うめ屋


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いろいろとお知らせ

イベント直近になりましたので自家通販を休止させていただきました。ご利用下さった皆様ありがとうございました。
スパコミ新刊2冊目入稿いたしましたー!ので、オフラインに詳細をUPしました。

とり急ぎお知らせを。



拍手ありがとうございます(*^_^*)
いつも大変励みにしております!



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by netzeth | 2016-04-27 01:27 | 日記 | Comments(0)

World is beautiful ~新刊サンプル~

~中略~



「首尾はどうだったね?」
 カツカツとヒールの音を響かせながら自宅の扉をくぐった瞬間響いた声に、悲鳴を押し殺した。視線を巡らせれば、腕を組んで壁に寄りかかる上司の姿が目に飛び込んでくる。
 ツイルのジャケットにワイシャツのボタンをいくつか外したラフな格好で、漆黒の髪の男が立っていた。部屋の明かりが点っていないため、その姿は今にも闇の中に溶けだしてしまいそうだ。
 心臓に悪いわと声にならぬ悪態をついて、点灯スイッチへと手を伸ばした。だが、スイッチへと手が届く前にそれは彼――ロイの手によって柔らかく絡め取られる。
「何をなさるのですか」
「明かりはいい。……答えたまえ」
 真綿で来るんだような押し殺した声の裏には、鋭さが隠れている。普段は完璧に統制されている彼の感情が、ひどく揺らいでいた。
 ああ…また、なのね。
 握られた手から伝わる熱と予感に、自然と背筋が戦慄く。
「上々です」
 これ以上ないほどに簡潔な答えは、彼のお気に召さなかったらしい。すっと目を眇め、薄い唇の端がつり上がる。見覚えのあり過ぎるその顔は、獰猛な獣に見えた。
「……ホークアイ中尉ともあろう者が、そのようなお粗末な報告をするのかね」
「必要十分かと」
 事実、今は作戦の途中。ターゲットとの距離を徐々に縮めている最中だ。まだ彼に対して上申出来る益のある情報は得ていない。
 そんなことは、ロイだって分かっているはずだというのに。
「いいや、不十分だ。きちんと報告をしたまえ、中尉」
「イエス・サー」
 軽くため息を吐きながら、リザは彼が望んでいる報告とやらを始めてやる。
「本日一九○○、指定のレストランで接触。主に趣味、流行、観劇に関する話題にて歓談。二一○○にレストランを出て街中を散策した後、ターゲットの行きつけのバーに誘われ、二二三○まで同席。ターゲットに仕事の電話が入り離席したことで解散となりました。本日の釣果はこれです」
 言いながら首を指し示して見せる。銀色のチェーンにきらきらしいダイヤがあしらわれた派手なネックレス。
「レミスの最新モデルだな」
「正解です、お見事。わざわざセントラルで私のために購入したとか。……故に首尾は上々かと」
 ネックレスに一瞥をくれただけでその出自を看破したロイに賛辞を送りながら淡々と報告を終える。値が張る贈り物してきたということは、ターゲットはリザに好意を持っているということ。作戦は順調に進んでいるはずだ。
「……必ずお望みの情報を得てみせます」 
 自分などに諜報活動が出来るだろうかという心配は、杞憂に終わった。付け焼き刃の拙い誘惑に簡単に落ちてくれた男はなんとお手軽だったろうか。ロイの伝手で潜り込んだ店でターゲットに近づき、甘い言葉と手管で親しくなった。リザを気に入った男は店に通いつめ、とうとう個人的に会うようにもなった。
 家業に対してはそれなりに口が硬いようだが、それも時間の問題だ。早晩彼はリザに情報を漏らすだろう。全てはロイの狙い通りに。
 それなのに。
「それは頼もしいことだ。だが」
 ロイが酷薄な笑みを浮かべ、リザの心臓は早鐘をうつ。
 まただ、また……。
 リザが任務に就く度に、彼の機嫌は悪くなっていくようだった。
「あ……っ」
 捕らえられたままの手を強く引かれ、たたらを踏む。身体を入れ替えるようにして身を翻し、ロイは自らが背中を預けていた壁にリザを押しつけた。胸が壁で圧迫され息苦しい。手をついて距離を取ろうとするが、後ろからロイの身体が密着していて動けない。
 彼はいつも抵抗する隙も与えてくれない。
「大佐……っ、何を」
「レッスンの続きだよ」
「……もう終わったはず…ひゃっ」
「まさか。まだまだ卒業するには早い」
 ぺろりと耳たぶを舐められて、悲鳴を上げてしまう。
 デート帰り、こうしてロイはリザを待ちかまえてレッスンをするようになった。いまだに男を落とせぬ不甲斐ない女の身体に訓戒を刻んでいるのだろうか。早くしろと。
 胸の奥と、リザの女の部分が切なく疼く。
 リザにだって少なからず葛藤が存在する。任務の邪魔になるとずっと黙殺してきたそれが、こうやって彼に触れられる度に顔を出してしまう。
「私の犬に、首輪を付けるなど忌々しい」
 舌打ちと共に首に巻かれた銀色を後ろから引っ張られた。あっと言う間にネックレスが外れて肌を滑り落ちていく。床に落ちた残骸から引きちぎられたのだと知る。 
「大佐っ! 止めて下さい。今後の任務に支障がでます」
 プレゼントであるならば、次のデート時に身につけていくことを相手も期待しているだろう。ターゲットの心象を悪くする訳にはいかない。
「何、必要ならば後で似たものを錬成してやる」
「……それで誤魔化せるとでも?」
「はっ! あの男に果たして真贋を見抜く目があるかな?」
 ロイが鼻で笑う。彼は徹底的にターゲットを毛嫌いしているようだ。それはリザだって同感だ。麻薬の密輸で築いた財産で豪遊し、金で女をものにするような男だ。話していても、とても好感を抱くような人物ではなかった。
「それか、もっといいアクセサリーを私が用意してやる。そうだな、ピジョン・ブラッド……。焔のような赤が君には似合うだろう」
「……リスクは避けるべきです」
 それとこれとは別、とリザは割り切る。例え個人的に相手に好意を持てなくとも、エリザベスとしてはターゲットを愛さなければならない。気取られて警戒されては、元も子もないのだから。
「君はいつだって、冷静だな……そうやって…」
 簡単に割り切っている。
 低く押し殺したロイの呟きは、よく聞こえなかった。ただロイがひどく苛立っているのは伝わってくる。
 こうなった彼を止める手だてがないことを、リザは経験上よく知っていた。




