うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth
プロフィールを見る
画像一覧

花言葉

「これを私に?」
「ああ! 君にぴったりだと思って、明るくて綺麗な色だろ?」
「ありがとうございます……マスタングさん」


「なあ、中尉はプレゼントに何を貰うと嬉しい?」
東方司令部にやって来ていたエドワードが発した唐突な質問に、リザはお茶を用意していた手を止めてエドワードを見返した。珍しく弟のアルフォンスを連れずにやってきたエドワードは、生憎ロイが会議中だったため彼を待っているところだ。
「プレゼント?」
「そ、プレゼント」
エドワードは伺うようにジッとリザを見ている。リザはエドワードの意図は何だろうと考えて、そして、直ぐにピンと来るものがあった。
「もしかして……女の子にプレゼント? あ、あの幼馴染みの……ウィンリィちゃん?」
「な、何言ってるんだよ!」
どうやら図星らしい。
エドワードの幼馴染みのウィンリィとは、ずいぶん前に一度会ったきりだが、今頃はきっと綺麗に成長しているだろう。どうやらエドワードは彼女にプレゼントをしたいらしいが、何をプレゼントしたらいいか分からなくて、女性であるリザに聞いたのだろう。
「エドワード君が選んだものなら、何でも喜ぶんじゃないかしら?」
「そんな事ないぜ、この前買っていった、カッコいいブローチの反応微妙だったしなあ」
「どんなブローチだったの?」
「こう、髑髏にトゲトゲがついてて……」
「……分かったわ」
エドワードのセンスで選ぶと、どうも問題ありらしい。それならば、とリザは代案を提案してやることにする。
「お花なんかどうかしら」
「花? そんなんで喜ぶのかなあ」
「あら、女の子は誰でもお花を貰うと嬉しいものよ」
……花ならば、エドワードのセンスも関係あるまい。
「ふ~ん、でも花って言ってもいろいろあるだろ?」
「そうね……ねえエドワード君。花言葉って知ってる?」
「それくらいは知ってるよ」
うふふ、とリザは悪戯っぽく笑って。
「花を選ぶ時はね、花の見た目だけじゃなくて花言葉にも気をつけないといけないのよ。じゃないと後で後悔するわ」
「もしかして、体験談?」
「……昔、ね」


ロイに貰った花を花瓶に生けたのは良いが、数日経ってさすがに少し萎れてきた。長持ちするように砂糖を入れておいたがもう限界だろうか。せっかく貰った花を処分してしまうのは嫌だ。どうしたらずっと残しておけるだろうかとリザは思案して。ドライフラワーにしたらどうだろうと思いついた。
そうと決まればまだ綺麗なうちに作ってしまおう。
そうして手早く花を紐で束ね、風通しの良い日陰に吊したところで、リザは後ろから声をかけられた。
「リザ……」
「マスタングさん?」
振り向くとどこか元気のない様子のロイが立っていた。
「その……この前あげた花の事なんだけど……」
「あ、はい。ずっと残しておける様に今ドライフラワーに……」
 吊るしたドライフラワーを指さすが、しかしそんなリザの仕草などロイは目に入っていない様だった。そして、思い詰めた表情で叫ぶ。
「な、無かった事にして欲しいんだ! その、本当に知らなくて……」
「え?」
「俺はそんな事絶対思ってないからっ。……まさか色が違うとあんな花言葉になるなんて知らなくて……」
「花言葉?」
「と、とにかくゴメン!」
せっかくドライフラワーにするために吊した花を見て貰おうと思ったのに、ロイは自分の言いたい事だけ言うと部屋を出ていってしまった。
「……どうしたのかしら……」
普通でなかったロイの様子が気になる。花言葉がどうとか言っていたけれど。
理由を突き止めたくて、その後すぐにリザは街の本屋に行き花言葉に関する本を手に取った。
「え~と……あ、あった」
ロイに貰った黄色いカーネーションの花言葉は。
『軽蔑』
確かにそう記されていた。


