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ペコーdeパラレル☆Ep1(前編)

ペコーさんの名前はマーゴット・オレンジペコーといいます。なのに、どうしてペコーさんと呼ばれているかと言うと、その方が可愛いかららしいのです。お勤め先のお嬢様がそう主張し、ペコーさんペコーさんと親しみを込めて呼んでくれているのを止めさせる理由は皆無でしたし、他の皆にもその愛称が定着しました。
ペコーさんはイーストシティで錬金術師の偉い先生の秘書をしています。ペコーさん自身は錬金術師ではないので錬金術の研究のお手伝いは出来ませんが、先生のスケジュール管理やいろいろ必要な物の手配、時にはお嬢様のお供をして街にお買い物に行ったりなどしていました。
雇主であり、とても偉い錬金術の先生である、エイゼルシュタイン教授は国家錬金術師の資格こそ持っていませんが、高名な方です。ですが、偉ぶらず紳士的で優しい方でした。彼には十二歳になる一人娘がおり、ペコーさんは今日も彼女のお供をして街に出ていました。



「ペコーさんっ、見て見て! これっスゴく素敵」
イーストシティ商業地区のメインストリートにあるお店のウィンドウを覗きこんではしゃぐ少女に続いて、ペコーさんも中を覗いてみました。
そこには純白のウェディングドレスとベールが飾ってあります。どうやらそこはブライダル洋品店の様です。ショーウィンドウは明るく、色鮮やかな花々で華麗にディスプレイされていて、純白のドレスはフリルに彩られています。なるほど女の子なら一度はこんな素敵なドレスを着てみたいと思うかもしれません。
「いいなー! 着てみたい……」
例に漏れず、窓にはりついた少女も憧れの瞳でドレスを見ています。
「アルモニちゃんなら、きっととても似合うでしょうね」
心からそう言いながら、ペコーさんは赤毛の少女に微笑みました。綺麗な赤毛を肩で切り揃え、服も動きやすいキュロットで活発な印象ですが、アルモニはペコーさんのお勤め先のお嬢様です。大きなお城の様なおうちに住んでいます。少しお転婆ですが、お父さん思いの優しい子です。
「やだなっ、ペコーさん。私よりペコーさんだよ! 私ちんちくりんだもん。このドレス、ペコーさんの方が絶対似合うよ! ねえねえ、ウェディングドレスを着る予定ないの? 私、ペコーさんのウェディングドレス姿見たいな!」
目をキラキラさせながらアルモニはペコーさんに尋ねます。その瞳は期待に満ちていて。ペコーさんは苦笑しながら答えました。
「残念ながら、まったく」
「ええー! ペコーさんすんごく綺麗でスタイルだって抜群じゃない。恋人の一人や二人いてもおかしく無いのにっ」
「アルモニちゃん……私そんなにモテないわ」
ペコーさんが困ったようにアルモニを窘めると、アルモニは勢いよく首を振りました。サラサラした赤毛が揺れています。
「そんな事ないっ!ペコーさんと一緒に歩いてると、すれ違う男の人みーんな振り返るんだから。ペコーさんモテモテだよ」
「ありがとうアルモニちゃん」
まるでお世辞でも嬉しいわと言わんばかりのペコーさんに、アルモニは内心溜め息です。だってペコーさんはホントに美人さんなのですから。
今はダークグレーのスーツに、薄いブルーのシャツ、赤ぶちのシンプルな眼鏡という地味な格好をしていますが、ペコーさんの美しさを損なうものではありません。スカートから伸びる長く形のいい脚、隠しきれない胸のボリューム、引き締まったウエスト、ペコーさんはまさにボンキュボンのナイスバデーってやつなのです。
おまけにキラキラと光るサラサラとしたまっすぐな金髪に大きな鳶色の瞳、綺麗な顔立ちとくれば世の男性が放っておく訳がありません。きっと自分が一緒でなければ声をかけられていた事だろうとアルモニは思いました。なのに、ペコーさんは自分が男性達の興味を引いている事にまったく気付いていないのです。いえ、訂正しましょう。ペコーさんは道行く男達が自分達に注目している事はとっくに気付いていました。何故ならペコーさんはアルモニのボディガードでもあるからです。ペコーさんは事務的な事ばかりではなく、荒事にも慣れていて、腕に覚えがあるのです。特に銃の腕は素晴らしいのです。そんなペコーさんがエイゼルシュタイン教授の秘書になるまでどんな人生を歩んできたのかアルモニは知りません。ですが、アルモニは綺麗で優しいペコーさんの事を慕っていました。