**********************


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by netzeth | 2016-04-27 01:15 | Comments(0)

通販連絡事項です

【通販連絡事項】4/16 17:30までに頂いたお申込みには全て確認メールを返信済みです。メールが届いてないよ~という方はご一報下さいませ~。





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by netzeth | 2016-04-16 17:59 | 日記 | Comments(0)

引き続き

こんばんはー。暖かったり寒かったりで体調くずしがちな時期ですね。
とりあえず一冊入稿いたしまして安心しておりますうめこです。が、一応目標としてもう一冊頑張ってみておりますので引き続き原稿やっとります。がが、腰の調子が先週あたりからよくなくて、はかどっておりませぬ。原稿時期だけでいいから腰痛どっかやっててくんないかしらん。ちょっと高級な椅子かマットレスの購入を考えないといけないかしら……。
という訳でギリギリまで粘ってみますので、また低浮上になるかと思われます~。


拍手ありがとうございます!いつも大変励まされております~(*^_^*)
以下続きから拍手コメント(4/11分)のお返事です。







続き
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by netzeth | 2016-04-13 00:59 | 日記 | Comments(0)

スパコミ新刊サンプル  ABC

 軍法会議所勤めは激務である。軍内全ての司法を取り仕切るそこは、常に書類との格闘を強いられ、その性質上地方出張も日常茶飯事。ブラック企業真っ青の残業残業また残業で、体を壊しての異動、退役する者も少なくない。
 その軍法会議所に在って、常に定時退勤週二日休みを貫いている親友は、自分なども及びもつかぬ切れ者なのかもしれない――。
「で? 折り入って俺に相談だって? どーせ、リザちゃん関係だろ?」
 行きつけのバーのカウンターにて。シングルモルトに口を付け3秒でそう切り出した親友――ヒューズの言葉を聞いた瞬間。
「ぶはっ!!」
 噎せながらロイはそんな感想を抱いた。
 手のひらでウィスキーグラスを遊ばせながら、ヒューズは面白い玩具を見つけたやんちゃ坊主のような顔でロイを見ている。
「図星かあ~」
「なっ、なんで……分かった…」
「何でも何も。お前さんが、んな深刻な顔で俺に相談するなんて、あの子のことしかないだろ」
 眼鏡奥の薄いブルーアイがニンマリと笑っている。
 ああ、こいつには下手な誤魔化しは効かない。そして、する必要もない。
 腹を割って話せる親友が一人でもいる幸運に感謝しながら、ロイは観念して話すことにする。――ここ最近、自分を悩ませている重大な問題を。
「……ヒューズ。私は何かの病気かもしれん」
「あ?」
 胡乱げな顔をした彼には構わず、ロイは沈痛な面もちで眉間に皺を刻んだ。 
「……胸が苦しいんだ。中尉が近くにいるだけで、動機が激しくなって…どうしようもなくなる。それから熱だ。血液が顔に集まって来る症状が見られる。それに、言語障害も発生している。うまく、舌が回らなくなるんだ。これは相当に病状が進んでいるのではないか。一刻も早く医者にかかった方がいいだろうか……?」
「待て待て待て待て待て……!」
