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うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth

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サプライズ


「ホークアイ少尉! すんません、ちょっといいっスか?」
「何? ハボック准尉」
「実は近いうちに、マスタングちゅ…いや、違った、大佐の昇進祝いをやろうと思うんスけど、大佐の仕事のスケジュールはどうなってます? いつ頃なら都合がつきますかね?」
「もう少ししたら仕事も落ち着くとは思うけど……もし何だったら、私がスケジュールの調整をするわ」

「本当ッスか!? 助かります。じゃー店とかいろいろ決まったら、少尉に報告するんで、よろしくお願いします。あ、それから……」
「何?」
「この件は大佐には内緒でお願いします」
「え? どうして?」
「実は、サプライズパーティーにしようと思ってまして。今、皆で計画中なんスよ」
「あら、そうなの。いいわね、サプライズパーティー。私もぜひ参加したいわ」
「お、少尉もサプライズパーティーに興味ありですか? じゃーぜひ仕掛け人の一人として、協力して下さいよー。少尉が協力してくれたら、スムーズに事が運ぶと思うんで」
「……でも、私に出来るかしら?」

「もちろん。少尉が居てくれたら、絶対成功間違いなしッスよ!」
「そう? でも、大佐をロープで簀巻きにしてからパーティー会場のシャンデリアの代わりに逆さに吊して、下でキャンプファイヤーを焚いて、皆で囲んで歌いながら槍でつついたり矢を射ったりするのでしょう? 私、上手く出来るかしら……?」
「…………少尉、それはサプライズさせ過ぎです。それになんかいろいろ混ざってません?」
「えっ、これがサプライズパーティーと言うんじゃないの? 昔父に聞いたらそう教えて貰ったんだけど……」
「それ、サプライズパーティーじゃなくて、血祭りって言うんじゃないっスか? どういう経緯で少尉のお父さんがその説明をしたのか非常に気になりますけど」
「そうだったの……。ずっと私、これがサプライズパーティーだと思ってたわ。それじゃあやっぱり、以前大佐に教えて貰ったのが正しいサプライズパーティーだったのね。私、てっきり大佐が嘘を吐いてると思って、頭から信用していなかったのだけど……悪い事をしてしまったわ」
「ちなみに、大佐が教えてくれたっていうのは?」

「えーと、まず膝上20センチのミニスカートと胸元が開いたセクシーな服装(ベビードールもしくは裸でも可)で驚かせようとする相手を待ち伏せ、現れた所に抱きついてキス。貴方が好きですと告白して、私をどうぞとリボンをつけて自らをプレゼントして、二人で大フィーバーする……だそうよ。確かにサプライズよね、これ。いつか、私にサプライズパーティーをしてくれ……とも言っていたわ、大佐。……協力って、これを大佐にすれば良いの?」
「……あんたの周りにはまともな人間は居ないんですか。うん、まあ、俺らが考えたサプライズパーティーよりも、確実にそっちの方が大佐、喜びそうな気がしますね。……いいじゃないッスか? もうそれで」
「いいの?」
「……多分」


喧嘩の理由


おはようございます、と挨拶を交わそうと見上げた上司の顔に、痛々しい青い痣を発見してリザは一瞬言葉を失った。
「た、大佐……!? それは一体……ま、まさか賊に襲われて…?」
だとしたらロイの護衛としてのリザの失態である。昨夜は無事に部屋まで送り届けたはずであるのに。もしや、部屋にまで侵入されたのだろうか。

「あ……違う。君が心配するような事はないから、気にするな」
「でも――」
気まずそうな顔でロイは言ってくるが、気にするなと言われても気になるものは気になってしまう。そんなリザの顔を見て、ロイは諦めたように白状した。
「……昨日、ヒューズが来たんだ。これは奴とちょっと喧嘩してな、それだけだ」
「中佐と?」
賊では無かったとひとまずは安心したリザだったが、ロイの言葉に新たな疑問が浮かび上がる。
ロイとヒューズはくだらない事で喧嘩する事はあっても、殴り合いに発展するような事は今まで無かった。
それが一体今回はどうした事だろうか。もしや、二人の今後……将来のビジョンの相違があったのか。
目指すものや理想が違ってしまい、このような諍いを生んでしまったのか。

