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いろいろと

今日は涼しい陽気で暑さとの落差にくらくらきます。一年中ちょうどいい気候の国がうらやま。

ガンガンオンリーの新刊詳細をオフラインにUPいたしました。今回は2012年に頒布いたしました本の再録本です。書下ろしもちょこっとついております。2012年後半の本の再録本Bは予定では夏コミで出す予定です。

それからとらのあな様にて、新刊をお預かりして頂けることになりました。もう予約が始まっているようです。(自家通販の方の再開は夏コミ後の予定でございます)ご利用をお考えの方はよろしくお願いいたします~<(_ _)> とらのあな


さて、まだオンリーも終わっていないですが、夏コミの原稿も押しているため、しばらくもぐって参ります!



拍手ありがとうございます♪
レス不要でコメントを下さったお方様もありがとうございました!
ありがたきお言葉を頂き恐縮でございます(//∇//)

またブログコメントを下さったお方様もありがとうございます!
返信いたしましたので、よろしければ該当記事をご覧下さい。







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by netzeth | 2016-06-28 22:58 | 日記 | Comments(0)

RandR Jewel Box 2012年再録本-A サンプル

『光の道』より

大陸歴1925年 アメストリス首都セントラルシティ



その日、リザはいつになく緊張していた。もう三十を越えたいい年の女だというのに、今の自分はまるで少女の様だ――と苦笑してしまいそうになるが、こればっかりは仕方あるまい。なにぶん自分にはその手の経験が不足……というか皆無であるのだから。
何度も何度もおかしいところは無いか鏡で確認してみるが、いかんせん自分の事は自分ではよく分からなくて、リザははあっとため息を吐いた。こういう時、友人のレベッカが居れば頼りになるのだが。彼女はグラマン大総統の大総統補佐官を勤めあげた後、念願のいい男を捕まえて寿退職してしまった。今は新聞社・ラジオ局と幅広くマスコミ関連会社を経営する夫と共に子育て中である。家庭を持つ彼女をこんな事のために呼べる訳もない。
頼りになるのは自分しかいない、とリザは黒のロングドレス姿の己をじっと見つめてみた。
その昔、一度だけこのドレスに身を包んだ事がある。あの時は皆で写真を――という事で軍の仲間達と共にめかし込んで写真を撮ったのだ。
あの頃と今の自分を見比べて、リザは自分は変わったのだろうか、と自答してみた。髪は短くなった。もしかしたらシワも増えた……と思う。レベッカには、あんたなんで歳をとらないのよ! と半分冗談半分本気で罵倒された事もあったが、そんな事あるはずはない。このドレスが入ったのだから体型も変わっていない、と思いたいが、昔に比べれば衰えた部分も絶対にあるはずだ。特にリザは美容に興味を示した事がなかったから、アンチエイジングにはまったく自信がなかった。
彼からの要望とはいえ、どうして自分はこのドレスを着ていく事を了承してしまったのだろう、とリザは過去の自分を恨みたくなった。
そう、リザが上官であるロイ・マスタング大総統から誘いを受けたのは今朝の事だった。成熟した男盛りの彼は、歳に似合わぬ緊張した面もちで言った。君を食事に誘いたい、と。
リザはその時、冗談ではなく本気で腰が抜けるほどに驚いた。まさか、今更、と。何故なら、ロイがリザをデートに誘ったのは実にこれが初めての事だったから。
ロイを見る世間一般の目は昔から彼を女好きの男だと決めつけていたが、それはリザも否定出来ない。事実彼はイーストシティやセントラルシティ、いや、今となっては全アメストリスの女性に絶大な人気がある。もし、先の総選挙で立候補していたならば、その女性票だけで当選していただろうと噂されるほどに。
しかし、ロイのその姿が実は敵を欺くための仮面で、彼が本当は誠実な男である事はリザが一番よく知っていた。彼はその誠実さ故に、本当に本気の恋人を作った事はないからだ。ロイも男だから、それなりには女性と遊んではいるだろうが、その事は実はリザを安心させていた。
リザがロイへの思慕を自覚したのは何時だったろう。おそらく、彼がまだ父の元で修行をしていた頃だったのではないかと思う。その思慕が彼に焔の錬金術を渡す事になり、リザが軍に入る動機ともなった。そして、結果的に彼に重い罪を背負わせ、その後の自分達の行く道を決定付ける事になったのである。
とにかく、ロイが大総統となり、リザがその補佐官となって三年。いや、リザがロイの下についてからの長い年月。ただの一度もロイはリザをデートに誘った事は無かった。こんな話、ロイと近しい部下達でさえも信じないだろうが、これは事実である。
そんなロイからの突然の誘いにリザは大いに戸惑い、そして同時にまるで十代の少女の様な初々しい、面映ゆい気分を味わう事になった。
リザはロイが自分をどう思っているのか分からないほど鈍くはないつもりだった。女性として見られていないのではないか、と思っていた時期もあった。だが、そうではないとすぐに気づいた。
――彼は自分を大切に思っていてくれている。
それは間違いない。そしてその感情が男女のそれであるという事もリザは知っていた。彼と過ごした年月の中で、彼の言葉、行動、その全てがリザにそう教えてくれたからだ。
それでも彼には成さねばならぬ事があり、リザには果たすべき誓いがあった。だから、あくまでロイとリザは上司とその一部下であったのだ。
けれどその今までを、ロイは踏み越えた。いや、踏み越えようとしているのか。
そしてリザは今、現在進行形で悩んでいるのである。少しでも好きな男に美しい自分を見て貰いたいという女心で。だが、そうやって悩む事は軍事に政治にと悩む普段の自分と比べても、不快ではなかった。
「やだ、そろそろ行かないと……!」
壁掛け時計を確認するとリザは家を出るべくコートを羽織る。初めてのデートで遅刻というのは笑えない。
しかしその時リザは、ロイとの――想い人との初めてのデートに少しだけ胸を高鳴らせながらも、だが、何故突然……? という疑問を払拭出来ないでいたのだった。


大総統ともなると私的な出歩きでも護衛が付く。ホムンクルスに支配されていた軍国主義時代のアメストリスではその警備も仰々しいものだったが、ロイが大総統に就任してからは彼自身がその慣習を改正してしまった。
曰く、護衛など連れていてはデートを楽しめない――だそうだ。まあ、表向きは軍事予算の節減だともっともらしい理由をつけてはいたが。
昨年選挙を終え、議会が機能し始め、いまや実質的な国の最高権力者は議会の代表――首相である。故に大総統の地位自体が前ほど重要なポジションではないとロイは主張するが、それでもロイほどの立場の人間が護衛を一人も付けずに街を出歩く事をリザはあまり歓迎していなかった。
よって今日のデートを受ける上でリザは一つだけ条件を出していた。
それは。
「お似合いですよ、かっ……ロイさん」
「……うるさいぞ」
憮然とした顔で隣を歩く男を見上げて、リザはくすりと笑う。
「ふふ……メガネ、お似合いです」
リザが出した条件、それは――絶対にロイ・マスタングだと分からぬ様に変装をする事。
そして彼はリザの想像以上に忠実にその約束を果たしてくれていた。
久しぶりに見るサラサラと揺れる前髪。
彼はもう四十に届く年齢であるのに、髪を下ろすと昔と変わらず驚くほどに童顔になる。もしかしたら二十代に見えてしまうかもしれない。
そして、メガネ。うまい具合に目元のシワが隠れて本当に学生みたいで。とても軍のトップに君臨する大総統の地位に就く男には見えない。
堪えきれずリザはくすくす笑う。それがロイはえらく気に入らないらしい。昔から童顔を気にしていて、昨今ようやく歳相応の見かけになったと喜んでいたから、またそのコンプレックスが復活してしまったのだろう。
せっかく三つ揃えの仕立てのいいスーツでキメているのに、これでは台無しだとばかりにロイが言った。
「いい加減、笑うのをやめたまえ!」
気に入らない事があるとムキになるところは昔から変わらない。いまだに子供の様な彼をリザは愛おしく思う。
「すみません……。でも昔の仕返しですよ」
「何?」
「昔、私がメガネをかけて秘書の潜入捜査をした事を覚えておられますか」
「……ああ」
「あの時、貴方は私のメガネ姿を見て笑いましたよね?……その仕返し、です」
「んな!」
目を見開いたロイに、リザは艶やかな笑みを向けた。するとロイは降参……とばかりに両手を上げる。
「君……結構根に持つタイプだったんだな……」
「あら? 今更気づいたんですか?」
澄まし顔で言えば、情けない顔で嘆いていたロイは一瞬だけフッと真顔になった。
「そうだな……本当に、今更だな……」
「え?」
どういう意味だと首を傾げたが、しかし、リザがロイの言葉の意味を問いただす前に。
「着いたぞ」
二人の目指すデート場所へと到着していた。
ロイに促されるまま、リザは彼が選んだにしてはこじんまりとしたレストランへと入っていった。