 ばっと手をパーの形でロイの顔前に突き出したヒューズは、もう片方の手で頭を押さえている。まるで頭痛でも起こしているかのように。
「……待ったぞ。何だヒューズ。人がこれほど深刻に話しているというのに、そのアホらしって顔は」
「……お前それ、本気で言ってんの?」
「もちろん本気だとも」
 大真面目にロイは頷く。何故ヒューズがこんなにも、自分の悩みを軽んじているのか分からない。
「いや、だってよ……。お前ロイ・マスタング大佐だよな?」
「何言ってるんだ。当たり前だろう」
「イーストシティどころか、セントラルまで名を轟かせるプレイボーイ。泣かせた女は数知れず……の」
「まあ、間違ってはいないな。真実はお前も知っての通りだが」
 東方司令部司令官に着任してからというもの、グラマンの指導もありロイはすっかり色事の技を身につけていた。何故ならその道の女性達との社交は、情報収集には欠かせないからだ。
 デートに誘い甘い言葉で良い気分にさせ、情報を引き出す。時に最後まで付き合い、ベッド上の寝物語で不正の証拠を掴んだことさえある。中には寝るのが対価の、体だけの関係の情報屋も何人かいた。
 そんな女性関係の派手さが、巡り巡ってプレイボーイという悪評をばらまく結果になったのだろう。
 表向きはその方が都合が良かったので、訂正はしていないが。実はロイは今まで恋人と呼べる女性を持ったことはないのだ。
「そのマスタング大佐がだ。なんで今更、んな世迷い言言っての?」 
「世迷い言とは失敬だな。私は本気で悩んでるんだ!……何せ、中尉が近くにいる時だけに出る症例だ…。もしも、彼女が知ったら、自分のせいだと己を責めてしまうのではないかと…だから今まで医者にかかるのを迷っていたのだが……」
「ダメだ! こいつ、本気で分かってねえ!」
 だあああっと声を上げ、ヒューズがとうとう両手で頭を抱え込んだのを見て、ロイは知る。
 この切れ者の親友は自分の異変の原因を分かっているらしい、と。
「分かるのなら教えてくれ! ヒューズ!……これは私だけの問題じゃあないんだ。中尉にも関わる一大事だ。お前の答えによって、今後の私たちの未来にも深く影響が……」
「……や、確かにお前さんたちの未来に関わるめっちゃ重大事よ? だからこそおにーさん、危機感を持ってるんだけど……だって、肝心のロイ君がこんな体たらくじゃ先が思いやられ」
「ヒューズ! お前しか頼れる奴はいないんだ!!」
 何か知っているのなら教えて欲しい。そして、治せるものなら治したい。必死の思いでロイはヒューズの肩を掴んだ。
「わ、分かった…! 分かったから! ちょい、落ち着け。なっ? ロイ!」
 がっくんがっくん激しく揺さぶられて、メガネを半分飛ばしつつヒューズが叫ぶ。ぴたっと動きを止めると、彼の顔はすっかり青ざめていた。
「うっ…ちょうど良い具合に脳みそシェイクしやがって……気持ち悪…」
「ヒューズ…!」
「うん、ちょっと待てや、な? 今、頭ん中整理すっから。えーと、つまり、どういやぁいんだ? んんん……」
 歯切れの悪いヒューズの様子に、ロイも気が気ではなかった。重大な病気の告知ほど慎重に行うものだ……。
(まさか…私はそんなに深刻な病気なのか……?)
「ヒューズ」 
 焦りからもう一度親友を促す。すると、面倒だなという顔を一瞬だけして。ヒューズはロイを正面から見据えてきた。
「では、お答えしましょう」
「あ、ああ……」
 なんで突然敬語? と思ったがそこはこの際スルーする。表情を消し、まるで本当の医者の告知のようにヒューズは淡々と告げた。
「ロイ君、それは恋です。君はずばり、リザ・ホークアイ中尉に恋しているのです」