「ははは! 誰だか知らないけど、間抜けな奴だな!」
リザの昔話を聞いて遠慮なくエドワードは大笑いする。
「そうね……花をくれた人はずいぶん落ち込んでいたみたいだったわ。同じ花でも色によって花言葉が違うから、エドワード君は気をつけないとダメよ」
「分かってるって、俺はそんな間抜けじゃないからなー」
ふんっと胸を張ったエドワードの頭が叩かれたのは、その時ことだった。
「鋼の。軍部はお前の喫茶室じゃないぞ」
振り向いたエドワードの視線の先に、いつの間に戻ってきたのかロイが立っていた。お茶を飲んで寛いでいるエドワードが気に入らなかったらしい。彼はむすりとしてご機嫌斜めな様子だ。
「誰かさんが居ないのが悪いんだろうがっ」
早速噛み付くエドワードを煩そうに見て、
「話は私の執務室で聞く。ほら、とっとと行きたまえ」
ロイはエドワードを顎で促した。まだブツブツ文句を言いながらも本来の目的を思い出したのか、エドワードは大人しく部屋を出て行く。
ロイもエドワードに続いて出て行くかと思ったが、彼はその場に止どまって、無言でリザを見た。への字に曲げた口が不機嫌ですと主張している。それがロイの拗ねている時の癖だとリザは知っていた。
「どうしたんです?」
「……間抜けで悪かったな」
「……! 聞いてらしたんですか」
「入ろうとしたら、君があの話をしているのが聞こえたんだ。入るに入れなかった」
何も鋼のにしなくても良いだろう……不本意そうに言う様がロイの顔があまりに子供っぽくて、リザは思わず笑ってしまった。
「何がおかしいんだ!」
「すいません……。でも、大佐。私は人生の先輩としてアドバイスしてあげただけですよ? だって、花言葉を知らないとあんなに落ち込む事になるんですから」
――あの時のロイのションボリした姿は忘れられない。
「あ、あれは、若気の至りってやつだ! もう忘れてくれ! 今の私はそんな事ないからなっ。そうだ、その証拠に今度中尉に花をプレゼントする」
 むきになってロイはそんな事を言い出した。それにリザは苦笑しながらも釘を刺してやる。
「赤薔薇とかベタなのはやめて下さいね」
「うっ、わ、分かった。君にぴったりの花を贈るよ」
「楽しみにしておきます」
……実を言えば、あの時の自分は花言葉なんてどうでも良くて、ただロイが自分に花を贈ってくれた事が嬉しかったのだけども。
さてどんな花を贈ってくれる事やら。
早速悩む様子のロイを見やって、リザはそっと一人微笑んだ。




END
**************************
[PR]
by netzeth | 2010-01-29 21:08 | Comments(0)

風邪にいちばん効く薬

自宅のドアを開け、中に入ったところでリザは力尽きた様に膝をついた。
―――朝から悪かった体調が悪化したのは昼過ぎの事だ。よりにもよって上司、ロイ・マスタング大佐の目の前で倒れてしまったのは不覚だった。直ぐに立ち上がって大丈夫だと主張したが、聞き入れられる訳もなく、即刻の早退を命ぜられた。
アパートの前まで送ってくれたハボックが部屋まで付き添うと言うのを断り、何とか部屋までたどり着いたはいいがそれがリザの限界だった。
身体が重い。手足が自分のものではない様にいう事をきかず動かない。何もかもヒドく億劫でリザはそのまま俯せになった。
「ク~ン」
愛犬の声が聞こえ、頬にペロペロと舌の感触がしたが、リザはもう腕を持ち上げてその頭を撫でてやる事もできなかった。
「だい……じょうぶよ……ハヤテ号……少し休めば……良く、なるから……」
そして、リザはそのまま目を閉じて、意識を手放した。


寒い。寒くて仕方がない。とても寒いの。そう言うと、急にふわりとぬくもりを感じた。
何だろうこれは? とても不思議だったが、あんまり気持ちが良かったので、リザはもっとそのぬくもりに触れたくて、手を伸ばした。するとまた、ふわりと今度は体中がその優しいぬくもりに包まれた。
嬉しくて、もっと触れたくて、ギュッと寄り添うと、こら、放しなさい。と声が聞こえた。
いやいやと首を振る。
参ったな……。
その呟きはどこかで聞いた声だと思ったけれど。今のリザには遠いことで。幸せなぬくもりの中、リザは再び眠りに落ちた。