家庭的な雰囲気のその店をリザは一目で気に入った。
出てくる料理もリザの口に合うもので。普段から高級な物を食べ慣れている様に見えるロイは、実はこういった庶民的な味を好むのだろうか、とそんな事をリザは考えた。
デートとロイは言ったがそんな色っぽい話題などこれっぽっちもなく、ロイとリザは軍部にいる時とさして変わらぬ会話を交わす。
「この前マイルズから要請があったイシュヴァール司令部の増員だがな、ようやく目処がつきそうだよ」
「そうですか。シンとの貿易拠点としてイシュヴァールの人口は年々増え続けていますからね。それに加えて、イシュヴァラ教の聖地としての観光需要に、砂漠横断鉄道の玄関口です。マイルズ将軍も大変でしょう」
「そうだな。積極的に現地のイシュヴァール人を登用する様に、そのための補助予算を計上するよう取り計らっておいた」
かつて共にイシュヴァール政策に臨み、イシュヴァールの復興に尽力した同志の名をロイは挙げる。
かつての内乱で深い傷をおったかの地は、シンとの鉄道開通を機にめざましい発展を遂げていた。イシュヴァラ教の教えを守りつつもイシュヴァールの民はなかなかどうして商売に長けていた様である。暮らしが豊かになれば自然と心も豊かになる。経済が安定するにつれて頻発していたテロ活動も徐々に減り、かつての敵アメストリス人の観光客も受け入れる様になり、民族間の確執は確実に解消されつつある。
イシュヴァール政策を行った者の一人として、リザはそれを心から喜んでいた。むろんそれで過去の罪が帳消しになるとは思ってはいないが。
「それで許されるとは思っていなかったがね……」
「え?」
リザは最初、自分が考えていた事を声に出してしまったのだと思った。けれど、その声は己ではなく深く響く低い男の声だった。しかしロイの顔を見つめても、彼はそれ以上その呟きについて何かを言おうとしなかったので、リザは話題を続ける事にする。
「よく議会が了承しましたね……。昔と違って軍備縮小の今、軍に予算を割くことは難しいでしょうに」
「ああ。しかしイシュヴァールは今やアメストリス経済に大きな影響力を持っている。その治安の安定が要というのは彼らも分かっているんだろう。イシュヴァールを無視する事は出来ないのさ」
実を言うと議員の中にはイシュヴァールの血を引く者や、イシュヴァラ教信者も存在するのだ。それはこのアメストリスという国が変わったという証しでもある。
「イシュヴァールの治安が乱れればシンとの貿易に影響が出てしまいますものね……そういえば近々イシュヴァールに関連する法案が議会に提出されると小耳に挟みましたが……」
「おお、そうだ。シンといえば。とうとうアルフォンスがメイ皇女と婚約したそうだぞ」
唐突にがらりと話題を変えたロイは、大ニュースだとばかりにリザに自慢げに語ってみせた。それにリザは苦笑する。
「情報が遅いですね。そんなのとっくに知っていますよ」
「む、なんだと? 誰から聞いた?」
「ウィンリィちゃんですよ」
いまや二児の母となり、母として、オートメイル技師として、忙しい毎日を送っている女性の名を挙げればロイはなんだ、と脱力した顔をする。
「身内が情報源では情報の早さで君には勝てそうにないな……」
「もう、勝ち負けではないでしょう? このようなおめでたい事に」
「いやいや、重要な事だよ。ではこれは知っているか? なんと、メイ皇女からいつまでもにこにこ笑ってはっきりしないアルフォンスに迫ったというぞ」
「知っていますよ。ウィンリィちゃんからエドワード君のプロポーズの話を聞いて、それを真似たそうですよ」
「――それは初耳だ。一体鋼のはどんなプロポーズをしたんだ?」
念願の身長も伸び、立派な青年となって更に父親となったエドワードを旧国家錬金術師制度が廃止された今でも、ロイは『鋼の』とかつての二つ名で呼ぶ癖が抜けない。
「さあ……なんでも錬金術師らしいバカなプロポーズだったとしか私も聞きませんでしたから」
「……バカとはずいぶんな言われようだな。しかしそれは、ますますもって気になるな」
「今度聞いてみたらいかがですか、エドワード君に」
教えてくれないと思いますけど、と付け加えるとロイは。
「いや、それでは遅い」
ぽつり、と呟いた。その意味を一瞬計りかねたリザは、そこで初めて気づいた。今日のロイが会ってからずっとずいぶんと饒舌だった事に。
口数が多いロイ。それは昔から緊張を紛らわせようとする時の彼の癖、だ。まさか未だにその癖が抜けていないのだとしたら、彼はリザと会ってから今までずっと、緊張している事になる。その事に気づいてしまうと、リザの方もついぞ忘れていた当初の緊張感が蘇り、ロイとの初デートというこの時間が何やらとても気恥ずかしいものに思えてきた。
そして、先ほどのロイの発言の意味をリザは心の中で吟味してみた。ロイはプロポーズの言葉をエドワードに教わりたい。しかも出来るだけ早く。もしかしたら今すぐに……? つまりそれは……。
「鋼のプロポーズは知らんが……実は別の男のプロポーズの話なら聞いた事がある」
ロイの声がリザを思考の海から引き戻す。
「え?」
「そいつは自分のお気に入りのレストランで奥方にプロポーズしたそうだ。その台詞はこうだ。『ここの料理は俺の知る中で一番俺好みだ。だが、君の作る料理には到底敵わないんだ。俺は毎日君の作った料理を食べたい。そうすれば、俺はもうこのレストランに通わなくて済む』……実にレストランにとっては商売あがったりなプロポーズだと思わんかね?」
「あの…それは……」
「事実、奴は二度とこのレストランに来ようとはしなかったよ」
ロイは誰とは明言しなかったが、リザには分かった。そのプロポーズを行った人物が誰であるのか。ロイがそのように懐かしい瞳で語る人物など他に心当たりがない。ここは、彼――ヒューズがかつて奥方にプロポーズした場所だったというのか。
リザは知らず知らずのうちに、ナイフとフォークを持つ手に力を込めていた。緊張を自覚する。そうして、無言でメインディッシュを切り分ける作業に集中するふりをした。そうでもしなければ、この空気に耐えられなかった。
ロイがかつて親友がプロポーズした場所に自分を呼んだ意味を、リザは意識せざるを得なかったからだ。ずっと緊張しているロイ。――これで彼の意図を読むなと言う方が無理だ。
口に運ぶでもなくただひたすら肉を切っていたリザに、とうとう意を決した様にロイが声をかけた。
「だから、私も……」
しかし、そこでロイは言葉を切った。リザは言葉の続きを息を殺して待ったが、彼は言葉を続けようとはしなかった。
ロイを見つめる。彼はまるで陸に上がった魚の様に口を開け閉めしていた。それは言いたい言葉がどうしても音にならず、声とならず、そして意味を持ってリザに届かない、届ける事が出来ないといった様子で。苦しげに顔を歪ませていた。
その苦悩の表情の本当の意味を。彼の想いを。今、この時のリザは知らなかった。
ただ、この時は彼が極度の緊張状態にあるのだろう、としか思わなかったし、リザ自身、彼を気遣う余裕もなく緊張していて、それどころではなかった。
やがて、ロイはその苦悩に満ちた表情を消すと、ふっと笑った。それは全てを諦め受け入れた様な――この上なく穏やかな笑みだった。リザは今まで、こんな顔をしたロイを見た事はなかった。
「私も、ここで食事をしようと思ってね」
彼の口から紡がれたのはリザの予想に反した言葉だった。妙な期待をした自分を恥じる気持ちと、少しだけ残念に思う気持ちがリザの中で入り交じっていて、その時のリザは気づけなかった。
ただ、ロイのその凪いだ海の様な穏やかな笑みはリザの中にほんの少しの不安をかき立てた。
今夜ロイがしようとしていた事を、そしてそれをロイが諦めて、代わりに決意した事を。この時のリザは知らなかった。もしも知っていたなら、もっとこの幸せを大事にすれば良かったと思っただろうか。
しかし、この時のリザには未来の事は分からなかった。故に、それ以上何も言わないロイにリザもそれ以上追求しようとはせず、やがて話題はまた他愛もない事へと移り……この夜は終わっていってしまったのである。

――イシュヴァール内乱における人道に対する罪、平和に対する罪――実質的にその戦争責任の罪を問う法案が議会に提出されたのはその翌日の事であった。


リザは走っていた。
ただひたすらに走っていた。
酸素を取り込むための呼吸は追いつかず、肺は悲鳴を上げていたが、そんな事など構わずに走っていた。
目指すのは彼の自宅。ロイは大総統となっても大総統官邸に住む事を良しとせずに、司令部からほど近い中央の一等地に居を構えていた。本来ならもっと普通のアパート住まいが彼の希望だったようだが、仮にも軍のトップがそのような質素な生活を送るのは示しがつかないと周りが大反対し、リザも警備の都合上賛成しなかったのだ。
走りながらリザは、あのロイとのデート以降に起こった出来事を思い返した。
イシュヴァール内乱における戦争責任を問い、関わった者を戦争犯罪者として処罰する――その法案が議会に提出された時、リザはついに来るべき時が来たのだ……と、冷静にその事実を受け止めた。自らが裁かれる事はもう、イシュヴァールで罪を犯したあの時から覚悟していたからだ。
議会に法案が提出されたと同時にアメストリス国内のマスコミは、こぞってイシュヴァール内乱鎮圧の正当性を疑い、あれは間違いだったのだ、人道に悖る最低の行為だったなどと書き立てた。軍に都合の悪い情報は一切報道させなかった、軍事独裁政権の頃ではとても考えられなかった話だ。これは大総統となったロイが、軍の検閲をやめ報道の自由を推奨した結果でもある。
イシュヴァール内乱時の非道が間違っていたのは事実であるし、情報が何の障害もなく国民にもたらされるのは、正しい国の在り方である。この事をロイもリザも喜びこそすれ、決して悲観したりはしなかった。間違っていた事がようやく正されたのだから。
やがてイシュヴァールの民もアメストリス人も区別なく、国民の、「イシュヴァール内乱における戦争犯罪者の罪が問われるべきだ」という機運は高まっていった。
これは平和の国となったアメストリスが国の内外に対して示さねばならないケジメだ、と訴えた議員はどこの誰だったろうか。
そして国民の声に押され議会議員の大多数の賛成をもって、イシュヴァールにおける戦争犯罪者の罪を問う――その法案は可決されるはず――であった。
だがそれに意を唱える者が現れた。
現アメストリス軍最高責任者ロイ・マスタング大総統その人である。
彼が問題にしたのはその法案の細かい内容だった。
法案の内容はイシュヴァールに参加した当時の軍人、その関係者の罪を問う――といったものだったが、彼はまずそこから指揮官クラス以下の一般兵は除くべきだと主張した。上に絶対服従を強いられる軍社会において、戦時に上官からの命令に背く事はすなわち己の身を危うくする行為であり、彼らは自分の身を守ったに過ぎないのだ、と。
しかしイシュヴァール内乱に関わった当時の軍上層部の人間は、キング・ブラッドレイをはじめ、あの「約束の日」に軒並み死亡・または処罰されている。ならばと追求の手はその下の、現地での実行部隊の指揮官クラスに及ぶ。
そこで次に問題とされたのは、特に殲滅戦に切り替わってからの人道への罪である。それまでの戦いは内乱鎮圧のために仕方のない事だったとしても、国家錬金術師を投入しての一方的な虐殺は人道に反する許されざる行為だというのだ。そしてこの殲滅戦こそが、イシュヴァール内乱問題の中心だとして挙げたのは、他ならぬロイ自身であった。
イシュヴァール殲滅戦に参加した国家錬金術師を当時統括していたのは鉄血の錬金術師、バスク・グラン大佐。しかし、彼は「約束の日」以前に死亡している。では責任の如何は誰にあるのか……と議論紛糾する議会に、一つの結論をもたらしたのもやはりロイであった。
現アメストリス軍最高責任者であり、そして殲滅戦に参加した国家錬金術師で、イシュヴァールの英雄と呼ばれた自分が責任をとる。故に自分以外の者の罪は問わないで貰いたい……と。
そう、彼は最初からイシュヴァール内乱の罪全てをその身に引き受けるつもりだったのだ。
そのためにロイはマスコミをも利用した。彼はイシュヴァール内乱の全責任が己にあると報道する様に仕向け、民意を操作した。踊らされた国民はロイこそイシュヴァールの咎人であり、彼以外の者に罪は無いと信じ込まされた。それどころか元々国民に人気があった彼は非難こそされずに、逆に潔し、と悲劇の英雄扱いされる様になってしまった。
事態はすべてロイのシナリオ通りに進んだのだろう。彼は己のみが戦争犯罪人として裁かれる舞台をまんまと仕立てあげてしまったのだ。
そしてこれは現政府においても都合が良かった。もちろん全てではないが、彼ら政治家の中には悲劇の英雄となった今でも衰えぬ、いや増しているロイの人気とカリスマ性を危ぶむ者がいたからだ。ここで彼に消えて貰えるならば、好都合と考える者が存在した。
はからずも己を犠牲にして下の者を――仲間を守ろうとしたロイの目論見と、ロイを邪魔に思っていた一部の政治家との利害が一致したのである。
そしてリザがこの事実を知ったのは、ロイが密かに議会にこの取引きを持ちかけ、そしてマスコミを使い民意を操作しようと裏工作をしていた段階での事であった――。