「……何だと? ヒューズ。ふざけている場合じゃ…」
「ふざけてなどいません。ロイ君、君はホークアイ中尉にメロメロなのです」
「メロっ……」
 親友の口から飛び出た恥ずかしい言葉に、かっと頭に血が上る感覚がした。知っている。これはリザの近くにいる時、または彼女のことを考えている時に起こる症状だ。続けてドキドキと鼓動音がうるさくなる。脳裏に浮かんだリザの姿が消えてくれないからだ。
 そんなロイを見て、ヒューズがくいっとメガネを指で押し上げた。
「その様子では病状はかなり進んでいます。治す方法は一つ」
「治せるのか?」
 藁にも縋る思いで、ヒューズを見る。
「もちろん。恋の病を治すには、成就させるしかない――という訳で、ほら、お前リザちゃんに告って来い」
 ちょっとパン買ってこい――ぐらいの気楽さで言うな。
 あくまでも軽い親友を、ロイは恨めしげに睨みつけた。
 そもそも、自分が彼女に恋している…などと、ロイはまだ信じられない。
 それなりに女を抱いてきた。女の扱いもお手の物だ。そんな自分がいまさら、恋だと?
 戸惑う気持ちの方が大きくて、すぐには飲み込めない。飲み込めはしない……が。 
 嫌な気分ではない。むしろ、逆……暖かい気持ちになっている。今まで関係を持った女達には抱いたことなどない、感情。
「私が中尉に告白する…? どうやって?」
 とにかく、原因が分かったのならば相応の対処をしなければ問題は改善されない。だが、ロイの明晰な頭脳をもってしても解決は困難に思えた。
 自分が彼女に……? 好きだと言う?
(か、考えただけでフリーザーに頭突っ込んで素数でも数えないと脳がオーバーヒートしそうだ……!)
「そんなのデートすりゃいいじゃん。いつも女を誘ってる時みたいにさ。紳士でスマートで遊び慣れたマスタング大佐で迫れば?」
「ばっ……バカを言うな!!」
「なんで?」
 あっさりと言うヒューズに、反射的に反論した。彼は不思議そうにロイを眺めている。ばつが悪い気分で視線を逸らしながら、ぼそっと言う。
「……彼女は同じにしたくないんだ、他の女性達とは」
 ヒューズはぽかんと口を開け、数秒惚けた後。
「ロイ君、純情~!! 信じらんねー! あの、女泣かせのマスタング大佐が!」
 ゲラゲラ笑い出した。
「う、う、うるさい! 黙れ黙れ! 燃やすぞ!!」
「おーっとごめんだね。俺は最終便でセントラルに戻るんだ。可愛い妻と娘が待ってるからなー!」
 腹立ち紛れに振るった拳は簡単に避けられた。妻帯者という圧倒的に恋の大先輩の立場をチラつかされると、弱い。ロイが恋の相談を出来る相手は限られているのだから。
「ほらお前さん。そんなことやってる暇があったら、対策を練ろうぜ? 面白そ……いや、ごっほんっ。親友として力になるぞ?」
「…………」
 絶対に遊ばれそうな予感はひしひしとしていたが。ロイには他に選択肢はなく。    
「じゃ、まずはもうちょっと詳細を聞こうか?」
「詳細?」
「ああ、お前とリザちゃんの関係をさ」
「お前には話してあったろう」
「錬金術の師匠の娘さんと弟子ってやつな。そーじゃなくて。過去の関係も重要だけどよ、俺が聞きたいのは、い・ま。今現在の二人の関係。脈があるか判断してやるから」
「……そ、それは…上官と部下…だ」
「それだけ? 他になーんも無いの? 本当に? 何かないか思い出してみ? ほれほれ!」
「お前やっぱり面白がってるだろう……」
 ヒューズに言われるままにロイは、今現在自分が置かれている状況や心情なんかを、まるっと白状させられることとなったのである。

