うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth
プロフィールを見る
画像一覧

<   2012年 11月 ( 23 )   > この月の画像一覧

黄金に優るもの

リザがその光景を目撃したのはゆったりとした時間が流れる昼下がりの事だった。

夜勤明けで帰宅して、少し仮眠をとり、起き出したのは午後二時。空腹を覚えたのはいいが料理をするのが億劫で、遅めの昼食をとるために街へと繰り出した。
しかし、いつも利用しているリザのお気に入りのカフェはあいにく臨時休業。軽食のクラブハウスサンドイッチを楽しみにしていたリザはがっかりしながらも、気を取り直してあまり脚を運ばない区画へと向かった。これを機会に新しい店でも発掘しようと思ったのだ。
リザはイーストシティに暮らしてもうすぐ二年になるが、仕事の忙しさにかまけてこうした気ままな街歩きなどついぞした事は無く、家からごく近場辺りの事しか知らなかった。もちろん仕事で街に出る事もあるし、地理だってあらかた把握しているが、それは全て軍務のためのもの。軍部の地図にはテロリストの標的になりそうな重要施設・街の拠点などは載っていても、街の美味しい食べ物屋さんの情報は記されていないのだ。
それは当たり前の事だし、そしてリザは特にそれを問題視もしていなかったのだけれども。
――知識はそれがどんなささいな物でもいつか意外な所で役に立つ便利道具のような物だ。いくら持っていても損は無い。
禄にイーストシティの流行り物すら知らない疎いリザに、偉そうにそんな事を言って揶揄したのは、彼女の直属の上司であった。
事実彼はリザが知らないこの街の事を良く知っていた。
魚が美味しいレストラン。安いが質の良い酒を用意しているパブ。人気の移動販売アイスクリーム屋が出店している場所。
……一説では彼に指導を仰げばイーストシティにおける完璧なデートコースを作成出来るらしい。
別にその上司に触発された訳ではないが、知識を蓄える事は無駄ではないという部分にはリザは賛同している。
――知識は黄金に優る。
それはリザの父のかつての言葉である。何となく父と彼が重なって、リザは上司の言葉に倣ってみようかという気になっていたのだ。
そして、リザは普段は見慣れぬ道を適当に歩いていく。そぞろ歩きというものは存外楽しかった。
サムソン・ウォーレンといった賑やかな通りを横切って、ルイスへと至る。イーストシティに存在する通りには全て男性名が付いている。もちろん正式名ではなく数字と記号による別名がちゃんとあるのだが。だが、イーストシティに住む者ならばそんな味気の無い正式名称ではなく、この愛称の方を使う。それはリザも例外ではない。しかし、彼女はその愛称の由来は知らなかった。これも知識の一つとして知っていた方が良い例なのかもしれない。機会があったら調べてみようか――そんな事をつらつらと考えつつ、リザはルイス通りを歩く。この辺りはあまり来た事のない地域だ。
街の中心地から少しだけ離れているため人々の喧噪が無いが、かといって寂れている訳でもなく、ちょうど良く落ち着いた雰囲気が周囲に満ちている。
外国風の雑貨屋に、絵本の置いてある本屋、その隣には綺麗な花壇と……そして。そして、リザはそれを目撃したのである。
彼女が歩いていたのとは反対側。興味を引く店が軒を連ねているそこ。本屋の隣には花壇とそして一際目立つ洒落た建物が立っている。遠目にパティスリーと描かれた看板が見えるので洋菓子店だろう。窓越しに見える椅子に座る女性達の姿からすると、イートイン形式の店なのだろうか。
そこまでは何の問題も無い。
……問題は店の外にある花壇の影に身を隠している人物である。
その人物はサングラスにマスクをしており、おまけに羽織ったトレンチコートの襟を立てていた。どこからどう見ても、不審者。怪しさ大爆発である。
もし憲兵が通りがかったのなら絶対に職務質問である。悪ければちょっと憲兵所で話を、と連行されるだろう。しかし、そんな事をさせる訳にはいかない。何故なら、リザにはその人物に嫌と言うほど見覚えがあったからだ。……彼を見間違えるはずもない。
「マスタング中佐。一体何をしていらっしゃるのですか?」
後ろから忍び寄ってそう声をかけてやれば、かけられた相手――ロイは驚いたのだろう。文字通り飛び上がる様に振り向いてリザの顔をまじまじと見た。
「少尉……や、やあ? 奇遇だな。こんなところで会うなんて……」
「本当に奇遇ですね。で、何をしてるんです? そんな格好で」
あからさまに話題を逸らそうとするロイにニッコリと笑ってはやるが、リザは追求の手を弛めようとはしなかった。
「……え~と、いや、これはだな……」
「格好からすると、変質者の真似事か、ストーカーですか?」
「違う!! 私はただこの店にっ」
「お店?」
リザは傍らの洒落た洋菓子店を見上げた。思わず出てしまった言葉にロイはしまったという顔をしたが、もう遅い。
「こちらのお店に用があるのですか?」
