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うめ屋


ロイアイメインのテキストサイト 
by netzeth

女の喧嘩

「近頃噂で、カタリナ少尉とホークアイ中尉が言い争っていたと聞いたのだが、何か知っているか?」
司令部の下士官が集まる休憩室にやって来て、勝手に自主休憩をとっている上司が茶を啜りながら尋ねたのに対し、生真面目に対応したのはメガネの後輩だった。
「ああ、あの時のことですね。実は僕、近くに居て少しだけ内容が聞こえたんですけど……」
「何? 本当か? あんなに仲が良かった二人が諍いを起こしたと聞いてな。気になっていたんだが……喧嘩の原因は何なんだ?」
「僕が聞いたところによると、何かの貸し借りで揉めていたようでした」
「もしや……金銭トラブルか?……確かに、どんなに熱い友情も金で揉めれば最後、儚いものだと相場は決まっている。……しかし、あの二人がなあ……」
「そうですね……あ、でも、僕は本当にちらっとしかお二人の話は聞こえなかったので、金銭トラブルと決めつけるのは早い気がします。そうだっ、ハボック少尉はあの時、僕より近くでお二人の喧嘩を見てましたよね?」
「ああ」
話を振られたので、仕方なくハボックは返事をした。
「それは本当か? 一体何の話で喧嘩をしていんたんだ?」
上司――ロイに問いかけに、ハボックはしばし沈黙して……その脳裏に一連の出来事を思い起こしたのだった。



「あーもうっ、ムカつくわー!」
「どうしたの、レベッカ。カリカリして。カルシウム不足? イライラは美容に良くないからいつも笑っていてやる! って公言している貴女らしくないわよ」
「でもね、リザ。ムカつくものはムカつくのよう。あー思い出すだけで、向かっ腹が立つわあ」
「一体どうしたの?」
「昨日さあ、ウォーレンストリートに買い物に行ったのよ」
「ええ。昨日は貴女非番だったものね」
「ストリートへの近道でさ、五番街の角のカフェからの脇道知ってる?」
「ええ、知っているわ。脇道って言っても結構賑やかな通りよね、あそこ。人気の食べもの屋とかあるし……よく、若い子達が集まっているわよね」
「そうそう、そこよ。あそこチャラついた男が多くて、別名ナンパ通りって言うんだけどさー」
「そうなの?」
「そうなの。昨日そこを通ったら案の定ナンパされてさー。もー鬱陶しいのなんのって。こっちがその気の時なら遊んでやっても良いけどさ。気分じゃ無い時にどーでもいい男にまとわりつかれるのって、本気でウザいわ。おまけに冷たくしたら、せっかく声かけてやってるのにお高く止まってんじゃねーよ、とか暴言吐かれるし!」
「それは確かに嫌ね。それにしても、あそこそういう通りだったのね……どうりで通る度に声をかけられると思ったわ」
「何よ、リザも経験あり?」
「ええ。実はあの通りの奥まった所にペットショップがあってね、そこのドッグフードが気に入っているの。栄養満点で育ち盛りのハヤテ号にはうってつけなのよ。でも、そこのお店にしか置いて無いから……」
「ふーん。定期的にナンパ通りを通らないといけないわけだ」
「そうなの。いつもは無視して通り抜けるのだけど……この前はしつこいのに当たっちゃって、ちょっと困ったわ。まさか、銃を抜く訳にもいかないしね」
「当たり前でしょ。銃を抜いてしかも発砲しても、ちょっとおいたが過ぎるなあ中尉は。くらいでスルーしてくれんのはアンタんとこの上司と愉快な仲間達だけだよ」
「ちょっと、それだと私も愉快な仲間達みたいじゃないの」
「違うの?」
「…………まあ、いいわ。とにかくしつこくて困っていて、もう良いから実力行使で畳んじゃおうかなって思った所に、ちょうどハボック少尉が通りがかってね、私に声をかけてくれたから助かったわ」
「あら、あいつにしてはナイスタイミングじゃない。……多分ナンパ相手にとって」
「本当よ。あんなにしつこかったのに、少尉が現れたらナンパして来た男の人あっという間に居なくなったのよ」
「なるほどねー、うんうん。やっぱり男が居るって見せつけんのが虫除けには一番効果的よね。確かに、あのナンパ通りの話他の女子に振ってもさー、「え~? あたしあそこよく行きますけど、ナンパなんてされた事ありませんよぉ~あ、彼氏と一緒だったからかなあ?」とか言われちゃうし。リザぁ……ほんと、お互い独り身は寂しいわよね……」
「そうね、レベッカ……。確かに、恋人が一緒ならあの通りもいつも普通に通れるんでしょうね……」
「ううっ、よーし! 今夜は女同士一緒に飲みましょ! 独り身同士慰め合いましょ! 心の友よ!!」
「うんっ、て言いたい所だけど、ごめんなさい、レベッカ。今夜はその例の通りにドッグフードを買いに行きたいの。今、セール期間中でこんなチャンス滅多に無いから、買いだめしておきたくって」
「そうなの? まー可愛いワンちゃんのためだもの、仕方ないかあ……でも、大丈夫? 夜にあの通り通ったら、質の悪いのにまたナンパされない? いつもいつもハボックの奴が偶然現れる訳もないしねえ……」
「それは大丈夫だと思うわ。大佐が居ると思うから」
「は?……リザ、それどういう意味? アタシキイテナイワヨ」
「どうしたの? 怖い顔して」
「いいから。早く、話しなさい」
「……実は、ナンパされてハボック少尉に会って助かったって話を司令部でしたら大佐がそれを聞いていてね。それから必ずあのペットショップに行く日は私に付いて来るようになったのよ。ドッグフードが無くなるタイミングで声をかけてくるから断れなくって。内緒で行こうと思っても、必ず私をあの通りの手前で待っているんですもの。大佐の方が質が悪いわよね」
「……何よ、それ」
「え?」
「何よ何よ何よ、それぇぇぇぇ! それで、何独り身の女の悲哀に同意してくれちゃってんのよ! あたしの純真な思いを返せ!」
「ま、待って、レベッカ。落ち着いて。私は独り身よ。恋人だって居ないし……」
「大佐が居るじゃないさ! ナンパを心配して付いてきてくれる頼もしいナイトがさ!」
「何を言っているの? 大佐は上司よ?」
「だから恋人カウントじゃないって訳? だったら! あたしにもあの通りを通る時に大佐貸してよ!」
「なっ、だ、ダメよっ!」
「何で!? 恋人じゃないなら、良いじゃない! 貸せるでしょ!」
「……こ、恋人じゃないけど……でも、ダメ! 何かダメ!」
「どうしても?」
「ど、どうしても。どうしてか、ダメ……」
「貸して!」
「ダメ!」
「貸して!!」
「絶対ダメ!!」



「あ――俺から言える事はですね……」
蘇ってきた記憶になま暖かい気分になりながら、ハボックは言った。
「何だ」
「……女の友情は金じゃなくて、男関係で脆くも崩れ去るって事です」
「何だと……?」
意味が分からないという顔をしているロイに、ハボックは曖昧な笑みで明言を避けたのだった。



END
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by netzeth | 2014-07-31 00:27