 

 


いい歳をした大人の男が、恋の話なんぞ素面でやってられる訳もなく。羞恥心を忘れるため杯を重ねた挙げ句、早々にロイは意識を飛ばした。
 ふわふわと良い気持ちなのは、酔いのせいかそれともどこからか香ってくるいい匂いのせいか。それはどこか花の匂いに似ている。それも、花屋のショーウィンドウに並んでいる派手な花ではなく。風に揺れ凛と野に咲く花……。
「いい匂いだ……」 
 うっとりと夢見心地に呟けば。
「……大佐?」
 ずいぶんと近くで聞き慣れた声がした。聞き違えることなど絶対ない、涼やかな女の声。一気に脳に酸素が回って、ロイの意識は浮上した。
「お目覚めになりましたか?」
「ちゅ、中尉……?」
「はい」
 呼びかけには律儀に返事がかえる。間違いない。生真面目でクールなロイの副官――リザ・ホークアイ中尉である。
「あの大佐。申し訳ありませんが、もう少ししっかり立って頂けますか。そのようにふらふらされますと、歩行に支障があります」
「あ、ああ……すまない」
 遠慮がちに言われて、ロイは慌てて足に力を入れた。その間も目まぐるしく脳は動いている。
(なんだ? どうして彼女が? ヒューズは? なんでこんなことになっているんだ?……ていうか、近いっ近いっ近い!) 
 ヒューズと飲んでいたはずが、気がつけば何故かリザに肩を借りて歩いていて。すぐ隣に美しい顔と輝く金色がある。状況が掴めず混乱し、同時に例の病が発症した。 
 ドッドッドッ……っと心臓が爆音を奏で、かっと頭に血が上ってくる。ぴったりと寄り添って歩いているので、柔らかな彼女の身体が密着している。伝わってくる温度と弾力。意識が一瞬でもっていかれそうになり、ロイは危険を感じて飛び退いた。
「大佐?」
「も、もう、大丈夫だ。ひ、一人で歩ける!」
「ですが、まだ足取りがおぼつかないようですが……」
 心配そうなリザの顔。愛らしい曲線を描く頬と下がった眉尻。薄く開かれた唇の可憐さにやられる。
(……そんな顔をするな、危険過ぎる。……いや、きっと危険なのは私自身だ……)
 思わず、ヒューズとの会話を思い出す。彼はロイとリザの関係を根ほり葉ほり重箱のすみまでつついて逃さず聞き出し、そして、無責任にロイを煽った。
 強引に唇を奪え、キスから始まる恋もある…だの、残業中に押し倒せ、雰囲気で流してしまえばこっちのもの、だの。
 酔って調子に乗っていたとはいえ、とても軍法会議所に勤めるエリートとは思えない発言の数々である。
 その他、口にするのも憚られる内容を脳裏に思い浮かべて、ちょっと影響されそうになっている己をロイは恥じた。
(自分をしっかり持て、ロイ・マスタング! 私は中尉に対してけしてそんな不埒なことは……)
「行くぞ」
「大佐!」
 煩悩を振り切ろうと、乱暴に歩を速める。
まだ心配そうにリザが後ろからついてくる。足下はふわふわのスポンジの上を歩いているような感触。だがこんなに酔いが回っているのに、何故か頭の中だけはすっきりしていた。
「待って下さい、大佐。それではせめて、ご自宅までお送りします」
「いい。一人で帰れる。君も帰宅したまえ」
「ですが大佐。こちらはご自宅方向ではありませんが」
「えっ」
 冷静に指摘されて、自分の居場所を確認する。――確かに足を向けていたのは明後日の方角である。
「……やっぱり相当酔っていらっしゃるようですね」
 はあっとため息を吐かれて、ロイは居たたまれなくなった。彼女の前では格好悪い所は見せたくないというのに。
「酔ってない。断じて酔ってないぞっ!……そもそも、どうして君がここにいるんだ。私は呼んでいない」
 そうだ。リザがいなければこんな醜態を晒さずとも済んだ。
「ヒューズ中佐に呼ばれたんですよ。貴方を迎えに来て欲しいと」
「……肝心の奴はどうした?」
「中佐なら最終列車に飛び乗ってセントラルに帰られました。ご自宅でご家族が待っておられるとか。貴方にノロケておりましたよ」
「…………」
「ほら、そんなことも覚えていないんですから。どこが酔ってないんです? さ、お分かり頂けましたなら参りましょう。明日は通常勤務なんですから」
(は、反論できん……)
 結局、ロイがこの厳しくも可愛い副官に叶うはずもなく。リザに追い立てられるように一緒に自宅へと向かうはめになる。
 ……こんな状況に自分を追い込んだ親友が、ひたすら憎らしかった。
(くそっ、ヒューズめ。こんなことなら、相談なんかするんじゃなかったぞ)
 なんて、家族バカメガネの顔を思い浮かべながら毒づいていたらば。ロイは思わぬ一撃を食らうことになる。
「それから大佐。ヒューズ中佐が伝言を、と」
「何だ?」
「早速チャンスだ、決めちまえ! と。……何の話です?」
 ……このお迎えも、私の窮地も、全て計算づくという訳か。あの野郎。
 もう一度盛大に毒づいて。ロイは覚悟を決めた。どうせ、遅いか早いかの違いだ。
 受け入れられるのか、拒絶されるのか、それは今のロイには分からない。いや、リザとの過去を思えば、叶わない公算の方がはるかに高い。
 それでもロイはこれだけは言える。このリザへの気持ちは絶対に消えることも小さくなることもない。いつかきっとこの恋とやらを、ロイは押さえられなくなる時が来る。溢れ出して止められなくなる。
 だったら今、解放してやってもいいだろう。早いうちに結果が分かった方が、もしもの時傷も小さいに違いない。
 そんなある意味投げやりな気分で、ロイはまずは会話の糸口を探した。本題に入る前のムード作りは大切である。
「あ――中尉」
「はい」
「月が綺麗だな」
「出ていませんが」
「……星…」
「曇っておりますよ」
 ぎぶみーロマンチック。
 盛大に最初から蹴躓いて、すっころぶ。
(く、さすが中尉。一筋縄ではいかないな……これから一体どうしたらいい?)
 そもそも。女性を口説いたことはあっても、本当に恋した女性を口説いた経験はロイにはない。
 言わばこれは、初めての告白。初めての恋……。
(何とも青臭いことだ)
 二十代のいい大人が。しかも、プレイボーイで鳴らしている自分が。一体何をしているのだろう。滑稽でおかしくなる。
 ふと、記憶の片隅にヒューズに言われた言葉が蘇る。
 
