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ハロウィンのワンコ

 東方司令部の中庭、その奥まった所にある木陰はロイの昼寝スポットだ。秋が深まる時期とはいえ、まだまだ穏やかな気候の10月末。本来ならば気持ちよく夢の世界に旅立てたはずであるのに。だが、こんな喧噪の中ではおちおち寝てもいられない。
「まったく……」 
 不機嫌丸出しで座っていた彼の隣に、よっこいせと座った者がいる。手にした煙草を見て、ロイはそれが誰かすぐに分かった。
「おいハボック。吸うなよ」
「分かってますよ」
「ならその手のものはなんだ」
「気分ッスよ、気分。それにこれじゃあ吸うに吸えないでしょう」
「……まあな」
 両手を広げ己の姿を指し示して見せた、男――ハボックにロイは同意して頷いた。
 それは灰色をしたモフモフの毛皮……の犬の着ぐるみだった。ポテンとした愛くるしい手には肉球。ちょこんと摘むように持つ煙草が何とも不似合いだ。
「ところでどうして俺だって分かったんスか?」
「そんななりをしてまで煙草を吸いたいヘビースモーカーは、お前くらいしかおらんだろう」
 すっぽりと犬の頭をかぶっているため、顔は見えない。そして、この仮装はハボックに限った訳ではないのだ。
 ロイは人で賑わう中庭中央付近に視線を投げた。そこには至るところに犬の着ぐるみがいる。彼らは皆一様に山盛りのお菓子が入ったかごを持ち、行き交う子供たちに配っていた。
「あ、そっか。でも俺はともかく、これじゃあ不審者が入り込んでも分からないから、警備上危険ッスね」
「お前……将軍からの通達を読んでないのか? そのために軍人共通の合い言葉を設定してあるんだ。これがふり付きで言えなければ即逮捕というデッドワードをな」
「し、死の言葉!? なんか、恐ろしいッスね。覚えとかないとヤバいな…教えて下さいよ」
「いいか、いくぞ? 東方良いとこ一度はおいで~ピチピチギャルにドキがムネムネ~」
 腕を広げてから胸の前でハートマークを作る仕草に、ハボックは手にした煙草をぽろりと取り落とした。ぼそっと突っ込む。
「……………死の言葉ていうか、死語ッスね」
「言うな。将軍が考えられたのだ」
 渋い顔のロイに、中間管理職は大変ッスねと他人事のように笑って、ハボックはところで、と煙草を拾いつつ話題を変えるように言った。
「やー盛況ッスね。東方司令部主催の大ハロウィン仮装パーティー。これで市民の皆さんの心象もぐっとよくなるんじゃないッスか? 最近何かと事件続きで物騒だったし」
「……それも計算してのこのバカ騒ぎだろうな。流石はグラマン閣下…食えないお人だ」
 東方司令部最高司令官グラマン中将の「ハロウィンパーティーやるよ!」の一言で、開催されたこの度の祭りは、軍部の予想以上に市民に好評のようで。司令部内のパーティー会場は賑わいを見せている。おかげでロイ達仕切る側の人間は、朝から……いや、パーティー準備の段階からてんてこ舞いだった。
「でも結局しょーぐん、口は出すけど手は出さないの典型でしたけどねー」