リザがうっすらと目を開けると、変わった枕が目に入った。
――変ね……うちの枕、こんな色だったかしら。それに何だかゴツゴツしてる……。
上を向くと顎が見えた。しっかりとした男の顎。さらにその上を辿って行くと見慣れた顔があった。
「大佐!?」
間違なく、自分の上官ロイ・マスタング大佐だ。
どうしてここに? いやむしろ問題なのは今のこの状態だ。
リザはロイの膝の上に横抱きにされて抱き締められていた。太くて意外にたくましい腕がリザの腰に回されている。リザはロイに凭れかかる様に眠っていたのだった。
「やあ、起きたか。具合はどうだね?」
低い声を耳の間近で流し込まれて、リザは思わず悲鳴を上げた。
「!……た、大佐! とにかく離して下さい!」
リザが膝の上で暴れると、
「こらっ動くな。病人は大人しくしていろ。だいたい……離してくれなかったのは君なのだがね」
ヨッと掛け声をかけてロイはそのままリザを抱き上げ、座っていた椅子から立ち上がった。
「君を寝かせようとベッドまで運んだんだがね、君が離してくれないから、こうして椅子に座っていたんだ」
ロイはそっとリザをベッドに降ろす。
「さっきまではあんなに甘えん坊だったのに、ずいぶん冷たいじゃないか」
「そ、そんな事覚えてません! だいたいどうやって入ってきたんですか!」
「どうって……」
私を誰だと思ってるんだね? とロイは胸を張る。
「錬金術でドアを開けたんですね……」
「仕方ないだろう。ノックしても返事はないし、ハヤテ号の吠える声が聞こえたんだ。緊急事態だと思ってね。案の定、君は床に倒れているし……だから無理するなと言ったんだ」
あまり心配させないでくれ。
そう言ったロイの表情はとても優しくて、リザは頬に熱を感じた。
「まだ熱いな……」
そんなリザを知ってか知らずか、ロイはリザの額に手を当ててくる。
「寝ていたまえ。今、何か作るから。何も食べていないのだろ?」
そう言うとロイはキッチンに向かった。
その後ろ姿を見送ってから、リザははあ~と息をついた。
何て事だ。ロイに抱き上げられて、挙句に自分から離れたくないとしがみついた……らしい。
ずいぶん恥ずかしい態度をとってしまった。熱で頭がぼーっとしていたせいでもあるが、それにしたって恥ずかし過ぎる。風邪のせいだけではない熱が再び顔に昇ってきて。リザは思わずをシーツで顔を隠してしまった。


「待たせたな」
しばらくして、ロイが盆に皿とコップをのせて戻ってきた。
「簡単なものだが……」
彼が持ってきたのは、野菜が入ったスープだ。ほかほかと湯気が昇る出来立てである。
「これを大佐が……?」
リザはおそるおそるその液体を覗き込む。野菜は所々不格好に切られており、これをロイが切っているところを想像すると何だかおかしかった。真剣な顔して包丁を握る姿が目に浮かぶ様だ。
「まあ、私の料理だからな。味は推して知るべしだ」
「そんな事……いただきます」
確かに味はロイの作る料理らしくて、特別美味という訳ではなかったが、リザには十分美味しく感じられた。
食べ終わると、薬を差し出される。
「飲んで、寝る事。明日は休みにしておいた。ハヤテ号のご飯も私がやっておいた。だから、君は十分休養するように」
本当に何から何まで世話になりっ放しで、これではいつもと逆だわ、と何だかおかしくてリザはくすりと笑う。
「ありがとうございます。大佐……」
「礼なんかいいから。……早く治してくれ」
照れているのか、ロイは横を向いて少しぶっきらぼうに言う。
「私は君が薬を飲んだら帰るから」
「では……あの大佐。そこの鞄を取っていただけませんか……」
玄関先で倒れた時に放り出したままだった鞄は、おそらくロイが拾ってくれたのだろう、サイドテーブルの上に置いてあった。リザが中から取り出したのは、シンプルなキーホルダーがついた銀色の鍵。
「これで施錠してお帰り下さい」
また錬金術を使わせる訳にもいかない、とリザはロイに鍵を渡す。
「受け取っていいのかね?」
「はい。……もちろん後で返していただきますが」
「なんだ。せっかく中尉が私に部屋の合鍵を渡してくれたと思ったのに」
「そんな訳ないでしょう! 調子に乗らないで下さいっ。もうっ、用がお済みならお帰り下さい。だいたいお仕事は全部終わったのですか?」
「う、あー、……戻ったら終わらせるよ。……君の事が心配で、手につかなかったんだ……」
まったく……そんな事を言われたら怒るに怒れないではないか。自分は病人なのだ。あんまり心臓に悪い事を言わないで貰いたい。ロイが来てから、熱が更に上がる様な事ばかりだ。
さっさと寝てしまおうとリザは薬を飲んで横になる。
「……大佐? いつまでいらっしゃるんです?」
いつまでたっても、ロイがベッドサイドのイスに腰掛けたまま動こうとしないのを見て、リザは頭痛がする思いだった。
「まあまあ、君が眠るまでだ」
「……もう」
本当に今日は調子が狂う事ばかりだわ……そんなことを思いながらも、リザは次第にぼんやりと重くなる瞼を閉じた。


