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ペコーdeパラレル☆Ep1(後編)

ペコーさんは目の前の男がロッカーから出て犯人に忍びよるのを、鏡に写っている事で気付きました。
そこで注意を逸すために声を上げたのでした。
「貴方は?」
「客ですよ。幸い店内にいたのでやつらに気付かれないうちにここに隠れる事ができました」
「何故逃げなかったんです?」
男は肩を竦め、
「一応軍人なんでね。逃げる訳にはいきませんよ」
そう言ってダークカラーの洒落たスーツの脇を開けて見せます。そこにはガンホルダーが装着されていました。
この男が店内の客や従業員を誘導して素早く逃がしたに違いない――とペコーさんは思いました。
男は軍人とはいえ、この非常時にやけに落ち着いています。百戦錬磨の修羅場を潜ってきた者だけがもちうる特有の余裕がありました。
若く、自分とそう変わらない年齢に見え、軍人のイカついイメージとはかけ離れています。外見だけみれば優男に見えるかもしれません。
「そういう貴方こそ何者です。なかなか物騒なモノをお持ちのようだ。一般市民にしては」
男はペコーさんの太腿に忍ばせた銃に気付いている様です。
ペコーさんは自分の立場と今の状況を説明しました。店内のいる犯人の人数と武器の種類なども詳しく話しました。
「エイゼルシュタイン教授の娘さんが……下手に動けんな」
男はアゴに手をあてジッと考えこんでいます。そして、
「一つ考えがある。私はやつらにとってのイレギュラーだ。それを利用しない手はない」
男はペコーさんに己の作戦を伝えます。それを聞き、ペコーさんも了承しました。男の作戦はかなり危険な賭けですが、他に良い手もありません。
その時です、
「おいっ、まだかよ」
隣りの部屋の男が痺れを切らした様です。
「憲兵達がお出ましのようだぜ! そろそろいかないとリーダーにどやされるぜ」
今入って来られるのはまずいと、ペコーさんはとっさに、先ほどの様な男を誘う甘い声を出しました。
「あああっんっんっあん!」
「ちっ、早くしろよ」
「……早くして下さい」
何とかその場は誤魔化せましたが、恥ずかしさに顔を赤くしながら、ペコーさんは軍人だという男を促しました。
「ん、ああ。しかし……君の声は心臓に良くないな……」
ぼそっと男が呟いた言葉に、またもや恥ずかしくてペコーさんは顔から火が出るおもいでした。


「ずいぶんとお愉しみだったな」
ペコーさんとペコーさんをロッカールームへと連れて行った覆面男が事務所に戻ってくると、ペコ―さんの乱れた胸元や髪、上気して赤く染まった頬を見て物欲しそうに待っていた男が言いました。
「今リーダーが交渉中だ。俺は裏口を見張る。お前は戻れよ」
連れが頷くのを見て、男はバリケードで塞いだドアを警戒します。瞬間、
「うっ・・・」
男が崩れ落ちました。
「うまくいったか」
男を後ろから銃で殴り倒して、覆面をとったのは先ほどの軍人さんです。
「ええ」
身ぐるみを剥ぎ、軍人さんは男の仲間と入れ替わっていたのでした。
軍人さんは手早くその辺りにあるもので、倒れた男の覆面をとり猿轡をかませ縛り上げました。
「こいつらはおそらく、連続強盗団の獣の牙一味だ」
「強盗団・・・獣の牙なら聞いた事あります。少し前までセントラルなどで騒がれていましたね」
「ああ、セントラルのやつらが取り逃がして、お鉢がこっちに回ってきたんだ。まったく使えん」
軍人の歯に絹きせぬモノ言いに、ペコーさんはこんな状況だというのに思わず笑ってしまいました。軍人さんの腹を立てむうっとした様子が思いのほか子供っぽくて不覚にも可愛いなとちょっと思ってしまったのでした。
ペコーさんに笑われた軍人さんは失礼お嬢さんと慌てて取り繕った笑みを浮かべます。
「軍ではやつらの襲いそうな店に網を張っていたんです。今までの襲撃パターンから割り出してね。どうやら当たったようですが……、どうもポカをしたようだ」
おそらく押し入った店で目的を果たせず、逆に憲兵から追われ、このカフェに逃げ込んだのだろうと軍人さんは言いました。
「ということは、要求は足の確保と逃走時の安全……でしょうね」
「ああ」
「軍は要求呑みますか?」
「簡単には呑まない・・・呑んだところで意味が無いからだ。今までのやり口からしてやつらは要求を叶えても人質を無事に解放するとは限らない・・・」
ペコーさんも同意見でした。
獣の牙というのはただの泥棒ではなく、とにかく邪魔するものは排除する悪逆非道の強盗団として知られているのです。その手口は夜中にそうっと忍び込むなんてものではなく、白昼堂々押し入り、その強力な武器であっと言う間に邪魔者を片付けるといったもの。その犯行時間は極めて短く、憲兵隊が駆けつける頃には遺体以外何にも残っていない――それが強盗団獣の牙なのです。憲兵隊では手がつけられないということで軍が動いていたのですが、セントラルでは芳しい成果をあげる事ができず、獣の牙が次のターゲットをイーストシティに定めたという情報をききつけた東方司令部が警戒していたのです。
「おそらく人質救出のための別部隊が動いているはずだ。だが、突入は今の状況では無理だろう。リスクが大きすぎる」
「では、軍は人質の安全を一番に考えていると思って良いんですね?」
「当然です」
黒髪の軍人さんが当たり前だと言わんばかりの表情で頷いたので、ペコーさんは彼を信じようと思いました。
実はペコーさんは軍が強行策に出るのではないかと懐疑的だったのです。ペコーさんの住むアメストリスはいわゆる軍事独裁国家なのです。軍が一番偉いのです。ましてや既に何十人もの犠牲者を出している強盗団を捕まえるためなら、市民の一人や二人犠牲にするのではないかと思っていたのです。軍が一番権力を持っているのですから、世論なんて簡単に押さえられます。
でも、目の前の黒髪の軍人さんは不思議と信じられる気がしました。
そうです。彼は最初に逃げようと思えば逃げられたのです。でも、彼は残りました。人を助けるために。
「今の状況では、軍は動けないでしょう。我々が何とかするしかありません」
ご協力願えますかと問う彼にペコーさんは、
「もちろんです」
力強くうなずきました。
軍人さんの黒い瞳が細められ……口の端が引き上がります。浮ぶのは不敵な笑みです。
「いい返事だ」
ペコーさんはなぜか彼の顔から目を離す事ができませんでした。