 正にハボックの言う通りで、ロイは思わずうんうんと深く頷いてしまう。グラマンは「じゃーマスタングくんあとお願いね!」と早々に全ての責任をロイに押しつけたのだから。結局会場設営の手配、飲食物の手配、人員配置に広報に警備にその他諸々のめんどくさい問題を丸投げされて、通常業務をこなしながら準備を進めたロイの睡眠時間は著しく激減した。
「結局、しょーぐんがしたのって、軍部の衣装デザインだけでしたねー」
 そう、グラマンがしたことと言えば、軍人たちの仮装のデザインをし、それを着ることを義務づけたことくらいだ。
「……それについては、将軍は素晴らしい仕事をなさったと思うぞ」
「そうッスかあ?」
「そうだ!」
 己の犬着ぐるみを見下ろして、ハボックが疑わしそうな声を上げるのに対し、ロイはぐっと拳を握る。
「見ろ! 女性軍人たちのあの衣装を!」
 強面で屈強な男性軍人の怖さ緩和のために全員に犬の着ぐるみ着用を義務づけたグラマンは、対して、女性軍人には華やかな衣装を宛がった。
「ミニスカ魔女、ミニスカ小悪魔、ミニスカお化け……ミニスカミニスカミニスカ!! ミニスカの何たるかを熟知したミニスカ好きによるミニスカ好きのためのミニスカ衣装だ!!」
「ミニスカがゲスタンス崩壊しそうッスね」
「それを言うならゲシュタルト崩壊だ。無理に難しい言葉を使うな」
「それにあれ、別にミニスカ好きのために仮装してる訳じゃないでしょ……」
「何より見事なのはその丈だ」
「パンツ見えないッスね」
「そう! 下着が見えるなどミニスカとは言えぬ! 邪道だ!! その点で将軍の衣装は見えそうで見えない、男心を擽るギリギリを攻めている! 神デザイン!」
「俺はどっちかと言うとボインを強調した衣装の方が……」
「流石は将軍、解ってらっしゃる。東方にその人ありと呼ばれたお方だ……」
「司令部のトップとナンバー2がこれって知ったら、市民の皆さんがっかりするだろうなー」
 他人事のように言う犬の着ぐるみを着た男は、で、と言葉を継ぐ。
「じゃーなんで大佐、さっきからそんなにつまらなそう…つか、不機嫌なんスか?」
 大佐だけそんなナリして。指さされ己の姿を改めて確認して。ロイは渋面を浮かべた。
「……別に好きでこれな訳ではない」
 男性軍人が全員犬の着ぐるみ指定なのに対して、何故かロイだけは吸血鬼。フォーマルな衣装で決めている。当然、シティの女性たちに囲まれてしまいロイは朝からずっと愛想を振りまいていた。
「グラマン将軍から私は客寄せを仰せつかったという訳だ。女性担当のね」
 吸血鬼の犬歯が覗く口元を歪めて見せれば、ハボックは気色ばむ。
「なんスかそれ! 楽しいじゃないッスか!」
「うるさい、楽しいものか。疲れるだけだ」
「どうしてです? シティの女性達にモテモテ、軍の子たちのミニスカも見放題。天国じゃないッスか」
「それは……」
 答えようとした時、何人かの女性たちがロイの方へと近寄ってくるのが見えた。面倒そうな顔を一瞬で笑顔の仮面で隠して、彼は立ち上がり、接客へと向かう。
「俺、もう少しここで休憩してるんでー!」
 ハボックの声が背中にかかり、休憩でなくてサボりだろうと呆れながらもロイは片手を上げてその場を後にした。