ロイの自宅前には警備兵も誰もいなかった。おそらくまたロイ自ら追い払ってしまったのだろう。焔の錬金術師であり錬成陣を必要としない錬成が可能なロイは、大総統となった今でも己の力を過信して、リザに心配をかける。そんなところも昔からちっとも変わっていない。
構わず門柱をくぐり、一人暮らしにしては広めのロイの自宅へと足を踏み入れた。補佐官として何度も訪れた事があるそこだが、自宅の中にまで上がり込んだ事はない。しかし、リザは今それを実行するつもりだった。
自宅の鍵は当然ながらかかっていたが、リザは呼び鈴で家主を呼び出そうとはせずに無言で懐から鍵を取り出すとさっさと扉を開けた。以前にロイから預かっていたものだ。使ったのはこれが初めてだが。
まだ整わぬ息が苦しい。けれど、もっと苦しいのは締め付けられる心の痛みだ。
家の中に入ると適当にあたりをつけて、リザはとある部屋に入った。そこはリビングなのだろうか。大きなソファーが置かれており、そしてリザの目的の人物が座っていた。
彼――ロイはリザの顔を見るなり、突然の侵入者に少しだけ驚いた顔をしたが、しかしすぐにその顔は穏やかなものへと変わった。それは、リザがあのデートの夜に見た表情とまったく同じもの。いまなら、分かる。それは全てを受け入れる覚悟を持った者の顔だった。
「やあ、中佐」
「……聞かないのですか。何故私がここに来たのか」
「聞かずとも分かるさ。長い付き合いだ。君の顔は嘘をつけない」
一拍おくと、ロイは続けた。
「とうとう、知られてしまった様だな……」
それはまるでイタズラが見つかってしまった子供の様な表情で。リザは言葉に詰まった。彼には悲壮感など微塵も感じられない。
「頑張って隠していたんだがね、どうして分かった?」
「……貴方が協力を要請したマスコミは、私の親友の夫の会社でした」
「ああ、なるほど。カタリナ……おっと今は違うか。彼女の旦那さんだったんだね、彼は。私の申し出を引き受けてくれて感謝していたんだがね……もっときつく口止めしておくべきだったな」
「お止め下さい」
リザは想いの赴くままにロイに訴えた。
「何をやめろと?」
「貴方がしようとしていることです。報道されてしまえばもう、後戻りは出来ません」
「君らしくないな。冷静になりたまえ。やめたらどうなる?」
「…………」
「……法案が通る前に布石を打った。これで議会は私の提案を飲むだろう。犠牲というものは少なければ少ないほどにいい。一人で済むならこれ以上のことはない」
ロイの言う事は正論だった。だからリザの理性はこれが最良の手だというロイの言葉を否定出来ない。リザには分かっていた。自分が許せないのは、憤っているのは理性ではなく感情の部分なのだ、と。そして今、リザはその感情を押さえようとは思わなかった。今までずっと押さえつけてきたのだ、今くらい解放してやっても構うまい。
「では何故…何故……! 私に何も言っては下さらなかったのですか!!」
「そこを突かれると、弱いな……」
途端にロイはリザから目を逸らして、ガシガシと頭を掻いた。


******************************


 『Fever!!』より




火照った身体と、潤んだ瞳。赤い顔に、荒い息使い。今日の貴方はとっても魅力的過ぎて。どうしても襲わずにはいられなかったのです。
こんなに魅惑的な貴方が悪いんです、だから許して下さいね?


今日も慌ただしい東方司令部の一日が始まる。
登庁して軍服に着替えた瞬間から、息つく暇も無いほどの激務が待っていた。次々に運び込まれる決裁の必要な書類を片っ端から仕分けしていく。これは今日が締め切り。これは明日。日にちに余裕があるものは後回し。と、丁寧かつ迅速に作業を行う。これは副官であるリザの重要な仕事だ。上官の仕事をいかにスムーズに回せるか。それは常にリザにとっての命題であった。
その合間に自分の仕事もこなす。総務課に回す書類の作成、足りない銃器類の発注依頼を書くための在庫チェック。そして、日課の射撃場での訓練。身体が幾つあっても足りはしない。
それに加えて今日はイレギュラー要素がある。
リザはロイに渡す用の書類を揃えると、今日付けの締め切りのものだけを取り出して、手元のブリーフケースに収めた。
「他に今日中に大佐に見て貰わなければいけないものは無い?」
仕事部屋を見渡せば、あっちこっちから、俺も、私もと声が上がる。
「明日に回せるものは明日にしてちょうだい。どうしても今日というものだけよ」
「へーい、分かってますよ。いくら俺達でも、病気の上官を余計に働かせようとは思いませんて」
「だよなー。大佐ももう若くないんだから、無理させちゃあ悪いよな」
本人がこの場にいれば即座に炭コースの暴言を吐く怖い物知らずの金髪の少尉――ハボックが肩を竦めてみせた。それにリザは苦笑する。
「そうね、労わってあげないとね」
リザの上官ロイ・マスタング大佐から、本日休むと連絡があったのは今朝の事だった。
電話を受けたのは一番に来ていたフュリー曹長だったが、彼曰く、今にも死にそうな声だったとの事だ。話によると、ただの風邪らしいのだが。
そういえば昨日はやたらとくしゃみをしていたっけ。
リザはロイの顔を思い浮かべた。普段リザの目を盗んでは仕事をサボる事ばかり考えているロイだが、仕事自体を休むという事は滅多に…いや、リザの知る限りでは今までまったくない。身体が資本の軍人だから体力には自信があるのだろう。少々無理しても病気になるなんて事は今まで無かった。
風邪くらいなら病気を押しても出勤してくると思われるその上官が休むと判断したなら、それはよほど重症なのだろう。
それを思うと、そんな病気の時まで仕事をさせるのは胸が痛い。しかし締め切りは待ってはくれない。病気で休んで業務が滞ったなどと、それこそセントラルのお偉方やロイを敵視する同輩達に知られたら、軟弱な事よ、と誹りを受けるに違いない。
それはロイの、そしてリザ達の本意ではない。だからこそロイは電話で書類を持ってくるようにと伝言したのだ。
それにこれはリザにとっても好都合だった。
仕事にかこつけてロイの様子を見に行ける。正直心配で仕事どころでは無かった。一人暮らしのロイには、病気の時に面倒をみてくれる様な家族はもちろんいない。ご近所付き合いなんてしていないだろうから、頼れる知り合いもいないだろう。
唯一可能性があるとしたら、いつもロイとデートをしている女性達であるが、それは無いだろうとリザは思っている。
ああ見えてロイは見栄っ張りで、変なところで格好付けだ。自分の弱った姿など、上辺だけの付き合いの女性達に見せようとはしないだろう。
ロイに好意を寄せる女性達からすれば、そういう男の弱みを見せた方が母性本能が擽られるのだろうが。きっとロイが病気と知ったら、いそいそと彼の世話をしたがるに違いない。女とはそういう生き物だ。
――好きな男の世話をするのが最大の喜びの。
そこまで考えてリザは顔を顰めた。――自分もその女達の一人なのかもしれないと思い至ったからだ。しかし、ロイの病気を秘かに喜んでいる自分をリザは否定出来なかった。自分だけが彼の見舞いに彼の自宅を訪れる事が出来る唯一の女なのだから。
「これだけで良いかしら? じゃあちょっと行ってくるから、後はよろしくね」
「イエス、マム。大佐によろしく」
集めた書類をケースに入れて、リザは立ち上がった。一度着替えてから、ロイの自宅へと向かうつもりだった。