「……原因は何ですか」
ロイを支える部下として、一人の女性として。どうしてもそこを疎かには出来ずリザは不躾と思いながらもロイに尋ねた。
ヒューズはロイを理解し支えてくれ、助力を惜しまぬ同志である。そんな彼とロイが争うのは見たくない。自分に何が出来るか分からないが、出来る事ならば二人の仲を修復したかった。
「あいつが下らない事を言うものだから、つい、な……。ヒューズの奴も強情でなかなか譲らないんだ……」
「そうなのですか……」
やはり、意見の相違なのか。不安な気持ちを押し殺して、リザはロイの言葉の続きを待った。

「ああ。まったく、グレイシアと君とどちらが可愛いか? なんて、答えは最初から決まっているのにな。君の方がワンダホーでビューティホーだろう。当然だ」
「……え?」
「それを、言うに事欠いて、あいつ、リザちゃんはグレイシアの足下にも及ばないだと! 信じられん、グレイシアが女神だと言うならなら、君は超女神だ!!」
「あの……」
信じたくはない。そんな下らない事で殴り合いの喧嘩をした、なんて信じたくはないが。

「いいか!? 君の可愛さを昼夜24時間分! 余すところなくヒューズに語りまくって、グレイシアの1000倍可愛いって言っておいたからな!! そうしたら、ヒューズは更にその1000倍グレイシアの方が可愛いと抜かしたんだ!! だから、私は更にその1000倍可愛いと……そうしたら奴は更に1000倍……」
もういい。
これ以上聞くのが我慢できなくて、リザは耳を塞ぐ。
ロイがヒューズに何を語ったのか、出来れば想像したくない――いやいやと頭を振って、その悪夢をリザは脳内から追い出すのだった。


書置き


――実家に帰らせて頂きます。

恋人と久しぶりに夜を共にして良い気分で朝寝坊をし、ようやく起き出した私がリビングのテーブルで発見したのは、そんなメモ書きだった。
見た瞬間に、目を疑い、頭を疑い、現実か疑い、最後に二度見した。
やっぱり、間違いなく実家に帰ると書いてある。リザの筆跡で。
(ガッデム!!)
朝から叫ぶのはご近所迷惑なので代わりに脳内で絶叫した私は、ぐるぐると心当たりを物色する。
(浮気……は、してない。してないったら、してない。デートだって、最近は全然行ってなくて…むしろリザの方から女の子のご機嫌は伺わなくてもいいのか、情報収集の時だけなんて薄情だから、もっとマメに……なんて男心がぐっさり来る事を言われて……昨夜だって…、久しぶりに二人で燃えて……べ、別にリザだって嫌がってなかった……と思う、むしろよがって……しつこ過ぎ…って訳でも、いや、もしかして…期待に応えられなかった……? 私の技術に不満が……? だから朝一で家出を……?)

「とゆーか、実家ってどこだ!!」
我慢出来なくなって、私はとうとう叫んだ。
既に両親が他界している彼女に帰る実家なぞ、ない。あるとしたら、既にボロボロの廃屋と化している(と彼女が言っていた)ホークアイ邸だけだ。家族の居ない家屋だけを指して、実家と言ったりはしないだろう。
「……もしかして、自分の部屋の事か?」
それならば、彼女の可愛い黒毛玉の家族が待っているはずだ。だが、それならば「実家」とわざわざ書いたりしないだろう。うちに帰ります、でいいはずだ。
私は困惑していた。彼女が何故、ドロドロな愛人との闘争、陰湿な姑との確執、バイオレンスな子供の非行に疲れ果てた結婚十五年目の妻のような置き手紙を残して姿を消したのか。私とリザは昨夜は間違いなくラブラブだったのはずなのに!