     *****



「あー疲れた疲れた……ご婦人たちに愛想笑いをするのも楽じゃないな。一体何枚写真を撮るんだ? 彼女らは……」
 一仕事終えて再びお気に入りのスポットへと戻ったロイは、犬の着ぐるみの隣に腰を下ろした。ロイが労働している間、どうやらハボックはずっとここでサボり続けていたらしい。不真面目なのもここまでくればいっそ清々しい。
「おい、こら。お前もう少し働け」
 苦笑しながら犬の頭を小突くが返答はない。もしや寝ているんじゃあるまいな……と疑いながらも、ロイは彼に言っておかねばならないことを思い出していた。
「……おい、さっきの続きだがな」
「………」
 するとようやくハボックは反応を見せ、ロイを見て首を傾げるようにする。
「私は、別に誰のミニスカ姿を見ても誰にモテても嬉しい訳じゃないぞ。中尉だ。中尉のミニスカしか興味はないし、中尉以外にモテてもな。……なのに、中尉の姿が朝から見えん。彼女のミニスカ姿が私以外の男に見られているかと思うと、居てもたってもいられんのだ」
 興奮に任せてあれは私のものだ、とロイは鼻息荒く語る。
「今すぐにでも私は、中尉にトリックオアトリックと言いたいところだ。分かるか? 悪戯するぞ、嫌でも悪戯するぞ! という意味だ」
 実際、ロイはリザに対してそんなあからさまなアプローチなどしたことはない。女の前でよく回るこの口は彼女を前にすると、ポンコツになる。
「……ハロウィンパーティーなどと言っても、好きな女と一緒に過ごせないならば楽しくも何ともない」
 だが、気を許している部下となると話は別だ。ハボックはロイの意中の女を知っているし、ロイも彼に対しては隠していない。彼にならば男同士の本音を気安く語れるのだ。しかし、肝心のハボックはうんともすんとも言わない。いい加減じれてきて、ロイはもう一度頭を小突く。
「おい? ハボック……? 返事くらいしたらどうなんだ?」
「…………」
 沈黙を続ける男に不審が募る。まさかと嫌な予感がして、ロイは鋭く命じた。
「合い言葉よーい!!」
「東方良いとこ一度はおいで~ピチピチギャルにドキがムネムネ~」  
 腕を広げてから両手で胸にハート、というフリを淡々とこなし、デッドワードを口にする犬の着ぐるみ。
 ……よーく知っている声がした。もちろん煙草臭い男の声ではない。生真面目ででも可愛らしい女性の声。
 ロイは青ざめながらも何とか声を絞って尋ねる。
「…………何をやっているのかね、中尉?」
「休憩ですが」
「……何でミニスカじゃないんだ?」
「女性に対しては強制ではありませんよ、セクハラになりますから。皆、可愛いと身につけているだけです」
「でも、だからって、犬の着ぐるみって……」
「男性用のが余っていたので、私はこれで良いかと」
 どうりで朝から姿が見えないはずだとロイは納得した。同時に、己の言葉を反芻してどうしようもない衝動に駆られる。
 私は何を言った? 彼女に!!
「……ミニスカ、履いた方が良かったですか?」
 自分の発言に悶えていた所に、リザに止めを刺されて。一気に羞恥がこみ上げる。
「あ、あれは……そのっ、いやらしい意味じゃあなく……ただ君の綺麗な脚が見たかっただけで…」
 誤魔化そうにも何一つ誤魔化しようもなく、どんどん墓穴を掘ってロイは頭を抱えた。
「ハボックは……?」
「あちらにボインの黒猫レオタードがいると言ったら、私と入れ替わりで走って行きましたけど」
 ……ハボック!! まさか、確信犯じゃなかろうな。
 部下を口汚く心中で罵る。しかし状況は好転する訳でもなく。
「言わないんですか?」
「な、何をだ?」
「トリックオアトリック」
 ロイは更に追いつめられていく。犬の着ぐるみのせいでリザの表情は見えない。どんな顔でその言葉を言っているのか。
「わ、忘れてくれ……」
 片手で顔を覆って、赤くなる顔を必死に隠す。欲望丸出しの言葉を彼女に全部聞かれていたとか、どんな罰ゲームだ。
「では私から言いますね。トリックオアトリート?」
「え…」
 不意打ちに息を飲む。
 慌ててズボンとジャケットのポケットを探るが、生憎品切れだった。調子に乗って手持ちの菓子はお嬢さん方に全部配ってしまった。
「……お菓子はない」
「ではトリックですね」
「受け入れよう。どんな悪戯を?」
「大佐は吸血鬼なので私の召使いとして私の言うことを聞いて下さい。主従逆転の悪戯です」
 意図はよく分からないが、今のリザに対してロイは強く出られない。……いつも強くは出られないが。
「分かった。何をすればいい?」
「……モフモフして下さい」
「何?」
「犬ですから、モフモフです」
 一瞬何を言われているのか、理解出来ず目が点になる。悪戯なのだからからかわれているのかとも思ったが、彼女の声は真剣そのものだった。
「モフモフ?」
「モフモフ」
 こくんと犬の着ぐるみは頷いて、まるで早く撫でろと言わんばかりに頭を下げてきた。言われるままに手を伸ばして、いいこいいこする。頭をなで顎を撫で、それから背中を撫でて。
「まだ必要か?」
「まだです」
 よく分からないなりに彼女を撫でる。ふわふわした毛並みを撫でているとほんわかした気持ちになる。手に気持ちが伝わり、優しい手つきで撫で続ける。穏やかな時間に和むが、中身がリザだと思い出せば途端に落ち着かない気分になった。
「まだ?」
「まだです」
 もしかしてこれは…と、予感がした。これは……彼女なりの返答なのだろうか。不快には思っていないと。
 ……複雑な彼女の感情は読み解けない。
 答えを知りたいが、彼女は相変わらず犬の着ぐるみ。だからせめて、とロイは願った。
「なあ、中尉。いい加減顔を見せてくれないか?」
「承服できません」
「どうして」
「さっきから、私、大佐にお見せ出来ない顔をしておりますから」
 言いながらドキがムネムネポーズ。胸元にハートを作る彼女。
 ……なんだそれは!
 声に動揺が現れぬ女はあっさりとそう言ってみせ、ロイは更なる苦悶に落とされたのだった。



