うめ屋


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by netzeth
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送別会

 騒がしいのは得意ではないが、たまにならいいかもしれない。
 貸し切りにした馴染みのバーは、賑やかな喧噪に包まれている。ジョッキを片手に歌を披露する者、テーブルで腕相撲勝負を始める者達、淡々と飲む一団に、話が盛り上がり豪快な笑い声が上がるグループ……。
 今は東方司令部の異動者送別会の真っ最中。気心がしれた仲間と過ごす心地よい時間である。
 送られる側…つまりは宴の主役の一人でもあるリザは、先ほどまでは皆に混ざって酒を飲んでいたが、小休止したくなりバーカウンターの端へと避難してきていた。
 酒は嫌いではないし強い方だと思うが、酒に飲まれるのは好まない。まして守るべき人がいる今の自分には。 
 一際賑やかな界隈に視線を送る。屈強な軍人達の中心にいるのは、リザの上司殿だ。彼は次々につがれる杯を、負けるものかとがぶがぶと飲み干していた。
 たいして酒に強くないのに、無理をする。
 年若い彼――ロイが、ああやって年上の部下達に囲まれて飲まされるのは飲み会では恒例行事だ。酒豪の彼らは、国家錬金術師であり戦争の英雄であり、若手の出世頭であり切れ者でありまた女性にもモテる……そんなロイが酒には弱いという事実を面白がっているのである。
 彼ら曰く、我らのボスにもかわいげがあって良かった、という訳らしい。
 「お前等いい加減しろ! 私を潰す気か!」
 と、ロイが叫んでいる。おや、とうとう彼にも限界が来たらしい。遠目でぼんやりとロイを眺めていたらば、彼はきょろきょろと首を巡らせて何かを探している。やがて、リザと視線がかち合うと。
 見つけた。
 確かに彼の表情がそう言った気がした。
 ぱああっと、顔を輝かせたロイはリザの居る場所へと一目散に向かって来る。
 ……貴方は母親を探す子供ですか。
 そんな感想を抱いていると、近寄ってきたロイは断りもなくドカッと隣に腰を下ろした。
「まったく、あいつら私を何だと思ってるんだ……」
「大佐だと思っているのでは?」
「………それにしては、敬いが足りんと思わんか!」
「そうですか? 彼らなりに大佐を慕って別れを惜しんでいるのかと。……多少手荒いですが」
「加減を知れっ!」
 愚痴るロイの顔は真っ赤だ。まだ意識はあるようだが、だいぶ酔いが回っているらしい。
「お水要ります?」
「くれ。……いや待て、やっぱりいい」
「どうしてです?」
「……負けたようで悔しい」
 妙な負けん気を発揮するロイに、リザは呆れると同時に微笑ましくも思う。こういう所が部下達にからかわれつつ愛される所以なのだろうか。 
「そうですか。では、ほどほどになさって下さいね。明日もまだ引き継ぎが残っているんですから」
「……それはあいつらに言ってくれ。上司を酔わせるのもほどほどにしろとな」
 むうっと口を尖らせるロイに、リザは指摘してやった。
「……みんな寂しいんですよ、きっと」
 配属されてから、ずっと一緒に頑張って来た仲間達だ。ロイやリザとはイシュヴァールから付き合いがある者も大勢居る。戦友達と数多の修羅場をくぐり抜けてきた。時にぶつかり合いもした。その度に衝突を乗り越えて、彼らとの信頼関係はより強固なものになっていった。
 そんな彼らに別れ告げて、セントラルという魔窟にロイ達は挑む。軍上層部は一筋縄にいく相手ではない。今までのように自由に動けなくなるだろう。周りは敵だらけ、グラマンのように庇護し厚遇してくれる上官がいる保証もない。
 けれど、ロイは行く。己の夢のため、果たしたい願いがあるから。リザに出来ることはそんなロイに付いて、彼を支え、守り抜くこと――。
 脳裏を掠めるのは、別れの儀式と泣く子供だ。パパを埋めないでと母親に訴えていた幼子――。
 不意につい最近に起こった悲しみを思い出して、リザの胸は痛む。
 ロイを守ること…そして、彼女たちのように悲しむ者を無くすこと。それが自分にかせられた使命だとリザは強く心に刻んだ。
「う、うむ…そ、そうか……?」
 照れる様子のロイにすかさず言ってやる。
「はい。大佐、で、遊べなくなるのが」
「でって、何だ! でって!!」 
「そのままの意味ですが?」
 上司の威厳を何だと思ってるまったくあいつらにはデリカシーというものがない! と憤るロイを見て、リザはくすくす笑う。
 ロイは誤解しているが、部下達は押さえるべき部分はちゃんと押さえて、心得ている。
 
 知っていますか? 大佐。私と貴方が2人で居る時は、皆必ずそっとしておいてくれることを。
 
 皆で示し合わせて、周囲には誰も近寄って来ない。まったく余計な気を回すものである。
 こんなおせっかいとももうさよならだと思うと、リザの胸にも寂しさがこみ上げてくる。
 夢の実現ための異動であるけれども、彼らとの絆はたとえセントラルに移ろうとも分かちがたいものだ。
 いつか、きっと。この絆がロイの、リザの力になってくれるだろう。
 そんな予感をひしひしとリザは感じていた。
「さ、みんなが待っていますから、行きましょう? 私もそろそろ戻ります」
「……もう少し君と居たいと言ったら?」
 こんな時ばかり酔いの覚めた瞳で見つめてくるから。今度はリザが頬を染めた。たいして飲んでいないのに、まったく。この人に酔わされてしまったようだ。と心中で毒づく。
「……それは、この先いくらでも時間はあるでしょう」
 自分はずっとロイのそばに居るのだから。
 こんな恥ずかしい言葉を言わせた元凶をにらみつけながら言えば、彼は途端に機嫌を上向かせた。
「そうか……そうだなっ!」
 うんうん、と何やら大納得しているロイは見ているだけでも面はゆい。いいからお早く! と急き立てることでリザは己の感情を誤魔化した。

「あー! 大佐~どこに行ってたんですかー! ほらほら、飲んで飲んで! 大佐が中央に行っちゃったらあたし、寂しいし、困りますぅ~!」
「カタリナ少尉、そ、そんなにか?」
「ええ! だから、寂しい私にぜひぜひセントラルのエリートイケメンを紹介して下さいね!」
「それが目的か!!」
 
 周囲に笑い声が満ち、暖かい空気が人々を包み込む。
 悲しみは多い、未来は常にどうなるか、分からない。
 だが彼がいて、みんないる。だから、どうにかなるだろう。
 明日への不安を吹き飛ばしてくれる明るく優しい時間。それをもうしばらく楽しむために、リザも仲間の輪の中へと戻っていった。



END
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東方のみんなとはとっても仲良しだったと想像してます。
別れの儀式は悲しいものだけじゃなくて…みんなにこういう時間もあったらいいなあと思います(^^)




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by netzeth | 2016-03-10 00:50 | Comments(0)