薬が効いたのかリザは直ぐに眠りに落ちた様だった。スースーという静かな寝息が聞こえたのを見計らって、ロイは椅子から腰を上げる。
「ん?」
何かが服の裾に引っ掛かって、立ち上がるのを阻んでいる。視線の先には―――。
「……まったく、寝ている時の方が、君は素直なんだな」
いつの間に掴んだのか、ベッドから伸びたリザの手がしっかりとロイの服の裾を掴んでいた。
まるで幼い子供の様なリザの行為に驚きつつ、ロイは再び椅子に腰を降ろした。
そして本当に子供の様なあどけないリザの寝顔を眺める。リザが目を覚ましたらさて、何と言われる事やら……と想像しながら。




END

*******************

リザさんの風邪には増田の愛情がよく効きます。
[PR]
by netzeth | 2010-01-15 22:13 | Comments(0)

ラブレター・ラプソディ

色とりどりの封筒が私の机の上に置かれていた。
レースがついたもの、可愛らしい薄いピンク色のもの、中には定番のハートの封をしたものまで様々だ。
これは全部私――ロイ・マスタングへのラブレターである。普段の行いのたまものか、毎日毎日私の元へとラブレターが引きも切らず届けられる。中には脅迫文やカミソリ入りといった嬉しくも無いものが交ざっているが、そういった類は既に選り分けられ処分された後なので、私はお嬢さん方の私への思いが詰まった手紙をゆっくりと読んでいる最中なのだ。
まったくモテる男はツラいな。
「大佐。そろそろ休憩は終わりにして仕事にお戻り頂けますか」
これがハボック辺りなら私への妬みや僻みだと無視してやるか、悔しかったらお前も貰ってみろと見せびらかすところだが、この何の抑揚もない声の主がホークアイ中尉だったので、私は大いに慌てた。
――いつの間に入ってきたんだ!
「ノックはいたしました。どなたかはお手紙に夢中でお気付きにならなかった様ですね」
無表情で言わないでくれ。怖いだろう。何も言われてはいないが咎められている気分だ。
さすがに中尉の前でラブレターを読む趣味はない。私は手紙をまとめると引き出しに放り込もうとして。
「ん?」
一枚の手紙に目を止めた。
「これ、君宛の手紙だぞ」
真っ白な封筒にシンプルな文字が踊る。宛名は確かにリザ・ホークアイとなっている。
「私ですか?」
不思議そうなホークアイ中尉に私は手紙を渡してやった。
本来、仕事上の手紙は別ルートで届けられる。つまり今私の手元にあるこれらの手紙は、完全にプライベートなものとして届けられているのだ。
……その中から出てきたのだから、この手紙は中尉へのプライベートな物だろうか。
しかし、差出人を確認していた中尉がそこで一瞬固まった。
「どうした?」
ただならぬ彼女の様子に私は礼儀を欠いているとは思いつつも、思わず中尉の手元を覗きこんでいた。……もしかして不審な手紙か?
「あ、いえ、その……」
そして、少し慌てた様子の中尉が手紙を隠すよりも早く、私の目はその文字を読み取った。
―――貴方を想う者より
「……」
「……」
「ラブレターだな……」
「その様ですね」
「わ、私の手紙に交ざっているとは事務方は何をやってるんだ! な、なあ? 職務怠慢だな!」
「え、ええ、後で注意するように言っておきます」
「あ、ああ! 頼む! 厳しくな!」
………………中尉がモテるのはそこはかとなく気付いてはいたが、いざその現場を目撃するとなると今、私は動揺していた。軽く混乱状態だ。
――落ち着け。ロイ・マスタング。
中尉だって妙齢の女性だ。おまけに美人で性格も良くて仕事も出来る。ラブレターの一通や二通貰って当たり前だろう。今までだって私が知らないだけできっとたくさん貰って……たくさん!? とんでもない可能性に行き当たった私は更に動揺を深めてしまった。
私の思考はグルグルと同じ事ばかりを考える。中尉にラブレター……中尉がラブレター……。
……私は一体どうしたというんだ。中尉がラブレターを貰ったぐらいで動揺するなんて。自分でも自分のことがよく分からない。
……結局、その日一日中その事ばかりが頭を巡り、私は仕事が手につかず、中尉に何度も怒られた。