END
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by netzeth | 2016-10-30 16:37 | Comments(0)

通販連絡事項です

【通販連絡事項】10/28 2:00までに頂いたお申込みには全て確認メールを返信済みです。メールが届いてないよ~という方はご一報下さいませ~。



拍手ありがとうございます♪



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by netzeth | 2016-10-28 02:20 | 日記 | Comments(0)

4つの青

フリーワンライ参加作品です 




司令官執務室には小部屋が付属している。普段は資料用の物置となっているが、ロッカーに赴くのが面倒な場合着替え部屋として使う時もある。中は真四角の空間に棚や段ボール箱が所狭しと置かれており、人が二人並んで立つのがやっとと言ったところだろうか。
「こんなに狭い場所で二人きりだなんて、緊張するよ」
 鼻孔をくすぐる良い香りは、おそらく彼女のうなじから匂っているに違いない。眼下では金色の髪が揺れていた。
「何故狭いと緊張なさるので? 閉所恐怖症の気でも?」
「……何でもない」
 真顔で返されると結構へこむ。
 資料を探す彼女を手伝う目的で一緒に部屋に入ったはいいが、不埒な期待はすぐに打ち砕かれた。勤務中にこんな期待をする私の方が間違っているとは分かっているが、もう少しこう……他の反応があってもいいと思うんだ。
「情緒がないなあ……」
 思わずぼやけば、冷たい視線を当てられた。
「こんなほこりっぽい場所で、何をお考えで?」
「ほら……荷物に足を取られた君を助けようとして一緒に転んで……急接近☆ みたいな?」
「☆がうざいです」
 何を言っても彼女――ホークアイ中尉はにべもなく、淡々と資料ファイルを当たっている。
「口よりも手を動かして下さい。手伝って下さるのではないのですか?」
「……はい」
 なんてどっちが上司か分からないようなやりとりをしつつ、私たちは大方の資料を集め終えた。
「さ、早く戻って仕事の続きを」 
 近くにいるのに、こんなにいい匂いなのに手を出せないとなるとそろそろ理性が危うくなってくる。
「そうだな」
 同意してドアノブに手をかけた時だった。




「あれー? 大佐いねーぞ?」
「本当ですね、中尉も見あたりません」
「もう視察にお出かけになってしまったのでしょうか……」
「大佐に一仕事してもらってから出るって言ってたのにな」




 扉の向こうから聞き覚えのある声が4つ。半分開きかけたドアからそーっと覗けば、4つの青が視界に映る。言わずと知れた私の直属の部下たちだ。別にこそこそする必要はないと言うのに、何となく出づらくなって私はそっと扉を閉じた。
「大佐?」
 背後で中尉が私の行動に首を傾げている。その様子を見て、ああと私は自分の心理を理解した。二人で一緒に出て行ったら何を言われるか分からない……おそらく本能的にそんな心配をしたのだ。





「あ! 見ろよ、仕事終わってないぞ。大佐、まーたサボったのか?」
「本当ですね……」
「もしや集中出来ないから、早めに外に出たのでは?」   
「あの人むらっけあるからな」
「雨の日でなくても、無能かよ」
 

 
 そこで一際大きな笑い声が上がり、私の血圧も上がった。
 人がいないと思って勝手なことを!
 苛立ちから反射的にドアを開けて飛び出そうとした。が。
「ぐえっ」
 後ろから襟首を思いっきり掴まれて、息が詰まった。振り向けば、無表情な中尉と目が合う。
「何をするのかね……」
「いえ、大佐。これは良い機会ではないかと思いまして」
「良い機会?」
「はい。この際ですから部下の忌憚の無い意見を聞いてみては?」
 彼女の言わんとすることを理解して、私は渋い顔をした。
「でもなあ……あいつら、放っておいたら私の大悪口大会始めるぞ?」
 流石にそれは気分が良くない。しかし、中尉はあくまでも生真面目に言う。
「不満や悪口を聞いて、態度を改めるのも上官の務めですよ」
 気は進まないが、彼女にそこまで言われては仕方なく。私は中尉と共に息を潜めて、扉向こうの会話に耳を傾ける。





「大佐もなー他のおっさんたちみたいにうるさいこと言わないのはいいけどさーそういうとこちゃんとして欲しいよなー」
「だな。デートばっかりしてないで、俺らと残業デートしろー」
「私の記憶している限り仕事が終わってないのにデートに行った回数は今年に入って、13回ですな」
「ええっ13回も!?」