話を戻しましょう。十二歳のアルモニでさえ、男性達の視線がどういう意味を持つか判りました。なのに、ペコーさんは自分達が注目を浴びている事に気付いてはいても、そこに敵意が感じられない、となるとまったく気にしていませんでした。むしろなぜか自分が外出するとよく男性に見られるなと不思議に思い、今日もいつもの事だと思っていたのでした。ペコーさんは同年代の女性の中ではとりわけ恋愛方面関しては不器用の様です。


ペコーさんとアルモニは外見こそあまり似ていませんが、本当の姉妹の様に仲良くお買い物を続けていました。
「ねえ、ペコーさんノドが乾いちゃった! お茶して行こうよ。もう少し先に新しいカフェができたんだって。お茶もケーキも美味しいんだって!」
アルモニはペコーさんの手を引き、今にも走り出していきそうです。
「いいわよ。少し休憩して行きましょうか。でも、ケーキはほどほどに。お夕飯が食べられないと怒られちゃうわよ」
ペコーさんはお嬢様のアルモニに対して最初のうちは敬語を使っていました。ですが、アルモニ自身が普通に接して欲しいと言ったのと、エイゼルシュタイン教授も特別扱いせず年相応にして欲しいと願ったため、ペコーさんはまるで妹に話しかける様な口調でアルモニに接しています。
「はーい!」
やった! とアルモニはカフェに向けて走っていきました。
新しくオープンしたカフェは、なかなか良い雰囲気でした。店の中だけでなく、外にもテーブルがありオープンカフェになっています。そこに席をとり二人は注文が来るのを待っていました。
――その時です。
突如銃声が響きました。
「きゃあああ!」
驚いたお客達の間から悲鳴が聞こえます。ペコーさんは反射的にアルモニの背を押さえました。
「伏せてっ」
「な、なに?」
目と口元をくり抜いた覆面をした人物―体格からしておそらく男―が五人、銃を構えていました。一人は銃を空に向けており、おそらく最初の銃声は空に向けて撃ったのでしょう。片手に黒いバックを持っています。残りがカフェの客に銃を向けていました。
どうやら事件に巻き込まれてしまった様です。ペコーさんはそっと腿にくくり付けてあるガンフォルダーに手をやりました。一人や二人なら確実に撃たれるまえに撃つ自信があります。しかし、如何せん人数が多すぎます。全員を倒す前に発砲を許してしまうでしょう。その弾が誰かに―もしかしたらアルモニに当たらないという保証はありません。
とにかく、今は静かに目立たない様に様子を伺うしかありません。ここはメインストリートの往来です。騒ぎを聞きつけ直ぐに憲兵が駆けつけるはずです。
ところが。
「来いっ!」
男の一人が一番近い席にいた四、五歳くらいの女の子を掴みました。
「お婆ちゃんっ!」
女の子は怯えて泣き出してしまいます。
「ま、孫は許してっ、わたしが行きますから…」
女 の子の祖母らしき老婦人が犯人に縋って頼んでいます。
「うるせえ! どけ!」
男は婦人を突き飛ばし、ますます泣き叫ぶ女の子を抱えます。
男達の傍若無人の振る舞いに、
「ちょっと! そんなに小さい子に何するのよ! お婆さん大丈夫?」
優しくて、正義感の強い、そしてちょっぴり無謀なアルモニは我慢できず飛び出して、転んだ老婦人を抱き起こしました。
「アルモニちゃんっ」
ペコーさんの制止も間に合いません。
「何だあ? このガキ」
「おじさん達人質が欲しいんでしょう? だったら私を連れて行きなさいよ!」
「何だと?」
「シティ郊外にあるお城を知ってる? あそこは私の家よ。私を連れて行けば取り引きするのもいろいろと便宜をはかってもらえるかもしれないわ。だから、その子を離して!」
男達は顔を見合わせました。お城の事は知っています。そこには高名な錬金術師が住んでいることも。その錬金術師なら軍などにも顔が利き、権力もあるのかもしれません。その娘だという少女を人質にした方が何かと事を有利に運べる……。男達はそう判断し、
「よし、来いっ」
女の子を解放し、代わりにアルモニに銃を突き付けました。
「待ってっ!」
黙って行かせる訳にはいかないのはペコーさんです。
「なら私も連れていって。人質は多い方がいいでしょ? あなた達が取り引きをするつもりなら」
「なんだあ? 姉さん」
「私はその子の保護者よ」