 ……告白って一体どう言えばいい。自信がないぞ……。
 ……いいじゃん。好きな女の前で見栄張る必要なんてねえよ。ありのままでいけよ。リザちゃんなら、さ。そのままのお前を見てくれるさ。

 そうだ。今更彼女の前で何を取り繕う必要がある。そんな風に考えたならば、するすると言葉が出てきた。
「中尉…その……」
「はい」
「迷惑をかけてすまない」
「……迷惑だとは思っておりません」
「じゃあ、面倒をかけてすまない」
「そうですね。ですが、大佐の面倒を見るのが私の仕事ですから」
 口調は淡々としていたが、リザの口元はわずかに緩んでいる。先ほどから隣を歩いてくれていることといい、肩の力を抜いたことでいい結果に向かっているように思えた。
 このまま自然に会話を弾ませていい雰囲気に持って行く……。そう、するべきだったのに。
(仕事……か)
 わずかな引っかかりをロイは見逃せなかった。
 いつもならば流せるはずの小さなこと。なのに。
 寂しい。
 どうしようもなく、気持ちがやるせなくなる。副官としてリザは当たり前のことを言っているだけだ。そう己に言い聞かせるも、気持ちがどんどんと溢れ出して止まらなくなる。 
「仕事だから?」
「え?」
「仕事だから……君は私の面倒を見てくれるのか? 仕事だから……私を守って…仕事だから…そばにいてくれて……」
 今のリザはロイの部下。彼女の立場なら今までの受け答えは妥当だろう。むしろ、酔った上司を迎えに来て家まで送り届けている上での会話……となれば、極上に好意的だ。
 だが、ロイはそれだけではもう満足出来なかった。
 ヒューズに焚きつけられて、火がついた想いを止めることが出来なくなっていたのだ。
「私はな、中尉。仕事じゃなくても、一緒にいて欲しいなあと思うんだよ」
「……ご冗談を」
 いつも明朗なリザの声が、一瞬だけ揺らいでいた。この人は何を言うのか。込められた無言の疑問にロイは答えていく。
「君のいろんな顔が見たい。仕事をしている時の厳しい顔もいいが、他の顔も見てみたい。料理をしている時の顔、寛いでいる時の顔、眠っている時の顔……」
 際どい文句も舌に乗せる。明確にロイの意志が彼女に伝わるように。
 既に二人の歩みは止まっている。明るい街灯が見下ろす夜のストリートにて。二人の居る場所だけがまるで異世界のように、闇の中にくっきりと浮かび上がっていた。
「た、大佐……」
 狼狽えた風にリザがロイを見上げる。鳶色の瞳には困惑、そしてほのかに染まる頬には羞恥を乗せて。
「大佐。こういうことを言うなら素面の時にして下さい」
 それは彼女の精一杯の反論。
「素面なら、いいのか?」
 酒は入っているが、頭ははっきりしている。既に自分が酔っているとはロイは思っていない。だが、ロイの問いにリザはまた困ったように眉を寄せた。
「……分かりません」
 ……望みはない、か。
 酔っていようがいまいが、受け入れられない。つまりはそういうことだろう。無情な返事に諦めが混じる。が。リザは少しだけ迷ったように沈黙した後。
「その時は……私も素面ではいられないかもしれませんから」
 はっきりと言った。
 その言葉の意味を理解するのに、要した時間は数秒。だが、ロイの体感的には永遠のように長く感じられた。
 それほどにぐるぐると、頭の中で理論が炸裂したのだ。そして、ロイは結論を出す。
(……私の素面での告白は、彼女はとても素面では聞いていられないと……? どちらか一方が酔っている告白を無効とするなら、それでは永遠に答えは出ないことになる…それはつまり……)
「……今度は君が酔うはめになると? で、酔っていては返事は出来ない――とそう言いたいのかね、君は」
「どうでしょうか」
 結論を突きつければ、リザはふいっと俯いた。表情は隠されてしまったが、代わりに赤くなった耳が彼女の気持ちを雄弁に語っている。