「ペコーさんっ」
戻ってきたペコーさんにアルモニが抱き付いてきます。私は大丈夫と安心させてペコーさんはアルモニを庇う様にカウンターの中に蹲りました。
「遅かったな。異常は?」
獣の牙のリーダーらしき男が、戻ってきた男に声をかけます。
男――軍人さんは首を振ります。喋ったらばれてしまいます。そう、軍人さんは覆面を被って再び犯人達の仲間のふりをしているのです。
「そうか。車の用意は時間がかかるとの事だ。ひとつあいつらに立場ってもんをわからせなきゃいけないな」
「おいっガキを連れて来いっ」
軍人さんがアルモニの腕を掴みます。
「ペコーさん……」
「大丈夫よ。必ず助かるわ」
アルモニを力づけるようにペコーさんは笑います。
獣の牙のリーダーとアルモニを連れた軍人さんとで外に出ます。残された一人が窓ガラス越しに店内から油断なくその様子を見つめ、もう一人がペコーさんに銃を向けます。
少し離れた所に黒い制服の憲兵と青色の制服の軍人とが取り囲む様にこちらを見ています。
外に出た三人に痛いほどの視線が集まります。ですが、恐怖でアルモニはそれどころではありませんでした。
「いいか、合図をしたら伏せるんだ。いいね」
自分を掴んでいる男がそっとアルモニに囁きます。男を振り返る衝動をすんでの所でおさえ、アルモニは返事の代わりに小さく頷きました。
リーダーは大声をあげて自分達を包囲している軍、憲兵達に改めて要求をしています。そして、アルモニの素性を明かして意に添わない場合の彼女の末路を声高に主張するのでした。
「いいたいことはよーく判った! だが、さっきも言った通り、そちらの希望する車を用意するべく現在鋭意準備中だ。あと少し待ってくれ。これは嘘ではない。何ならここにある車ならすぐにでも渡せるが?」
「・・・要求通りの車を用意しろ」
リーダーは妥協したようです。何しろ五人プラス保険のために人質を連れていく事を考えれば、大型の車でなければ不可能です。
簡易スピーカーでリーダーと話しているのは、立派な体格の軍人でした。全体的にがっちりとしていて貫禄がありますが、縦より横にデカいです。態度も体格に似ててどっしり落ち着いているように見えます。
「・・・焔の若造はお出ましにはなってないようだぜ。はんっ、所詮おつむだけの腰抜け野郎か」
馬鹿にした様にリーダーが言いました。ですが、何処かほっとした様にもアルモニは聞こえました。
東方司令部の実質的司令官である大佐をアルモニは知っていました。軍人でありながら優秀な錬金術師でもある彼は昔から父であるエイゼルシュタイン教授とも親交があるのです。司令官なのですから普通なら現場に出てこないものです。ですが、この東方司令部の大佐は、このような事件が起こると必ず自分で指揮をとると聞いています。何故なら彼自身が人間兵器と呼ばれる武闘派の錬金術師だからです。そんな彼が何故今日今いないのでしょう? 彼だって出張などでシティを離れる事くらいあるでしょう。そうしたらいくら緊急時でも、現場にくることは出来ないでしょう。けれど、アルモニには彼がここに居ない事がどうしても引っ掛かかるのです。リーダーは切れ者と言われる彼が居ない事を内心安心しているのですが、強がっているのです。
「いいか! あと十五分だっ!十五分だけ待つ!」
「そりゃ無茶だ。せめて三十分にしてくれ」
「ふざけるな!十五分と言ったら十五分だ」
「車のある場所からここまで何分かかると思ってるんだ。せめて二十五分・・・いや二十分だ」
「・・・よし。だが、二十分たっても用意出来ない時は人質を一人殺す」
交渉役の軍人のネゴシエイトはなかなか達者でした。頭ごなしに犯人の要求を蹴らず、逆にこちらの事情も察してくれと頼むような形で、犯人側の譲歩を引き出しています。
リーダーと軍とのやり取りの間、アルモニを掴んでいる男は頭上に注意を払っていました。アルモニには彼が何かを待っているように思えました。
そして、アルモニは話しかけてきたその男がよしと小さく呟くのを聞き取りました。その声――聞くのは二度目です――を聞いた瞬間アルモニの脳裏に天啓のように閃くものがありました。まるでもう少しで解けそうなパズルが解けた時みたいに。
その瞬間、いろいろな事が一度に起こりました。
「伏せろ!」
