うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth
プロフィールを見る
画像一覧

リザの日ss

リザの日おめでとうございます!
みんなに愛されるリザさんです(^^)




「ホークアイ中尉これ、実家から送って来たんスけど……良かったら貰って下さい」
 何故か神妙な顔をしてハボック少尉が、私の前に段ボール箱を差し出してきた。中からは芳醇なリンゴの香りが漂ってくる。大きくツヤツヤした真っ赤な果実。
「まあ、ありがとうじゃあ遠慮なくいただくわね」
 一つありがたく頂戴する。
「あの…一つでいいんスか? もっといくらでも持ってってもかまいませんよ」
「でも皆にも配るのでしょう? 私だけが幾つも貰う訳にはいかないわ」
 申し出は嬉しく魅力を感じたが、そこまでずうずうしくはなれないと遠慮した。けれどハボック少尉は妙に食い下がってくる。
「いえどうせ余ると思いますし、一個と言わず二個でも三個でも、いっそ箱ごと……!」
「そ、そんなにいただけないわ」
「いえ、大丈夫ッスから!」
 段ボールごと手渡されそうになり慌てて断るも、ハボック少尉の勢いは止まらず何が何でも私にリンゴを渡そうとしてくる。
「だって私一人暮らしですもの、こんなにいっぱい食べきれないと思うから……」
「じゃ、っじゃあ! ハヤテ号! そうだ、ハヤテ号の分ってことで持っていって下さいよ!」
「……じゃあ、もう一つだけ…」
 半分迫力に押されてリンゴをもう一つ手に取る。するとそこでようやくハボック少尉はホッとしたような顔をしたのだった。






「ホークアイ中尉、これ、チェス大会の優勝賞品で貰ったんですが、良かったらどうぞ」
 ブレダ少尉が持って来たのは、段ボール箱いっぱいの野菜だった。ニンジン、ルバーブ、ズッキーニ、ジャガイモ、トマト……その他沢山。ずいぶんと変わった賞品だ、一体どこのチェス大会に出場したのかしら? なんて考えていると、少尉はそのまま箱ごと野菜を渡して来ようとして、慌ててしまった。
「ま、待って、少尉。こんなにいただけないわ」
「や、俺、野菜嫌いなもんで。あっても困るですよ」
 ……そうだったかしら? 好き嫌いなく何でも食べるイメージがあったけれど。
 内心首を捻れば、少尉は補足するように続けた。
「それに、俺、自炊しないもんで」
 ……それも…そうだったかしら? 意外と料理上手だと聞いた気がしたけれど……。疑問は尽きなかったが、だとしても一人でこんなに貰うには抵抗がある。
「でも、それ、司令部の皆にも配るんでしょう? 私が一人占めする訳にはいかないわ」 
 言い募れば、少尉はじゃあと言葉を継いだ。
「中尉ちにはあの……名前を出すのもはばかられる黒い二文字の獣がいるんですし、二人分くらい持ってって下さいや」
 いぬ…ハヤテ号のことかしら……。
 犬嫌いの彼は、一瞬すごく恐怖に駆られた顔をしたけれど、ハヤテ号の分も持って行けとハボック少尉と同じようなことを言って、私に野菜をいっぱいくれた。
「ありがとう、ブレダ少尉。ありがたくいただくわね」







「あの…ホークアイ中尉、これ……僕の姉の旦那の実家のお隣さんの親戚がくれたものなんですけど……良かったら…」
 それはほとんど他人よね、と思ったけれど。顔には出さず私はフュリー曹長が持っている段ボール箱の中を覗いた。そこにはいかにも新鮮な卵がたくさん入っていた。
「まあすごいわね。これ生み立ての卵じゃない?」
 一つ手に取って眺める。懐かしい。少女時代、よくご近所の鶏を飼っている家でいただいた。
「そうなんです! しかもアメストリスでも有名な品種の卵で…すごく滋養があるんですよ~~」
「そうなの? それじゃあすごく高価なものなんじゃない?」
「そうなんです! すごく高かったんですけど……たっ…い、いえ……! 貰い物なんで! ごほんっごほんっ」」
 そんなもの貰ってもいいのだろうか、と躊躇すれば曹長は何故か噎せている。た?
「とにかく! 僕、卵こんなにあっても困るんで、どうぞ好きなだけ持っていって下さい!」
「え……? でも、司令部に持ってきたってことは皆にも配るのでしょう? 私ばかりそんなに貰う訳には……」
「中尉のところにはハヤテ号がいるじゃないですか! 育ち盛りの子犬には栄養がたっぷり必要なんです! いっぱい持っていって下さい!」
「そ、そう?」
 彼も両少尉と似たような主張をしてくる。曹長には珍しい剣幕でまくし立てられて、そんなに言うならと私は卵を幾つかいただくことにした。
  



 



