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by netzeth
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TUBAKI

リザ・ホークアイ中尉は見た目を気にする性格ではない。もちろんいつも清潔に――とは気を使っているが、それだけで、同年代の女性達がするほどの手入れはしていないに等しかった。だが、そんな彼女にも一つだけ一際気を入れている部分がある。


しっかりとタオルドライした髪を丁寧にブラッシングして、リザは良い匂いのする植物油を少量擦り込んだ。
この油には髪の毛に良い成分が入っているらしい。なかなか高価だったが奮発して購入したのだ。そのかいあってこれをつけると髪がシットリサラサラになってリザは気に入っている。念入りにする髪の手入れは朝のシャワー後のリザの日課だ。髪を伸ばす様になってから、その手入れに割く時間が長くなった様に思う。肩にかかる様になった髪を鏡越しに眺めて、リザはそっと髪に触れた。
「今日からまとめてみようかしら……」


昔の自分はこれほど髪に気を使ってはいなかった様に思う。不潔でなければいいくらいの感覚で、石鹸で洗髪をしていた事もあったくらいだ。今思えば無頓着にもほどがある――とリザはおかしく思う。そんな自分が髪を気にする様になったのはいつ、どうしてだっただろう……。
そんな風にリザが朝の執務室でつらつら思い返していると、
「おはよう。中尉」
ロイが部屋に入ってきた。今日は珍しく早い。
「おはようございます。大佐」
挨拶を返し、リザはロイのためにコーヒーを入れるべく給湯室に行こうとして、
「中尉、ちょっと」
「はい?」
ロイに呼び止められた。振り向くと、思いのほかロイが近くにいて驚く。
「大佐?」
ジッと自分を見つめていたロイは、おもむろに手を伸ばして――。
「今日からまとめたんだな」
額の下にスッと手を入れて、リザの前髪をその大きな手でそっと梳る。
「おろしたままでも良かったのに」
そのまま優しく髪を撫でて。
「せっかく長くなったんだからな。……綺麗な髪がもったいない」
ロイはサラリと言い放った。
……この人は――! 朝から一体何をして――何を言い出すのだろう!
赤面もののセリフを言い放ったロイにリザは恥ずかしさに固まってしまった。だが、当のロイは平然としている。そんな彼を見て、リザは強烈なデジャヴに襲われた。
そうだ―――私が髪の手入れをするようになったのは―――。


「リザの髪は綺麗だね。柔らかくて、サラサラしてて……お日様色で……とても綺麗だ」
昨日も適当に石鹸で洗った髪をそんな風に言われながら撫でられて、リザは大きく動揺した。何て恥ずかしい事を言うのだろう!
「な、何をっ、言うんですか……綺麗なんかじゃないですっ」
ロイの手を跳ね除けてリザは自らの髪を掴む。こんな、手入れのての字もしてない髪をっ。
「そんな事ないよ。とても綺麗だよ」
そう笑って、彼は再び私の髪を撫でた――。


――昔から変わってないのね、この人……。
リザが殊更髪の手入れをするようになったのは、昔ロイに髪を褒められてからだった。
あの後、すぐに自分は生まれて初めてシャンプーを買ってきたのだ。当時、幼心にも褒められて嬉しかったのだろう。
今、再び同じ事を言われて。リザは嬉しいのだから。
まったく、ロイに一言言われただけでこんなに舞い上がってしまうなんて困ったものだ。そして、自分をいとも簡単にこんな風にしてしまうロイも。
「くだらない事言ってないで、早く仕事に取り掛かって下さい! 今日も忙しいんですから」
だから、リザのこんなセリフも照れ隠しだと見抜かれているのだろう。事実ロイはククッと笑いながらリザを見ている。リザは背を向けて赤くなった顔を隠した。
「分かったよ。……まあ、その髪型も似合っているがね」
「!」
ますます赤くなった頬を隠す様にリザは執務室を後にした。そうして、未だに冷めそうもないこの熱をどうしようかとドアを背にして息を吐いたのだった。



END

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椿油は髪にとっても良いんですよ。にしても増田セクハラだ・・・。
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# by netzeth | 2010-03-05 22:51 | Comments(0)