アルモニに男が言ったのと、銃声がしたのは同時でした。獣の牙のリーダーが悲鳴をあげたのも。そしてガラスの割れる音……アルモニは命じられるままに頭を抱えてしゃがみ込みました。   
――彼なら信じられます。
店内からリーダーを見守っていた獣の牙の男は何が起こったのか理解できませんでした。リーダーが撃たれたということは判りました。けれど、リーダーの隣りにいた仲間が振り返り自分に向けて発砲してきたのは、悪い夢ではないかと思いました。そして倒れた後、意識を失う寸前にもう一人の仲間……女を見張っていた男が倒れるのを見ました。何故やつまで倒れる? 裏口を見張っている仲間はどうしてやってこない? 彼の疑問は晴れる事なく彼は気を失いました。
犯人達に混乱が訪れたその瞬間を逃さずペコーさんも動いていました。一瞬にして仲間が倒されて呆然としていた自分に銃を構えていた男を狙い撃ちます。太腿の銃を取り出す動作と発砲はほとんど同時に見えるほど素早いものでした。ペコーさんは立ち上がり、男が落とした銃を拾いあげました。
「よし、全員確保だ! ブレダ、怪我人は病院へ。殺してはいない」
未だ一人だけ立っている覆面の男が覆面を取りながら、取り囲んだ軍人達に命令しました。
「大佐~~~勘弁して下さいや」
交渉役をしていた軍人さん―ブレダ少尉が疲れた様に肩を竦めます。
「非番の時くらい大人しくしていて下さいよ」
大佐と呼ばれた犯人に化けていた黒髪の軍人さんはムッとした様に反論しました。
「うるさい。事件に巻き込まれたのは不可抗力だ。私のせいじゃないぞ」
そう、軍人さんはまず、裏口から突入の機会を伺っていた別部隊にコンタクトをとり、犯人が外に出たら狙撃するように命令していたのです。そして、自分はペコーさんと犯人のふりをして戻ったのです。もちろん裏口の部隊を率いていた大佐の部下のハボック少尉は自分が行くと主張したのですが、時間が無いということと大佐のわがままで押し切られてしまったのでした。
「アルモニちゃんっ」
ペコーさんも外に出てきてアルモニの安否を確かめます。
「ペコーさんっ」
駆け寄ってきたペコーさんにアルモニは抱き付きました。
「私は平気」
ペコーさんこそ怪我してない? と心配顔の優しい少女に大丈夫と言ってあげます。
「我々の不手際で危ない目に合わせてしまってすまない」
そんな二人に、黒髪の軍人さんが頭を下げました。
「そして、ご協力を感謝します。ミス・・・ペコー?」
そういえば、自分達はたがいに名乗ってもいませんでした。不意におかしくなって、ペコーさんは黒髪の軍人さんに微笑みました。
「マーゴット・オレンジペコーです。皆さんはペコーと呼んでいます」
何か眩しいものを見るように、ペコーさんを見つめていた軍人さんがペコ―さんに握手を求めて手を伸ばしました。  そこでペコーさんは軍人さんがいつの間にか白い手袋をしているのに気付きました。外に出ていく時はしていなかったはずです。犯人達の死角になった時にはめたのでしょう。でも、いったいなんのためにあの非常時に手袋なんかはめたのでしょうか?
「私は……」
「大佐!!」
ブレダ少尉の焦った声が聞こえました。
肩と足を撃たれて倒れて気を失っていたはずの獣の牙リーダーが突然抵抗したのです。油断した憲兵が突き飛ばされ、他の憲兵が取り押さえるより早く、小型の銃を大佐に向けました。
銃声は一度、そして、ぱちっという空気が震える音。
「があああああ!」
獣の牙のリーダーが一瞬だけ焔に包まれました。焔は狙いを過たずリーダーだけを包むと、直ぐに消えてしまいましたが、その一瞬でリーダーを大人しくさせるのには十分でした。しかし、リーダーを焔が襲うより半瞬早く、ペコーさんの銃から放たれた弾丸がリーダーの手から銃を弾き飛ばしていたのでした。
 リーダーを再び捕縛するように命じてから、大佐は改めてペコ―さんに向き直りました。
「ミス・ペコー。素晴らしい腕だ。私の焔も必要ではなかったな」
「貴方は……」
「私は東方司令部司令官ロイ・マスタング大佐。焔の錬金術師と呼ぶ人もいます」
白地に赤い模様の入った手袋。ペコーさんはそれが練成陣と呼ばれるものであることを知っていました。
(焔・・・の錬金術師・・・ロイ・マスタング・・・)
黒く深い瞳に魅入られるように、差し出された手をペコーさんは握り返したのでした。