 弁明しておくが私のデートは情報収集のためのデートであって、断じて女遊びではない。だが、後ろから突き刺さってくる鷹の目の視線が痛い。
「中尉、分かっていると思うが……全て情報収集のためだぞ?」
「ええ、存じております。ですが、私が話を聞いているのは12回だと記憶しておりますが。……あと1回は?」
「そ、それは……っ、君がたまたま非番の日で…っ、ちゃんと情報収集に行ったぞ!?」
「そうですか。それは失礼しました。それから、私は別に情報収集であるか、女性とのデートであるか、を問題にはしてません。……仕事を終わらせずに行ったということを問題視しているのです」
「ああそう……情報を得るために後回しにしただけだ。ちゃんと全部片づけている」
「へえ……」
 ……不満があるならちゃんと言ってくれ。怖いんだが。
 と、私がピンチに陥って間にも彼らの上司への不満大会は続いている。




「それじゃあ仕事を終わらせて行ったデートも合わせると何回になるんでしょう……?」
「どうりで。最近、同期がいいなって目を付けてた子、大佐にとられたって言ってたんだよな」
「本当ですか? それは穏やかではありませんね」

 

……おい、お前等それ以上私を追いつめるな、燃やすぞ。怖くて中尉の顔が見れないじゃないか。




「ですね……これじゃ中尉も大変です……」
「だな」
「だがな、俺は、思うんだけどな、大佐のことはある意味中尉にも責任があると思うぞ」
「どういうことです?」




 ふっと中尉からの視線の圧が緩む。言及されたことで、彼女も多少は驚いたのだろうか。まあ、中尉も彼らの上司であるからして、不平不満をぶつけられる側でもある。私と同じと言うわけだ。
 だが私は中尉が悪口を言われるとは思えない。完璧な彼女に彼らは一体何が不満だと言うのだろうか。




「だってよ、大佐が中尉に惚れてるのなんて丸分かりだろ。それで、中尉だって満更でもない。でも普段はあんなだから大佐も寂しくなってデートに行くんじゃないか?」
「ああ、あり得ますね」
「ちょっと…分かります……お二人は時々ドキっとすることを平然とやられるので、こちらが恥ずかしくなるというか……」
「分かる分かる。大佐の髪や服装整えてやったり、時々手作りのサンドイッチ差し入れてたりな」




 そうのなのか!? あれ、市販品だと思っていたぞ。
 すぐにでも彼女に確認したかったが、振り返ろうとした私の頭を何故か彼女が両手で固定していて。
「ぐえっ」
 首がぐぎっと変な音を立てて痛んだ。振り返って欲しくない……ということか? 




「まったく、あの二人さっさとくっついて欲しいよなー。そうしたら大佐も真面目になるし、俺らも気を使わなくてすむし、幸せだし、いいことづくめだろ?」
「「「同感」」」




 最後にそう会話を結んで、彼らは部屋を出ていくようだった。中尉の手がストンっと頭から落ちる。私は満を持して振り返ると、にやりと口角を持ち上げた。
「……さて、彼らの不満を受け入れて…態度を改めるかね?」
「……知りません」
 悔しそうに私を見つめるその顔は赤く染まっていて。こんな顔を私に見せてくれた彼ら4つの青に秘かに感謝しつつ……私はそっと手を伸ばし彼女に触れるのだった。





END
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by netzeth | 2016-10-23 00:06 | Comments(0)

通販連絡事項です

【通販連絡事項】10/10 1:30までに頂いたお申込みには全て確認メールを返信済みです。メールが届いてないよ~という方はご一報下さいませ~。


 日記は久しぶりですね~こんばんは。せっかくの三連休ですが初日に凹むことがありまして、沈んでおりました。が、ロイアイを貪ったり書いたりした結果あっさり浮上しましたwやっぱり心の栄養ですねロイアイ♪

土曜日には初めてフリーワンライという企画に参加させていただきました。お題に沿って1時間で書く!というツイッターの企画なのですが、とにかく時間が無くて焦りました……またお題に合わせないといけないのも難しかったです。でも書いていてとっても楽しかった(^^)
しばらくはイベント参加予定もないので、秋は夜長を利用してロイアイをのんびり書いて行きたいと思います。



拍手ありがとうございます!!
ありがたく拝見しております(^^)



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by netzeth | 2016-10-10 01:51 | 日記 | Comments(0)