ロイの自宅は司令部から歩いて十五分ほどの距離にある、三階建てのフラットである。大通りから一本路地に入った場所にあり、適度に閑静で住むには最適の場所だった。近くにマーケットも存在し、生活必需品を購入するのも苦労しない。
リザはそのマーケットで買い物をしてから、買い物袋と書類の入った鞄を片手にロイの部屋の前に立っていた。寝ているところを起こすのは申し訳ないので、懐からあるものを取り出す。小さな犬のキーホルダーが付いたそれは、ロイの自宅の鍵だった。
必要になるかもしれないから持っていてくれ――という言葉と共に渡されたが、今まで活躍の機会は少なかった。使われたのは過去に一度、ロイが忘れた重要書類を取りに行った時だけだ。その時は重要書類を家に持って帰るなとさんざん説教したものだ。
それ以来鍵を使わない事を、ロイは不満そうにしていた。が、リザは気にしなかった。ついでに言えばロイがリザの部屋の鍵を欲しそうにしていた事も、気にしなかった。
自宅の鍵など渡したら最後、あの男は何時でもかまわずに押し掛けるのだろうから。それでなくともリザが非番の度に部屋にやって来ては、好き勝手に寛いでいくのだ。そして、帰れと言うのにも関わらず泊まっていくのも日常茶飯事。
結局なにくれと世話を焼きその逢瀬を拒めないリザにも責任はあるが、このまま調子に乗らせるのも本人のために良くないし、何より面白くない。
それでも結局のところロイの自宅の鍵を持っている――という事はリザの女としての矜持を満足させる結果になっているのだが。……幸いな事にリザはその事実に気が付いていなかった。
キーを鍵穴に差し込んでひねる。かちゃりと軽い音がして施錠が解除される。ロイの部屋は二階の角部屋であるので、一人暮らしの部屋にしては広い。キッチンとリビング、そして寝室に書庫代わりに使っている空き部屋――とそれなりの部屋数がある。
入ってすぐのリビングのテーブルの上に買い物袋を置くと、リザはキッチンを覗いた。シンクは使われた形跡がまったくなく、コップ類も一切見あたらない。ガスレンジの上にケトルの一つも見つけられなくて、リザはふうっとため息を吐いた。
思った通り、ロイは昨日から水分すらまともに取っていないようだ。つまり昨日自宅に戻ってからベッドに横になり、一度も起き上がっていないという事。
リザは次に寝室へと続く扉に向かった。ロイは眠っているだろうが、一応ノックをする。何度も入った事のある寝室ではあったが、やはりプライベートの最たる空間である。それなりの気を使うべきだろう。
「大佐? 私です。……お加減はいかがですか?」
「ああ……入ってくれ」
声をかけると、返事が帰ってきた。横になっているだけで眠ってはいなかったようだ。
「失礼します」
部屋に入ると重病人であるはずのロイがベッドボードに寄りかかって上半身を起こし、読書用のメガネをかけ優雅に本を読んでいた。
「な……何をしているんですか!」
「何って……読書」
「そういう事を言っているんじゃありません!!」
ベッドに駆け寄り、分厚い錬金術の専門書をロイから取り上げる。
「ああ……今、良いところだったのに……」
名残惜しそうな顔をするロイを、リザは睨みつけた。
「病人なら病人らしくしていて下さい」
「汗掻きながら寝て、起きたらだいぶ良くなった。ベッドで寝ているだけじゃ退屈だろう」
ぶつぶつと文句を言うロイを無視して、リザは彼の額に手を当てた。まだ少し熱い。汗を掻いて熱は少し下がったのかもしれないが、それでも平熱とは言いがたい。三十九度が三十八度に下がったところで、身体がいくら楽になっても、病人であることに変わりはないのだ。
「まだ熱があるようですよ。薬は飲みましたか?」
「……飲んでない」
「常備薬、切らしていました?」
「いや、あの風邪薬は苦いから嫌だ」
子供の様な駄々をこねるロイに、自分が熱が出てしまいそうな気分に陥る。何、お子さまみたいなことを言っているのだこの男は。
「だいたい薬なんて、人間の本来持つ免疫力を弱体化させるだけだ。必要ない」
そして、本当のお子さまでは無い分始末が悪い。また錬金術師だか科学者だか特有の屁理屈をこね始めたロイを、腰に手を当て仁王立ちで見下ろす。
「苦いとか苦く無いの問題ではありません。い・い・か・ら、飲んで下さい!!」
不満そうにロイは口を尖らせる。それは放って置いて、リザはリビングの薬箱から風邪薬をとってくる。コップに水を注いで一緒にお盆に乗せた。すきっ腹ではまずかろうとついでに買ってきたリンゴも剥いて持っていく。
「さ、お飲み下さい」
リザは薬を鼻先に押しつける。無言の圧力で迫られたロイは渋々リンゴを腹に入れてから薬を服用してくれた。
「やっぱり、苦い……」
「我慢して下さい」
ぴしゃりと言ってやるとロイはしゅんとしてしまう。やはり病気の所為かいつものロイに比べると威勢が悪い。それをちょっと可愛いなと思いつつ、次にロイが着ているものに目をとめた。それは確か昨日も着ていたロイ愛用のブランドのワイシャツである。
「大佐。もしかして、昨日から着替えてらっしゃらないんですか?」
「ん? ああ。昨日帰ってから具合が悪かったもんだから、ジャケットだけ脱いでそのまま……」
「ん、もう!」
呆れ声を上げて、リザは寝室のチェストを開ける。確かロイの寝着や下着類はここに入っていたはずだ。中から薄いブルーのパジャマと下着を取り出しそれをロイに渡した。
「着替えて下さい。汗を掻いているのでしょう? そのままではまた汗が冷えて、身体に悪いです。良くなるものも良くなりませんよ」
「いいよ……めんどくさい……それに動きたくないんだ。まだダルいし」
「ダメです」
「……まるで子供を叱りつける母親みたいだな」
「何かおっしゃいました?」
「……べ、別に」
「では大人しくしていて下さい」
動き出さない彼にリザは焦れて、パジャマを取り上げた。
「ちょ……中尉……」
「動けないというならば、私が着替えさせて差し上げます」
「こら……やめろって…」
リザはワイシャツのボタンに手をかける。下から素早く外していくと、ロイの逞しい身体が覗く。彼の素肌に触れた手が熱い。それは己の手の温度なのか、それとも発熱しているロイの体温のせいなのか。
「ちゅう……いっ」
女性に服を脱がされるシチュエーションが不本意なのかロイはしきりに嫌がる。しかしそれでも弱々しい抵抗しかしてこない。
そんなロイにリザは嗜虐心がそそられてしまうのを感じていた。いつもは立場が逆で、ロイに翻弄されっぱなしなのに。病気のロイはいつもと変わらない減らず口は叩くが、どことなく弱々しい。
むうっとした表情と赤い頬、潤み気味の瞳がなんだか妙に…その、可愛くて。リザはちょっと…ちょっとだけ悪戯をしてやりたい衝動に駆られた。
いつもいつも良いようにやられてしまっている自分。今日は絶好の意趣返しの機会なのではないか? 
彼の有能な副官ではなく、一人の女として、リザは本能のままに動き始める。風邪で弱っているロイにいろいろしてしまおうなんて、自分でもどうかしていると思う。もしかしたら、弱ったロイと二人きり……という状況がリザを酔わせているのかもしれなかった。
――今なら、彼を、私の、好きに出来る。
溢れ出す欲求は止まりそうになく――リザはロイの胸板を爪でつっと辿った――それどころかどんどんと暴走していく。
ロイの体温はとても熱くて。リザはひんやりとした己の手でその温度を奪うように、ぺたぺたと彼の身体に触れる。
「ち、中尉……その…止めてくれ……」
リザが着替え以外の意志――明らかに性的な意図を持って身体に触れているのに気付きロイが焦る。
「何故ですか?」
「その……そんな風に触れられたら、いろいろ反応してしまう…今日の私は君を十分可愛がってやれない」
「結構ですよ。……私が可愛がって差し上げますから」
「ち……リザ!!」
とうとうリザはロイの上に馬乗りになるとその顔を両手で包み込んだ。リザの大好きな深い黒の瞳。今だけは自分のものだ。



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by netzeth | 2016-06-26 02:32 | Comments(2)

この土日は

ようやく週末になりましたね、ここ数週間原稿漬けだったうめこですこんばんは。ようやくめどが立ちましたので、明日明後日には何とかしたい所存。そして、この土日はロイアイ充をしたいです~!と思いましたが、夏コミも控えていますので更に頑張らねば!
またちょっと留守にすると思われます……。

そういえば、ツイッターなどで鋼のゲームの画像をお見かけすることがあって、いろいろ思い出しております。私はPS2の天使、悪魔、神の三部作とGBのゲーム2本、ドリカニ、で、Wiiの暁と黄昏を持ってます。が、そのうち、神とGBゲームの後から出た方と黄昏は未クリアーです……(^_^;) 
一番やりこんだのは天使かなあ。ペコーさんが好き過ぎたのと、ゲームオリキャラのアルモニちゃんとそのストーリーが好きだったのと、最後にロイさん&アームストロング少佐とのガチバトルがお気に入りだったのです。このバトル、バックに消せない罪が流れながらの戦闘でちょっとテンションが上がります。大佐と少佐が強キャラで勝てなくとも大丈夫なんですけど、やっぱり勝ちたい!ということでレベル上げして挑むのが楽しかったり。大佐がね、ぴょーいと信じられないジャンプ力で空中移動するのすごく面白い(*^_^*)それを追いかけて、戦うの大変だった……。ちなみにリザちゃんとのバトルは無かったです…。



拍手ありがとうございます!
以下続きから拍手コメント(6/25分)のお返事です。






続き
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by netzeth | 2016-06-25 02:23 | 日記 | Comments(0)

ロイさん

今日はロイさんの日ですね!エリザベスちゃんにロイさんロイさんって呼んでもらえばいいよ。
さて、この土日はロイアイを堪能させて頂きました。幸せでした~(●´ω`●)
今年はツイッターを始めたこともあって、より多くの方のロイアイを拝見拝読させて頂きました!嬉しいですね~。ローイアイ!



拍手頂きましてありがとうございました!
以下続きから(6/12分)のお返事です。





続き
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by netzeth | 2016-06-13 01:37 | 日記 | Comments(0)

ロイアイ!!

ロイアイ!!ロイアイの日おめでとうございます!!!って遅刻ですね……すみません(^_^;) 全力を尽くしたのですが、SS遅刻してしまいました。もう、ロイアイの日に出かける予定入れた自分のバカ!