「……そうだ」
観念した様にロイは頷いたけれども、リザにはこの店に用があるのとロイの怪しい格好の意味が結びつかず小首を傾げる。
「洋菓子店に入るのに何故そのような格好をするのですか? 普通に入ればよろしいのに」
しかも身を隠して外から様子を伺う必要性も分からない。いろいろな疑問を乗せてロイに視線を向ければ。
「何を言う!」
ロイは無駄に自信にあふれた瞳でリザを見つめて。
「イーストシティ一のプレイボーイの私がこのようなうら若いお嬢さんが集う店になど入って見ろ! 女性達は私を見るなり、ロイさんロイさんと群がってそれこそ店内は大混乱。店に多大なる迷惑をかけてしまう事になるのだぞ!? そういう事態にならない様にと、私はこうして変装して絶対にロイ・マスタングだと分からない様にだな……」
「…………はあ」
言い切ったロイにどうリアクションをとったものか、リザは判断が付きかねて結局ものすごく薄い返事を返してしまった。こういう時、少しだけ本当にこの人に付いて行っていいものか迷う。
「いや、変装していてもこの私のオーラに気づく女性も少なからずいるかもしれないな……。いや、まったく困ったものだな? しかしテイクアウトしようにもこの店はイートインではないと食べられないメニューがあってだな…」
「なら、別の店に行ったらどうですか? 中佐なら他に良いお店をたくさんご存じでしょう」
いい加減ロイに付き合うのもバカバカしくなってきたので、彼の言葉を遮ってリザはそう提案してやった。てっきりもちろん私に知らない事はないと大見得切るだろうと予想していたのに、けれども、ロイは意外な反応を見せた。
「そ……それは…」
口ごもったロイは、もごもごと何やら小声で言う。心なしか耳が赤いのは気のせいだろうか。いよいよ彼らしくない態度にリザは首を捻るばかりである。
「何ですか、中佐。良く聞こえないのですが」
「……その」
「……はっきりおっしゃって下さい」
強い口調で促せば、ロイは諦めたように白状する。
「……この店のアップルパイじゃなければダメなんだ。ここの味が一番……君の手作りに似ている」
「え……」
ロイの言葉に今度はリザが顔を赤くする番である。
「な、何を言って……」
「だから! ここの店のアップルパイが君の手作りのアップルパイに一番味が近いんだ……だから、ここの…アップルパイが食べたいんだ…」
他の店じゃダメなんだ……。
そんなロイの主張にリザはいたく困惑する。
なんだ、それは。それでは本当はこの店のアップルパイが食べたいのではなくて、自分の、リザの手作りアップルパイが食べたいと言っている様なものではないか。
まさか、彼はその豊富なイーストシティの街知識で洋菓子店を網羅し、この店を探し当てたのだろうか。リザが昔ロイに作ってあげた彼女の手作りアップルパイの味を求めて。
ロイの情熱と執念には目を見張る物があるが、それと当時にリザはひどく呆れた。確かに彼の知識量はすごい。しかし、肝心な事が解っていない。
「中佐」
「ん?」
「クラックベリー産の、スタージョナという品種のリンゴを扱っている店をご存じで?」
「ああ、もちろん」
「では、純東部産の小麦粉、同じく東部の牧場で作られたバター、南部のシナモン、そして朝産みの卵。この全てを揃えられる店をご存じですか?」
「もちろん、知ってはいるが……」
リザの問いかけの意図が見えず、ロイは訝しげな顔をしている。
「では私の家は?」
「え?」
「私の家は知っていますか?」
「そ……それは…」
「知らないんですか?」
「……だって、き、君のプライベートだろう?」
職権を乱用すればリザの住所くらい容易に知り得るだろうに。この上官はその辺りは律儀な様だった。そんなロイにリザは悪戯っぽく笑う。
「では、これも知りませんね。今言った材料を持って家を訪ねてくれたならば、私はいつでもあなたにあの時のアップルパイを作って差し上げる事も」
「しょ……しょうい?」
「知識は黄金に優る……いくら持っていても損はありません。けれども活用出来ないのでは宝の持ち腐れというものです。それでは」
「少尉!!」
それだけ言いおいて、リザはさっさと踵を返して歩き出した。
昼食は食べ損ねてしまうが仕方がない、適当な物を買って帰ろう。
それよりも一刻も早く帰って、準備をしなければ。調理器具もずいぶん使ってないし、部屋のオーブンだって放置したままだ。そう、時間はいくらあっても足りないのだ――きっとすぐに、ロイはイーストシティ中を駆け回って材料を集め、リザの部屋を訪ねて来るだろうから。
空腹であるにも関わらず、リザは満ち足りた気分で家路を急ぐ。その足取りはひどく軽やかであった。




END
**************************

ロイは無駄に知識がありそう
[PR]
by netzeth | 2012-11-06 00:46 | Comments(2)

受かりました(^^)

冬コミスペース頂けたようです。新刊出せるように今から原稿モードで頑張りたいと思います!