次の日になっても私はラブレターショックから抜け出せずにいた。昨日からおかしい私を心配しだした中尉にたいしても、よそよそしい態度をとってしまった様な気がする。
中尉が貰ったラブレターには何が書いてあったんだろうか。相手はどんな奴なんだ?――気がつけば私はまたあのラブレターの事を考えている。
……ああっもういかん。
煮詰まった私は強行手段に出る事にした。一人で考えこむなど性に合わないのだ。
「中尉」
「はい」
「あーその……」
「……? はい?」
「えーとだな」
「何です?」
「……ラブレター。昨日のラブレターなんだがっ」
「……はい」
「あれかね? デートの誘いだったのか?」
…………もう少し遠回しに聞くつもりがいきなり核心から入ってしまった。
「……どうしてそんな事お聞きになるんですか」
中尉は訝しげに私を見た。昨日からどこか様子が変だった私が突然そんな事を尋ねたのだから驚いているのかもしれない。
「いや……、少し気になってだな。相手が不審者だったらいかんし、その……心配なんだ。君が」
中尉は私をジッと見た。まるで私の真意を見透かそうとしているかのようなその鳶色の瞳に、私は内心動揺する。
「……手紙をくれたのはよく行くお店の店員の方です。たまにお話しなどするので存じ上げています。大佐が心配なさる様な事はありません……それに」
お誘いはお断りしますから。と彼女は最後にそうつけ加えた。
「断る? 何故だね?」
「何故って……こんな状態で行ける訳ないでしょう。それに軍務が忙しくてお付き合いしてる余裕なんてありませんし」
そう言った中尉の視線の先には、昨日から手付かずになっている書類の山。ふうと小さくため息をつくと、
「さあ、そんな事より仕事をして下さい」
 中尉は険しい視線で私を見る。しかし、私は彼女に臆することは無かった。それよりも私の心を占めていたのはもっと他のことだったのだ。
「そんな事じゃないだろうっ。重要な事だ! つまり君は私のせいで自由に男性とお付き合いも出来ないと言うのだろう?」
「そんな事は……」
「言っているのも同じだろう」
そう、私のせいだと言わんばかりの中尉の態度に私も意地になっていたのだ。無能な上司のせいで部下が幸せを逃しているなんて言われてはたまらない。
「仕事は終わらせるからデートしたまえ。私を言い訳に使われては困る。まだ断ってないんだろう?」
さっきまでの心配を余所に私は中尉に詰め寄った。中尉は俯いて、ぽつり、と言う。
「……大佐は私が恋人を作ってもいいんですね」
「……何だって?」
「いえ。……分かりました。大佐がそう、おっしゃるなら」
表情を見せずに彼女は了承の意を伝えてきた。
聞けばデートは今夜だと言う。手紙には中尉が来るまで待っているとあったらしい。私は早速、時間までに仕事を終わらせるべく猛然と書類に取り掛かった。