 見えてきた希望にロイの心は軽くなった。いやそれどころか、サンバのリズムで踊り出したいほどに調子が出てきた。
「なんだ、じゃあ今だっていいじゃないか。条件は同じだ。私が酔っているか、君が酔っているかの違いだけだろう」
「ですからそういうことではなくて…私は貴方にそんなことを言われてしまっては困る……という話で……」
「やっぱりそうか。君は永遠に答えが出ない方がいい、つまり、私に告白させないつもりなんだな。困る、から」
 どうして、困るのか。嫌ならば拒絶すればいい。上司としか見ていないのならば、そう言えばいい。裏表の無い彼女のことだ、はっきりと言えない訳がない。いや、むしろ…こんな風に返答を有耶無耶にしようとする方がおかしいのだ。
 そこから導き出される結論は。一つしかないだろう。
「……私に告白されたら、断れないから困る、んだろう。おまけに素面でなんかされたら、酔っぱらいでもしないと自分を保っていられない?」
「……ご自分の都合のいいように取らないで下さい」
「取るだろう、この場合」
 嬉しさに頬が緩むのを止められない。可愛らしいリザに早く自分の気持ちを伝えたくなった。逸る気持ちのままに、ありのままの想いを告げる。
「好きだ、中尉。君の髪も瞳も唇も…もちろんその魂まで。ぜんぶ…ぜーんぶ好きだ……」
「あ……」
 ありったけの想いの丈を乗せて、リザに伝える。瞬間時間が止まったように、彼女は動きを止めた。普段は無表情なその顔が赤らみ、口だけをぱくぱくと開け閉めしていた。
「……今までのこと思えば、君は…私のことなんてそんなに好きじゃないかもしれないが、私は君が好きだよ…大好きだ」
「大佐、だって…私は…」
 何かを言いかけたリザを征するように、言葉を重ねる。何を言おうとしたかは容易に想像がつく。だが、過去を引きずることはしたくない。今ここにある想いだけが、世界の全てだった。
「私のこと嫌いか?」
「そんなことは……っ」
 悲しげな顔で問いかければ、慌てたように否定される。可愛い。
「じゃあ、男として好きか?」
「…………はい」
 嬉しそうに笑って問いかければ、長い沈黙の後、恥ずかしそうに頷いて貰えた。可愛い。
「じゃあ、私の恋人になってくれるか?」
 瞳を見開いたリザは、逡巡するように瞳を彷徨わせた。彼女は何かを葛藤しているようだったが、ロイは辛抱強く待った。無理矢理に答えを急いて、強制はしたくない。あくまでもリザの意志で……自分を受け入れて欲しい。
 やがて。
 結論が出たのかリザの瞳が焦点を結ぶ。薄い虹彩が光を反射して、キラキラと輝く。星のような美しさに見惚れながら、ロイはリザの答えをその耳で聞いた。
「い、いいです……よ…?」
「ほ、本当か!?」 
 胸いっぱいに嬉しさが溢れ、ロイは天に向かって拳を突き上げた。セントラルに戻ったヒューズに向けて私はやったぞー! とばかりに。
 と。
「おっと……」
「大佐っ!」
 興奮し過ぎたのが悪かったのか、酔いの残った身体で急激に動いたのが原因か。ふらりとよろけた所をすかさずリザに支えられた。
「大丈夫ですか?」
「……ああ、すまない」
 身体は無事だが、なんともみっともない姿を早速彼女に見せてしまって。ロイは非常に情けない気分になる。
「……くそっ、格好悪い」
 だが不甲斐ない自分をなじれば、柔らかな声に慰められた。
「……いいんです。私の前では見栄なんてはらなくとも。どうぞ大佐の格好悪いところを見せて下さい」
「私はカッコいい所を見て欲しいんだがね」
「……そんなのもう、とっくに知ってますから」
 何年一緒にいると思っているんです。
 そんなことを恥ずかしげに告げられたなら、もうロイは全面降伏である。
「そ、そうか?」
「………はい」 
 その後はもう大人しくリザに掴まって、自宅に送られる。一緒にいられる幸福感に浸りながら。
 