END


*************************


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        お友達の八神アキ様から頂きました☆素敵ペコーさん♪
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by netzeth | 2010-03-26 21:31 | Comments(0)

ペコーdeパラレル☆Ep1(前編)

ペコーさんの名前はマーゴット・オレンジペコーといいます。なのに、どうしてペコーさんと呼ばれているかと言うと、その方が可愛いかららしいのです。お勤め先のお嬢様がそう主張し、ペコーさんペコーさんと親しみを込めて呼んでくれているのを止めさせる理由は皆無でしたし、他の皆にもその愛称が定着しました。
ペコーさんはイーストシティで錬金術師の偉い先生の秘書をしています。ペコーさん自身は錬金術師ではないので錬金術の研究のお手伝いは出来ませんが、先生のスケジュール管理やいろいろ必要な物の手配、時にはお嬢様のお供をして街にお買い物に行ったりなどしていました。
雇主であり、とても偉い錬金術の先生である、エイゼルシュタイン教授は国家錬金術師の資格こそ持っていませんが、高名な方です。ですが、偉ぶらず紳士的で優しい方でした。彼には十二歳になる一人娘がおり、ペコーさんは今日も彼女のお供をして街に出ていました。



「ペコーさんっ、見て見て! これっスゴく素敵」
イーストシティ商業地区のメインストリートにあるお店のウィンドウを覗きこんではしゃぐ少女に続いて、ペコーさんも中を覗いてみました。
そこには純白のウェディングドレスとベールが飾ってあります。どうやらそこはブライダル洋品店の様です。ショーウィンドウは明るく、色鮮やかな花々で華麗にディスプレイされていて、純白のドレスはフリルに彩られています。なるほど女の子なら一度はこんな素敵なドレスを着てみたいと思うかもしれません。
「いいなー! 着てみたい……」
例に漏れず、窓にはりついた少女も憧れの瞳でドレスを見ています。
「アルモニちゃんなら、きっととても似合うでしょうね」
心からそう言いながら、ペコーさんは赤毛の少女に微笑みました。綺麗な赤毛を肩で切り揃え、服も動きやすいキュロットで活発な印象ですが、アルモニはペコーさんのお勤め先のお嬢様です。大きなお城の様なおうちに住んでいます。少しお転婆ですが、お父さん思いの優しい子です。
「やだなっ、ペコーさん。私よりペコーさんだよ! 私ちんちくりんだもん。このドレス、ペコーさんの方が絶対似合うよ! ねえねえ、ウェディングドレスを着る予定ないの? 私、ペコーさんのウェディングドレス姿見たいな!」
目をキラキラさせながらアルモニはペコーさんに尋ねます。その瞳は期待に満ちていて。ペコーさんは苦笑しながら答えました。
「残念ながら、まったく」
「ええー! ペコーさんすんごく綺麗でスタイルだって抜群じゃない。恋人の一人や二人いてもおかしく無いのにっ」
「アルモニちゃん……私そんなにモテないわ」
ペコーさんが困ったようにアルモニを窘めると、アルモニは勢いよく首を振りました。サラサラした赤毛が揺れています。
「そんな事ないっ!ペコーさんと一緒に歩いてると、すれ違う男の人みーんな振り返るんだから。ペコーさんモテモテだよ」
「ありがとうアルモニちゃん」
まるでお世辞でも嬉しいわと言わんばかりのペコーさんに、アルモニは内心溜め息です。だってペコーさんはホントに美人さんなのですから。
今はダークグレーのスーツに、薄いブルーのシャツ、赤ぶちのシンプルな眼鏡という地味な格好をしていますが、ペコーさんの美しさを損なうものではありません。スカートから伸びる長く形のいい脚、隠しきれない胸のボリューム、引き締まったウエスト、ペコーさんはまさにボンキュボンのナイスバデーってやつなのです。
おまけにキラキラと光るサラサラとしたまっすぐな金髪に大きな鳶色の瞳、綺麗な顔立ちとくれば世の男性が放っておく訳がありません。きっと自分が一緒でなければ声をかけられていた事だろうとアルモニは思いました。なのに、ペコーさんは自分が男性達の興味を引いている事にまったく気付いていないのです。いえ、訂正しましょう。ペコーさんは道行く男達が自分達に注目している事はとっくに気付いていました。何故ならペコーさんはアルモニのボディガードでもあるからです。ペコーさんは事務的な事ばかりではなく、荒事にも慣れていて、腕に覚えがあるのです。特に銃の腕は素晴らしいのです。そんなペコーさんがエイゼルシュタイン教授の秘書になるまでどんな人生を歩んできたのかアルモニは知りません。ですが、アルモニは綺麗で優しいペコーさんの事を慕っていました。
話を戻しましょう。十二歳のアルモニでさえ、男性達の視線がどういう意味を持つか判りました。なのに、ペコーさんは自分達が注目を浴びている事に気付いてはいても、そこに敵意が感じられない、となるとまったく気にしていませんでした。むしろなぜか自分が外出するとよく男性に見られるなと不思議に思い、今日もいつもの事だと思っていたのでした。ペコーさんは同年代の女性の中ではとりわけ恋愛方面関しては不器用の様です。