そして、夕刻。
「見たまえ! 私が本気になればこんなものだ」
全て処理済みの書類を見渡して、どうだと中尉を見れば、
「お疲れ様でした。いつもそうだとよろしいのですが」
無表情でチクリとやられる。
「うっ、とにかく早く行きたまえ。君の幸せのために頑張ったのだからな」
「……大佐に私の幸せがお分かりになるのですか」
「え?」
「……いえ、それでは失礼します」
静かに中尉は挨拶をして、執務室から出て行った。
彼女が出ていった扉をしばし眺めて。私は何か取り返しのつかない事をしたような気分になった。いや、これで良かったはずだ。直ぐにとは言わないが、これをきっかけに彼女に良い相手が出来るかもしれない。彼女の全てを理解し、愛してくれる男が……そこまで考えて私は非常に面白くない気分になった。
本当にそれでいいのか? 心の中のもう一人の自分がそう囁く。いいはずだ。私はそう自分に言い聞かせた。


仕事が終わってしまったので、私は早めに帰路に着いた。
いつもなら馴染みの店にでも顔を出すところだが、今日はとてもそんな気分になれない。
歩きながらも私は中尉の事ばかりを考えていた。
今頃はデートの最中だろうか……。
ふと前を見ると一組の男女が腕を組んで歩いている。その二人は腕を組んで寄り添う様に歩いていた。恋人同士だろうか。男が何事か話しかけると、女の方が微笑んだ。とても嬉しそうに。……中尉もあんな風に笑うのだろうか。私の知らない誰かに。
何とも言えない気持ちが胸に渦巻く。どうしてかじっとしていられない。
「くそっ」
―――気がつくと私は踵を返していた。


「早いな。デートはどうした」
「大佐!?」
そして私は中尉のアパートの前にいた。目の前には目を見開いて立ち尽くしている彼女。まるで待ち伏せをしているかのような私の様子に明らかに驚いているようだった。
「どうしてここに……」
「言ったろう? 君が心配だと。デートは?」
「……大佐には関係ないじゃないですか……」
「いや、ある」
あるのだ。
だから、あれから直ぐに彼女のアパートの前で彼女を待っていた。長い時間待つ事を覚悟していたが思ったより早く彼女は帰ってきた。待つ間もずっと考えていた。私と彼女の事を。
だから私は今からそれを正直に話す。誤魔化しは無しだ。
「私は君の幸せを願っている。心から。……君をこの道へと引きずり込んだのは私だ。君が軍人になった責任は私にある。分かっている。軍人として生きる事に君は後悔していないと言う事は。何を今さらだ。だがな、だからといって君が女性としての幸せを放棄していいとは思わない。むしろ、だからこそ当たり前の幸せを見つけて欲しいと思っていた」
「それは……私に普通の女性と同じ様に恋人を作り、結婚して、家庭を持てと?」
震える声で中尉が問いかけてくる。私は肯定した。
「そうだ。軍人だからといって全てを捨てる必要はないんだ」
「でも、大佐。私は……」
「……と、さっきまでの私は本当にそう思っていたんだ」
 彼女の言葉を遮って、私は己の心の内を吐露する。
「今は違うと?」
「ああ。今の私は君に恋人など作って欲しくないと思っている。ましてや結婚など……」
「大佐……」
 呆然と呟く彼女の声を聴きながら、私は言葉を吐き出す。
「君に幸せになって欲しいと思う。本当に心からそう思う。君が大切だから。だが一方で他の男と一緒にいる君を見るのは嫌なんだ。我慢出来ない。矛盾しているだろう? だがこれが偽らざる私が君へと向ける気持ちなんだ」
私は彼女をジッと見つめた。
「この気持ちを何て言ったらいいか私には分からない」
私が告白を終えると、中尉はふんわりと微笑む。それから簡単です。大佐。と彼女は私の首に手を回して。
「好き。と言うんです」
そして、そっとキスをした。


それからというもの、私と中尉の関係が変わったかというとそうでもない。私は変わらず女性とデートしたし、中尉は仕事をサボる私のお守りに忙しい様だった。
結局私は中尉が私のそばにいれば満足してしまうのだ。
変わった事と言えば中尉がラブレターを貰うとそのことを私に言う様になったくらいだ。私はその度にそのラブレターを受け取ると発火布で燃やしてしまう。中尉は困った顔をしながらもどこか嬉しそうだった。
きっともう、私は彼女に二度とデートに行けとは言わないのだろう。それが彼女に宛てられた一通のラブレターがもたらした結果…である。


END

************************
[PR]
by netzeth | 2010-01-09 15:29 | Comments(2)

ガソガソ2月号感想

ガソガソ2月号感想です。
ネタバレあり。本誌未読の方、コミックス派の方はご注意を!