仕事帰り駅のホームに座って電車を待っていたらば、裏側の椅子に座っていた男の子達が(小~中学生?)が日本史のクイズ問題を始めました。なんとなく聞いていたうめこ。一緒に心の中で答えてましたww多分中学校くらいの範囲ですが、結構覚えているものですねー。大塩平八郎とか解体新書とか。

ちなみに私は世界史の方が好きでしたねー。カタカナの名前覚えるの好きだったなあ。マルクスアレリウスアントニヌスとか。ただ、世界史は横の線で覚えなければならないのがやっかいでしたね。日本史は縦の線でOK、つまり日本の中の事だけで良かったけど。世界史のオスマントルコの時代のさてその時の中国は?みたいな横の繋がりがなかなか頭に入ってこなかったなあ。

暗記教科は比較的得意だったんですけど、壊滅していたのが、数学だ…。証明とか本当に訳が分からなかったよ…。なぜエックスとかワイを使うんだ、アルファベット苦手だなんだよう、いろはにほへとにしろよう…とか当時泣いてましたねーw そういえば。模試で問題が一文で、あとは真っ白の問題用紙を見た時は絶望したっけ。一体この空白をどうしろと?と途方にくれましたねー。いやあ、嫌な思い出ですね。 とまあ、ルートがなんだったのか忘れつつあるうめこでした。当時も奴の存在意義には大いに疑問を持っておりましたがねww


拍手ありがとうございます~☆

>11/2 拍手コメントを下さったN様 お返事不要のお気づかいですが一言だけ失礼いたします。
あのような与太話にご反応下さってすっごく嬉しいです~ヽ(*´∀`)ノ こんな感じでいつも書いてます、とお伝えできればなあと思った次第だったのですがw コメントとても嬉しかったです(*^_^*)ありがとうございました!
[PR]
by netzeth | 2012-11-02 23:21 | 日記 | Comments(0)

ごめん寝

ごめん寝に癒されているうめこです、こんばんわ。ごめん寝をご存じない方はごめん寝でググってみると幸せになれると思いますw うはー可愛いよー。

そして、知らぬ間に11月に突入ですね。どうりで寒いはずだよ…。そしてもうコミケの当落判明が明日とか!(ん?明日だよな?)しかも、今月末でサイト三周年だー。早いよ…。まあ、毎日ぼーっとしながらもえっちらおっちらロイアイ妄想をしていたりするのですが。
以下お話を書いていていろいろ思った事などを徒然に。かなーりどうでもいい話してます。ご注意。


お話って当たり前ですが基本的に短いのと長いのを書くのでは重きを置くところが違いますよね。短いのが一点集中だとすると長いのは積み重ねていくみたいなイメージ。ここ!と重視するとこというか見せるポイントが違うのかな。

私はお話を書く時にそのストーリーを書く上で必ず決めておく事があるのですが。それは話の雰囲気というか匂いを決める事です。絵で言うとビジュアルイメージのような。それを見ればだいたいその作品が分かる様なお話のイメージをまあ脳内で決めて置く。言葉にはしていない曖昧なイメージなのですが、お話を思いついた時=このイメージが浮かんだ時、ですね。これさえ掴めば私の中でお話は出来たって達成感が。やったーとか思う。……いやそれから細かいプロットやら考えるんですけど。

上記のような脳内イメージが浮かぶと同時にまだストーリーの筋さえ出来ていないのにキャラが動いて勝手に喋ります。まあ比喩ですがwwこの状態になるとおいおいお前らそれどの場面だよ!順を追って私に説明しろメモるから待て!と混乱しながらも私はそれをひたすら記録。だいたいこれが仕事中にくるんです、ええ。私の話のネタはほとんど仕事中に生まれている…。

そして↑の後はメモったシーンを組み立てる作業をいたします。矛盾なく。どうしてもつながらずボツになるシーンもたくさんあったりますww 実はこの組み立て作業の工程が一番好きです。そして、メモってから日が経つとメモった場面がなんの話のシーンなのか分からなくなる事も。鉄は熱いうちに打ては至言だと思いまふ。

という訳で頑張っていこうというお話でしたww
[PR]
by netzeth | 2012-11-01 22:23 | 日記 | Comments(0)