かに、ロイならば簡単にリザの胸のうちなど読んでしまっただろう。
 心の中で首肯しながら、リザは思う。
 あの頃のリザはがむしゃらに己の道を邁進していた。ロイを護り彼を上に押し上げるため、自分がその礎となるのも辞さない覚悟でただひたむきに。自分のことは後回しにし、国民のために国に尽くすことこそ罪滅ぼしになるのだと信じていた。
 だからこそ、リザの目には兄弟を思って泣くウィンリィが眩しく映ったのだ。自分の気持ちを素直に吐露し、連れて行かないでと願った彼女。ともすれば、相手の都合を考えぬ自分勝手とも取れるわがままだ。
 けれど、リザにはその子供らしい純真無垢さが羨ましかった。
 だから、髪を伸ばした。少しでも自分の気持ちに素直になれたら……頑なな自分を変えられたらと思ったのだ。
「それが、どうだ。君は急に髪を切ってしまった。今度は一体どんな心境の変化だ?……私は君に振り回されっぱなしだよ」 
 やれやれ……とロイがぼやく。自分の髪型一つをそこまでロイが気にかけていたとは思わず、リザは驚く。そして、ロイが分からないと首を捻るのをおかしく思った。 
 リザが髪を切った理由は、伸ばした理由と同じにシンプルだったからだ。
 ……もう、外見だけ似せて願いをかけるようなまねをする必要がなくなったというだけ。
 ロイに心も体も預けて、リザの想いは昇華された。
 もう、あの少女を羨む必要はなくなったというだけだ。リザはリザだ。自分の想いを大切にし、自分らしくあればいいだけ。髪型など関係ない。
「なあ? 今度はどういう訳で髪を切ってしまったんだ?……もういいのか?」
 彼と褥を共にする程に自分の気持ちを素直に受け入れられるようになった今は、もういい。
 しかし、それを素直に口にするのは流石に照れが勝って。代わりに行動で示すことにする。
「ん」
 身体を起こして、ロイの頬に優しく手を添えた。愛しい唇に己のそれをそっと落とす。重ねたそこから、心が伝わるように。
「んん……」
 ロイの手が持ち上がって、リザの後頭部に当てられた。それから再び髪をなで下ろしていく。優しく何度も何度も金の糸を梳いた。
「……長いのがよろしければ、伸ばしましょうか?」
 唇を離して、至近距離で見つめ合う。ロイの黒い瞳をのぞき込んで、リザはその真意を探ろうとした。
 男の趣味に合わせたいと思うほどには、リザにも女心がある。そういう素直な自分を今は許せるようになっていた。
「そうだな。だが……長いのもいいが、セミロングも良かった。変わっていく君の魅力にずっと私はやられていたよ。……結局、君ならば私はなんでもいいみたいだ」
「……もう。そんなこと言われて、私はどうすればいいんですか」
 ベッドの上にいてさえ恥ずかし過ぎるロイの台詞に、リザは改めて頬を染めたのだった。 




END
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by netzeth | 2016-02-14 21:05 | Comments(0)