私はどうすればいいんだ。いや、分かっている。もちろん、帰ってきてくれ、と彼女を追いかけ、会った瞬間にスライディング土下座だ。今までの行いを誠心誠意謝り、以後心を入れ替えると地べたに這いつくばって誓い、許しを請う。……これしかない。
だが。
「実家ってどこだ!?」
やっぱり、それが分からず、私は頭を抱えた。その時である。
「何をなさっているんですか?」
背後から不思議そうな様子の声がかかって、私は光速で振り向く。買い物袋を片手に持ったリザがどこから現れたのか、訝しげに私を見ていた。
「……君の実家がどこなのか考えていた」
驚きのあまり、とっさに他に言葉が出てこず正直に思っていた事を吐露すれば、
「はい? 私の実家……ですか? どこでしょう?」
首を傾げるリザの姿を私は目にする。……それを知りたいのは私の方だ。
「そもそも、どうして私の実家なんて今更知りたいんです?」
「それは……君が実家に帰ってしまったからだ!」
矛盾していると分かっていたが、事態がまだ飲み込めていない私は目の前に居るリザに指を突きつけた。
「え? 何を言っているんです?」
頭、大丈夫ですか? 真剣に私の事を心配し始めたリザは、熱はないわよね……なんて、私の額に手を置いたりしている。

「熱などない! そもそも! これは、君が――っ!」
これ以上あらぬ疑いをかけられてはたまらないと、私は持っていたメモ書きをリザに突きつけた。最初は不審げにそれに目を通していたリザだが、しばらくするとみるみるうちに彼女の顔が赤くなる。
「やだっ! 私、これ――!」
絶句した彼女は、慌てた様子で肩にかけていた自らのバッグの中をごそごそと探り出す。そして、取り出したのは私の手にあるメモ書きと同じような、紙切れ。
「も、申し訳ありませんっ、大佐! そ、それは間違いです! た、正しくはこちらで――っ」
彼女が差し出した紙切れに目を落とす。

――朝食の買い出しに行って参ります。

そこには、本来この朝に私が受け取るべき、至極まっとうで納得のメッセージが書かれていた。 
「すみません。あらかじめ書いて置いたメモと間違えてしまったみたいで……」
全ての謎が解けて、私は安堵した。だが、全てすっきりした訳でもない。
「……それはいいんだが。こんな内容のメモ、何であらかじめ書いて持ってたの……?」
それが気になって。私はこのままでは今夜も明日も明後日も眠れそうにない。まさか、いつか使うためとか言うんじゃないだろうな。私は君を実家に帰らせるような目に遭わせる気はないぞ。
「それは……」
リザは赤くした顔を器用にまた、更に赤くした。

「よく、小説とかお話の世界であるじゃないですか……この文句。ですから、一度使って見たくて……憧れていたと申しますか。……私にはもう、帰るべき実家はありませんから」
照れたようにリザは笑っているが、私は笑える気分ではなかった。彼女の心情を思いやると、胸が痛くなる。
「……馬鹿者」
叱ると、おそらくその意味を勘違いしているリザは恥じた表情をした。
「申し訳ありません。……下らぬ事をいたしました……」
「違う」
強く首を振って、私は誤解を解くための言葉を紡ぐ。
「確かに君の実家はもうないかもしれんが……君に帰るべき場所がない訳じゃない。何かあったら、ここに。私の部屋に帰ってくればいい」
リザが目を見張る。
「……馬鹿ですか。それじゃあ貴方に愛想尽かした時はどこに帰ればいいんですか」
「そんな日は永遠に来ないから、必要ない」
自信満々に言い切った私に呆れた眼差しを向けて。しかしそれでも嬉しそうにリザの口元は微笑んでいた。




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by netzeth | 2014-05-11 00:38