大丈夫~という方は下のネタバレからどうぞ。

ネタバレ
[PR]
by netzeth | 2010-01-09 15:08 | ガンガン感想 | Comments(0)

First Love

レベッカ・カタリナ少尉がリザ・ホークアイ中尉の自宅で酒を飲むのはこれが初めてではない。
もちろん軍務についている以上そうそう頻繁にという訳にはいかなかったが、月に一度くらいは女同士、一緒に飲みに行く事はあった。店だけでは飽きたらずリザの自宅になだれ込むのはお決まりのパターンだ。
自分の家より司令部に近いため、そのまま泊まってリザの家から出勤した回数は片手の指では足りない。
レベッカの大抵の飲む理由は男がらみだ。
普段からイイ男を捕まえて、寿退役したいと公言してはばからないレベッカである。しばしば彼氏を作っては長続きせずすぐに別れてしまい、その度にやけ酒を飲むのだ。リザはいつもそんなレベッカに付き合っては夜を明かすのである。
「まったく、初恋なんてなんてね~くそくらえよー」
既に顔を真っ赤にして、だいぶ酔いの回ったレベッカが、酒瓶を振り回した。
「ちょっと、危ないわ」
落ち着いて、とリザは窘める。
「落ち着けないわよ! だって初恋よ? ふざけんじゃないわよ~!」
今日もまたリザはレベッカの愚痴に付き合っている。どうやらまた彼女は恋人と別れたらしい。
良くまあ、次から次へと……とリザは呆れる。
彼女が別れる理由は様々だが、大体は喧嘩別れかレベッカの方から振ったというのが多い。だが今回はいつもと違うらしく、何でも初恋の人が忘れられないと彼に言われたからという理由だった。故に、一方的にフラれたレベッカのダメージは大きく、こうしていつもより荒れている訳なのだ。