ペコーさんとアルモニは外見こそあまり似ていませんが、本当の姉妹の様に仲良くお買い物を続けていました。
「ねえ、ペコーさんノドが乾いちゃった! お茶して行こうよ。もう少し先に新しいカフェができたんだって。お茶もケーキも美味しいんだって!」
アルモニはペコーさんの手を引き、今にも走り出していきそうです。
「いいわよ。少し休憩して行きましょうか。でも、ケーキはほどほどに。お夕飯が食べられないと怒られちゃうわよ」
ペコーさんはお嬢様のアルモニに対して最初のうちは敬語を使っていました。ですが、アルモニ自身が普通に接して欲しいと言ったのと、エイゼルシュタイン教授も特別扱いせず年相応にして欲しいと願ったため、ペコーさんはまるで妹に話しかける様な口調でアルモニに接しています。
「はーい!」
やった! とアルモニはカフェに向けて走っていきました。
新しくオープンしたカフェは、なかなか良い雰囲気でした。店の中だけでなく、外にもテーブルがありオープンカフェになっています。そこに席をとり二人は注文が来るのを待っていました。
――その時です。
突如銃声が響きました。
「きゃあああ!」
驚いたお客達の間から悲鳴が聞こえます。ペコーさんは反射的にアルモニの背を押さえました。
「伏せてっ」
「な、なに?」
目と口元をくり抜いた覆面をした人物―体格からしておそらく男―が五人、銃を構えていました。一人は銃を空に向けており、おそらく最初の銃声は空に向けて撃ったのでしょう。片手に黒いバックを持っています。残りがカフェの客に銃を向けていました。
どうやら事件に巻き込まれてしまった様です。ペコーさんはそっと腿にくくり付けてあるガンフォルダーに手をやりました。一人や二人なら確実に撃たれるまえに撃つ自信があります。しかし、如何せん人数が多すぎます。全員を倒す前に発砲を許してしまうでしょう。その弾が誰かに―もしかしたらアルモニに当たらないという保証はありません。
とにかく、今は静かに目立たない様に様子を伺うしかありません。ここはメインストリートの往来です。騒ぎを聞きつけ直ぐに憲兵が駆けつけるはずです。
ところが。
「来いっ!」
男の一人が一番近い席にいた四、五歳くらいの女の子を掴みました。
「お婆ちゃんっ!」
女の子は怯えて泣き出してしまいます。
「ま、孫は許してっ、わたしが行きますから…」
女 の子の祖母らしき老婦人が犯人に縋って頼んでいます。
「うるせえ! どけ!」
男は婦人を突き飛ばし、ますます泣き叫ぶ女の子を抱えます。
男達の傍若無人の振る舞いに、
「ちょっと! そんなに小さい子に何するのよ! お婆さん大丈夫?」
優しくて、正義感の強い、そしてちょっぴり無謀なアルモニは我慢できず飛び出して、転んだ老婦人を抱き起こしました。
「アルモニちゃんっ」
ペコーさんの制止も間に合いません。
「何だあ? このガキ」
「おじさん達人質が欲しいんでしょう? だったら私を連れて行きなさいよ!」
「何だと?」
「シティ郊外にあるお城を知ってる? あそこは私の家よ。私を連れて行けば取り引きするのもいろいろと便宜をはかってもらえるかもしれないわ。だから、その子を離して!」
男達は顔を見合わせました。お城の事は知っています。そこには高名な錬金術師が住んでいることも。その錬金術師なら軍などにも顔が利き、権力もあるのかもしれません。その娘だという少女を人質にした方が何かと事を有利に運べる……。男達はそう判断し、
「よし、来いっ」
女の子を解放し、代わりにアルモニに銃を突き付けました。
「待ってっ!」
黙って行かせる訳にはいかないのはペコーさんです。
「なら私も連れていって。人質は多い方がいいでしょ? あなた達が取り引きをするつもりなら」
「なんだあ? 姉さん」
「私はその子の保護者よ」
できれば自分一人がアルモニの代わりに人質になりたかったのですが、アルモニが素性を話してしまった以上、男達は了承しないだろうとペコーさんは判断しました。ならばアルモニを守るためには一緒に行かねばなりません。