できれば自分一人がアルモニの代わりに人質になりたかったのですが、アルモニが素性を話してしまった以上、男達は了承しないだろうとペコーさんは判断しました。ならばアルモニを守るためには一緒に行かねばなりません。
一歩も引く気のないペコーさんに気圧されたのか、時間が無いと思ったのか、
「……いいだろう。来いっ」
彼らはペコーさんにも銃を突き付けて、店の中へと入る様に促しました。
店内には既に人影はありませんでした。
事件が起こったと見た瞬間に店内の客や従業員は避難した様です。お店には正面入口の他にも従業員様の出入り口があります。
それにしても、外でのペコーさん達とのやり取りの間に店内の全員が避難するとはかなりの素早い対応です。普通ならばパニックに陥ってもおかしくない所です。
男達は店内に入ると出入り口を椅子やテーブルで塞ぎました。アルモニとペコーさんをカウンターの中に押し込めます。  その後、二人の男が従業員様の裏口を見て来いとリーダーらしき男に命令を受け出て行こうとしました。そして、カウンターの中でアルモニを庇いながら座るペコーさんに視線を向けてニヤリと笑います。
「来な! 姉さん」
男達は揃って視線を合わせていやらしく笑っています。
男の意図が読めたペコーさんですが、これはペコーさんにとってもチャンスです。心配顔のアルモニに大丈夫と声をかけてからペコーさんは男達について行きました。
ドアを入ると直ぐそこは事務所で、簡単な机とイス、ソファーなどが置いてあります。お手洗い、従業員用のロッカールームらしきドアと外への出入り口のドアがありました。
男たちはまず、イスやソファーを使って出入り口を塞ぎました。どうやら立て籠もる気の様です。その作業が済むと、男の一人がロッカールームへとペコーさんに入るよう銃で促しました。残った男がずりいなあ……と呟いています。
ロッカールームには古びたロッカーがいくつかと、休息所を兼ねているのでしょう、イスと机が置いてありました。
「とりあえず身体検査だ姉さん、そこに手をつきな」
覆面で目元と口元しか顔は見えませんでしたが、見えなくても男が下卑た笑みを浮べているのが判りました。
ペコ―さんは大人しく小さな鏡が掛かっている壁に手をつきました。
「へへっ」
男の手が後ろからペコーさんの身体に無遠慮に触れてきました。忌々しい事に片手でまだ銃を構えています。今動くのは得策ではありません。銃声や声が聞こえれば隣りにいる仲間が直ぐに気付いてしまいます。確実に男を無力化できるタイミングまで耐えなくてはなりません。
ペコーさんの豊かな胸を男は夢中で触ります。片手では直ぐに物足りなくなったのか机に銃を置き、両手で蹂躙し始めました。思う存分胸を揉むと、男は細いウエストを通り片手でいやらしくお尻を撫で上げました。もう片方の手は引き締まった太腿を撫でゆっくりと付根に向って上がっていきます。
嫌悪の吐き気を堪えながら、ペコーさんは男の暴虐に耐えていました。銃を置いたとはいえこの位置関係では声を立てずに倒すのは難しいでしょう。男のスケベ心がもっとエスカレートするのを待った方がいいかもしれません。けれど、太腿の内側の銃にこのままでは気付かれてしまいます。と、前にある鏡がペコーさんの目に入りました。鏡を見たペコーさんはハッと目を見開きそして……
「あっ」
今まで、声を漏らさなかったペコーさんが初めて声を上げました。女の高い声に男はヒートアップします。
「へへへ……姉さん、なかなかイヤらしいじゃねえか、あ? どこがいいんだい?」
「あっあっむ、ね……とっても、あっ…気持ちがいっ……もっと…」
そんな事言われて、胸に触らない男はこの世にいません。
男は再び両手で胸を触り始めます。
「あ、あ、あ……」
ペコーさんも声を出します。
「へへへ…姉さん、いっちまいそうかい?」
「ええ……あなたがね」
「!?」
瞬間、男の首に逞しい腕が回されていました。声を上げようとした口はしっかり塞がれています。やがて男の身体から力が抜け、声も無く静かにおとされたのでした。
「ご協力、感謝します。綺麗なお嬢さん」
小声のためそれは囁く様でしたが、ペコーさんにははっきりと聞き取れました。低くよく通る声です。
漆黒の髪と同色の黒曜の瞳がペコーさんを見つめていました。



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# by netzeth | 2010-03-26 21:26 | Comments(0)