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うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth

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部下達との飲み会はだいたい月に1度のペースで行われる恒例行事だ。日頃の疲れを癒し、無礼講で部下上司のコミュニケーションをはかる――今夜も皆で騒ぎ、楽しいひと時を過ごしたはずだった――のに。
……今現在私は何故こんな事になってるんだ?


事の起こりはめったに酔わないホークアイ中尉が珍しく酔っ払った事だった。いつもは自制心の強い彼女の事、我を無くすまで飲むなんて事はしない。まあ、たまに酔って「大佐、お座り下さい。そこに座りなさい」と説教をされた事もあるが。(彼女は酔うと私に説教をするのだ。これも日頃の行い故か……むむむ)
ともかく今夜の酔い様はその説教中尉を軽く超えて、彼女は既に自分の足で自宅に帰る事もおぼつかない状態だった。
一体何故こんなになるまで飲んだんだ……。
理由が気になったが深く突っ込むのは止めておいた。中尉に関しては私がらみの事が多いからな。また、説教されてはかなわん。
私は中尉を家まで送る事になった。
部下達に送りオオカミにならないで下さいね~などと見送られながら(なるか!)中尉に肩を貸しながら歩くが、既にくてんくてんの中尉はまともに歩く事などできず、私は仕方なく彼女をおぶった。
「大佐ー大佐の背中はー暖かいですねー」
などと呑気なセリフを(いつもだったら絶対に言わないな)中尉は言いながらも、私達は何とか中尉の自宅までたどり着いたのだ。
背中から中尉を降ろして、体を支えながら、私は中尉に頼む。
「ほら、中尉。鍵を開けてくれ」
「はいー?」
目がとろんとして、中尉は半分夢の中だ。
このままでは埒が明かない、と私は勝手に中尉のバックから鍵を探した。
家に入り、とにかくこの酔っ払いを寝かせようとベッドを探す。中尉の部屋はシンプルで余計な物は一切置いていなかった。まるで部屋主の性格が反映されているようだ。これまたシンプルなベッドをようやく見つけて、私が肩を貸していた彼女を寝かせようとした時、急に中尉はパチリとはっきり目を開けた。
「中尉。家についたぞ」
話しかけるが反応はない。ただ黙ってじーっと私を見つめている。
「中尉?」
不意に彼女の腕が動き、私の頭に彼女の手が乗せられた。そして――。
「ハヤテ号~起きて待っててくれたのねー良い子ね~」
彼女の手が私の頭を撫でる。これは……もしかしてナデナデか? なに? ハヤテ号?
突然の事で理解力が追いつかない私に構わず中尉はナデナデを続けている。
「ん~良い子、良い子」
「よく見ろ! 中尉っ。私は人間だ! そもそもハヤテ号は喋らないだろうがっ」
私はようやく事態が飲み込めた。まさか、いくら酔っているからとはいえよりによって私をハヤテ号(犬!)と間違えるとは。そもそも! 奴との共通点なんて毛の色くらいだ! 私は中尉のナデナデを止めさせるべく、彼女の手を掴んだ。
「ハヤテは~賢い子だから~喋れるようになったのね~」
そんな訳あるか! 心の中で全力で反論するが中尉は相変わらずナデナデを止めてはくれない。
「どうしたの~ハヤテ号?」
どうしたの? は君の方だ! だいたいハヤテ号は今夜は遅くなるから夜勤で飲み会に参加出来なかったフュリーに預けたんだろう!
「怒らないで~ハヤテ号~ほら、チュ」
そう言って、あろう事か中尉は私の鼻先にキスをした。
「んな!」
私は手で鼻を覆う。
「な、何をするんだ君は!」
中尉の思わぬ行動に頬に熱が昇る。きっと今の私の顔はトマトの様に真っ赤に違いない。
そして、私の手が離れたスキをついて。中尉はガバっと私の頭をその豊かな胸元に抱えこんだ。
「ち、ちぃゅういー!?」
「ん~~ハヤテ号。可愛い! いい子いい子」
そのまま彼女は私の髪に顔を埋めて、ワシャワシャと頬擦りをする。
たまらないのは私だ。中尉の温もりと、いい匂いと、胸の柔らかさと、若干の酒臭さとが絶妙に交ざって私の五感を襲う。
や、止めてくれ! 送りオオカミになどならんと言ったがこれはキツい。私は必死に理性を保つ。落ち着け。私は紳士だ。だがこの状況で不埒な事を考えまいとするたびに、ムニと頬に柔らかい物が当たるのだ。ある意味拷問である。
「は、離したまえ!」
何とか体を離そうと力を入れると、
「あらら……」
ふらりと中尉がよろけて、ベッドに倒れこんだ。必然的に胸に頭を抱え込まれている私も一緒にだ。
ベッドの上に二人で寝転んだ格好になった私達だが、中尉はますます私の頭を強く抱き締めて、
「ハヤテ号……おやすみなさい」
そのまま、クークーと寝息を立てて眠ってしまった。
……ようやく大人しくなったか……だがこの状況はいかんともし難い。相変わらず私の頬にはむにむにとした感触が……ああっいかん考えるな!
がっしりとホールドされてはいるが、中尉も女性だ。男の私の力で、抜け出せない事はないだろう。だが、せっかく寝てくれた彼女がまた起きてしまいそうだ。
そうなるとまた面倒だし、一体どうしたものか。
……しかし、ハヤテ号はいつもこんな事――鼻ちゅうや抱き締められて一緒に寝たりしているんだろうか。思わず犬に嫉妬しそうになる。
だいたいハヤテ号だと思われて抱き締められているのも甚だ不本意だ。男としてかなり情けない。はあ…っと思わずため息つくと、もぞもぞと中尉が動く。
まずい、起こしたか?
「ん~大佐……仕事して下さい……」
……どうやら夢の中ではちゃんと私が登場しているらしい。……夢の内容はともかく。
現金なもので、少しだけ心が浮上した私は小さく笑う。
まったく……明日の朝目を覚ましたら覚悟しておけよ。


そしてまた、私は懲りずにこのたおやかな腕の甘美な束縛からの脱出を試みるのだった。





END
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by netzeth | 2010-02-26 22:32