という訳で、ロイアイの日、SSUPいたしました。少しでもお楽しみ頂ければ幸いです(*^_^*)

今年のロイアイの日も盛り上がりましたね!ツイッターや611MOA様で素敵な作品を拝見したり、楽しませて頂きました♪幸せです(^^)


あ、ついでに、夏コミ受かりました!
ガン流に夏コミとイベント続きで、しばらく原稿にもぐるかと思われます。



拍手ありがとうございます!
元気頂いております♪


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by netzeth | 2016-06-12 01:13 | 日記 | Comments(0)

休日の過ごし方

※ 残念な感じですれ違う大佐と中尉のコメディです。 





 本日、雨天、無能日より。
 

 雨が降ると精彩を欠く我が上司は、サボる気力もなくし大人しく席に座っているのが常だ。いつもよりペンを動かす手まで遅くなるのはもしかして、「雨の日は無能」のレッテル張りがお気に召さない彼の無言の抗議なのだろうか。
 実は雨だろうと錬成自体は可能で(火が点かないだけで)、やろうと思えばいくらでも攻撃手段はある。つまり、「雨の日は無能」という噂の流布は、彼自身が敵を油断させるために流した、いわば、偽情報であるというのに。(まあ、まったくの嘘でもないけれど)
 自分でアピールした癖に、自分でダメージを受けるなんて、どんな自爆芸だ。いちいちそんなことで拗ねないで下さいと苦言を呈せば、
「… …誰に貶められても気にするものか。だが君に言われると傷つくんだ」
 と弱々しく反論をされた。
 ああそれならば少し分かる。どうでも良い輩に何を言われた所で、痛くもかゆくもないけれど、側近に侮られては上官としての面子が立たないものね。大佐はゆくゆくは軍のトップ――つまりは国の頂点に立つ人だ。人心の掌握には長けていないとならない。
 と、私は理解を示したのに、大佐はいや……微妙に方向性が違うんだが……となにやらぶつぶつ言っていた。どういう意味だろうか。
 とまあそういう訳で、雨が降ると空気だけでなく、大佐の湿度も増し増しで(頭にキノコが生えそう)で、副官としては非常に気を使うのだけれど。
 どうしたことだろう。今日の大佐はひと味違った。 朝から席に座っているのは、雨の日ならいつも通りのこと。だが、書類を滑るペンの動きはとてもリズミカルで。音符マークを振りまき、彼は絶好調に仕事をこなしている。
 彼に何があったのか。もしかして、熱でもあるのだろうか?
 思わずそんな心配をしてしまったが、そういう熱に浮かされたヤケクソ気味の動きでもない。何というか……うっきうきのそわそわ? そう、この単語が一番しっくり来る気がする。
 私はこういう時の彼を良く知っている。これは快晴の風が気持ちのいい日、大佐が脱走する前の待機状態だ。何か楽しいことを思いついてそれを実行しようと、その無駄に良い頭で作戦を練り、虎視眈々と狙っている――そんな状態。
 だから、私は朝からずっと警戒していた。 この雨の中どこに行く気なのかは知らないが、もしも逃げ出すそぶりを見せたら、即、止める。まず銃で足を止め、口で無能と罵り、心を折る。そんな脳内シュミレーションを繰り返していた、昼下がりのこと。
「なあ……中尉」
 粗方仕事を片づけ終えた大佐が、懐から手帳を取り出しつつ声をかけてきた。やっぱりうきうきそわそわしていたのでサボりの自己申告でもするのかと身構えた私に(腰の銃に手をかけた)、彼は予想外の言葉を投げかけてきた。
「君、今度の休日の予定は……?」
「え……?」
 意表を突かれて聞き返せば、
「……だから。その…今度の休日に何か予定はあるかと聞いているんだ」
 今度は少し緊張した面もちで大佐は言う。
 心の準備が出来ていなかったた め、すぐには質問の意図が読めない。だって、私は大佐に「雨の日は無能なんですから大人しくしてて下さい」って言う気満々だったのだから。
 だから、内容を吟味もせず、正直に休日の予定を答えてしまった。
「あります。ハヤテ号を抱っこして寝る予定です」
「いや、そんなにはっきりきっぱり誇らしげに即答されても、困る内容なんだが……」
 そうだろうか。立派な予定ではないか。
「忙しくて、ずっと構ってあげられませんでしから。たっぷり甘やかそうと思いまして、グレてしまっては大変でしょう?」
「愛犬を可愛がる君の姿勢は、うん、素晴らしいとは思うがね……まさか一日中寝ている訳にも行くまい。そんなの君らしくもない。それにハヤテ号だって、運動させた方が良いだ ろう?」
「確かにそうですね」
 ハヤテ号はまだ小さな子犬。体を動かした方が丈夫な子に育つに決まっている。それにお散歩は大好きだから、一日中部屋に閉じこめておくのは可愛そうだ。
「そう! そうだよ!」
 納得して頷くと、何故か大佐は勢い込んで身を乗り出してきた。……そんなにハヤテの発育にご興味がおありなのかしら? 訝る私にこくんっと唾を飲み下して、彼は意を決した表情で言う。
「そこでだ、今度の休日私とベアルクローゼに行かないかね?」
「ベアルクローゼ……?」
 突然飛び出してきたその街の名に戸惑いながらも、私は瞬時にベアルクローゼの情報を思い浮かべた。
 古都ベアルクローゼ。それはセントラルシティの北東、ここイーストシティからはほぼ真北に位置する。はるか昔に首都が置かれていたことから、様々な文化遺産建築が存在し、年間を通じて多くの観光客で賑わうアメストリス随一の観光都市。
 そんな所に一体何をしに行くのかしら? 話の流れからして、ハヤテも一緒に連れて来いということだろうが……。
 そういえば、最近、新聞の紙面にその古都の情報が乗っていたような……そう。ニューオプティンでテロ活動を行った過激派が、ベアルクローゼに潜伏しているのではないかという、内容だった。あくまでも、記者の独断と偏見のような記事だったけれど。  
 その瞬間、私はピンと来た。
 おそらく大佐は、何か確定的な情報を掴んだに違いない。そして、近々軍を動かし、ベアルクローゼにおいて大々的な掃討作戦 を行うつもりなのだ。つまり、そのための下見に行くのですね? 大佐。休日を使ってまで。
 なんて……なんて立派なのだろう!!
「……ハヤテ号もぜひ連れて来るといい」
 やはり、あの子を敵探知に役立てるおつもりですね? あの子はまだ幼い子犬だけれど、あの子の将来性を見込んでの抜擢。その先見の明お見事です。
 もはや私に否やはなかった。
「そういうことでしたらば、是が非でもお供させていただきます」
「そうか!」
 任務了解を告げると、大佐は驚くほどの満面の笑みを浮かべた。きっとこの下見に作戦の成功を賭けておられるのだろう。これは、私も気を引き締めてかからねばならない。
「では、細かいことですが、ご指示をお願いします。……やはり服装は軍服 は避けるべきですか?」
「当たり前だろう。軍服などもってのほかだ。……せっかくのベアルクローゼだというのに、君は何を考えているんだ」
「申し訳ありません。浅慮でした」
 困惑した顔で軍服を否定され、私は己の浅はかさを恥じる。あくまでも下見は秘密行動だ。軍服でうろついては、相手に警戒してくれと喧伝するようなもの。威嚇行動は避けるべきなのだ。
「服はだな…すこしおしゃれして……あ、あちこち見て歩くから、靴は履き慣れたもので」
 なるほど、民間人に扮して、カモフラージュと言う訳ですね? 下見なのだから、街の隅々まで見て歩くのだろう。特に敵の潜伏先として怪しい場所の目星をつけておくのだろうか。
「下水道や廃屋…場末のバーや違法カジノなんかで すね」
「げ、下水道……? 君はそんな所に興味があるのか…? これはルートの見直しを考えた方がいいか……」
「はい?」
「……いいや、何でもない」
「それでは、事前に準備しておくものなどはありますでしょうか」
 下見と言えども、敵地への侵入。武装しておくに越したことはない。出来れば通信用の無線なんかも欲しいが、いかんせん、持ち込むには骨が折れそうだ。
「手回り品は必要最低限で、かまわんよ。私に任せたまえ、君はのんびり身一つでくればいい。……もちろん、退屈する暇なんてないからな?」
 余計な装備は敵にあらぬ憶測を許す。武装は必要最低限でなければならない。大佐の考えに私は感服した。
 楽しげにどこか含みにある笑みを浮かべる彼には、おそらく、絶対の自信があるのだ。火器の不足は己の技……錬金術で補えると。
「……了解いたしました。全て、大佐の思うとおりに」
「ああ追って時間を知らせる。……それから……」
「まだ、何か?」
「……楽しみにしている」
 思いのほか感情が籠められた声に、驚く。私も何か言うべきか(任務成功に全力を尽くします!とか)と思ったが、結局何も言葉が出てこずこくりと頷くだけにとどめた。
 ただ、大佐の言葉に私までふつふつと心が沸き立ってくる。
 これは……大事な任務を前にして私も昂揚しているのだろうか。
 ……何か、違う気がしたけれど。
 しかし、すぐにそんな疑念を私は忘れた。これから忙しくなるのだ。
 さあ、今から気合いを入れて準備をしなければ。 ところで、目立たぬように、銃は何丁、弾薬は幾つまで持っていけるだろう?