「ホークアイ中尉、これは私が収穫したものなんですが、良かったら貰って下さい」
「え……? 准尉が?」
 アクティブさとはほど遠いイメージのファルマン准尉が持つ段ボール箱に入っていたのは、袋……中には白い粉。
「これは……楽しい気分になる粉じゃないわよね?」
「いえ、違います」
 際どい私の指摘を、ファルマン准尉はあくまでも真面目な顔で否定した。
「小麦粉です。小麦粉、イネ科コムギ属一年草の植物を製粉して作られる。アメストリスにおいて最も収穫量の多い穀物……」
「ど、どうしてまた麦の収穫を……?」
「知人が麦畑を持っていましてね、後学のために手伝いました」
「すごいわね。製粉までしているの?」
 感心しつつも、小麦粉のお裾分けも珍しいなと思う。そもそも、休日と言えば一日中本を読んでいそうな准尉が、収穫作業というもの想像しにくい。
「はい。製粉方法はまず、コムギを精選し不純物を取り除いてから……」
「わ、分かったわ。ありがたくいただくわね」
「あ、中尉はハヤテ号がいますから多めに持って行って下さい」
「でも、これは司令部の皆にも配るのでしょう? 私だけが沢山なんて貰えないわ」
「いえ。セール品は一人一つまでと言いますが、家族がいるなら二つ買えるでしょう? それと同じことです」
「そ、そう?」
 これまた他の部下たちと同じようなことを言いながら、彼は小麦粉をたっぷり私に分けてくれた。 






「その、ごほんっ、やあ、中尉」
「大佐?」
 その日、大量の貰い物を両腕に抱えて司令部の廊下を歩いていた私は、上司に呼び止められた。彼が段ボール箱を抱えている姿にデジャヴを感じた。今日何回、目にしただろうか。
「何か、ありましたか?」
「い、いや……そういう訳では無いんだが……その、良かったら君にこれを、と思ってね」
 言われて箱の中身を見れば、ビーフとおぼしきブロック肉と、大きなチキン肉。どちらも高級品だと一目で分かる、上等な肉だ。
「あの……これは?」
「ああ、その……わ、私がハンティングして来たんだ。大物だろう?」
 これは今日一番の下手な嘘だ、と思った。
「大佐……もっとマシな理由は考えつかなかったんですか? 貴方がこんなこと出来る訳ないでしょう」
「あのな、即否定されると傷つくんだが」
 情けない顔をした彼に、私はまったく…っとため息を吐いた。
「今日は、貴方といい、みんなといい……一体どういう風の吹き回しなんでしょう。私に食材をプレゼントして」
 大佐はおや、と眉を上げる。
「気づいていたか」
「流石にこんな不自然な頂き物が続けば気づきます」
 リンゴに野菜に卵に小麦粉に肉。ここまで見事に被らず食材が手元に集まるなんてどう考えてもおかしい。それも皆似たようなことを言って。あと、手に入れた理由もだんだんグダグダに無理な設定になっていた。
「司令部の皆へのお裾分けのていで……私に食材を下さって。どういうことなんです?」
 最後に登場したということは、この人が大ボスだろう。ならば事情も全部知っているだろう。さあ話せと視線をやれば、やれやれと彼は笑った。
「せっかくみんなで考えたんだけどな、まあ、無理があったか……実は最近君が…痩せたんじゃないかって話題になってな」
「え?」
「……激務が続いてたろう」
「それは……そうですが」
 確かに忙しい日々が続いていた。ろくに食事の時間もとれず簡易的なもので済ませることも多かった。体重が減ったというのは図星だった。
「ですが、それは皆も同じです」
「うん。まあそうだが……我々野郎はだな、君を心配していたのだよ。それで皆で話し合ってホークアイ中尉に美味しいものを食べて貰おう作戦を考えたんだ」
「作戦だったんですか?」
「そう。外の食事に誘っても君、来ないだろう?」
「ええ、ハヤテ号がいますし」
 まだ小さな子犬は外に連れ回せないし、なるべく一人にもしておきたくない。
「君、昔から料理好きだったし、店でごちそうして気を使わせるよりは、自分で作った方が息抜きにもなっていいんじゃないかと思ってね。幸い仕事も落ち着いて来た。だからせめて……」
「栄養のある食材をプレゼントして下さったんですね?」
「その通り」
 上司は正解と気障なポーズで片目をつむった。
「そんなに気を使ってもらわなくても……私は大丈夫ですのに……」
「ほら、そうやって申し訳なさそうな顔をする。だから、君に気づかれずにミッションクリアーしたかったのだがな……」
 さ、と大佐はパンっと手を叩いた。それからぞんざいに手を振る。
「という訳で、君には退勤を命じる。もう上がっていいぞ。後は我々がやっておくから」
 ごく軽い帰れというパフォーマンスが、私に有無を言わせない。 
「君は今夜は思う存分料理を楽しんで……それから沢山美味しいものを食べること。いいな? 上官命令だぞ?」





 早く帰れたおかげで、十分に料理の時間がとれる。
 さあ、何を作ろうか。ローストビーフ? チキンの香草焼き? 野菜とグリルしてもいい、ポトフも美味しそう、ポタージュスープも作ろうか、あとポテトサラダも。トマトはソースにしてズッキーニはピクルスに。保存食にしておけば便利だ。ルバーブとリンゴはジャムにしよう、それから……残りはパイに。パイは沢山作って司令部に持って行くつもりだ。
 可能性は無限で、想像は限りなく広がる。楽しい。
 鼻歌を歌いながら、エプロンを身につけキッチンに立った。腕まくりして楽しげな私を、足下の愛犬が見上げてくる。そのあどけない顔に私は微笑んだ。

「さあ、ハヤテ号? 今宵のホークアイ家の食卓は豪華よ?」
「キャン!」
 


****************************************


 


[PR]
# by netzeth | 2017-09-01 01:01 | Comments(0)