一歩も引く気のないペコーさんに気圧されたのか、時間が無いと思ったのか、
「……いいだろう。来いっ」
彼らはペコーさんにも銃を突き付けて、店の中へと入る様に促しました。
店内には既に人影はありませんでした。
事件が起こったと見た瞬間に店内の客や従業員は避難した様です。お店には正面入口の他にも従業員様の出入り口があります。
それにしても、外でのペコーさん達とのやり取りの間に店内の全員が避難するとはかなりの素早い対応です。普通ならばパニックに陥ってもおかしくない所です。
男達は店内に入ると出入り口を椅子やテーブルで塞ぎました。アルモニとペコーさんをカウンターの中に押し込めます。  その後、二人の男が従業員様の裏口を見て来いとリーダーらしき男に命令を受け出て行こうとしました。そして、カウンターの中でアルモニを庇いながら座るペコーさんに視線を向けてニヤリと笑います。
「来な! 姉さん」
男達は揃って視線を合わせていやらしく笑っています。
男の意図が読めたペコーさんですが、これはペコーさんにとってもチャンスです。心配顔のアルモニに大丈夫と声をかけてからペコーさんは男達について行きました。
ドアを入ると直ぐそこは事務所で、簡単な机とイス、ソファーなどが置いてあります。お手洗い、従業員用のロッカールームらしきドアと外への出入り口のドアがありました。
男たちはまず、イスやソファーを使って出入り口を塞ぎました。どうやら立て籠もる気の様です。その作業が済むと、男の一人がロッカールームへとペコーさんに入るよう銃で促しました。残った男がずりいなあ……と呟いています。
ロッカールームには古びたロッカーがいくつかと、休息所を兼ねているのでしょう、イスと机が置いてありました。
「とりあえず身体検査だ姉さん、そこに手をつきな」
覆面で目元と口元しか顔は見えませんでしたが、見えなくても男が下卑た笑みを浮べているのが判りました。
ペコ―さんは大人しく小さな鏡が掛かっている壁に手をつきました。
「へへっ」
男の手が後ろからペコーさんの身体に無遠慮に触れてきました。忌々しい事に片手でまだ銃を構えています。今動くのは得策ではありません。銃声や声が聞こえれば隣りにいる仲間が直ぐに気付いてしまいます。確実に男を無力化できるタイミングまで耐えなくてはなりません。
ペコーさんの豊かな胸を男は夢中で触ります。片手では直ぐに物足りなくなったのか机に銃を置き、両手で蹂躙し始めました。思う存分胸を揉むと、男は細いウエストを通り片手でいやらしくお尻を撫で上げました。もう片方の手は引き締まった太腿を撫でゆっくりと付根に向って上がっていきます。
嫌悪の吐き気を堪えながら、ペコーさんは男の暴虐に耐えていました。銃を置いたとはいえこの位置関係では声を立てずに倒すのは難しいでしょう。男のスケベ心がもっとエスカレートするのを待った方がいいかもしれません。けれど、太腿の内側の銃にこのままでは気付かれてしまいます。と、前にある鏡がペコーさんの目に入りました。鏡を見たペコーさんはハッと目を見開きそして……
「あっ」
今まで、声を漏らさなかったペコーさんが初めて声を上げました。女の高い声に男はヒートアップします。
「へへへ……姉さん、なかなかイヤらしいじゃねえか、あ? どこがいいんだい?」
「あっあっむ、ね……とっても、あっ…気持ちがいっ……もっと…」
そんな事言われて、胸に触らない男はこの世にいません。
男は再び両手で胸を触り始めます。
「あ、あ、あ……」
ペコーさんも声を出します。
「へへへ…姉さん、いっちまいそうかい?」
「ええ……あなたがね」
「!?」
瞬間、男の首に逞しい腕が回されていました。声を上げようとした口はしっかり塞がれています。やがて男の身体から力が抜け、声も無く静かにおとされたのでした。
「ご協力、感謝します。綺麗なお嬢さん」
小声のためそれは囁く様でしたが、ペコーさんにははっきりと聞き取れました。低くよく通る声です。
漆黒の髪と同色の黒曜の瞳がペコーさんを見つめていました。