 




 本日、晴天、旅行日より。


 観光シーズン真っ最中のベアルクローゼは、旅行鞄を携えた人でごった返していた。人々の楽しげなさざめきが耳に心地よい。晴れ渡った空は青。街にあふれるのはブーゲンビリアの赤。そして、建物の軒先を飾る市旗の黄色。鮮やかな色彩がいかにも瞳に楽しかった。
「こら、ハヤテ号。待ちなさい!」 
 駅舎を出てようやくケージから解放された子犬が、はしゃぐようにトコトコと駆けていく。リードを付ける暇もないすばしっこい動きに、中尉が翻弄されている。
「ほら、待て。……そう、いい子」
 主人の呼びかけにハヤテ号は足を止めてなあに? と振り返る。やっと追いついた中尉は、優しく子犬を抱き止めリードを付ける。従順な子犬に、彼女はふんわりと優しく微笑んでいた。
「申し訳ありません、大佐。私の躾がなっていなくて……こんなことでは大佐のお役に立てませんね……」
 到着して早々の粗相を、子犬に変わって主人が詫びる。私は笑って気にする必要はないと首を振ってやった。
「子犬は元気が良いのが一番さ」
 それから心の中で、こいつは十分役に立っているよ、と付け加える。
 何しろ、ハヤテのおかげで彼女のこんな顔を拝めるのだから。
 愛犬のこととなると脇が甘くなる彼女は、緩んだ笑顔を振りまいている。これからの時間……楽しい旅行デートに期待が持てるというものだ。
「はい! そうで すね」
 嬉しそうに頷くと、降ろされた金色の髪がさらりと揺れる。それがいかにも彼女がオフであることを表していて、私の心は浮つく。
 そう、私は浮かれている。これ以上ないくらいに。
 ずっと前から計画していたこのベアルクローゼ観光に、好きな女と来られたのだから、当たり前だろう。絶対に難色を示されると思っていた誘いは、思いの外あっさりと受け入れられた。
 それどころか、当日の服装やら持ち物やら訊ねてきて、彼女もとても乗り気で。これで浮かれるなという方が無理だ。
 子犬のリードを握って歩く中尉の姿を、こっそりと眺める。つばの広い白い帽子、胸元が開いたカットソーの上に薄手のジャケットを羽織っている。下は長めのフレアスカート。歩く度にふわふわと軽やかに裾が揺れる。彼女のリゾートスタイルを拝めて、本当に心が浮ついて仕方がない。
 が。
 視線を後ろに流した瞬間、目に飛び込んできたものに、私は若干我に返った。
 ……何故、こんな華やかな装いをしているのに、これを?
 彼女が背負う巨大なリュックが嫌でも目に入って来て、すっきりしない気分を常に忘れさせてくれない。
「なあ…そのリュック…一体何が入っているんだ? 重くないか?」
 今日会ってからずっと言えずにいたその疑問を、思い切ってぶつけてみる。すると、彼女はさっと顔を赤らめるという世にも珍しい反応を見せた。
「こ、これは……お恥ずかしい限りです。大佐から、身一つで来いと言われていましたのに……、その…どうしても荷物をまとめ きれなくて……こんな量に……」
「ああ、なるほど」
 女性は男に比べて持ち物が多い。その辺りを詮索しようなどと、私も野暮だった。これだけの大荷物だ、もしかして小腹が空いた頃に彼女の手作り弁当やクッキーなんて物も登場したりしてな。
 考えるだけで、心が躍る。
「それなら、私が持とう」
「い、いいえ! とんでもありません。見かけよりも軽いですし、扱いを慎重にしないといけないものも入っております。お気になさらず」
「そうか?」
 壊れ物が入っている……ということは、手作りがいよいよ真実味帯びてくる。
 私はほくそ笑むと、さあ、と中尉を促した。
「行くか」
「はい」
 そうして、まずは賑わう駅前のストリートに足を運んだ。




「まずはどの辺りから回ろうか」
 ストリートを抜けると、円形の広場に出た。そこから道が放射状に伸びている。懐からベアルクローゼの観光ガイドとマップを取り出しながら、中尉に水を向けると、彼女もごそごそとリュックから何やら引っ張り出していた。
「はい。私も僭越ながら、地図を持参してきたのですが……」
「そうか。どれどれ……」
 手元をのぞき込んで、私は言葉を失った。彼女が持ってきた地図は、私が手にしている観光マップとは明らかに異なる、より精度が高いものだった。一般的な観光マップでは省略されているような、小道や建築物が詳細に載っている……いや、詳細すぎる。おまけに座標を特定するためのマス目まで入って……て、これ、軍用地図じゃないか?
「う 、うん…詳細な良い地図だな……」
「恐れ入ります」
 よーくその地図を見てみると、あちこちに赤でチェックが入っている。ああ、ここに行きたいのかな、と思いその赤を目で追えば。
 空き地、廃屋、下水道入り口、裏路地……と赤丸がついており、ならず者のたまり場と書かれた違法カジノには二重花丸。
 こんな所に本気で行きたいのか……? せっかく観光地にきたのに、そんな通好みのスポット巡りをしたいのか!?
 額を汗が滑り落ちていく。どうしたものか…と彼女を伺えば、何故か満足げに地図を眺めている。
「で、でも! だ。せっかく下調べして来て貰ったところ、悪いが……今日は私のプランで回るのではダメか? 自信があるんだ!」
 女性が喜びそうな場所を入念に チェックしてある。美しい場所、ロマンチックな場所、そういうごく普通の観光スポットを私は巡りたいんだ、彼女と!
 思いを込めて中尉に訴えれば、彼女は驚いたように目を見開いて。それから、尊敬のまなざしで私を見つめてくる。
「……さすがです、大佐。既にめぼしい場所を把握しておられるのですね? 貴方にお任せいたします」
 説得出来て、本当に良かった……。あまりの安堵に力が抜けた。正直中尉チョイスの場所で、口説く自信がない。
「なら、あちらの方から行こう」
 中尉を伴って、歩き出す。
 了解いたしました大佐と返事をよこす彼女をちらり、と見て。
「……それから、さっきから気になっていたんだが、ここでは階級はやめないか?」
 さりげなく指摘する 。彼女のことだから断られると思ったが、あっさりと了承された。 
「確かにその通りですね、失念しておりました。申し訳ございません」
 同意し、しばし彼女は考え込むように沈黙して。
「では、私は……エリザベスと呼ばれるのが適当でしょうか」
 リザと呼びたかったのが本音だ。もちろん、虫のいい願いだと分かっていた。だが、今日くらい恋人気分を味わってみたかったんだ。いきなりファーストネームは恥ずかしいということだろう、と無理矢理自分を納得させる。
「分かった。では私のことは……」
「そうですね、貴方の場合はロイ子でいかがでしょう?」
 ロイ……コ? 
 いかがでしょうって。いいわけないだろ。コはいらん。
 謎のコ。という音に戸惑いな がら、(中尉の中ではコは重要な何からしい。……外国語か何かか?)ロイと呼んでくれ、という言葉を飲み込んで。私は釈然としない気分で答えた。 
「かえって不自然だろう。……マスタングさんでいい」
 私の指摘に確かに、そのまんま過ぎでしたか……我ながら素敵な愛称だと思ったのですが……と残念そうな中尉。悪いが、そこは譲れない。呼ばれる度に脱力してしまう。だってそうだろう? 良い雰囲気になった時に、ロイコなんて呼ばれてみろ、台無しだ。
 ごほんっと、咳払いを一つ。   
「では行こうか、エリザベス」
 まだロイコに名残惜しそうにしている中尉を(もしかして会心のネーミングだったのだろうか)呼ばう。こんな風に呼ぶと、まるで任務中みたいで、妙な気分だ ったが。
「はい、マスタングさん」
 応じた彼女の声が思いの外楽しげだったので、それで満足してしまった。単純なものだ。




 荘厳な石造りのカテドラルは、ずいぶんと古い建築様式だ。青空を突き上げるように高い尖塔が中央にそびえ立っている。螺旋階段を上って、尖塔の上へと登る。
「素晴らしい眺めだな……」
 大きな窓からは美しい街並みが一望出来る。窓枠に切り取られたそれはまるで、一枚の名画を眺めているようだった。
「はい。駅舎、市庁舎、憲兵の詰め所……ここから全て視認出来るでしょうか」
 もしかして、退屈なのか?
 あまり景観に感じ入っている様子でないのが気になって視線をやれば、彼女は片目を閉じ、腕を水平に伸ばして親指を立て ている。
 格好はいいね! なのに、その顔は真剣そのもので、とてもいいね! という雰囲気ではなかった。その近寄り難さに、周囲の観光客が私たちを遠巻きにしている。
「……エリザベス?」
 何をしているのだろうと声をかければ、彼女は一仕事終えたいい顔をしている。それから満足げに頷いた。  
「目視ですが、ここから駅舎までの距離はおよそ1300といった所でしょうか……ギリギリですが、撃てますよ!」
 待て、何を撃つ気だ。
 彼女の視線を追いかければ、駅舎と駅前の広場が見える。整えられた植え込みとその周りで餌をつつく、白い鳩……まさかあれを撃つ気じゃないだろうな。今晩のおかずにする気か。
 私の危惧をよそに、中尉は感激したように手を合わせた。
「さすがです、マスタングさん。このように良い場所を既にマークしておられたなんて!」
「ああ……うん」
「有事の際はまずここを拠点にして……一人ずつ潰していくのがベストでしょうか」
 慌てて興奮気味に語る中尉の腕を引っ張り、人気の無い場所へと連れて行く。周囲の視線が背中に突き刺さって痛かった。
「エリザベス、ここでさっきのような話は……」
 ようやく落ち着く場所へと来ると、声を落として話しかける。
 真面目な彼女がつい仕事の話を持ち出してしまうのはいたしかたないことだ。だが、今日はせっかくの旅行デートなのだ。日頃の血なまぐさい話は忘れたかった。
「私……申し訳ありません。つい、大佐…いえ、マスタングさんの深慮遠謀に感服してしまいまして ……確かにあのような衆人環視の中でする話ではありませんでしたね。短慮でした。……どこの誰とも知れぬ輩が聞いているやもしれませんのに……」
 ……まあ、観光客にはどん引かれてたな。
 しゅんっと反省する中尉というのも物珍しくも可愛らしい。足下では、主人を心配してか、同じくしゅんとした様子でハヤテ号がお座りしている。そっくりな主人と愛犬に苦笑しながら、私はぽんぽんとその肩を叩いた。
「いいさ。それよりも、次に行こうか。まだまだ行きたい場所が沢山あるんだ」
「はい」 
 中尉の返答に、きゃうっというハヤテ号の鳴き声がかぶる。それに顔を見合わせて。私たちはくすりと笑い合った。