ゆらり揺られて心と体

※フリーワンライ 参加作品です
お題 ゆらり揺られて心と体
 

硬い金属の感触を指でなぞり、リザはこくんと喉をならした。これから行うのは特になんということもない動作のはずなのに、ひどく緊張している。何度か訪れたことのあるフラットの部屋の前。鍵穴に銀色の鍵をさしこんだ。かちゃっと軽い音を立てて、緊張感とは裏腹に扉は簡単に開いた。
 ……せっかく渡したのに使わないのか。
 ムクレた男の顔が脳裏をよぎる。
 鍵を交換したのは、先に男――ロイに鍵を渡されたからだ。持っていろと半ば無理矢理投げてよこされたそれに対して、律儀なリザは自分のそれも渡さずにはいられなかった。
 誠実な想いには誠実さで返す――そう考えたのだが。   
 しかし、今まで鍵を使用しないリザに対し、彼は存分にリザの部屋の鍵を不埒に活用してくれた。それこそ何かと理由をつけては夜に部屋に入り込む。正直独身女性の部屋に同じく独身男性が入り浸るのはどうかと思ったが、彼は悪びれず訪れてはリザをぎゅっと抱きしめて寝た。
 だが、それだけだった。
 もうとっくにそうなっておかしくない関係であるのに、ロイがリザに手を出してきたことは一度もない。深夜の訪問も、ある程度覚悟して受け入れているのにもかかわらず、彼はその先には進まなかった。
 そんな曖昧な状態が続いていた矢先のことである。
「君はせっかく渡したのに鍵を使ってはくれないのか」
 ロイからそんな抗議めいたことを言われたのは。まさか、気にしていたとは思わずリザは驚いた。鍵を使わなかったことに特に意味はない。そもそも、主が留守の間に入り込むのはどうかと思っていたし、ロイが在宅の時はリザは仕事であることが多い。ましてロイのような夜の訪問は勇気が要った。
 ――ただ、タイミングを逃していただけのこと。
 あれだけリザの家に毎度やって来るのだから、何も自分から行かなくても。そんな風に思っていた部分もある。
「……使って欲しいのですか?」
 意外そうな顔で問えば、不満そうな顔で返される。
「使って欲しいとも」
 拗ねた二十代の男なんてちっともかわいくな……ちょっと可愛かった。
 ほだされたと言えば、そうなのかもしれない。自分に言い訳をして、なんやかんや理由をつけて使わないでいたのを反省した――というのも理由の一つだ。
 そう、ゆらりと心が揺れた。
 結局リザは、ロイが夜勤で帰宅し己が遅番で余裕がある朝方に彼の部屋に行くことに決めた。 




