うめ屋


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by netzeth
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寝物語

 熱い時間を終えた後の体が冷えていく過程は嫌いではない。火照った体が完全に温度を下げる前に、するりと彼女の腰に腕を巻き付け抱き寄せることが出来るから。抵抗する間もなく再び腕の中に閉じこめられて、彼女は切ない吐息をこぼす。心地よい体温を堪能していると、不意に胸板に手をおかれ、ぐいっと押された。

「……鬱陶しいです離れて下さい」
「つれないことを言うなよ」

 真冬だと言うのにくっつくことも許されないとは。つくづく恋人の生真面目さに私は感心する。彼女の強固な理性は、公私の区別を常に厳格に線引きしている。故に、プライベートであってもラブラブ……恋情に耽溺することを彼女は自分自身に許さない。いつか、押さえきれなくなって表に出てしまうことを恐れているのだろうか。
 それは逆に私への恋情の大きさを物語っていて嬉しいのだが……こういう時はやっかいだ。ベッドの中でくらい、恋人に寄り添っていたい。
 だから、渋々彼女を解放し代わりに妥協案としてそろりと手を伸ばす。そうして彼女の手を握った。一回り小さいそれに指を絡ませ、柔らかな肌の感触を味わう。
 今度は互いの体温を分け合っても、彼女は何も言わず、ふりほどこうとはしなかった。それどころか、少し嬉しげにぎゅっと私の手を握り返してくる。
「君は私の手が好きだな」
 思わずそんな感想が口を突いて出た。
 彼女はいつも、べたべたくっついたりキスするのは怒る癖にこうやって手を重ね絡めるのには寛容だ。それどころか望んでいるふしもある。
「……そうですね」
 てっきり反論が返ってくると思ったが、驚いたことに肯定された。思わぬことに驚きを隠せない。
「意外ですか?」
「ん? ああ……」
 意外だったのは素直な彼女の反応だったのだが。
 動揺した私に気づいたのだろう。彼女がくすりと笑みを漏らす。こう、近くにいては隠すものも隠せない。そもそも私は彼女に感情を隠すのは昔から苦手だ。いつだって本心を見抜かれてしまう。
「この焔を生み出す……破壊と死を振りまく手が好きか」
「好きですよ。暖かくて、大きくて……皆を守ってくれる優しい手です」
 言いながら彼女は私の手を持ち上げる。そのまま顔に持ってくると、愛おしげに頬摺りをした。こちらが気恥ずかしくなるような穏やかな表情で。
 スキンシップを極力避けようとする彼女にこのような行動に出られて、余裕ぶった態度が崩される気がした。熱くなる頬を誤魔化すように、私はぶっきらぼうに言った。
「か、からかうのはよしたまえ……」
「からかってなどいません。私はいつだって、本気ですよ。なにせ、裏表の無い性格をしているもので」
 澄まし顔で言って、彼女は続ける。
「本当は私が独占したいくらいですよ。ずっと私だけのものにしたい……」 
「そうしようか? 今すぐにでも。君だけのロイ・マスタングにすればいい」
 あまりそういうことを口にしない彼女の、熱烈とも言える求愛に思わず口が滑った。彼女の左手の薬指の付け根にキスを贈り、意味する所を伝える。だが、ゆっくりと彼女は首を振った。
「まさか。貴方にはなすべきことがあるのをお忘れですか? 准将」
 ことさら強調されて言われた階級呼びで、彼女が言わんとすることを悟り私は沈黙する。
 イシュヴァール政策はまだまだ始まったばかり。これから、より日々は苛烈になっていく。彼女と一緒になるなど状況が許さない。分かっている。だが、ちょとだけ夢を見たかっただけだ。互いに手を取り合って、お互いを独占する生活。自分自身の幸せだけを考えていい生活……そんな夢を。
「……すまん、今言ったことは忘れてくれ」
「ええ、聞かなかったことにしておきます」
 心得たように彼女が頷く。我ながら有能な恋人をもって幸せだ。おかげでこれを、ベッドの上だけの男と女の戯れ言、寝物語……そう言ったたぐいのものとして片づけることが出来る。
 だが。
 次の瞬間真っ直ぐな鳶色の瞳が私を射抜いて、息を飲む。
「准将、私は。気は長い方なんです」
「何?」
「……だから、貴方の手を独占出来る日が来るまで、何十年だって待っていますから」
「馬鹿者。……もう少し早く、何とかする」
 憮然と言えば、くすくす笑った彼女がまた私の手を頬に擦り付ける。
「ですけど。今でも……ここで、だけは……私のものでよろしいですか?」
「もちろんだ」
 力強く頷けば嬉しげに彼女がまた微笑むから。我慢出来ず私はその額に優しいキスを落としたのだった。



END
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by netzeth | 2016-08-21 23:57 | Comments(0)