 ――こうして。月も星も無い曇り空の、ロマンチックとは言い難いこの夜。ロイとリザは恋人同士になった。


 

***********************
こんな感じで始まるロイアイABC話です。
こちらのサンプルにはその要素はありませんが、本はR18になっております。




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by netzeth | 2016-04-10 19:58

ダンボール

最近私の部屋はダンボールに支配されております。通販で頼んだものをダンボールに入れたまま積んでいるから。中身出してダンボールつぶせよ!って話ですねー。とりあえず5月の原稿終わってからお部屋は片づけようと思います!

本がもう収まりきらないのです。一杯入る本棚が欲しいのです。いっそ四次元本棚とか欲しいのです。あーあれ読みたい!って思った時に、こう手元にふっと現れたりしないものか。蔵書からこれじゃないあれじゃないっていちいち引っぱり出すので、またとっちらかる訳です。……多分、整理整頓が苦手なのでしょうww とりあえず鋼関連の本はすぐに取りだせるとこにしまっておかねば。書いてて、あれはどうだったっけ?的に読み返すのですが、探している場面の巻が行方不明になりますww

甘酸っぱいのは何とかなりそうです。次はエロいの…エロいのを…!どうにかしたい。
またちょっと出現率落ちると思いますです。



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by netzeth | 2016-04-04 00:36 | 日記 | Comments(0)