 ロイの部屋は思ったよりも、片づいていた。普段の整理整頓が苦手な彼から想像するに、もっとごちゃごちゃしているかと思っていた。
 家に帰るよりも司令部や外に居ることが多い彼ならばさもありなん、と納得しつつ、脱いだコートをリビングのソファーに置こうとして。
「大佐……」
 ソファーで寝転がっている部屋主を発見して、リザは頭が痛くなった。てっきり寝室で休んでいると思っていたのに、こんな場所で寝こけているなんて、まったく!
 手の甲で目を覆い大口を開けて眠る男を、ため息混じりに見下ろす。もしかしてこの男は、自宅ではいつもこんなにだらしない生活を送っているのだろうか。これならいっそ自分の部屋に来てベッドで眠ってもらった方が、まだマシだ。……多少暑苦しくとも。
「……どうしようかしら」
 今すぐちゃんとしたベッドで休んでもらいたいところだが、寝入っている男を起こすのも忍びない。
 かといって。
「私がお姫様だっこして運んだら怒りそうよね……」
 実際出来るかどうかは分からないが、腕力には普通の女性よりは自信がある。案外ほんの数メートルくらいは行けるかもしれない。だが、実行してもしもロイに気づかれたら、彼はまた男のプライドがうんぬんとつまらぬことでヘソを曲げそうだ。
 それをなだめるのも、また面倒である。仕方がない。
「大佐、大佐……っ」
 自発的に移動して貰おうと、ロイを起こすためにリザは身を屈めた。
 その時だった。
 ゆらりと体が揺れた。
 にゅっと伸びたロイの腕がリザを掴み、あっという間にソファーの上に身体が沈んでいた。見上げた天井との間に黒曜石が二対。すっと細めた両眼で、ロイはリザを見下ろしていた。
「やっと来てくれた」
「……狸寝入りですか、大佐。趣味が悪いですね」
「いや、ちゃんと寝ていたよ。君の気配と匂いで起きただけで」
 不利な体勢だ。と思った。
 ロイは今まで何度チャンスがあろうとも、何もして来なかった。ましてまだ明るい内に何もある訳ないと思いつつも、そう思わずにはいられなかった。寝起きとは思えぬロイの瞳に宿る、焔の色がリザを煽っていた。
「ではもう一度、今度はベッドでお休み下さい」
「……君と一緒に?」
「お一人でどうぞ」
 脈打つ鼓動に鎮まれと命じ、熱くなる頬の熱よ冷めろと願いながら、素っ気なく告げる。だが、ロイは引き下がらない。
「つれないな。せっかく君が来てくれたのに……ずっと…待っていた……」
 頬に風を感じた。とても暖かい風だ。ロイの手のひらがリザの頬を包み込む。そのまま金糸を一筋すくい取って、それに愛おしげに口づけと落とす彼の仕草に不覚にも一瞬見惚れ、ぞくりと肌が粟立つ。
 ロイは本気だ。ずっと手を伸ばさなかったくせに、今日は本気の男の顔をしている。
 ゆらりと揺れて、心と体。
 よろめく己をリザは必死につなぎ止め、流されまいと自戒する。
「……じゃがいもの……」
 かすれ声で訴えた。
「何?」
「じゃがいもの皮を……むく、気力もない、とおしゃっていたではないですか……仕事後は」
 生活のほとんどを外食で済ませる、不経済な生活を送るロイに言った小言を思い出す。それに対してロイはそう反論した。疲れ果てて、野菜の皮むきをする気も起きないと。それにはリザも共感したので、それ以上自炊を強要したりはしなかった。
「……お疲れなのでしょう。休んで下さい」
 別に嫌だという訳じゃない。ただ、ロイの体を案じているだけだ。だが、男はニヤリと口角つり上げた。
「中尉。別腹という言葉を知っているかね?」
「え?」
「君たち女性がよく使う言葉だろう?……お腹いっぱい食事をした後でも、デザートの甘いものは別物だと。そういうことだよ」
「どういうことですって?」
「つまり……こういう体力は別なんだ」
 いやらしく笑う男が憎らしくて、腹立たしくて。でも、そんな彼に揺らされる己の心と体が一番悔しくて。リザはロイを甘く睨みつけた。
「……だったら、なおさら…です。別腹なんて…や、です」
 はっとロイが目を見開く。
「そんなついでで……」
 初めてなのに。
 やっと手を出す気になったくせに、それをこんな風にされるのなんて。
「参ったな……」
 本当に困り果てた様子で、ロイが頭をかく。
「……君が、自分から来てくれたら……その時はと決めていた」
「だから、私の部屋では何もしなかったんですか?」
「したかったさ、もちろん。でも、こちらから押し掛けた挙げ句になだれ込むのも、何か違うと思ってね」
 でも確かに、とロイは身体を起こした。ようやくリザは緊張感から解放される。
「……君を抱くのに、別腹は失礼だったな」
「お分かりいただけて良かったです」
 リザも身を起こしながら、乱れたブラウスの胸元やスカートの裾をさりげなく整える。最後に髪を手櫛で落ち着かせてロイに視線を向ければ、熱い眼差しに貫かれた。
「何か?」
「……そういう仕草を無防備にするもんじゃない。理性が謀反を起こすだろうが」
「はい?」
 意味が分からないと首を傾げても、ロイは不機嫌そうに口を曲げているだけ。察しろと言わんばかりだが、いくらリザでも読心術が使える訳でもない。
「何が言いたいんです? はっきりおしゃって下さい」
 重ねて問えば、ため息を一つ吐いてからロイが教えてくれた。
 それはな。と潜められた声を耳元に流し込まれる。
「君を抱くなら、体力が万全の時、全力でということさ。それなら嫌とは言わせん」
 その日までは我慢するよ。
 つまりは二人の非番が重なる日。その時こそは……。
「だから、またその鍵を使ってくれたまえ?」
 匂わせられた甘い未来の約束に――またリザの心と体はゆらりと揺れて、頬が熱くなるのを止められなかった。



END
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by netzeth | 2016-10-08 23:45 | Comments(0)