「初恋はね~実らないもんなのよ! そういうもんなの!知ってる? 私の初恋はね、近所の年上のお兄さんだったのよ! 大きくなったらお嫁さんにしてくれるって言ったのに、それから一月も経たないうちに結婚しちゃったんだから! しかも出来ちゃった婚よ! 花嫁さんの大きなお腹見た時の私の気持ち分かる!?」
「それはショックよね……」
まだ幼かったであろうレベッカの失恋に、リザは心から同情する。今はこんなんでも彼女にだって純真な頃はあったのだろう。
「でしょう!?……なのに…あたしは初恋に負けたのよ! 悔しい~!」
今夜はとことん飲むわよ~! とレベッカは勢いよくグラスを空ける。
「はあ……初恋の人ってそんなにいいもんなの? 今の恋人と別れてもいいくらい? リザはどうよ?」
「え……私?」
 突然水を向けられて、リザは瞬いた。手に持ったグラスごとリザを指さして、レベッカは頷く。
「そ。リザにだって初恋の一つや二つあるでしょうが」
「初恋は二つはないと思うけど……」
「そんな細かい事はいいの! ねえ、どうなのよ~あるんでしょ? は・つ・こ・い」
「………ないわ」
 答えるまでのわずかな沈黙を見逃さなかったレベッカはなおもリザを追及してくる。流石に酔っぱらった彼女はしつこい。
「嘘つきなさい~あたしばっかり話して、リザはだんまりなんてずるいわよ~白状なさい」
「本当にないのよ!……でも」
「でも?」
 続けられたリザの言葉に、レベッカが興味深そうに相槌を打つ。その瞳はキラキラと好奇心に輝いている。
「初恋とは違うと思うけど……憧れみたいなもの? そういう思いを持った人はいたわよ」
「そう、それよ! それこそ初恋よ! うふふ~お姉さんに話してごらんなさい」
 わが意を得たりとばかりに膝を打ったレベッカは、ニマニマと機嫌よく笑った。それに苦笑しながらも、リザは彼女の好奇心を満たしてやることにする。
「もうっ。だから、初恋じゃないったら……。そうね、彼は私より少し年上で……」
「うんうん」
「家に住み込みで錬金術の勉強をしていたの。言ってなかったかしら? 私の父は錬金術師でね、彼はそのお弟子さんだったの」
「あらあ~お弟子さんと師匠のお嬢さんて訳ね。良いじゃない。ロマンスが生まれそうなシチュエーションじゃないのー」
「そんなんじゃないってば。……彼は真面目で優しい人でね。私にも何かと気を使ってくれて、家事とか良く手伝ってくれたの。スゴい不器用なくせにね。私が風邪を引いた時なんか一生懸命看病してくれたわ。彼が作ってくれたお粥、お塩とお砂糖を待ちがえちゃったりしてね……でも、とても嬉しかった。」
「ふーん。ねえ! カッコ良かったの彼?」
「うーん、どうかしら? あの頃の私から見て、なかなかカッコいい人だったとは思うけど……。道で女の子に告白とかされてるの見た事あるし……とても好青年って感じだったわ」
「へぇ~そういうあんたは告白した訳?」
「だから、そういうんじゃないのよ。好きか嫌いかで聞かれればもちろん好きだったけど……恋とかそんなんじゃないわ」
「……彼とはそれきり?」
「……初恋は実らないんでしょう?」
そこで言葉を切って、ジッとレベッカを見つめ返せば、彼女はふっと笑って肩を竦めた。
「そうだったわね……」
 どこか寂しげに笑うと、それはそうと、とレベッカは言葉を継ぐ。
「何よ~リザにも甘酸っぱい思い出があったのね~」
「リザにも、ってなあに?」
「まあまあいいから。さあ~今夜は飲むわよ!」
「はいはい」
 気合を入れるようにグラスを掲げるレベッカに苦笑しつつも、リザは今夜は親友にとことん付き合ってやることにした。
 
そこから二人で更に飲み明かして、既に時刻は夜半。
普段は酒に強いリザも珍しく酔いつぶれて眠ってしまっていた。
「……さすがにちょっと飲み過ぎたわ~」
そう反省しながらフラフラとお手洗いに立ったレベッカは、おぼつかない足取りを支えようと壁に手をつこうとしてふらりとよろけた。
「あっ」
ガタガタッと音を立てて棚の上の物が落ちる。どうやら棚に手をついてしまい、上に乗っていた物を落としてしまったらしい。
「あちゃあ~」
慌ててレベッカは落ちた物を拾おうと床に膝をつく。床には写真立てと、中に入っていたらしい写真が散らばっている。
「あれ?」
写真を拾って元に戻そうとして、レベッカはもう一枚写真が落ちているのを見つけた。
最初の一枚は分かる。リザとマスタング大佐、その他の部下達が写っているマスタング組の集合写真だ。元々リザが写真立てに飾っていた写真である。ではもう一枚は何だろう。おそらく写真立ての裏にもう一枚しまってあったのだろが……。
疑問に思いつつもレベッカは写真を拾い上げて見てみる。それは黄ばんだ古びた写真だった。写っているのは二人。少女とその少女より少し年嵩に見える少年。セピア色の空間で二人は控え目に笑っていた。
写真をじっと凝視して。レベッカは呆れたようにぼやく。
「…………リザ。あんたの初恋、実ってるんじゃないの?これ」
何故なら、写真に写るのはどうみても彼女の黒髪の上官だったからだ。
かなり若いが今でも童顔と言われているかの上官殿はあまり顔も変わってはおらず、直ぐに分かった。そして、隣りの少女が誰であるのかも。
「もうっ、いい加減にしてよね……」
すっかり酔いが覚めてしまったレベッカは何だかバカバカしくなってきた。さっきの初恋話。あれはもしかして盛大なノロケだったのだろうか……。
どうやら現在進行形らしい親友の初恋に、レベッカはごちそうさまと呟いたのだった。


END

********************
[PR]
by netzeth | 2010-01-04 21:36 | Comments(4)