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4つの青

フリーワンライ参加作品です 




司令官執務室には小部屋が付属している。普段は資料用の物置となっているが、ロッカーに赴くのが面倒な場合着替え部屋として使う時もある。中は真四角の空間に棚や段ボール箱が所狭しと置かれており、人が二人並んで立つのがやっとと言ったところだろうか。
「こんなに狭い場所で二人きりだなんて、緊張するよ」
 鼻孔をくすぐる良い香りは、おそらく彼女のうなじから匂っているに違いない。眼下では金色の髪が揺れていた。
「何故狭いと緊張なさるので? 閉所恐怖症の気でも?」
「……何でもない」
 真顔で返されると結構へこむ。
 資料を探す彼女を手伝う目的で一緒に部屋に入ったはいいが、不埒な期待はすぐに打ち砕かれた。勤務中にこんな期待をする私の方が間違っているとは分かっているが、もう少しこう……他の反応があってもいいと思うんだ。
「情緒がないなあ……」
 思わずぼやけば、冷たい視線を当てられた。
「こんなほこりっぽい場所で、何をお考えで?」
「ほら……荷物に足を取られた君を助けようとして一緒に転んで……急接近☆ みたいな?」
「☆がうざいです」
 何を言っても彼女――ホークアイ中尉はにべもなく、淡々と資料ファイルを当たっている。
「口よりも手を動かして下さい。手伝って下さるのではないのですか?」
「……はい」
 なんてどっちが上司か分からないようなやりとりをしつつ、私たちは大方の資料を集め終えた。
「さ、早く戻って仕事の続きを」 
 近くにいるのに、こんなにいい匂いなのに手を出せないとなるとそろそろ理性が危うくなってくる。
「そうだな」
 同意してドアノブに手をかけた時だった。




「あれー? 大佐いねーぞ?」
「本当ですね、中尉も見あたりません」
「もう視察にお出かけになってしまったのでしょうか……」
「大佐に一仕事してもらってから出るって言ってたのにな」




 扉の向こうから聞き覚えのある声が4つ。半分開きかけたドアからそーっと覗けば、4つの青が視界に映る。言わずと知れた私の直属の部下たちだ。別にこそこそする必要はないと言うのに、何となく出づらくなって私はそっと扉を閉じた。
「大佐?」
 背後で中尉が私の行動に首を傾げている。その様子を見て、ああと私は自分の心理を理解した。二人で一緒に出て行ったら何を言われるか分からない……おそらく本能的にそんな心配をしたのだ。





「あ! 見ろよ、仕事終わってないぞ。大佐、まーたサボったのか?」
「本当ですね……」
「もしや集中出来ないから、早めに外に出たのでは?」   
「あの人むらっけあるからな」
「雨の日でなくても、無能かよ」
 

 
 そこで一際大きな笑い声が上がり、私の血圧も上がった。
 人がいないと思って勝手なことを!
 苛立ちから反射的にドアを開けて飛び出そうとした。が。
「ぐえっ」
 後ろから襟首を思いっきり掴まれて、息が詰まった。振り向けば、無表情な中尉と目が合う。
「何をするのかね……」
「いえ、大佐。これは良い機会ではないかと思いまして」
「良い機会?」
「はい。この際ですから部下の忌憚の無い意見を聞いてみては?」
 彼女の言わんとすることを理解して、私は渋い顔をした。
「でもなあ……あいつら、放っておいたら私の大悪口大会始めるぞ?」
 流石にそれは気分が良くない。しかし、中尉はあくまでも生真面目に言う。
「不満や悪口を聞いて、態度を改めるのも上官の務めですよ」
 気は進まないが、彼女にそこまで言われては仕方なく。私は中尉と共に息を潜めて、扉向こうの会話に耳を傾ける。





「大佐もなー他のおっさんたちみたいにうるさいこと言わないのはいいけどさーそういうとこちゃんとして欲しいよなー」
「だな。デートばっかりしてないで、俺らと残業デートしろー」
「私の記憶している限り仕事が終わってないのにデートに行った回数は今年に入って、13回ですな」
「ええっ13回も!?」





 弁明しておくが私のデートは情報収集のためのデートであって、断じて女遊びではない。だが、後ろから突き刺さってくる鷹の目の視線が痛い。
「中尉、分かっていると思うが……全て情報収集のためだぞ?」
「ええ、存じております。ですが、私が話を聞いているのは12回だと記憶しておりますが。……あと1回は?」
「そ、それは……っ、君がたまたま非番の日で…っ、ちゃんと情報収集に行ったぞ!?」
「そうですか。それは失礼しました。それから、私は別に情報収集であるか、女性とのデートであるか、を問題にはしてません。……仕事を終わらせずに行ったということを問題視しているのです」
「ああそう……情報を得るために後回しにしただけだ。ちゃんと全部片づけている」
「へえ……」
 ……不満があるならちゃんと言ってくれ。怖いんだが。
 と、私がピンチに陥って間にも彼らの上司への不満大会は続いている。




「それじゃあ仕事を終わらせて行ったデートも合わせると何回になるんでしょう……?」
「どうりで。最近、同期がいいなって目を付けてた子、大佐にとられたって言ってたんだよな」
「本当ですか? それは穏やかではありませんね」

 

……おい、お前等それ以上私を追いつめるな、燃やすぞ。怖くて中尉の顔が見れないじゃないか。




「ですね……これじゃ中尉も大変です……」
「だな」
「だがな、俺は、思うんだけどな、大佐のことはある意味中尉にも責任があると思うぞ」
「どういうことです?」




 ふっと中尉からの視線の圧が緩む。言及されたことで、彼女も多少は驚いたのだろうか。まあ、中尉も彼らの上司であるからして、不平不満をぶつけられる側でもある。私と同じと言うわけだ。
 だが私は中尉が悪口を言われるとは思えない。完璧な彼女に彼らは一体何が不満だと言うのだろうか。




「だってよ、大佐が中尉に惚れてるのなんて丸分かりだろ。それで、中尉だって満更でもない。でも普段はあんなだから大佐も寂しくなってデートに行くんじゃないか?」
「ああ、あり得ますね」
「ちょっと…分かります……お二人は時々ドキっとすることを平然とやられるので、こちらが恥ずかしくなるというか……」
「分かる分かる。大佐の髪や服装整えてやったり、時々手作りのサンドイッチ差し入れてたりな」




 そうのなのか!? あれ、市販品だと思っていたぞ。
 すぐにでも彼女に確認したかったが、振り返ろうとした私の頭を何故か彼女が両手で固定していて。
「ぐえっ」
 首がぐぎっと変な音を立てて痛んだ。振り返って欲しくない……ということか? 




「まったく、あの二人さっさとくっついて欲しいよなー。そうしたら大佐も真面目になるし、俺らも気を使わなくてすむし、幸せだし、いいことづくめだろ?」
「「「同感」」」




 最後にそう会話を結んで、彼らは部屋を出ていくようだった。中尉の手がストンっと頭から落ちる。私は満を持して振り返ると、にやりと口角を持ち上げた。
「……さて、彼らの不満を受け入れて…態度を改めるかね?」
「……知りません」
 悔しそうに私を見つめるその顔は赤く染まっていて。こんな顔を私に見せてくれた彼ら4つの青に秘かに感謝しつつ……私はそっと手を伸ばし彼女に触れるのだった。





END
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by netzeth | 2016-10-23 00:06 | Comments(0)