後編へ
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by netzeth | 2010-03-26 21:26 | Comments(0)

caution!

このお話はパラレルです。
鋼の錬金術師のゲーム「飛べない天使」に出てくる、リザ・ホークアイ中尉扮する秘書マーゴット・オレンジペコーが本当に存在するとしたら――という趣旨のもと書かれています。

ゲーム等ご存知でない方はご注意下さい。
またパラレルなんか嫌いという方はご遠慮された方がよろしいかと思います。

また作中に少々大人向けの表現がございます。重ねてご注意ください。



以上の事が全然大丈夫!という方は下からどうぞ。



こちらから
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by netzeth | 2010-03-26 21:20

冬の夜に


月の無い星空のカーテンの下、靴音だけがコツコツと鳴っている。シンと静まり返った夜にそれは染み渡る様に良く響いていた。
昨夜まで降り続いた大雪がようやく止んで、今日は一日中快晴だったが、堆く積もった雪はまだまだ溶けずに道脇に残っている。風はないが、空気はぴんと張り詰めたように冷たく、吐き出す息は白い。
その息をはあーと両手に吹きかけて、私はかじかむ手に暖を与え続けていた。いざという時に引き金を引けないと困るからだ……今、目の前にあるこの背中を守るために。


時々重なる二人の帰宅時間。そんな時は途中まで、二人の家への分かれ道まで帰路を共にする――この習慣が出来たのはいつからだったろう。最初はたまたまで始まったものがいつの間にか二人の間の暗黙の了解になったのも。もう、思い出せないほどに彼とこうして歩いてきた。
私はいつも彼――ロイ・マスタング大佐の斜め後ろを歩く。護衛のための最適な位置。勤務中のその場所が仕事から離れた退勤時間においても私の定位置だった。大佐にはそれが不満らしく、一度ならず何度も私に隣りを歩くように言った。
プライベートまで君に守って貰うことはない――自分の身くらい自分で守る――。
だが、何と言われようと私が大佐の隣りを歩く事はなかった。大佐も諦めたのだろう。最近は黙って私の好きなようにさせている。


時折肩越しに二言三言言葉を交わしながら歩く。大佐は立ち止まりはしないが私と話す時は必ず振り返り、私の顔を見て話す。それが仕事中との大きな違いだ。プライベートの彼の表情は柔らかくて、リラックスしているのが分かる。
そんな彼をもっと見ていたくて。この時間が少しでも長く続けばいいと思ってしまうのは困りものだ。
振り返った大佐は私の仕草を見て、
「……寒いのかね」
「手がかじかむと、引き金を引けませんから」
彼の表情が何とも言えない顔になる。あの顔は困っている時の……でもどうしようもないという時の顔。彼は私の意思を尊重してくれている。私の彼を守りたいという気持ちを。それが分かっているから、優しい彼はいつもこんな顔するのだ。
「……そうか」
だから、今日も大佐は何も言わなかった。何も言わない代わりに、ついと彼の手が伸びて。
「……大佐?」
私の片手を掴んだ。彼の手は思ったより大きくて、そしてとても暖かかった。少し骨張ったゴツゴツした感触が彼が自分とは違う……異性なのだと感じさせる。すっぽりと包まれてしまった私の手を彼はグイッと引っ張り彼のコートのポケットにそのまま入れてしまった。
「大佐!」
私の抗議の声を聞いているのだろうに、彼はかまわずドンドン歩いていく。私は自然と彼に引っ張られる様に彼の隣りへと。
「大佐!」
再びの私の抗議の声を聞くと彼はようやく立ち止まり、
「……利き手じゃないから良いだろう」
と、ぼそりと言った。
「そういう問題ではありません」
そう、そういう問題ではないんです。第一、私の手なんか握って何が楽しいんですか。私の手は大佐がいつもデートしているお嬢様方の様に細くも白くもないし、手のひらはタコがいっぱいで硬いし、肌だってガサガサしていて……ああこんな事ならハンドクリームくらい塗っておけば良かった……。
私の内心の葛藤を知ってか知らずか、彼は再び歩き出す。
「大佐!」
「……私は君の手が好きなんだ」
「え……」
「少しの間だ。大人しく握られていたまえ。多少は暖かいだろう」
……そんな事言われたら、もう、どうしようもないじゃないですか。
私は赤くなった顔を彼に見られたくなくて。極力彼の方を見ない様に歩く。幸い彼もそっぽを向いて歩いていて……ちらりと見えたその耳が赤いのは気のせいだったのかしら。


黙ってしばらく歩くと二人の分かれ道まで後少し。
何だかんだ言って私は大佐の手を離せずにいた。
……私だって、好きなのだ、彼の手が。
もう少し。後少しだけ……こうしていたい。そう願う私の足は、主人の意を汲んでゆっくりになる。
と、突然彼が道を曲がった。
「大佐?……道が違いますが……」
「寄り道だ」
そう言って通りを進んでいく。更に角を曲がると、閑静な住宅街に出る。
「綺麗……」
私はその光景を見て思わず呟いた。
そこでは雪玉を重ねて作ったキャンドルホルダーに蝋燭の光が灯されていて、温もりを感じる幻想的な空間が作り出されていた。所々に雪ダルマがちょこんと鎮座している。きっと昼間に子供達が作ったのだろう。
「君にこれを見せたくてね」
彼は私の反応に満足そうに笑顔見せた。悪戯が成功した子供のような笑顔。
……自惚れても良いのだろうか。彼も私と同じ様にこの時間を貴重な大切なものだと感じてくれていると。
私は彼のコートに入れられたままの手で、ギュッと彼の手を握り返した。驚いた様に彼は目を見張る。
……明日からはまた彼の忠実な部下になる。彼の背中を任された彼の副官に戻るから。だから、今だけはこうしていたい。彼の隣りで彼と手を繋いで。
――月の無い星空のカーテンの下、小さな雪ダルマだけが彼と私を見ていた。





END
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by netzeth | 2010-03-12 22:43 | Comments(0)

ガソガソ感想 4月号

ガソガソ4月号感想です。
ネタバレあり。本誌未読の方、コミックス派の方はご注意を!