 それからの観光は順調で、名所旧跡を一通り巡った私と中尉とハヤテ号は、街の中央広場に戻って来た。既に時刻は昼を回った。そろそろ、腹が減ってきた頃合いだ。
「エリザベス、お昼にしようか。どこか美味い店は……」
 何か名物でもないかとガイドブックを開いた私に、中尉が言い添えてくる。
「あの、見たところどこのお店も混んでいるようですしハヤテも一緒となるとお店を探すのも大変です。よろしければ、その辺りのベンチで食べませんか? 僭越ながら、私、持参して参りました」
 キターー!!
 ついに、その巨大なリュックの中身を披露して貰えるらしい。私は心中でサンバを踊りながら回転ガッツポーズを決めていた。
「もちろん、いいとも。わざわざすまんな」
「いいえ。現地の食べ物ですと、万が一にも毒を盛られ る可能性がありますから。念のためです。貴方のお好きな物を用意してきましたよ」
 ひたすら不穏な前半部分が気になり過ぎるが。中尉の手作り!! に浮かれていた私は聞き流すことにした。
 早速二人でベンチに仲良く並んで座る。周囲には私たちと似たような状況のカップルやら家族連れやらが居て、とてもにぎやかだ。特にカップルはあーんと食べさせ合いっこをしたりして、食事中だと言うのにベタベタいちゃいちゃくっついている。お熱い限りで、羨ましい。
 もしや、私たちもあんなことに……? 
 期待に胸をワクドキさせて、私はリュックを広げる中尉を見守った。のだが。
「では、マスタングさん。こちらと……あ、あとこちらもどうぞ。はい、ハヤテ号はこっちよ」
「…………え、あ、うん」
 リュックから出てきたのは、缶詰と干し肉、シリアルバーにクラッカーといった、軍用の……レーションだった。あ、確かに、これ私の好きなの……。
 どうしよう。どんな顔をしていいか、分からん。傍らでがっつがつと犬用のご飯をがっつく子犬を羨ましく眺めながら。巨大な期待が青菜に塩を振ったように、萎れていった。
「なあ、エリザベス。……何で、携帯用軍隊食なんだい?」
「はい。万が一を想定いたしまして。日持ちもいたしますし、これがベストかと」
「そうか……」
 ため息を吐きそうになるのを、何とかこらえた。せっかく中尉が用意してくれたものだ。たとえどんなものだろうとご馳走だ。と自分に言い聞かせる。
「うん、美味い。食べ慣れたものでも 、場所を変えると違うものだな」
「そうですね。それに、貴方と二人で食べているからでしょうか、とても美味しく感じます」
 言ってる内容はとても嬉しかったが、いかんせんレーションではあまりテンションが上がらない。おまけにぼそぼそしていて、喉に引っかかる。楽しい旅行デートがいまいち不完全燃焼で、そのもやもやが上手く飲み下せていないように。
「……何か、飲み物が欲しいな」
「あ、そうですね、申し訳ありません。失念しておりました」
「ああいいよ。何か買ってくる、待っていてくれ」
 立ち上がり、少し先の露店が立ち並ぶ界隈へと足を向ける。搾りたてフルーツジュースというのぼりを発見し、そこに行こうと歩みを進めた所で。目に飛び込んできた品物に、 立ち止まった。
 銀色のペアリング。露店に置いてあるものだがら高級品には見えないが、どこか手作りの味が感じられるそれ。
 手に取ろうとしゃがみこむと、すかさず声をかけられる。
「お兄さん、安くしとくよ。旅の記念にどうだい?」
 ……心が惹かれた。まだ一緒に旅行しただけの仲の分際で(しかも日帰り)こんなもの渡せる訳がない。と思う一方で、旅行の浮かれた空気の中でなら、ノリでプレゼント出来るかもしれないという期待。
 迷う私を後押しするように、商売上手な店主が手を揉む。
「今ならサービスで好きな文字を刻印するよ!」
「……それを貰おうか」
 気が付けば、財布を出していた。 



 
 上着のポケットに揃いのリングを忍ばせて。安価品故ケースが付く訳でもなく無造作に袋に入れられたそれは、ちゃりちゃりと歩く度に金属音がする。それは耳障りではなく、どこか心の柔らかい部分をくすぐる音だ。
 渡す勇気は今の所、皆無。だが、これを買ったという記憶だけで十分だという気がする。 
 しかし、幸福感に包まれ軽い足取りで戻った私が見たのは、ガッデムな光景だった。
「ねえ~いいじゃん、行こうよー」
「おねーさん、ほんと、美人だから、おごっちゃうよ?」
 いかにもチャラ付いた男たちが中尉に声をかけていた。彼女は特に困っている様子もなく、淡々と結構ですからと返事をしていたが。彼らは引き下がらず、しつこくしつこく絡んでいた。
 足下ではうーっと低いうなり声を上げるハヤテ。よく躾ているため噛みつくことはなかったが、子犬はナイトよろしく男たちを威嚇し、敵意をむきだしにしていた。
 私も迷わず両手の飲み物を放り投げ、戦闘態勢に入る。素早く懐から発火布を取り出して、装着。大股で彼女に歩み寄った。
「やあ……待たせたね? エリザエス」
 ぐいっと肩を抱き寄せて、見せつけるように親密さをアピールする。同時にぎろりと男たちをねめつけた。
 ……この焔の錬金術師の女に手を出そうなどと、百万年早い。……と心の中だけで思って。
「……たい…いえ、マスタングさん!」
 強引な行為に中尉が驚いたように声を上げる。手に装着された発火布を見やって、状況が把握出来ないのだろう。瞳をぱちぱちとさせていた。
「……なんだ、ツレがいるんじゃん」
「いこうぜ……っ」
 私の迫力に恐れをなしたのか、ナンパ男共は捨てぜりふを吐いて去っていく。ふんっと、鼻を鳴らしてその忌々しい姿を睨みつけていると。
「一体、どうしたのですか? 急に……それに、手袋までつけて……」
 不審そうな中尉の声に、私ははっと我に返った。そそくさと肩を抱いていた腕を外して、ごほんっと咳払いする。
「何でもない。ただ、不埒な輩を追い払っただけだ。……何かされなかったか?」
「いいえ? 何も。彼らは普通の観光客のようでした」
 なるほど。観光地で浮かれて羽目を外そうという輩か。女を引っかけて、一夜のアバンチュールでも楽しむ気だっと見える。よりにもよって中尉に目を付けるとは、命知らずめ。と、とりあえず自分を棚上 げしつつ悪態を付く。
「最初は地元の方だと思って、話を聞いてみようと思ったのですけど…あまり参考になることは聞けませんでした。何を聞いても、いーじゃん、遊ぼうぜ、おねーさん胸でかいね、とかで」
 ……燃やしてやれば良かった。
 中尉にいやらしい目を向けるとは、万死に値する。それは私だけの特権だ!
「……ところで、どうして、発火布を付けているのですか? 飲み物は買ってきて頂けました?」
 小首を傾げつつ訊ねられ慌てて振り返ると、地面に落ちたフルーツジュースをハヤテがペロペロと舐めている所だった。
「落としてしまったんですか?」
「ああ…すまん、その、つい手が滑ってだな」
「ずいぶんと豪快に滑りましたね。仕方がありません、あれはハヤテ号にあげたことにしましょう。で、マスタングさん? それよりも」
 呆れ顔の中尉は強い口調で言葉を切り、それから声を潜める。
「はやく、発火布外して下さい。見られては大変ですよ」
「あ、ああ……」
 大変というのは、私が焔の錬金術師ロイ・マスタングだと知られると女性たちに囲まれてしまって、たーいへん! ってことかな……?
 なんて都合良く解釈しながら、手袋を外してポケットにつっこむ。すると、指先に先ほど購入した指輪の袋がふれた。
 ……思ったよりも早く渡すきっかけが出来たじゃないか。
 そのままその一対の片割れを取り出す。
「……これを、付けたまえ」
「え?」
 中尉は手の中の銀色を戸惑うように見つめる。ぐいっと強引に手渡した。
「 あの……?」
「虫除けだ」
「虫除け……? でも、まだこの季節では虫はあまり……」
 明後日にとんちんかんなことを言い出す中尉。天に翳したりして、不思議そうに指輪をいじっている。ああ、やっぱり自分の魅力とその危険性を彼女は理解していない。ついでに、指輪の意味も全然伝わってない。
「いいから」
「ですが、指輪をしていては、銃の扱いに支障がでます」
 何をそんなに渋るのかと思ったら、それか。
「銃? 今日は必要ないだろう。第一携帯しているのか?」
 中尉の下から上まで眺める。どこにもそんな物を持つ余裕は無い服装だ。もしや……巨大リュックの中に入っているのか? と思った瞬間。
「はい。もちろんです」
 力強い答えと共に、目の前にパラダイ スが広がった。
 一瞬、何が起こったのか理解が追いつかない。
 ふんわりと巻き上がるフレアースカート。白い脚が半ば以上丸見えになる。彼女の両太ももには、黒いガンベルトが巻かれていて……銃が二丁…いや、もっとか? それからおびただしい量のナイフ。
 魅惑の太ももと凶器のコントラストに、脳味噌がチカチカした。滑らかな輪郭が目に焼き付いて離れない。
「このように、いつでも撃てますので。ご安心下さい」
「あ、ああ…頼もしいよ……」
 何で楽しい旅行にそんな物騒なのを沢山持って来ているんだ? という疑問は、眼福過ぎる事態に綺麗に消え去ってしまった。現金なものだ。
「ですので、指輪は困るのですが」
「なら、こっちの手のこの指にすればいい」
「マスタングさん!」 
 中尉の手から指輪を取り上げると、彼女の左手を手にとる。それからしれっと薬指にはめてやった。
「左を使わせる事態には、私がさせないから。……それに、それは私たちにとって重要なものだ」
 不満そうな彼女だったが、私の一言に、何故か突然はっとした顔をする。それからじっと指輪を見つめて。 
「了解いたしました。そういうことなのですね、流石です」
 ……何故突然態度を翻したのかいまいち分からなかったが。今は彼女が指輪をしてくれたことだけでよしとしよう。
 出来れば自分の分もこの場ではめたかったが、それは流石に気恥ずかしくて、止めておいた。





