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by netzeth
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First Love

レベッカ・カタリナ少尉がリザ・ホークアイ中尉の自宅で酒を飲むのはこれが初めてではない。
もちろん軍務についている以上そうそう頻繁にという訳にはいかなかったが、月に一度くらいは女同士、一緒に飲みに行く事はあった。店だけでは飽きたらずリザの自宅になだれ込むのはお決まりのパターンだ。
自分の家より司令部に近いため、そのまま泊まってリザの家から出勤した回数は片手の指では足りない。
レベッカの大抵の飲む理由は男がらみだ。
普段からイイ男を捕まえて、寿退役したいと公言してはばからないレベッカである。しばしば彼氏を作っては長続きせずすぐに別れてしまい、その度にやけ酒を飲むのだ。リザはいつもそんなレベッカに付き合っては夜を明かすのである。
「まったく、初恋なんてなんてね~くそくらえよー」
既に顔を真っ赤にして、だいぶ酔いの回ったレベッカが、酒瓶を振り回した。
「ちょっと、危ないわ」
落ち着いて、とリザは窘める。
「落ち着けないわよ! だって初恋よ? ふざけんじゃないわよ~!」
今日もまたリザはレベッカの愚痴に付き合っている。どうやらまた彼女は恋人と別れたらしい。
良くまあ、次から次へと……とリザは呆れる。
彼女が別れる理由は様々だが、大体は喧嘩別れかレベッカの方から振ったというのが多い。だが今回はいつもと違うらしく、何でも初恋の人が忘れられないと彼に言われたからという理由だった。故に、一方的にフラれたレベッカのダメージは大きく、こうしていつもより荒れている訳なのだ。

「初恋はね~実らないもんなのよ! そういうもんなの!知ってる? 私の初恋はね、近所の年上のお兄さんだったのよ! 大きくなったらお嫁さんにしてくれるって言ったのに、それから一月も経たないうちに結婚しちゃったんだから! しかも出来ちゃった婚よ! 花嫁さんの大きなお腹見た時の私の気持ち分かる!?」
「それはショックよね……」
まだ幼かったであろうレベッカの失恋に、リザは心から同情する。今はこんなんでも彼女にだって純真な頃はあったのだろう。
「でしょう!?……なのに…あたしは初恋に負けたのよ! 悔しい~!」
今夜はとことん飲むわよ~! とレベッカは勢いよくグラスを空ける。
「はあ……初恋の人ってそんなにいいもんなの? 今の恋人と別れてもいいくらい? リザはどうよ?」
「え……私?」
 突然水を向けられて、リザは瞬いた。手に持ったグラスごとリザを指さして、レベッカは頷く。
「そ。リザにだって初恋の一つや二つあるでしょうが」
「初恋は二つはないと思うけど……」
「そんな細かい事はいいの! ねえ、どうなのよ~あるんでしょ? は・つ・こ・い」
「………ないわ」
 答えるまでのわずかな沈黙を見逃さなかったレベッカはなおもリザを追及してくる。流石に酔っぱらった彼女はしつこい。
「嘘つきなさい~あたしばっかり話して、リザはだんまりなんてずるいわよ~白状なさい」
「本当にないのよ!……でも」
「でも?」
 続けられたリザの言葉に、レベッカが興味深そうに相槌を打つ。その瞳はキラキラと好奇心に輝いている。
「初恋とは違うと思うけど……憧れみたいなもの? そういう思いを持った人はいたわよ」
「そう、それよ! それこそ初恋よ! うふふ~お姉さんに話してごらんなさい」
 わが意を得たりとばかりに膝を打ったレベッカは、ニマニマと機嫌よく笑った。それに苦笑しながらも、リザは彼女の好奇心を満たしてやることにする。
「もうっ。だから、初恋じゃないったら……。そうね、彼は私より少し年上で……」
「うんうん」
「家に住み込みで錬金術の勉強をしていたの。言ってなかったかしら? 私の父は錬金術師でね、彼はそのお弟子さんだったの」
「あらあ~お弟子さんと師匠のお嬢さんて訳ね。良いじゃない。ロマンスが生まれそうなシチュエーションじゃないのー」
「そんなんじゃないってば。……彼は真面目で優しい人でね。私にも何かと気を使ってくれて、家事とか良く手伝ってくれたの。スゴい不器用なくせにね。私が風邪を引いた時なんか一生懸命看病してくれたわ。彼が作ってくれたお粥、お塩とお砂糖を待ちがえちゃったりしてね……でも、とても嬉しかった。」
「ふーん。ねえ! カッコ良かったの彼?」
「うーん、どうかしら? あの頃の私から見て、なかなかカッコいい人だったとは思うけど……。道で女の子に告白とかされてるの見た事あるし……とても好青年って感じだったわ」
「へぇ~そういうあんたは告白した訳?」
「だから、そういうんじゃないのよ。好きか嫌いかで聞かれればもちろん好きだったけど……恋とかそんなんじゃないわ」
「……彼とはそれきり?」
「……初恋は実らないんでしょう?」
そこで言葉を切って、ジッとレベッカを見つめ返せば、彼女はふっと笑って肩を竦めた。
「そうだったわね……」
 どこか寂しげに笑うと、それはそうと、とレベッカは言葉を継ぐ。
「何よ~リザにも甘酸っぱい思い出があったのね~」
「リザにも、ってなあに?」
「まあまあいいから。さあ~今夜は飲むわよ!」
「はいはい」
 気合を入れるようにグラスを掲げるレベッカに苦笑しつつも、リザは今夜は親友にとことん付き合ってやることにした。
 
そこから二人で更に飲み明かして、既に時刻は夜半。
普段は酒に強いリザも珍しく酔いつぶれて眠ってしまっていた。
「……さすがにちょっと飲み過ぎたわ~」
そう反省しながらフラフラとお手洗いに立ったレベッカは、おぼつかない足取りを支えようと壁に手をつこうとしてふらりとよろけた。
「あっ」
ガタガタッと音を立てて棚の上の物が落ちる。どうやら棚に手をついてしまい、上に乗っていた物を落としてしまったらしい。
「あちゃあ~」
慌ててレベッカは落ちた物を拾おうと床に膝をつく。床には写真立てと、中に入っていたらしい写真が散らばっている。
「あれ?」
写真を拾って元に戻そうとして、レベッカはもう一枚写真が落ちているのを見つけた。
最初の一枚は分かる。リザとマスタング大佐、その他の部下達が写っているマスタング組の集合写真だ。元々リザが写真立てに飾っていた写真である。ではもう一枚は何だろう。おそらく写真立ての裏にもう一枚しまってあったのだろが……。
疑問に思いつつもレベッカは写真を拾い上げて見てみる。それは黄ばんだ古びた写真だった。写っているのは二人。少女とその少女より少し年嵩に見える少年。セピア色の空間で二人は控え目に笑っていた。
写真をじっと凝視して。レベッカは呆れたようにぼやく。
「…………リザ。あんたの初恋、実ってるんじゃないの?これ」
何故なら、写真に写るのはどうみても彼女の黒髪の上官だったからだ。
かなり若いが今でも童顔と言われているかの上官殿はあまり顔も変わってはおらず、直ぐに分かった。そして、隣りの少女が誰であるのかも。
「もうっ、いい加減にしてよね……」
すっかり酔いが覚めてしまったレベッカは何だかバカバカしくなってきた。さっきの初恋話。あれはもしかして盛大なノロケだったのだろうか……。
どうやら現在進行形らしい親友の初恋に、レベッカはごちそうさまと呟いたのだった。


END

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# by netzeth | 2010-01-04 21:36 | Comments(4)