大丈夫~という方は下のネタバレからどうぞ。

ネタバレ
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by netzeth | 2010-03-11 21:04 | ガンガン感想 | Comments(0)

TUBAKI

リザ・ホークアイ中尉は見た目を気にする性格ではない。もちろんいつも清潔に――とは気を使っているが、それだけで、同年代の女性達がするほどの手入れはしていないに等しかった。だが、そんな彼女にも一つだけ一際気を入れている部分がある。


しっかりとタオルドライした髪を丁寧にブラッシングして、リザは良い匂いのする植物油を少量擦り込んだ。
この油には髪の毛に良い成分が入っているらしい。なかなか高価だったが奮発して購入したのだ。そのかいあってこれをつけると髪がシットリサラサラになってリザは気に入っている。念入りにする髪の手入れは朝のシャワー後のリザの日課だ。髪を伸ばす様になってから、その手入れに割く時間が長くなった様に思う。肩にかかる様になった髪を鏡越しに眺めて、リザはそっと髪に触れた。
「今日からまとめてみようかしら……」


昔の自分はこれほど髪に気を使ってはいなかった様に思う。不潔でなければいいくらいの感覚で、石鹸で洗髪をしていた事もあったくらいだ。今思えば無頓着にもほどがある――とリザはおかしく思う。そんな自分が髪を気にする様になったのはいつ、どうしてだっただろう……。
そんな風にリザが朝の執務室でつらつら思い返していると、
「おはよう。中尉」
ロイが部屋に入ってきた。今日は珍しく早い。
「おはようございます。大佐」
挨拶を返し、リザはロイのためにコーヒーを入れるべく給湯室に行こうとして、
「中尉、ちょっと」
「はい?」
ロイに呼び止められた。振り向くと、思いのほかロイが近くにいて驚く。
「大佐?」
ジッと自分を見つめていたロイは、おもむろに手を伸ばして――。
「今日からまとめたんだな」
額の下にスッと手を入れて、リザの前髪をその大きな手でそっと梳る。
「おろしたままでも良かったのに」
そのまま優しく髪を撫でて。
「せっかく長くなったんだからな。……綺麗な髪がもったいない」
ロイはサラリと言い放った。
……この人は――! 朝から一体何をして――何を言い出すのだろう!
赤面もののセリフを言い放ったロイにリザは恥ずかしさに固まってしまった。だが、当のロイは平然としている。そんな彼を見て、リザは強烈なデジャヴに襲われた。
そうだ―――私が髪の手入れをするようになったのは―――。


「リザの髪は綺麗だね。柔らかくて、サラサラしてて……お日様色で……とても綺麗だ」
昨日も適当に石鹸で洗った髪をそんな風に言われながら撫でられて、リザは大きく動揺した。何て恥ずかしい事を言うのだろう!
「な、何をっ、言うんですか……綺麗なんかじゃないですっ」
ロイの手を跳ね除けてリザは自らの髪を掴む。こんな、手入れのての字もしてない髪をっ。
「そんな事ないよ。とても綺麗だよ」
そう笑って、彼は再び私の髪を撫でた――。


――昔から変わってないのね、この人……。
リザが殊更髪の手入れをするようになったのは、昔ロイに髪を褒められてからだった。
あの後、すぐに自分は生まれて初めてシャンプーを買ってきたのだ。当時、幼心にも褒められて嬉しかったのだろう。
今、再び同じ事を言われて。リザは嬉しいのだから。
まったく、ロイに一言言われただけでこんなに舞い上がってしまうなんて困ったものだ。そして、自分をいとも簡単にこんな風にしてしまうロイも。
「くだらない事言ってないで、早く仕事に取り掛かって下さい! 今日も忙しいんですから」
だから、リザのこんなセリフも照れ隠しだと見抜かれているのだろう。事実ロイはククッと笑いながらリザを見ている。リザは背を向けて赤くなった顔を隠した。
「分かったよ。……まあ、その髪型も似合っているがね」
「!」
ますます赤くなった頬を隠す様にリザは執務室を後にした。そうして、未だに冷めそうもないこの熱をどうしようかとドアを背にして息を吐いたのだった。



END

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椿油は髪にとっても良いんですよ。にしても増田セクハラだ・・・。
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by netzeth | 2010-03-05 22:51 | Comments(0)