 あちこち巡り歩いて数時間後、街は夕暮れに沈む。街中に明かりが灯り、建物がライトアップされ、幻想的な空気が漂う。
 もう少しだけ街にとどまりたかったが、日帰りである以上汽車の都合がある。そろそろ駅に向かわねば、イーストシティ行きの最終を逃してしまうだろう。
 本当は、ゆっくり泊まりで来たかったな……。
 なんて、考えてそこで私は思考をストップさせた。
 いやいやいやいや、そんな、泊まりだなんて。何を考えているんだ、私は。彼女をやましい目でなんて、ほんと、これっっぽっちも見ていな……その瞬間、昼間の白い太ももが脳裏にフラッシュバックしてきて、私は懊悩した。
「うぉぉ……」
「あの、マスタングさん。どうされました?」
 いかん、煩悩を振り払おうとしてつい顔と行動に出してしまったらしい。苦悩に顔を歪め頭を抱えた私を、中尉がびっくり顔で見ている。腕には歩き疲れてうつらうつらしている、子犬を抱いていた。
「……何でもない」
「? そうですか?」
 君に欲情してました、なんて告げる訳にも行かず曖昧に誤魔化す。いまいち納得していない顔だったが、そういえば、と中尉は話題を変えてくれた。
「本日の成果はいかがでしたでしょうか? 大佐のお調べになった場所をあちこち巡って歩いた訳ですが、私が見たところ、特に問題無かったと思うのですが」
 成果――と言われれば、成果はあったかもしれない。それなりに中尉と楽しい時間を過ごせた。私にはそれだけで十分だ。指輪も、本来の意味にはほど遠いがはめて貰えたことだし……上々だったのではないだろうか。
「……ああ、私はとても満足したよ」
 だから、これは私の本心だった。そして続けて思う。出来れば彼女も私と同じように、私と一緒で楽しかったと思ってくれればいいのだが。
「そうでしたか。それは、良かったです。私も、お供した甲斐がありました」
 腕の中で眠るハヤテを優しく撫でながら、中尉が微笑む。その美しい笑み。思わず吸い寄せられように、顔を寄せた。肩を掴んで桃色の唇に己のそれを寄せ……ようとしたその時だった。
 ドーンッ!!
 という爆発音がとどろいた。それは空気を震わせ、街中に響き渡る。
「たい、さ!」
 マスタングと呼ぶことも忘れて、彼女が私を引き倒した。
「おわ!?」
 見事な足払いにひっくり返ると、中尉が上からハヤテごとのし掛かって くる。ボリューム満点の胸とハヤテに私はむぎゅっと押しつぶされた。
 何だ、何だ、何が起こった!?
「敵の襲撃かもしれません! 伏せて下さい……!!」
「むぐぐぐ……」
 敵? 何の?? 
 疑問は数え切れなかったが、とにかく苦しくて息が出来ない。
「あれほどの爆発音……相当な火薬量ね…こちらも、用意して来て良かったわ」
 音が収まった判断して、ようやく中尉が私の上からどいてくれる。それから素早く背中の巨大リュックを降ろして、ガサコソと中身を探っている。
「ちゅ、ちゅーい……?」
「大佐、ご安心下さい。奴らに対抗すべく、私もこちらを持って参りました」
「何?」
「自らの手で火薬を調合した……特製の手作り爆弾です!」
 ……とうとう出てきた、手作り!!……爆弾。
 私はもうロマンチックは諦めた。今日は。
 ごつい代物を手に誇らしげにしている中尉に、もう突っ込む気も起きなかった。ふっと遠い目で空を見上げる。夕暮れの赤から、夜の黒へと染まっていく過程の藍色が、美しい。そしてそれを彩る光の花……ん、花火?
「ちゅうい。落ち着きたまえ、……さっきの音は花火だ」
 爆発音の正体があっさり知れて、脱力しながら彼女に教えてやる。きょとんとした顔をした中尉は、次の瞬間やだっ、と顔を赤らめた。
「申し訳ありません! とんだ早とちりを……!」
「うん。いいんだけどね……」
 ひたすら恐縮する彼女。
 まあ、前向きに考えれば、地図もレーションも武装も爆弾も、全部私の身の安全を思ってのことだろうし。きっと彼女はプライベートでも副官兼護衛気分が抜けないのだろう。
 それは、私をどこまでも上司としてしか見ていないということであるけれども。
 その切なさを振り払って、私は中尉に気にするなと笑ってやる。
「ほら、見てごらん。綺麗だろう? ベアルクローゼの花火は特に美しいと言われていてね。光が真円を描くように火薬が調整されているんだ。それだけ長い歴史のある催しなんだよ」
「はい…綺麗ですね……」
 私につられたように、空を見上げた彼女が感嘆の声を漏らす。
「一つの花火が打ち上がって光を散らすまでの間に、願いごとを三回唱えれられれば、願いごとが叶う……なんて噂もあるくらいだ。……流れ星のようだね」
「まあ……それは本当ですか?」
 話している間に、また一つ花火が打ち上がった。導火線のような細い光が空に向かって伸びて、そして一気に花開く。円状に広がる光は一瞬だけ一際美しく輝くと次の瞬間にはキラキラと儚く消えていった。
 私は一心に花火の光に視線を注ぐ中尉を見やった。
「何か、願ったのかね?」
「……はい」
「聞いても?」
「……貴方の望みが叶うように、と」
「そうか」
 自分のことを願わないところが、実に彼女らしい。
 中尉といい感じになれますように、などと、欲望にまみれた願いをした私は、少し反省する。
 中尉が私を思い、守ってくれるだけで、私は幸せ者だ。
「……さあ、汽車がなくなる。そろそろ帰ろうか」
 だが、ちょっぴり欲張り精神が顔を出して。
 私は中尉の手を握りしめて、引いた。
 手を繋ぐ――今日初めてした、本当の恋人らしい行為だった。
「大佐……あの、ちょっと…」
「さ、行くぞ。ほらハヤテも。眠くないか? 自分で歩けるか?」
「キャン!」
「あの、恥ずかしいのですがっ」
「気にするな。虫除けだよ」
「……指輪が虫除けなのでは?」 
「いいから」
「あの、手……や、本当に、なんだか変。顔が熱くてっ…! 私、変なのですが……!」
 中尉の抗議を今ばかりは、聞き流して。
 二人と一匹で歩き出す。上がり続ける花火の光が映し出す影は、仲良く手を繋いでいた。





 帰りの汽車の中は、しごく静かだった。すっかり眠ってしまったハヤテ号のケージを足下に置いて、ぼーっとした様子で、彼女は窓の外 を見つめている。
 中尉も流石にくたびれたのだろうか。無理もないだろう。あんな巨大なリュックを背負ったりあれだけの武装を身につけていたのではな。
 そっとしておいてやろう、と私も特に話しかけることもしなかったのだが。
「あの、大佐」
 沈黙を破って彼女が声を上げた。
「ん?」
「ずっと考えていたのですが……大佐。私、とても、聞きたいことが」
「なんだね?」
 腑に落ちない顔で、中尉が言う。
「今日は……なんだったんですか? これ」
「旅行デートだが……逆に聞く。何だと思ってたんだ…?」
 沈黙五秒。みるみるうちに彼女の顔が赤く染まっていく。
 ……今日一番の可愛い顔だ。
「そ、そんな! 掃討作戦の下見ではなかったのですか!?」
「 違う!」
 私は反射的に叫んだ。
 ……全ての不可解さが氷解していく気がしていた。
「でしたら……この…指輪…は?」
「それは……」
 私の気持ちだ、と告白するのは流石に早計かと言いよどむと、更に彼女は仰天することを告げてくる。
「R to R……このRは…リスク…リターン…危険を察知したらすぐに帰投せよとの暗号なのではないんですか?」
「違う! ロイとリザのRだ!」
 他に何があるというんだ。まさか、あんなにあっさり指輪を付けることを快諾したのは、暗号のやりとりだと思ってたのか? 
「じゃ、じゃあ…一緒に名所を巡ったり、お昼食べたり、名前を呼び合ったり手を繋いだり……それにはいかなる意図があったんですか?」
 え、その説明いるのか!? 
 仕方なく、羞恥プレイの心持ちで白状する。
「全部、君と、したいから、した。それだけだ」
「そ、それならそうと、早く言って下さい!!……もう、私、馬鹿みたい……」
 言った……つもりだったが。
 どうも、相互理解に齟齬が発生していたよう だ。
 両手で頬を包み込んで、中尉は恥ずかしげに顔を伏せている。  
 ……もしも作戦の下見でなかったら、彼女は旅行に同行してはくれなかったのだろうか。
 不安が首をもたげてくる。全部、任務のためだったのだろうか。
 しかし、次の瞬間。顔を上げた彼女はきっぱりと叫ぶように言ってくれた。
「私、ちゃ、ちゃんとやり直しますから!」
 だから、その……とごにょごにょと言葉を濁す。
「なんだ?」
「その……また、誘って下さい。今度は勘違いしないように」 
 私の心に光がさした。嬉しさに胸がいっぱいになる。
「手作りのお弁当やクッキーを作ってくれるか?」
「はい」
「あーんって食べさせてくれるか?」
「……はい」
「手も繋いで……ペアの指輪も付けてくれる?」
「……いいですよ」
「休日はハヤテ号だけじゃなく、私も抱っこして寝てみない?」
「…………バカですか」
 そう言ってはにかむ中尉は、とても美しくて。
 休日の終わり、我々を乗せ進む汽車の上で。私は我慢出来ず、身を乗り出すと腕の中に彼女を閉じこめたのだった。




 
END
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お読み下さりありがとうございました。
ロイアイの未来が幸せでありますように!



 



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by netzeth | 2016-06-12 01:04 | Comments(0)

6月

6月になりましたね!ロイの日はスルーしてしまったのですが、ロイアイの日はお話UPしたいと思っております!と言いつつも、今絶賛来月の原稿中でございまして。一応2012年に発行した本の再録本を出そうと思っております。もろもろ全部頑張ります…。

ところで。牛先生曰く、アメ国にはキリスト教的なものはないとのお話ですが、ということは当然クリスマスは無いのですよね。では、マダム・クリスマスのクリスマスは……何から来ている言葉なのだろう。や、クリス・マスタングの略称だとは分かるのですが。つまり12月25日のクリスマス……だと読者に思わせておいて、実はクリス・マスタングの略でした!ということなのかな?

そういえば!レンタルしてるお高いマットレス……だんだんいい感じになってきまして。これは……いける?腰痛緩和なる?と期待しているとこ。本当によかったら購入を検討しよう。



拍手ありがとうございます!
毎日頂きまして、感謝感謝です(^^)







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by netzeth | 2016-06-05 17:49 | 日記 | Comments(0)